ヒロインは七罪   作:羽国

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改めて言っておきますね。作者って性格が悪いんです。


溝はやがて大河に

 DEMの誇る戦闘艦の艦橋。今回の後始末の功労者たちをねぎらっていた。

 ほとんど夜通しの作業になってしまった。肉体労働の多い彼女たちには負担だったろう。

 既に爽やかな朝日が水平線の向こうから見えている。

 

「ご苦労だったね、エレン、アルテミシア」

「こんなにも疲労したのはいつ以来でしょうか。本当に疲れました」

 エレンは肩を回しながら吐息をこぼす。

 顕現装置(リアライザ)のない普段の生活では、いつも疲れているだろうに。エレンも少しは通常の訓練をした方がいいんじゃないだろうか?

 

「大丈夫だよ、ウェストコットさん。精霊は一人残らず殺さないといけないもんね。《ナイトメア》が一緒に乗っているなんてゾッとして眠れないし」

 アルテミシアの精霊への強い殺意はよく根付いている。

 エレンの手助けもしてくれる。本当に良い人財を引き抜いたものだ。

 

「君たちのおかげで、忍び込んだ《ナイトメア》の反応は完全に消失した。次に《アポクリファ》を攻めるのは夜の十時にしよう」

「方針は昨日と一緒ですか?」

 エレンが聞いてくる。そこが重要な点だ。

 

「いや、昨日の戦いで重要な情報がいくつか得られた。作戦を少々変更する」

 《ナイトメア》の参戦したこと。オリガミがラタトスクに付いたこと。

 《ベルセルク》がこの島にいること。そして、《アポクリファ》が再び霊力を発しなくなったこと。

 あまりに懸念事項が多すぎる。流石に作戦を考え直さないといけない。

 

「夕方には新たな作戦を伝えよう。それまで君たちは身体を休めておいてくれ」

「そうさせていただきます」

 エレンは身体を引きずるようにして部屋を出て行った。あの様子だと夜まで眠りそうだね。

 

「ウェストコットさん、《ナイトメア》の目的は何だったのかな?」

 まだ体力が残っていそうなアルテミシアは《ナイトメア》の目的を考えている。特に影響はないだろうし、私の考えを伝えよう。

 

「私は《ナイトメア》が今日の戦いで大きな一手を打ってくると思っている」

「面白半分で動いているわけじゃないってこと?」

 《ベルセルク》や昔の《ウィッチ》のように目的行動をしない精霊も多い。だが、《ナイトメア》は違うだろう。

 

「《ナイトメア》は狡猾で慎重な精霊だよ。長年暴れまわっているのに、尻尾を掴めていないのがその証拠さ」

 アルテミシアは顔をしかめる。精霊に好き勝手動かれるのは好ましくないだろうね。

「情報が欲しいなら戦力の減った支社に侵入すればいい。戦力を削りたいならば、存在を知られていなかった昨日のうちに本気で攻めたらよかった。こんな不可解なことをしている理由は……」

「情報でも勝利でもない。何かしらの目的があるってことだね」

 アルテミシアの答えに頷いて見せる。私の返答を聞き、アルテミシアは押し黙ってしまった。

 正直、《ナイトメア》の参戦は厄介だ。ラタトスクと戦っている間、常に横槍を警戒しないといけない。

 

「アルテミシア、聞いたぜ。ピンチじゃんか?」

 部屋に中学生(ジュニアハイ)と見まがうばかりの小柄な魔術師《ウィザード》が入ってきた。彼女はこの部屋に立ち入ってはいけない人間だ。

 本来ならお帰り願うところだが、都合がいいかもしれない。

「アシュリー、ダメですよ。あなたはこの部屋に立ち入る許可を得ていないのですから」

「……」

 続いて車椅子の少女が入り口の外から叱責している。隣には黒髪短髪の少女も所在なさげに立っている。

 

