「何ですか、その力は⁉」
あのエレンが目をひん剥いて驚いてる。面白いわね。
前は一方的に蹂躙されてた。でも今は、エレンの防御を真正面から貫いた。
打倒エレンを目指して無茶な訓練した甲斐があったわ。このまま倒してしまいなさい。
愛が指揮者みたいに
「こんなもの!」
エレンが刃を振るう。一撃で精霊すら殺せる威力の刃を。
なのに、聞こえるのは金属がぶつかり合ったような音。エレンの刃を
「そんな⁉私の攻撃を、遠隔操作の
エレンの反応が見てていちいち面白いわね。自分が真正面から破られるなんて思ってもいなかったのね。
遠隔操作してる
今この瞬間だけは愛が戦場を完全に掌握している。相手があのエレンであっても。
次に動いたのは愛。攻撃が止まったエレンの隙を突いて攻撃。
三百六十度全方位から
全部がエレンの防御を貫いたレーザーと同じ威力よ。切り抜けられるかしら?
「舐めるな!」
そこは流石エレン。見事切り抜けてみせたわ。
いきなり包囲網から逃れてかなり離れた位置に現れた。瞬間移動したように見えたけど、無理な高速移動でもしたのかしらね?
でも、ノーダメージではいられなかったみたい。装備に焦げができてるし、息も荒くなってる。
頑張って避けたみたいだけど、愛はそれで終わりにしてくれるほど優しくないわよ。
エレンは反射的にその場から飛びのく。その次の瞬間にはエレンがいた位置に刃が振り下ろされる。
愛は後ろからチマチマやるのが好きなだけで、前に出られないわけじゃないのよ。
「
エレンが今日何度目かわからない驚きを見せる。愛のそれは他とレベルが全然違う。
普通、戦闘中は揺らぎや魔力でわかっちゃう。でもあいつのは戦闘中に見つけられなくなるくらい高精度。
本当に厄介よね。普通に強いのに搦め手まで使うから。
再び空間に溶け込もうとする愛。それを止めるためにエレンが突撃する。
「同じ手を何度も許すわけないでしょう!」
あんな不意打ちを何度もされたらたまらない。その気持ちはわかるけど、それは悪手よ。
その性悪が消える瞬間の攻撃を予想してないわけないじゃない。
「なっ⁉」
エレンの喉元を攻撃がかすめる。超収束魔力砲《グングニル》。
愛が強くなる前でもエレンが対策しないといけなかった攻撃。それを今の愛がぶっ放す。
多分防げる奴なんていないんじゃないかしら?
息も吐かせぬ怒涛の攻撃。三手先の攻撃を考えて致命の攻撃を仕掛けに行く。
私だったら絶対に相手したくないわね。自分より火力高いやつがだまし討ちして来るなんて悪夢よ。
でも、長くは続かない。愛はこの状態を使いこなせてるわけじゃないから。
「落ち着きのない攻撃ですね。時間制限でもあるのではないのですか?」
エレンは追い詰められながらも気づいた。愛の弱点に。
愛は何も答えないし、答える余裕もない。でも、エレンは確信したように攻撃を避け続ける。
「ええ、そうです。私に勝る
魔力処理とは違うようですが、相応のリスクがある。その上で長くは持たない。
そうに違いありません」
ほとんど妄想みたいな答えの出し方だけど結論は合ってる。アレには時間制限を設定してる。
五分経ったら強制的に解除するようにしてる。その後はしばらく使えない。
もう半分過ぎてる。早く決めないと。
「世界最強の
精神攻撃は基本。少しでもエレンの集中力を削ぐのよ。
「無駄ですよ、《ウィッチ》。そのような挑発など……」
反応してる時点で手遅れよ。気にしてるってバレバレ。
「あら、挑発に聞こえちゃった?ただの感想だったんだけど。
だって自分で世界最強って名乗ってるのにその様って。なんかもう、見てるこっちが恥ずかしくなってくる」
どうせ愛は会話を理解する余裕がない。全力で邪魔するわよ。
「覚えていなさい」
「別に覚えててあげてもいいわよ。生き残ることができたらの話だけど」
エレンはちらりとこっちを見る。今、そんなことして大丈夫かしら?
