ヒロインは七罪   作:羽国

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そろそろ明かしてもいいでしょう。第二部は鳶一姉弟を中心に展開します。

改めて言っておくと八舞編、美九編、折紙編が第二部です。折紙編では琴里編以上の展開を用意してるので楽しみにしておいてください。


姉弟の進む方向

「夜刀神十香、今すぐ来て!」

 部屋の扉を開けて戦力を引きずり出す。こいつに力を借りるのは非常に不本意だけれど、今は害獣の手も必要なとき。

「あれ、どうしたの、鳶一さん?」

「なになに、緊急事態?」

「ていうか、鳶一さんが十香ちゃんに声かけるのって珍しくない?」

 山吹亜衣、葉桜麻衣,藤袴美衣の三人が話しかけてくる。今は彼女たちの相手をしている時間はない。

「どいて、事態は一刻を争う」

 三人を避けて夜刀神十香の元に駆け寄る。

 

「何の用だ、鳶一折紙よ?」

 夜刀神十香は腕を組んで不機嫌そうにしている。こいつ、自分の役割も覚えていないとは。

「士道がピンチ」

 クラスメイトのいる前で懇切丁寧に説明することはできない。これで理解できないのなら、無理矢理にでも連れて行く。

「そうか!わかった、すぐに行く!」

 幸い、これでわからないほど馬鹿ではなかった。そのまま二人で駆け出した。

 

「士道はどこだ?」

「愛が一緒にいるから、反応をたどれる。ここからなら、一度外に出て飛んだほうが早い」

 手近な窓を見つけて全開にする。窓枠を蹴り、一気に飛び越える。

 

「緊急着装――《ブリュンヒルデ》」

 それと同時に随意領域(テリトリー)を展開する。CRーユニットを喚び出すために。

 旅館の浴衣が消え、白銀の鎧がこの身を覆う。かつてとは比べものにならない魔力が溢れる。

 私はこの力を振るう。士道と愛のために。

 

随意領域(テリトリー)が推進力を生み出し、ジェット機のように空中を舞う。《プリンセス》としての力を取り戻した夜刀神十香も追従する。

 愛を襲わせた怨みはここで晴らす。DEMは私が潰す。

 

「邪魔はさせないよ」

 

 突如として強大な魔力を感知する。反応する間もなく、真横を何かが通り抜ける。

 鈍い金属音が響き、敵の襲撃だとようやく気付く。今の動き、真那よりも速い⁉

「貴様、一体何者だ!?」

「精霊に名乗る名前なんてないよ」

 振り返ると夜刀神十香が幅広の大剣で攻撃を受け止めている。魔術師(ウィザード)のレイザーエッジは煌々と輝き、込められた魔力のすさまじさが目に見えて分かる。

 二人は刃を押し付け合い、拮抗している。あの《プリンセス》を相手に、刀で渡り合っている⁉

 

 月の光を浴びて静かに輝く黄金の髪。白を基調として所々青色が入ったCR-ユニット。

 夜刀神十香と刃を交えられるだけの戦闘技術。愛や真那以上の魔術師(ウィザード)としての強さ。

 私は彼女を知っている。イギリスの対精霊組織、SSS最強の魔術師《ウィザード》だった彼女の名は……

 

「どうしてあなたがここにいるの!?アルテミシア・アシュクロフト」

「ん?君どこかで会ったっけ?」

 アルテミシアは私の顔を見て不思議そうな顔をする。まるで、覚えがないかのように。

 どういうこと?あれだけの事件を忘れたとでもいうの?

 

「剣を交えているときによそ見とは、随分余裕だな!」

「おっと」

 夜刀神十香の剣に押されて距離を取る。そして私たちと向き合う形になる。

 

「君、魔術師《ウィザード》だよね?どうして精霊なんかと仲良くしてるの?」

「私の目的のために利用しているだけ。それよりも、あなたこそどうして邪魔をするの?」

 アルテミシアの様子が奇妙。私が知っている彼女とは雰囲気が全然異なる。

 

「エレンとウェストコットさんの邪魔をしようとするからだよ」

「あなたがDEMに味方するなんて意味がわからない」

 彼女はDEMに脳の情報を抜き取られ、植物状態になっていた過去がある。到底、DEMの見方をするなんて思えない。

 