「構わないさ。アルテミシアのことが心配だったんだろう?」

「ああ、アルテミシアは精霊と戦うんだろ。じっとなんてしてられねーよ」

 小柄な少女は威勢よく拳を握っている。実に麗しい友情じゃないか。

 彼女らは()()()()()()()()()()だ。

 人手が必要な今回の戦闘では欠かせない。アルテミシアとの連携も取れるようだしね。

 昨日は少数精鋭による迅速な作戦を考えていたから参戦させなかった。しかし、乱戦になるなら投入すべきだろう。

 

「君の気概に応えてあげよう。今日の夜はアルテミシアと一緒に戦場に出たまえ」

「本当か⁉」

 小柄な少女は私に詰め寄っている。期待と不安の混ざり合った視線で私を見つめている。

「本当だとも。君たちの手で精霊に勝利するんだ」

「ウェストコットさん……。本当にありがとうございます!」

 アルテミシアは頭を下げる。かつての仲間と一緒に戦場に出られるのが嬉しいのだろうね。

 

「気にすることはない。デウスエクスマキナは常に優秀な魔術師(ウィザード)の味方さ」

 アルテミシアの肩に手を置いて彼女の忠義をねぎらう。是非、その友情を私の目的のために利用させてくれ。

 

♦♦♦

 

 今回の潜入作戦。この戦争の行く末を支配する当初の計画は失敗でしたわ。

 DEMは良くも悪くもウェストコットの手足。末端にはまともな情報一つ握らされておりません。

 しかしながら、わたくしたちの屍の山を築いた成果があったと言えるでしょう。保険のラタトスクの方で面白い情報が得られましたから。

 

「ラタトスクも所詮DEMと同じ穴の狢。やはりまともな組織とは言えませんわね」

 精霊を保護したいと言いながら精霊を利用することばかり考えている。誰がこんな組織に背中を預けられるというのでしょう?

 わたくしたちが得た情報に目を通していると、感情が昂ってきますわね。計画者を蜂の巣にしてしまいたいくらいに。

 

「わたくしとしては流石に同情を禁じえませんわね。こんな愚かな虫を身体の中に飼っておられるなんて」

「……そうかもしれません」

 若いわたくしが同情するのも無理ありません。背信はまだしも、この計画の頭の悪さにはいっそ笑いがこみ上げてきますもの。

 

「下手をすれば、ラタトスクが滅びますわね。この島にいる存在を全て巻き添えにして」

 この計画を立てた人間は失敗したときのリスクを甘く見積もり過ぎですわ。金貨一枚拾い上げるために、銃弾飛び交う戦いの舞台へ飛び込むような愚行、と言えるでしょう。

 

「しかし、使えますわね」

 この計画を潰した上で『わたくし』は目的を達する。

 ええ、ええ。とても楽しくなってきましたわ。

 

「わたくしたち!この愚かな魔術師(ウィザード)たちをしっかり見張りなさい!」

「了解しましたわ、『わたくし』」

 一礼をして優雅に影に沈むわたくしたち。後は機が熟すのを待ちましょう。

 アイザック・ウェストコット、エリオット・ボールドウィン・ウッドマン。この戦争のトロフィーを横から掠め取られたら、あなたたちはどんな顔をするのでしょうね?

 

♦♦♦

 

 クラスメイトが起きる一足先に士道たちには集まってもらった。令音さんの部屋で僕、七罪、令音さん、士道、十香、姉さんが顔を合わせている。

 昨日、僕たちはエレンに襲われたし、姉さんと十香もアルテミシアと戦ったみたいだ。それに狂三も何か企んでるらしい。

 余裕は決してない。でも、今は大事なことがある。

 

「当初の予定に変更はありません。士道さん、十香さん、姉さんの三人は耶倶矢と夕弦の攻略に集中してください」

「本当にいいのか?」

 士道は不思議そうにしている。DEMに狙われたばかりのこの状況で、のんきにデート遊ぶのが気になるのかな?

