ヒロインは七罪   作:羽国

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初登場なのでAI生成を置いておきます。
https://www.pixiv.net/artworks/135133858


断罪覇王

 ラタトスクの幹部、ローランド・クライトンが姉さんを人質に取った。要求は顕現装置(リアライザ)による洗脳を受け入れること。

 僕たちの知識と力を私物化しようという企み。その力で議長まで上り詰めようと夢を見たんだろう。

 殺したいほど腹立たしいものだけど受け入れるしかなかった。

 受け入れなければ姉さんが殺される。とても許容できるものじゃない。

 もう大事な人が傷つくのは見たくない。たとえ、歴史をやり直せるとしても。

 

 背後から撃たれて絶体絶命。それを救ったのは思いもしない奴だった。

「お久しぶりですね。助けに参りましたわよ」

 最悪の精霊、時崎狂三。時間と影を操る天使、刻々帝(ザフキエル)を従える策略家。

 大事な場面で第三勢力として現れて戦場を引っ掻き回す厄介な存在。この島に来てるのは知ってたけど、まさかここで現れるなんて。

 

「狂三、お前なんで?」

「ふふふ。ゆっくりお話ししたいのはやまやまですが、お邪魔虫がいますわね」

 狂三は笑みを携えたままちらりと後ろを見る。そこではさっきまで僕たちを脅してた隊長が、顔を真っ赤にしていた。

 

「《ナイトメア》、時崎狂三。そうか、貴様も鳶一愛と繋がっていたのだな」

 隊長は妙な勘違いをしている。狂三がこの状況で現れたから、僕たちが裏で繋がっていたなんて妄想を。

「我々を攻撃したところで鳶一折紙は別の場所で拘束中だ。殺されたくなかったら大人しく――」

 印籠のようにタブレット端末を掲げる。先ほどまで姉さんが映っていたタブレットを。

 

「はて、折紙さんが拘束中ですか?では、わたくしたちが救い出したのは一体どなたなのでしょうか?」

 狂三はわざとらしくあごに手を当てて首をひねる。

「は?」

 隊長はようやく気付いたようだ。自分たちが大事な人質を失っていることに。

 今の画面に姉さんは映っていない。映っているのはこっちと同じように、狂三たちの銃弾によって血だまりができる光景だ。

 

 そして突如画面に狂三の顔がアップで映る。分身体の狂三だろう。

「は~い、愛さん。折紙さんは無事ですわよ。ほら」

 分身体の狂三は姉さんの顔を画面に映す。脂汗かいた顔だけど、ちゃんと顔が動いている。

 

「折紙さんは既にわたくしの手の中。あなたは既に交渉材料を失っておりますわ。状況はご理解いただけましたか?」

 狂三は子供に教えるように丁寧に説明する。絶望をしっかりと刷り込むように。

「そんな……」

 隊長は膝から崩れ落ち、タブレットを落とす。手をついて降伏みたいなポーズをとっている。

 並みの魔術師(ウィザード)が精霊に勝てるわけない。その男は既に詰んだ。

 

「さて、うるさい方も静かになったようなのでお話ししましょうか」

 狂三はこっちに向き直って微笑む。その笑顔は不気味なくらい美しい。

「一体何が目的だ?姉さんを助けたってことは僕と何か交渉したいんだろ?」

 このタイミングで姉さんを助けられたのは偶然じゃない。狂三がこいつらの行動を監視してたんだ。

 じゃないと二か所同時に強襲を仕掛けられるわけない。狂三は何か狙っている。

 

「きひひ、かわいらしいですわね。行動の裏を考えて常に警戒しておられる。まるで人に慣れていない猫ちゃんのよう」

 狂三は手を口元に当てて笑う。圧倒的優位に立って余裕を見せる。

「わたくしの本心を率直にお伝えしましょう。愛さん、わたくしはあなたが欲しいのですわ」

 狂三は僕に手を伸ばす。ダンスにでも誘うかのように。

 

「僕を食べたいってことか?」

 狂三は始原の精霊を存在しなかったことにするため、霊力を集めている。霊力を持った僕は狂三の捕食対象だ。

「いいえ、そんな勿体ないことはしませんわ」

「……どういうことだ?」

 あの時崎狂三がこの絶好の機会で霊力を奪わない?いったい何を企んでる?

