ヒロインは七罪   作:羽国

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デート・ア・ストライク、是非読んでほしいですね。四巻と短くまとまってるのに結構満足感があります。

何より原作が味わい深くなるんですよ。美紀恵が折紙の味方しようとしてる所とか素晴らしい。


或美島の決戦 再開

 日が沈んで星が見える時間帯。俺たちは旅館の大広間で夕食を食べていた。

 あれから一日中ビーチで遊びっぱなしだった。

 DEMの襲撃はなかったけど、結構疲れた。こりゃ、明日は筋肉痛かもな。

 

「おかわりをくれ!」

「十香、あんたどんだけ食べるの?」

「これで半分くらいだな。まだまだ食べられるぞ」

 五杯目のお代わりをする十香に耶倶矢が目を丸めている。お茶碗を丼に変えても全然間に合わなくて、遂に専用のお櫃が置かれたもんな。

 しかし、二人はすっかり仲良くなったみたいだ。もう遠慮なく言い合える関係になっている。

 

「提案。マスター折紙、士道の夕食に何かを盛るのはいかがでしょう?」

「目の付け所がいい。睡眠薬、精力剤、痺れ薬。いろいろ用意してある」

「尊敬。流石、マスター折紙です」

「味の濃いものに混ぜるのがセオリー。容量用法には注意」

 夕弦と折紙は何やら怖い会話をしている。食べるもの飲むものには注意しておこう。

 起きたら布団の中で拘束されてるかもしれない。簡単に想像できてしまうのが怖い。

 

「しかし、本当にうちのクラスメイトみたいだな」

 まだ丸一日くらいしか経ってないのにすっかり馴染んでる。十香や折紙以外にも。

 

「そこの娘どもよ。我に瑞々しい紫紺の果実を献上するのだ」

 耶倶矢は山吹亜衣、葉桜麻衣、藤袴美衣のアイマイミートリオに命令してる。

「瑞々しい紫紺の果実?」

「ぶどうのことじゃない?」

「ああ、なるほど」

 既に耶倶矢のセンスを理解し始めてる。順応早いな。

「耶倶矢ちゃん。はい、あ~ん」

 三人は嫌がる様子もなく耶倶矢にぶどうを差し出す。藤袴の手に顔を近づける耶倶矢は兎みたいだ。

 

「ふむ、苦しゅうないぞ」

 耶倶矢はうんうん言いながらもぐもぐしてる。威厳を見せたいようみたいだけど、全くないな。

「あっ、ずるいぞ。私もぶどうが欲しいのだ」

「はいはい、十香ちゃんの分もあるからね~」

 山吹と葉桜が両手にぶどうを持って待ち構えている。十香はそれを順番に食べていく。

「美味しいぞ」

「た~んとお食べ~」

「いい子にはもう一個あげちゃうぞ~」

 農家のおばちゃんと子供みたいだな。

 

「ねえ、夕弦ちゃん。家族へのお土産考えてるんだけど、お饅頭とクッキーどっちがいいかな?」

 クラスメイトがスマホの画面を見せてくる。近くのお土産屋さんの写真みたいだ。

「思案。マスター折紙、どう思いますか?」

「そちらの饅頭は天宮市近郊でも入手可能。どちらか問うならクッキーの方が適している」

 普段は近寄りがたい折紙。夕弦が近くにいることで話しかけやすくなってる。

 

「ありがとう、夕弦ちゃん、折紙さん」

「謙遜。お礼はマスター折紙に」

「……大したことはしていない」

 二人ともかけがえのない存在だ。どちらか一人なんて選べない。

 だったら答えは一つしかない。覚悟を決めろ、五河士道。

 俺が封印する。二人ともデレさせるんだ。

 

♦♦♦

 

 旅館近くの夜更けの海岸。月の光が海に移り、さざ波の音がよく聞こえる。

 とても風情のある場所だ。

「士道、我をこんな場所に呼ぶとは。余程のことなのだろうな」

「確認。もしかして、どちらが魅力的なのか決まったのでしょうか?」

 耶倶矢と夕弦が来た。後ろには十香と折紙もついている。

 

「俺は勝負の結果を決めたよ。今から伝えようと思う」

 向き直って、二人の顔を目に焼き付ける。

「ふっ、そうか。では聞かせてもらうとしよう。まあ、結果はわかり切っているがな」

「同意。結果はわかり切っています。しかし、勝敗が決まる瞬間は胸が高鳴ります」

 これからどっちかの消滅が決まるってのに笑ってる。

 覚悟はとっくに決めた。そう言わんばかりに。

 