「何言っているの?DEMは私を助けてくれた恩があるんだよ?」

「……そういうこと。相変わらず、下衆な手段を使う」

 彼女は顕現装置(リアライザ)によって記憶を改ざんされている。あいつらなら、呼吸をするようにその程度のことはする。

 

「邪魔しないで欲しいな。エレンが《アポクリファ》を殺すまでは」

「《アポクリファ》とは何者?そんな識別名、聞いたことがない」

「ああ、もしかして最新情報は知らないのかな?いろいろと異端な精霊らしいよ。普段は人間の男に成りすましてるって」

 そんな精霊は一人しか知らない。彼女の言う《アポクリファ》とは、愛のことで間違いない。

 

「弟を殺させるわけにはいかない。何が何でも押し通る」

「精霊が弟?一体どういうこと?」

 アルテミシアは訝しげな顔をする。それはこっちが聞きたい。

 

「敵……で間違いないのか?」

 夜刀神十香が私とアルテミシアを交互に見ている。私との会話を聞いて、敵か計りかねている。

「間違いなく、止めなければいけない相手。ただ、可能ならば殺さずに止めたい」

 アルテミシアは間違いなくDEMに操られている。洗脳を解けば、彼女は敵ではなくなる。

 

「どうすればよいのだ?」

「気絶させて、フラクシナスに連れて行く」

 顕現装置(リアライザ)による記憶改ざんなら、同じ顕現装置(リアライザ)で解除できる可能性が高い。幸いにも、顕現装置(リアライザ)の性能はラタトスクのほうが高い。

 

「こんなときに通信?ちょっと困ったな」

 着信音のようなものが鳴り、アルテミシアは誰かと通信をする。

 今仕掛けるべき?いや、そんな隙はない。

「あ、ウェストコットさん?はい……はい。……わかりました、一旦退きます」

 ここで退く?一体何故?

 

「今日は退くよ。君、精霊なんかに味方するよりDEMに来ない?強そうだし」

「それだけはあり得ない」

 もう二度とDEMの手は借りない。それならまだ、精霊のほうがマシ。

 

「気が変わったらいつでも言って。待ってるから」

 そう言って、アルテミシアは飛び立った。

 圧倒的に魔術師《ウィザード》として格上。非常に残念だけど、絶対に敵わない。

 私一人では。

 

「次、彼女と戦うときは協力して」

 夜刀神十香は私よりも強い。その力があれば太刀打ちできるかもしれない。

「貴様にそんなことを言われるとは思わなかったぞ。鳶一折紙よ」

 夜刀神十香は口を歪めて笑う。私もこんな日が来るとは思わなかった。

 

「守りたい者を守るためなら精霊の力でも借りる。その覚悟はできてる」

「ふん、貴様のためではない。シドーと愛のためだ。勘違いするな、馬鹿者」

「……」

 夜刀神十香との共闘を悪くないと思っている自分がいる。……精霊全てが悪とは言えないかもしれない。

 

♦♦♦

 

 もう深夜と言ってもいい時間帯。私は指令席でモニターと向き合っていたわ。

 今夜の戦いは決していいものとはいえなかった。明日戦闘が本格化するだろうし、おちおち寝てなんていられないわね。

 まずは愛と折紙、二つの戦闘映像を見返す。それぞれ無視できない化け物が映ってる。

 士道と愛の方ではエレン、折紙と十香の方ではアルテミシアって魔術師(ウィザード)。どっちもすぐに退いてくれたのが幸いだった。

 

「厄介ね……」

 当初の予定だと愛や精霊を殺しかねないような魔術師(ウィザード)はエレンだけって認識だった。だから、時間稼ぎしている間に増援を送って対処する――そういう手筈でいたわ。

 でも、今は違う。愛や真那と同格以上の魔術師(ウィザード)が増えた。

 

 ゆっくり戦力を移動させてたら、誰かが死ぬ。

 戦力を旅館に配備するにも限度がある。かといって、転送してたら間に合わない。

 こっちはこっちで大変なのに問題はこれだけじゃ終わらない。

 