愛はいきなりエレンの背後に現れる。
「しまった!」
気づいたときにはもう遅い。振り返ったエレンを袈裟斬りにする。
刃が当たった瞬間に引いたみたいだけど、胸に大きな傷がついてる。エレンはそれを見て衝撃を受けてる。
「私が、最強の
エレンは今まで持っていたレイザーエッジをしまって背負っていた兵装を取り出す。砲台、かしらね?
「貫け、《ロンゴミアント》!」
砲台から長大な光の槍を伸ばす。エレンらしい馬鹿みたいな火力技ね。
ただ単純に魔力を突っ込んだ大きくて濃密な光の槍。それを振るうだけで大概の敵はどうにもならない。
「ウルズ・ヴェルザンディの双環」
愛は即座に防御態勢を取る。攻撃範囲が広大過ぎて避けらないって判断したのね。
自分の前に
自転と公転の二つの回転の力が威力を削ぐ。
以前、折紙の攻撃を防ぐために使った技。その進化版ね。
エレンの光の槍と愛の盾。二つがきれいに拮抗する。
光の奔流を愛の盾が散らす。押せないけど退くこともない。
先に音を上げたのはエレンの方。体力よりも精神の方が。
「ふざけるな!そんなことがあってはいけない!私がエリオット以外に負けるなど、許されてたまるかーーー!」
エレンはさらに魔力をぶち込む。光の槍はさらに激しさを増して、愛の防御を上から叩き潰そうとする。
強さに対するプライドを全部ぶち込んだような恨みがましい一撃。その視線は愛しか見えてない。
誰が愛の攻撃で勝負をつけるって言ったのかしら?
「
エレンの死角から天使の光を放つ。周囲を全く警戒していなかったエレンは直撃する。
「そんな、卑怯な……」
変身する直前、エレンが『信じられない』と言いたげな顔でこっちを見た。
「私の話聞いてなかったの?真っ向勝負なんて端からする気ないのよ」
ブサイクな豚のぬいぐるみになったエレンは落ちていく。これでチェックメイトよ。
それとほぼ同時に愛も落ちていく。限界が来たみたいね。
愛の方に向けて
「大丈夫、愛?」
「うん……めちゃくちゃ気持ち悪いけど」
愛はこめかみを抑えながら唸ってる。眉間に皺を寄せて目をぱちぱちさせながら。
そりゃああんな無茶な戦い方したらそうなるわよ。むしろ、その程度で済んでるなら儲けもの。
「五分経ったら自動操縦になるようタイマー設定。うまくいったみたいね」
「うん……」
愛はあの状態を五分しか使えない。それ以上はまともに意識を保てない。
だから、時間が来たら
まあ、暴走した家電のコンセント引っこ抜いてるようなものよ。事故が起きるよりマシだけど、何回もやってたら愛に負担がかかる。
「エレン、早く回収して」
「わかったわ。ちょっと掴まってなさい」
「うん」
愛を
確かあの辺に……
「いない!」
どこを探してもいない。確かにこの辺に落ちたはずなのに。
ちょっと範囲を広げても全然見つからない。あの状態でいったいどこに行ったの?
♦♦♦
本当に奇跡的なタイミングだった。セシルたちと一緒に帰還する途中、エレンの敗北する瞬間を見た。
あのエレンが負けるなんて信じられない。でも、確かにあの二人組は強敵だった。
ありとあらゆるものを変身させる《ウィッチ》と
レオもアシュリーもエレンも戦えない。そんな状態で挑めない。
だから、エレンだけこっそり回収して離脱した。運がいいことに、《ウィッチ》と《アポクリファ》は油断してたし。
「エレン、大丈夫?」
何とか
装備もエレン自身もボロボロ。一度帰還してゆっくり身体を癒して装備を整えないと。
「許しませんよ、《アポクリファ》、《ウィッチ》。あなたたちは私の手で討ちます。なんとしてでも」
エレンは激しく闘志を燃やしてる。悔しかったんだね。
「今度は私も協力するから。みんなで一緒に強くなろう」
「ええ、あなたたちは訓練に付き合ってもらいます。どうやらさび落としが不十分だったようです。もう二度と、不覚は取りません」
それだけ元気があったら大丈夫だね。
誰も死んでない。だから、またやり直せるよ。
♦♦♦
そろそろ愛も落ち着いてきたみたいね。
「とりあえず応援を呼ぼうか。あのエレンがこの島にいるかもしれないんだ。ラタトスクの
「そうね、島中全部ひっくり返してしまいましょう」
あんだけ死ぬような思いしたんだから。万が一見逃しただけでした、なんて落ちだったらやってらんないわ。
「その必要はない。後のことは私たちに任せて、
急に現れたのはラタトスク所属の装備を着た部隊。話しかけるのは髭面の隊長らしきおじさん。
でもどこか変。DEMとの戦闘直後だから武器を持ってるのはまだわかるんだけど、どうしてすぐ使える体勢を取ってるの?