 

「あなたの霊力も知識も策謀も。全て欲しくて欲しくたまりませんわ。

 ああ、焦がれますわ、焦がれますわ!あなたと歩む未来を想像すると、胸が高鳴って仕方ありませんわ!

 わたくし愛さんには期待しておりますの。いずれ、始原の精霊を殺す(つるぎ)になってくれると」

 狂三の言葉を聞いて驚く。そんなことを考えていたのか?

 

「愛さん、以前崇宮澪の目的を教えてくださいましたね。あのときの言葉にわたくしは胸をときめかせましたわ」

「そんな愉快なことを言った覚えはないが?」

 姉さんを治してもらうために狂三へ持ち掛けた交渉。崇宮澪の壮大でちっぽけな計画を話すもの。

 その内容は決して面白いものじゃなかったはずだ。わざわざ衝撃はあるけど価値はない話をしたんだから。

 

「だって愛さん、崇宮澪を疎ましく思っておられたではありませんか?」

「っ⁉」

 そこでようやく気付いた。思いもしない情報を抜かれていたことに。

「愛さんの目的はラタトスクとも士道さんとも違うでしょう。愛さん目的をいろいろ考えていたんですけど、一つだけ思いつきましたわ。

 始原の精霊、崇宮澪を殺すこと。違いませんか?」

 

 狂三は名探偵のようにビシッと指さす。その言葉に反論できない。

 僕の目的は七罪と姉さんと平和に暮らすこと。その過程で始原の精霊の対処は避けて通れない。

「返事はそのお顔で十分ですわ。わたくしの予想は当たったようですわね」

 狂三はただの少女らしく嬉しそうに笑う。僕はその顔に追い詰められている。

 

「お前に協力しろってことか?」

「ええ、お約束いただけるのなら折紙さんはお返ししますわ。お怪我をなさっているようなので、四の弾(ダレット)もサービスしましょう」

 狂三は主導権を握って大層機嫌がよさそうだ。治療のサービスまでつけてくれる。

「具体的には何をすればいい?」

「わたくしと一緒に来てくださいませ。細かなことはゆっくりと語り合いましょう。愛さんの素敵な手腕、期待しておりますわよ」

 一つの計画のための短期協力じゃなく、最終的な目的を達するための長期的な協力。そういうことか。

 

「ああ、大事なことを言い忘れておりましたわ。わたくし、浮気をされる殿方はあまり好みませんの。ラタトスクとは手を切ってからにしてくださいね」

「なるほどな」

 前に自分で確認したじゃないか。狂三の目的とラタトスクの目的は相容れない。

 狂三は僕をラタトスクから引っこ抜く気なんだ。狂三は目的を共有できるって誤解しているから。

 

「愛……」

 七罪が心配そうな顔を向ける。事情を知ってる七罪は気づいてるんだ。

 僕と狂三の目的は相容れない。僕の標的は今の崇宮澪であって、過去の崇宮澪ではないから。

 狂三は自分の罪をなかったことにするため、現界したばかりの崇宮澪を殺そうとしている。

 でも、それは七罪の存在もなかったことにする。七罪は霊結晶(セフィラ)がなかったら虐待親に殺されてるんだから。

 狂三の目的は達成させてはいけない。でも、この交渉は蹴れない。

 

「大丈夫、信じて」

 七罪の後頭部を軽くなでる。敵の前で手を明かすわけにいかないから、これで信じてくれると期待するしかない。

「わかったわ。あんたのこと、信じるわよ」

 七罪はじっと見つめて頷く。本当、最高のパートナーだよ。

 

「わかった、狂三。お前の条件呑んでやる」

 七罪も姉さんも諦める気はない。僕の力でどっちも取ってやる。

 狂三を逆に誘導する。狂三に協力している振りをして、僕たちの目的に狂三を利用する。

 それが唯一の攻略法だ。

 

「うふふ、交渉成立ですわね」

 かといって狂三が馬鹿正直に僕を信じるとも思えない。時崎狂三は一人で物語を大きく動かした智謀の持ち主。

 これは僕と狂三の勝負だ。勝った方が願いを叶える魂を賭けた一戦。

「これからよろしく頼むよ、狂三」

「ええ、こちらこそ」

 狂三と薄っぺらい握手を交わす。絶対に負けるもんか。

 