 フラクシナスでも小競り合いがあった。互いに戦力を小出しにして、様子を伺うような戦いだったわ。

 まあ当然よね。本命は別のところで動いていて、こっちの勝敗はあんまり関係ないんだから。

 互いに代表が乗ってる本命の(ふね)を墜とせたなら話は別だけど。(ふね)が将棋みたいに並んでる状況で、そんな派手な消耗戦は現実的じゃないし。

 

 その隙を狂三に突かれた。気づいたときには複数の狂三の分身体が潜り込んでいたわ。

 破壊工作を一切行わず、末端の(ふね)ばかり狙っていたのが痛かったわね。そのせいで発見が遅れた。

 なんとか()()はしたつもりだけど、完全に駆逐できたとは安心できない。それに、あいつに何をされたのかも判明していない。

 現状は調査中。明日の朝までには報告が上がっていることを期待するしかないわね。

 

「苦戦してるみたいだね、琴里」

「……愛」

 自動ドアを開けて愛が入って来たわ。何か用かしら?

 

「悪いけど、今手が離せないの。話があるなら手短に……」

「僕が精霊化したときの霊波の観測記録、見せてほしいんだ」

 ――手が止まる。なんでよりにもよって、それを。

 ダメよ、反応したら。愛にバレたら、大変なことになるかもしれない。

 

「あのときの霊波は上手く観測できなかったらしいわ。残念だけど、見せることは……」

 嘘を吐いてでも断る。それが最善の選択肢だと思って。

 でも、愛はもう一歩上手を行っていたわ。

 

「反転した霊波の記録、そんなに見られたくない?」

 

 心臓を鷲摑みにされたような感覚。隠していた秘密が既に暴かれていた。

「愛、あんたなんでそれを⁉」

 愛にも七罪にも折紙にもばれないように気を付けていたはず。いったいどこから漏れたの⁉

 

「カマかけただけだよ。……やっぱりそうなんだね」

 愛は目を細めてこちらを見ている。その目は昔交渉を仕掛けて来たときの目。

 ――嵌められた。

 こいつは個人でラタトスクと渡り合った策士。油断しちゃいけなかったのに。

 

「ありがとう、琴里。重要な情報が得られたよ。もう、観測記録はいいや」

「待ちなさい、愛!」

 もう部屋を出ていこうとする愛を呼び止める。これ以上最悪な展開にならないよう。

 袖を掴んで止める。けど、愛は私に向ける目は氷のように冷たい。

 この目は心に()()わね。特に、私には何も期待してなさそうなところが。

 

「どうしたの、琴里?これ以上聞くこともないでしょ?互いに明日に向けた準備をした方がいいと思うんだけど?」

 こっちを気遣ってるように話してるけど、その目はそんなこと微塵も考えてない。独善的な方向へひたすら突き進んでいきそうな勝手な目。

「隠してたことは謝るわ」

「いいよ、別に。何が引き金になるかわからない地雷に、余計な情報与えたくなかったんだろうし」

「…………」

 図星を突かれて何も言えなくなってしまった。こんなときだけ、こいつは他人の考えを正確に言い当てる。

 

「別に思うところは特にないよ。僕も同じ立場だったらそうしたかもしれないから」

 思ってもなさそうなことを言う愛。私の行動を肯定する言葉が胸に深く突き刺さる。

 何を言っても私の言葉は通らない。先に不義理を働いたのは私の方だから。

 

「それじゃあ、お休み」

「……お休みなさい」

 これ以上、かける言葉は持ち合わせてなかった。どうせ責任逃れの言葉しか出てこないでしょうから。

 失格ね。司令官としても、あいつの友達としても。

 

♦♦♦

 

 フラクシナスの一室。そこが私たちの宿泊スペースになってる。

 四糸乃や真那にも同じような部屋が用意されてるみたい。違うのは愛が勝手に盗聴監視対策をしたことだけ。

 この部屋は私と愛の二人きり。みんなにはできない話もできる。

「あんたの霊力が反転してた?」

 同じベッドで横になってる愛が話題を振って来たわ。……もう何回かやることやった後だし、恥ずかしいとかはない……わね。

 

「うん、琴里が隠してたみたい」

 琴里の奴が……。やっぱり、ラタトスクは信用できないわね。

「反転って、精霊が絶望して霊力の属性がひっくり返って、みたいな話だったわよね」

「そう。こっちの世界に合わせて精製された霊力が、激しい絶望によって本来の属性に戻る。それが反転」

 愛の説明を何とか頭に詰め込んだけど、かなりややこしい内容だったはず。反転が本来の属性って何よそれ。

 結局のところそれが何なのか愛自身しっかりとわかっていないみたいだし。私がわかるわけないわよ。

 まあ、それでもいくつかわかることはある。その中でもわかりやすいのは……

 

「でも、反転したら人格変わるんじゃなかったっけ?あんた変わってなかったのよね?」

 確か、反転した十香は別人みたいになってたって言ってたわよね。いや、本当に別人になるんだっけ?