エレンを警戒して?それとも……
それに、視線が不気味。仲良くする気がなさそうっていうか、敵意を向けてる気がするわね。
「後で休むからいいですよ。エレンを探すなら、当事者が必要でしょ。時間の勝負なんだから、早く一緒に探しましょう?」
愛が口調だけ丁寧にして低い声で話してる。これはダメなやつってことね。
「いいや、問題ない。それよりも早く治療を……」
「僕が気付かないとでも思ってるのか?それが
ぎょっとしてよく見る。そう言えば、医務室で使われてるものとあんまり似てないような。
「やっぱりラタトスクには汚物がこべりついてるな。我欲と利権に囚われたおぞましい汚泥」
愛は暴言を吐く。口は悪いけど、言ってることはもっとも。
寒気で身体が震える。まともな目に遭わないことは確定でしょうね。
「は~、ここで大人しく洗脳されてくれたら楽だったんだが」
隊長らしい男は大きなため息を吐きながら話す。ミステリーの犯人みたいに。
「洗脳だと?」
「ああ、そうだ。
我々はそういった崇高な使命を与えられたのだ」
男はさらに続けてる。自己陶酔にまみれた嫌な口調で。
「
愛の言葉を聞いて私も連絡を試みる。インカムを使って話しかける。
でも、反応がない。琴里どころか、携帯の圏外みたいにどこへも連絡が取れない。
「君たちはラタトスクの通信機器を使っているんだ。今、通信は許可できない」
男は嘲るような目で宣言する。
通信を妨害するなんて不味いことをしてるって自覚がある証拠。琴里が見つけてくれたらいいんだけど、それも対策してるでしょうね。
「そんなことを琴里の許可なしでできるのは幹部だけだろ。クライトン、ダグラス、オルムステッド。どいつだ?」
愛はラタトスクの
他人を陥れて自分の欲を満たすことしか考えてない奴ら。あいつらなら、この程度のことはやりかねない。
「クライトン氏を呼び捨てとは、躾がなってない。これだから子供の相手は嫌なんだ」
「なるほど、クライトンか。まあ、ここまで脳足りんな行動はあいつしかいないだろうな」
ローランド・クライトン。
いつもただ叫ぶだけで策略のさの字もない。他二人も性格は悪いけど、まだ考える知能がある。
まあ、頭が回ってもろくなことはしないから、どっちがいいかは微妙だけど。
「ふん、まあいい。こんなこともあろうかと、保険は用意してある。おい、例のものを見せろ」
「はい!」
男は近くにいた部下に命令して何かを映し出させる。そこに映っていたのは――
「ねえ、さん?」
椅子に拘束された折紙だった。目隠しや手錠をされて身動きが一切できない状態にされてる。
「負傷した鳶一折紙を我々の手で拘束した。言うことを聞かないのであれば、わかっているな?」
男は人間のものとは思えない醜悪な笑顔で嗤う。その顔を見てるだけでぶん殴りたくなる。
「それが本物の姉さんだという証拠は?」
「これでいいか?」
男は金属タグのようなものを見せつける。それは折紙の緊急着装用のデバイス。
「寄越せ」
「別に構わんぞ」
男は愛に向けて放り投げる。愛はそれをキャッチしてしっかり見つめる。
「……本物だ。間違いない」
「ってことは」
慎重な折紙が手放すとは思えない。修理やメンテナンスのときでも愛と二人で見張ってるくらいだもの。
無理矢理奪われたに決まってる。少なくとも折紙がこいつらの手にかかったのは間違いない。
「大事な”お姉ちゃん”の声だ。しっかり聞け」
『お願い逃げて、愛!私のことはどうでもいいから!』
画面の向こうで男の仲間らしい奴がマイクを近づける。スピーカーからは折紙の悲痛そうな声が聞こえる。
守るために努力したのにむしろ足かせになってる。折紙にとってこれ以上の屈辱はないでしょうね。
内容や声の調子からして合成や変声機によるものってのは考えにくい。十中八九本物ね。
「あー、ふざけるなよ!なんでお前らは自分のことしか考えてないんだ!