「シドー……」

「士道」

 十香と折紙が心配そうな顔で見てる。

 二人も耶倶矢と夕弦の話、聞いてたもんな。それに今日、友達になった。

 そんな顔するなよ。どちらか一人なんて弱腰なこと、言わないから。

 

「俺が選んだのは――耶倶矢と夕弦、二人ともだ!」

 俺なりの覚悟を込めて言い放つ。

「は?今、二人共って言った?」

「要請。もう一度言ってくれませんか?聞き間違えてしまったようです」

 二人の顔つきが険しくなる。切り裂くような怒りが肌を通して伝わってくる。

 でも、ここで引き下がるつもりはない。この程度のこと、乗り越えられないでどうする。

 

「聞き間違いじゃないさ。二人とも勝者にするって言ったんだ。俺は耶倶矢と夕弦、どっちにも消えてほしくない」

 数秒の沈黙が流れる。潮の満ち引きの音だけがよく聞こえる。

「ふざけてんの?冗談だとしたら、全然面白くないんだけど」

「機会。一度だけなら、聞かなかったことにしてあげてもいいですよ。愛の推薦した男性が意気地なしだなんて、夕弦も思いたくありません。」

 今の言葉を冗談だったと言え。そんな二人の圧を感じる。

 今ここで撤回したら二人は怒りを収めてくれるかもしれない。でも、大事なものを失っちまう。

 

「俺は二人とも生きてほしい。二人で学校に行って、クラスの奴らとこれからも仲良くして、休日には街で遊んで、たまには喧嘩して。

 そんな普通の生活をどっちも楽しんでほしい。そんなちっぽけな願いも言っちゃダメなのかよ?」

 心からの本音を絞り出す。そんな言葉は……二人に全く届かなかった。

 

「あっ、そう。士道はどっちが勝ちか決める気はないってことね」

「失望。士道には期待していたのですが、残念です」

 二人は怒って旅館に戻ろうとする。俺に軽蔑するような視線を向けて。

 

「待ってくれ、話を最後まで聞いてくれ」

 二人の手を取って無理矢理止める。二人とも生き残る手段を伝えるために。

「何、馴れ馴れしく触らないでよ」

「拒絶。大事なところで決断できないチキンに用はありません」

 さっきまでの態度が嘘のように態度が冷たい。二人にとってこの勝負の決着はそれだけ大事なものだったってことか。

 このままじゃ封印なんて夢のまた夢だ。話を聞いてもらわないと。

 ここで説得できなかったらどっちかいなくなっちゃうんだよ。俺はそんなの認められない。

 

 そのとき、背中を押してくれる仲間がいた。十香は耶倶矢の、折紙は夕弦の手を取って足を止めさせた。

「十香どうしてあんたが止めるの?」

「疑問。マスター折紙、なぜ止めるのですか?」

 耶倶矢と夕弦は怒りを少し抑えている。昨日と今日を通して仲良くなった相手に。

 

「士道にはあなたたちを救う手立てがある」

「うむ、士道には何かいい考えがあるのだ」

 二人は俺を信じてく助けてくれる。本当に、俺は周囲の人に恵まれてるよ。

 

「話、聞いてくれるか?」

「十香の顔に免じて、ね」

「宣言。マスター折紙の言葉がなければ、この場で蹴り倒していました」

 怒りは完全に冷め切っていないようだけど、話を聞く気にはなってくれた。

 

「実はな、二人とも生き残れる方法を知っている。俺にしかできない方法が」

「二人とも生き残れる方法?」

「疑心。そんなものが存在するのですか?」

 二人の攻略にようやく手がかかった。そんなときだった。

 

 なんで気づいたのか自分でもわからない。俺より戦い慣れたみんなの中で俺が一番最初に気づいた。

 そうでなかったら終わりだったかもしれない。その攻撃は音より早く飛んできたから。

「危ない!」

 ほとんど反射で耶倶矢と夕弦を突き飛ばす。その瞬間肩に激痛が走った。

 俺はまた、撃たれたのか?死ぬほど痛くて、意識飛びそうだ。

 

「シドー!」

「士道!」

 十香と折紙の声が聞こえる。

 意識を飛ばしてる場合じゃないだろ。狙われてるのは俺じゃなかったんだから。

 舌を噛んで意識を戻す。何が何でもみんなを守れ。

 