「本来なら変わるはずなんだよ。でもこう考えたら納得できる。僕の中にある精霊の力は初めから反転した属性だったんだって」

 愛は自分の胸に手を当てる。見たこともない自身の霊結晶(セフィラ)に触れるかのように。

「精霊の力を使うときに話しかけてきたあいつ。多分あいつが霊結晶(セフィラ)に宿る本来の精霊の人格なんだよ」

 そう言えば、精霊の力を使うときに話しかけてきたやつがいたって話だったわね。本当、ややこしい。

 

 まあ、難しい話はどうでもいいわ。どうせ、そういう話は愛に及ばないんだし、愛がおざなりにするところを考えましょう。

「そんなことになって、あんたの身体は大丈夫なの?反転した霊結晶(セフィラ)が危険って話、してなかった?」

 愛の服を掴んで見つめる。こいつは自分の身体をまるでぼろ雑巾みたいに雑に扱うから。

「普通なら反転した霊結晶(セフィラ)なんて宿してる時点で、死んでるか化け物になってる。だからこそ、僕が今普通に生きている理由が説明できない」

 淡々と話す愛。見てて胸のあたりがぞわぞわする。

 多分、愛は自分がそうならないって思ってるわけじゃない。自分がそうなるかもって考えた上で、冷静にただ最善手を考えてる。

 自分の命すら必要ならば駒にする。こいつはそんなやつよ。

 

「大丈夫よね?あんたが死ぬなんて……そんなことないわよね」

「……何も保証なんてできない。正直、明日僕という存在が消えてても一切驚かない」

 怖くて身体が震える。

 愛がいない。そんな状況耐えられない。

 愛は私に依存してるって言ってたけどそれは私も一緒なのよ。愛なしでこれから先の人生なんて考えられない。

 

「何としてでも生きて。もし死んだら、あんたの後……追ってやるから」

 こいつが一番嫌がることなんてよく知ってる。私が死ぬこと。

 だから、私自身の命を人質にする。とてつもなく、卑怯な手段だってことはわかったうえで。

 

「だったら、精一杯努力しないといけないね」

 愛は私の頭をなでる。その体温が生きてるって実感を与えてくれる。

 この温もりが生きている限りずっと続いてほしい。それさえあれば、何もいらないから。

 

 愛が精霊だって聞いたとき、心配したのと一緒にほくそ笑んだ自分がいた。ずっと一緒にいられるって。

 精霊の私は人間と同じ時間は生きられない。だから、いつか来る愛との別れを見て見ぬふりしてた。

 でも、愛も精霊なら永遠に一緒にいられる。ケアをしてやればずっと愛してくれるって、そんな打算を抱えていた。

 そんなわけなかった。精霊なんて不安定なものが、そんな贅沢な願いを叶えてくれるわけがなかった。

 

「キス……して」

「……うん」

 愛は優しく微笑んで唇を近づける。数秒唇を合わせるだけのシンプルなキス。

 寝る前だから派手なことはしない。でも、確かな愛情を感じる。

 

 最近はキスにも慣れてきて、下手ではなくなったと思う。週二でキスしてりゃそうなるわよね。

 でも、満足することなんてない。むしろ、もっと欲しくなる。

 この幸せを失ってたまるもんか。誰が何と言おうと、こいつは私のものよ。

 本当に何でもする。何だってやってみせる。

 だから、私から愛を奪わないで。お願いだから。




今回の裏話は愛くんの霊力について。
精霊化の時点からいろいろなキャラが言及していました。『番外編:ラタトスクの考え』が一番顕著でしょうか。そりゃあ、いきなり精霊化して反転してたら動揺するでしょうね。何でそうなってるか知ってる人を除いて。
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