組織を、精霊のみんなを、士道や姉さんを食いつぶすことしか考えてない!なんでお前らみたいな寄生虫がラタトスクにのさばってるんだよ!
気持ち悪い!」
愛は恨みに取りつかれたように暴言を放つ。今まで溜まっていた不満を全部ぶちまけるみたいに。
男をにらみつけるけど、その顔はにやけ面のまま。愛がこの状況で手を出せないことを理解してる。
「何を言っているのだ?寄生虫は貴様らだろう。
我々ラタトスクが精霊を救ってやろうとしているのに、情報や力を出し渋る。全て差し出して庇護を求めるのが筋だろうに」
それをしたらあんたらは骨の髄までしゃぶりつくすでしょ。誰があんたら相手に背中を預けるのよ。
「鳶一折紙の命が惜しければ大人しく洗脳を受け入れろ。今すぐにだ」
カプセルのような機械が蓋を開ける。二人分の地獄が口を開けて待ってる。
「質問が……」
「質問は許可しない。貴様は小細工が得意だと知っている。
お前に許された行動は洗脳を受け入れることだけだ。六十秒以内に入らなければ鳶一折紙を殺す」
男は冷淡に言い放つ。交渉する気なんてさらさらないみたいね。
「……七罪、ごめん。何も思いつかない」
「そう」
愛は申し訳なさそうに話す。
折紙の映像は黒い背景に豆球一つ。どこにいるのかさえわからない。
どうせ、近くには仲間が控えてる。こいつらが手を出すより先に助け出すのは無謀でしょうね。
「だったら、地獄まで付き合ってあげる」
「ごめん」
「死ぬわけじゃないわ。それよりも折紙の命の方が取り返しつかない」
折角仲直りできた姉弟よ。ここで死別なんてあんまりじゃない。
洗脳なら解ける可能性も全然ある。これで終わりじゃないもの。
「決心が着いたようだな。さっさとは入れ」
男の部下が何やら操作を始める。ウィンウィンと音が鳴り、怪しい光が点る。
「行こうか」
「うん」
諦めたように歩き出す。せめて、二人で手をつないだままで。
「その必要はありませんわよ、愛さん、七罪さん」
突如声が響く。同時に乾いた破裂音が何度も耳に届く。
目の前の
「何だ?何者だ?」
隊長の男が無様に叫んでいる。状況が把握できてない。
「愛、これって……」
「うん、間違いない」
でも私たちはすぐにわかった。その声に聞き覚えがあったから。
何度かやり合ってる因縁の相手。
「お久しぶりですね。助けに参りましたわよ」
文字盤の踊る左目。血のような深紅のドレス。
育ちの良さがわかる優雅な笑み。血の滴る戦場を舞踏会のように歩んできたのは最悪の精霊、時崎狂三だったわ。
ああ楽しい。半年以上前に思いついた展開がようやく書けますよ。この展開書くために八舞編書いているといっても過言ではありませんから。
今回の裏話は愛くんと円卓会議の因縁について。
円卓会議の面々は愛くんとウッドマンが個人的に仲良くしてるから秘密を独占してるんじゃないかと考えました。それを理由にラタトスク内で反乱を起こし、ウッドマンを蹴落とそうとしました。
愛くんが先に気付いて七罪と内部工作をしたから大失敗。そんな経緯があり、円卓会議は全員愛くんのことが大嫌いです。