「ええ、構いません。耶倶矢と夕弦は非常に接触しづらい精霊です。二人の封印は優先度を上げるべきです」

 

 愛は或美島の地図を出し、僕たちの名前が入ったプレートを取り出す。こういうのあると便利なんだよね。

「士道さんは予定通りプライベートビーチで耶倶矢、夕弦と海水浴。十香さん、姉さん、令音さんも一緒に。いろいろと手配しておいたので、基本自由に遊んでください」

 三日月状になっている或美島の先端。プライベートビーチになっている部分に士道たちのプレートを置く。

「琴里たちは少し離れた位置に待機しています。戦闘艦同士の戦いに巻き込まれたら危ないので、距離を置いてください。逆にこっちの戦闘が激化して増援が必要になったら即座に合流」

 琴里、四糸乃、真那のプレートを三日月の先端同士を結んだ中間地点に置く。周囲に被害が出ないよう、海の上で待機する形だ。

「僕と七罪は士道さんの近くを中心に島中を回ります。不可視迷彩化(インビジブル)で隠れているので、何かあったらインカムで連絡してください」

 愛と七罪のプレートをぐるぐると動かす。これで攻略もDEMの対処も問題ない。

 

「この島全部を一人で見張るつもりか?愛の負担がかなり大きいと思うんだけど」

 士道が心配そうにこちらを見る。普通に考えたらそうかもしれない。

「ああ、それは問題ありません。索敵程度なら《ウルズ》で十分です。寝ててもできますよ」

 放っておけば、衛星(サテライト)が勝手に見回ってくれる。僕は上がってくる報告を定期的に確認するだけだ。

 これも新型になったからできること。カレンさんに感謝しなくては。

 

「……本当に寝ないでよ。あんた起こすの大変なんだから」

 七罪がじとっとした目線で見てる。

「ヤダナー、そんなことするわけないじゃないか」

「私の目を見て言いなさい。あんたがお昼寝大好きなのは知ってるのよ」

 七罪が頭を引っ掴んでぐわんぐわんさせる。そうだよね、知ってるから誕生日のプレゼントが毛布だったんだもんね。

 

「大胆だけど、効率的な戦術。守るべき対象の周囲に戦力を集めて防衛。未攻略の《ベルセルク》も戦力として利用。いざというとき、被害が最小限になるよう配置も考えられている」

「そして、シンは攻略に集中できる。相変わらず、いい作戦を考える」

 姉さんと令音さんがこの布陣を吟味している。二人のお眼鏡にも適ったようだ。

「流石、私の弟」

「えへへ」

 姉さんに頭をなでられるのはいい気分だ。最近、こういうのが多いから大変満足している。

 

「ええと、つまり私はどうすればいいのだ?」

 十香がこめかみに指を当てて困っている。おでこで目玉焼きが焼けそうだ。

「十香さんはビーチで遊んでください。そして、いざとなったら士道さんを守る。この二つで十分です」

「おお、そうかわかったぞ!」

 シンプルに話をまとめて伝える。ついつい難しい話にするから、簡単にするよう心掛けないとね。

 

 急に扉がパーンと開かれる。そこには耶倶矢と夕弦がたたずんでいた。

「くくくっ、我らに黙って作戦会議か?無駄なことよ。我が瞳術はいかなる秘密のヴェールも貫き、白日の下に晒してしまうのだ」

 耶倶矢が片目を掌で押さえながらかっこいい(?)ポーズを取っている。中二病って本当に瞳系のネタ好きだな。

 

「訂正。クラスの人たちに聞いて回りました」

「ちょっとー、折角いい感じで愛たちが驚いてるんだから邪魔しないでよー」

 耶倶矢の格好つけを一瞬で邪魔する夕弦。この二人、下手な芸人より面白いな。

「心外。耶倶矢の恥部がこれ以上広がらないようにとの配慮だったのですが。そんな風に言われて残念です。しくしく」

「そーんなにやけ面で言われても、説得力ゼロだしー」

 耶倶矢弄りに今日は参加できないの残念だな。封印後にいっぱい楽しもう。

 

「これから君たちと遊ぶ場所を確認していたんだよ。少し迷いやすい場所にあるからね」

 令音さんが二人を誤魔化す。そしてそのまま立ち上がり、耶倶矢と夕弦の背中を押す。

「さあ、そろそろ朝食の時間だよ。しっかり食べてくるといい」

「う、うむ、そうか。我の朝餉には混沌に染まる黄土色のスープを所望するぞ」

「翻訳。朝食には味噌汁が欲しいと言っています」

 そのまま二人は部屋を出て行った。ついでに士道たち学生組も後に続いた。

 