「士道、どうしてかばったの⁉」

「緊急。このままでは死んでしまいます」

 耶倶矢と夕弦が必死な顔で駆け寄ってくれた。あのやり取りの後で心配してくれるのか。

 

「身体が勝手に動いたんだよ。それに、俺はこの程度で死ぬほど(やわ)じゃないって」

 期待通り傷の修復が始まった。蒼い焔が上がり傷を焼いていく。

「夕弦、これって……」

「感知。これは……霊力です」

 二人の目の中で蒼い焔が揺らめいている。その光景を瞳に焼き付けるように。

 燃えてた焔は徐々に小さくなって立ち消える。焔は俺の身体からは痕すら残さず傷を消し去った。

 残ったのはぼろぼろの浴衣だけ。べったりとついた血のりがさっきの現象を夢じゃなかったと教えてくれる。

 

「士道、あんた人間じゃないの?」

「驚愕。まさか、士道が精霊だったとは」

 二人は驚いた顔になる。そりゃ、ただの人間だと思ってた奴があんなことになったらな。

「俺も普通の人間じゃないみたいでな。ちょっとした傷ならこの通りだ」

 大きく肩を回して無事をアピールする。みんなを心配させるわけにはいかないからな。

 

「士道、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。それよりも行ってくれ、折紙」

 折紙は俺と攻撃の方向を交互に見る。そして、数秒間考えてから結論を出した。

 

「緊急着装――《ブリュンヒルデ》」

 折紙の着ていた浴衣が消え、SF世界のような武装が現れる。そして手に持った槍を攻撃の方向へ向ける。

「夜刀神十香」

「わかっている、あの林の奥だな」

 既に霊装をまとっている十香が鏖殺公(サンダルフォン)を数キロ離れた林へ向ける。逃がさないと言わんばかりに。

 

「行くぞ。士道を傷つけたこと、ただでは済まさぬ」

「勿論」

 二人の短い会話からはこれでもかと怒りが伝わってくる。怖気が走るほどの力を武器に込めて。

 一瞬の静寂が流れる。そして、二人はビーチを爆発させて飛び出した。

 砂煙が収まった後、二人はもう点にしか見えない。それだけ二人は速かった。

 

「士道、今の何なの?」

「悪寒。士道が庇ってくれなかったら、今頃夕弦たちは……」

 再生力のある俺だから大丈夫だった。他の誰かだったら、最悪の展開になっていたかもしれない。

「あれはDEMの攻撃だ。精霊を殺そうとしていて、実際に殺せる力を持っている組織、だそうだ」

 

「精霊を殺す力⁉」

「疑問。人間にそんなことが可能なのですか⁉」

 二人は訝し気に眉を寄せる。ASTの攻撃なんてものともしないだろうからな。

「実際、七罪は殺されかけてる」

 オーシャンパークでの戦い。見てることしかできなかったけど、その光景は今も思い出せる。

「七罪が、殺されかけた?それマジ?」

「大マジだ。信じられないなら本人に聞いてくれ」

 耶倶矢の声が低い。噴火直前の火山みたいだ。

「憤慨。よくも耶倶矢と夕弦の友達を」

 夕弦も同じだ。友達のために本気で怒ってる。

 

「俺たちは、あいつらに好き勝手させない」

 願いをこめて俺の身体に封印されている霊力を引き出す。力は形になって、焔をまとう戦斧になる。

 炎の天使、灼爛殲鬼(カマエル)が顕現する。力を貸してくれ、琴里。

「話の途中で悪いけど、ここで待っててくれ。すぐに終わらせるから」

 林の方に向いてにらみつける。よくも人が覚悟を決めたところで邪魔してくれたな。

 

「はっ、士道。貴様、我ら颶風を巫女たる八舞を戦いから遠ざけると申すか?」

「嘆息。突然の事態で頭が回っていないようです。士道には呆れます」

 耶倶矢と夕弦は俺を挟むように並び立つ。二人とも折紙と十香が飛んだ方を向いている。

 

「お前ら……」

「DEMとやらには灸を添えてやりたいからな」

「粛清。悪人には厳罰が必要です」

 本当は戦ってほしくない。でも、ここで下がってろっていうほど野暮じゃない。

 

「わかった。力を貸してくれ、耶倶矢、夕弦!」

 その言葉と同時に突風が巻き起こる。ビーチの砂を全て吹き飛ばしてしまいそうな、激しい風が。

神威霊装・八番(エロヒム・ツォバオト)