「じゃあ、そろそろ僕たちも適当にフラクシナスで食べてきます」

「琴里と顔を合わせる気はあるかい?」

 七罪と一緒に窓から出ていこうとしたところで不意打ちを食らった。不機嫌なのを隠さず令音さんの方を見る。

「どうしてですか?」

「琴里が緊急連絡を回してきたよ。君が反転していたとばれてしまったことを」

 令音さんはそんな視線をスルーして話を続ける。本当にこの人動じないな。

 

「琴里に秘密にするよう進言したのは私だ。責めるなら私にしてくれ」

「別に責めてませんよ。こっちに秘密があるんだから、そっちに秘密があっても文句はありません」

 自分で言葉に棘を作ってるのがよくわかる。どれだけ論理を組み立てるのが上手くても、感情は付いて来ない。

「そういう話じゃないと、君自身よくわかっているだろう?」

「…………」

 幼稚な取り繕いなんて通じない。この人は大人で僕は子供だ。

 

「君の身体に関わることを秘密にされていた。その理由を理解しているし、頭では納得している」

 令音さんは勝手に語る。心の内を勝手に暴き出されて面白くない。

「でも、感情的には納得できない。違うかい?」

「だったらどうだって言うんですか?」

 自然と声が低くなる。図星を突かれたことで怒りが募っている。

 

「別にそれが悪いとは言わない。感情に振り回されるのも、ぶつかり合うのも若者の特権だ。

 ただ、仲直りは早い方がいい。君は琴里を大切な友人だと思っているのだろう?」

 冷静に諭されるほど、怒りは燃える。自分自身が間違っていると理解しながら。

 ぼくはただ、やり場のない怒りにそれらしい理由をつけて琴里へぶつけている。何も正しくない。

 ただ、それを認められるほど冷静じゃなかった。相手の非を見つけようとする程度には醜かった。

 

「どの口でそれを……」

 小さくつぶやいた言葉。それが部屋に響いた。

 崇宮真士を蘇らせるために、琴里を殺そうとしている癖に。何を偉そうなことを言っているのか。

 そう……思ってしまった。

 

「この馬鹿!頭を冷やしなさい!」

 七罪が頭を殴りつける。それで、話してはいけないことを話したと思い至る。

 崇宮真士のことは言ってはいけないことだ。それは原作知識でしか知り得ないことなのだから。

 殴られて頭が下がったまま令音さんの顔を見る。僕の言葉を聞いてしまったのか確認するために。

 

「……少し落ち着いてからの方がいいようだね。……私も加害者の癖に偉そうなことを言った。すまない」

「いえ、こちらこそ見苦しい姿を見せました」

 それだけ言って部屋を出る。

 聞かれなかったのか、聞いた上でスルーしたのかはわからない。ただ、最悪の展開につながらないことを祈るしなない。

 

 令音さんが大人になってくれただけで、悪いのは全面的に僕の方。

 選択肢がなかった琴里と仲を取り持とうとした令音さん。二人を責めるのは筋が通らない。

 ああそうだよ。それを呑み込めない僕が子供なんだよ。

 崇宮澪の身勝手を責める権利なんてない。僕はもっと身勝手な人間なんだから。

 

 

 

 

「……難しい子だね、君は。頭が回るようになった分、五年前より手がかかる」

 令音さんの放った言葉。それは僕の耳には届かなかった。




どいつもこいつも意味深なこと言う。なんでこいつら悪だくみばっかりするんだ?

さて今回は裏話はスピンオフ等の扱いについて。

基本的にデート・ア・ライブのスピンオフ、ゲーム、映画は橘先生が製作に関わっているので同じ世界線でちゃんと成立しています。なので、この作品はそのあたりからちょこちょこネタを引っ張ってきます。

DEMの話で誰?と思った方はデート・ア・ストライクやマテリアルを読んでください。超ざっくり言うと、アルテミシア大好きクラブです。
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