 二人の声が揃う。合わせるまでもなく、自然と。

 二人が来ていた浴衣は消え去り、扇情的な霊装が顕現する。全身を拘束するようなその霊装は、風の抵抗をなくすためのもの。

 

颶風騎士(ラファエル)――穿つ者(エル・レエム)

「呼応。颶風騎士(ラファエル)――縛める者(エル・ナハシュ)

 そして、顕現する天使は片翼。二人が一緒に並ぶことで大きな翼に見える。

 一緒になるのは別に一人になるって意味じゃなくていいだろ。こんな風に一緒に戦うって意味でも。

 

「八舞に喧嘩を売ったこと、後悔させてやろうぞ」

「蹂躙。耶倶矢と夕弦が揃ったら、敗北はありません」

 二人はにやりと笑う。倒すべき敵を見据えながら。

 同情するぜ、DEM。この二人を敵に回しちまったこと。

 

♦♦♦

 

 レオは私が知ってる限り最強の狙撃手。今回、とてもいい仕事をしてくれた。

 レオの腕とDEMの武器が揃えば、精霊の隙をつける。精霊だって殺せる――はずだった。

 近くにいた少年が庇ってしまった。しかもあの子、傷が再生してる?

 

「何だよアレ?精霊か?」

 アシュリーが双眼鏡を覗きながら驚いている。私もびっくりしちゃった。

「エレンの言ってた天使を使う少年かな?」

「かもしれないわね。彼も殺すターゲットに入れましょう」

 セシルが素早く判断する。常に状況を俯瞰してくれるから、とっても助かってる。

「そうだね。精霊は殺さなきゃ」

 精霊は人類を脅かす害でしかない存在。見つけ次第すぐ殺すべきだよ。

 

「アルテミシア、あいつら突っ込んでくるぞ」

 アシュリーの言う通り、こっちの居場所はバレてる。

 敵が到着するまであと十数秒。落ち着いて狙撃してる暇はないかな。

 

「アルテミシア、ごめん。折角のチャンスだったのに」

 レオは不安そうな顔をしてる。強くなっても落ち込みやすいところは全然変わってないな。

 

「大丈夫だよ、レオ。私たちがついてるから」

 レオの頭をなでて落ち着かせる。レオはあと少しのところまで行ったんだから、次はやれるよ。

「そうですよ、レオ。私たちは仲間なんですから」

 セシルが後押しをしてくれる。チームをまとめ上げる立派な司令塔。

「レオは隠れてろ。あたしたちが隙を作る」

 アシュリーが強めに指示する。少し乱暴だけど、仲間想いの取ってもいい子。

 

 飛んでくる二つの影。多分、昨日会った精霊と女の子だね。

「片方は《プリンセス》。AAA(トリプルエー)ランクの精霊だよ」

 精霊は基本的にどいつも強い。《プリンセス》はその中でも頭一つ抜けた強さを持っている。

 

「もう片方は魔術師(ウィザード)。多分、結構強い」

 直接刃を交えることはなかった。でも、洗練された随意領域(テリトリー)からわかった。

 とっても才能がある努力家。精霊の味方をしているのが本当に残念でならない。

 

「アルテミシア、アシュリー!魔術師(ウィザード)の方は私が抑えます。その間に《プリンセス》を」

 セシルがこの一瞬で作戦を考える。うん、とてもいい作戦だよ。

《プリンセス》を確実に仕留められるように戦力を集中。まだ動いてないけど、《ベルセルク》もすぐ来るだろうし。

 『抑える』って言葉もすごくいい。人は殺したくないもんね。

 

「さあ、精霊退治だよ。みんな、協力して」

 手を伸ばしてみんなに協力を求める。誰ひとり、嫌そうな顔をせず、心から私のことを助けてくれる。

「ああ、もちろんだ」

「やりましょう」

「うん」

 

 誰より大切な私の仲間たち。私のために命を懸けてくれた、かけがえのない存在。

 ……あれ、みんなどうして命を懸けてくれたんだっけ?まあ、なんでもいいか。




DEMって人の尊厳踏みにじるの大好きですね。許せません。

今回の裏話は四糸乃編と狂三編の間の話について。
わかる人に伝わるように言うと、『デート・ア・ストライク』とほとんど同じことが起きています。未読者向けにネタバレなしで話すと、アルテミシアのために仲間の三人は奮闘しました。そのときの加害者がDEMです。
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