「さて、ラタトスクと手を切る意思を形にしていただきましょうか。そこの男を含めまだ隊員が半分ほど残っておられるようですね。

 殺してエリオット・ボールドウィン・ウッドマンに送り届けてくださいまし」

 狂三はケタケタと笑いながら指示する。早速一手打って来たな。

 これは踏み絵だ。僕に後戻りできなくさせようとしてる。

 

「わかったよ、狂三」

 僕もこいつらにはイラついてたんだ。むしろ進んで殺してやりたいくらいだ。

 師匠(せんせい)に負担がかかってしまうことは少し嫌だけど。

「ひぃ!」

 隊長は恐怖で情けない声を上げた。自分が攻撃される側に回った途端これか。

 

「さて、どうやって殺してやろうか」

 なぶって殺す趣味はない。でも、こいつらを一瞬で殺すのでは流石に物足りない気がする。

 

『だったら私が力を貸してあげるよ』

 

♦♦♦

 

 久しぶりに聞こえた幼い声。その声と同時に意識が引っ張られた。

 再び目を開けるとそこは闇一色だった。そこには人が存在した。

 

 身長は僕と同じくらい。首元をくすぐるくらいの真っ白な髪が揺れる。

 全体的にスレンダーな体型まで姉さんにそっくりだ。違うのはその服装と表情。

 以前僕が着ていた白と黒の混沌とした豪華な霊装をその身にまとっている。

 そして顔は子供のようににやにやとしている。姉さんは絶対こんな表情をしない。

 

「直接顔を合わせるのは初めてだね。私の器」

 明らかに見下して話す姉さんの顔をした存在。そのアンバランスさに違和感が止まらない。

「なんで姉さんの姿を真似してるんだよ?」

 似てるとかそういう次元じゃない。黙ってたら家族の僕が間違えてしまいそうなほどそっくりだ。

「ああ、これ?お姉ちゃんの”情報”をもとに作ったんだ。いいでしょ?」

 おもちゃを自慢する子供のように見せびらかす。

 

「そっくりだとは思う。ただ、全然似合ってないな。お前は姉さんとイメージが違い過ぎる」

 贋物が身内の皮を被ってるようで気持ち悪い。こいつは姉さんと似ても似つかない。

「そうかな?だったらまた今度改造しようかな?」

 目の前の存在は自身の身体を弄びながら考えている。いったいこいつは何なんだ?

 

「お前が僕の中にある反霊結晶(クリファ)の人格か?」

「う~ん、まあそうかな。一応それであってると思うよ」

 目の前の存在は少し考えて答える。何か引っかかるけど、それを聞いている場合ではないと思いだした。

「そういえば力を貸すって言ってなかったか?」

「そうそう、そのためにここへ呼び出したんだった。すっかり忘れてたよ」

 頭をかいてこっちを見る。

 

「私の天使また貸してあげるよ。今度は無期限で」

 目の前の存在は手を差し出す。その手の中では白と黒の力の奔流が渦巻いている。

 見てるだけで鳥肌が立つ。それをこっちに押し付けようとしている。

「そんなものを僕が使ってリスクはないのか?」

「器ごときが面倒なこと考えなくていいんだよ。君は私の力を黙って受け取ればいいの」

 僕の手首を掴んで無理矢理握らせる。同時に以前精霊化したときより遥かに大きい力が流れ込んでくる。

 

「今度は君が制御するんだ。その天使の名前を教えてあげるよ」

 身体が嫌な軋み音を上げる中、不自然にその声がよく聞こえた。

 

♦♦♦

 

 意識が現実に引き戻される。こっちでも力が渦巻いている。

 このままだと徒に暴走するだけだ。大人しく力を振るってやる。

 溢れる力を集めて形にする。霊力が霊装となり、白と黒の混沌のドレスを形作る。

 同時に身体が置き換わり、女の子に変化していく。姉さんと瓜二つの姿に。

 

 あいつから聞いた天使の名前を唱える。

断罪覇王(アズラエル)

 稲妻のような光が落ちてくる。そこに手を突っ込んで天使を引き抜く。

 それは魔法使いの杖のようだった。

 柄は霊装と同じように白と黒の螺旋を描く。てっぺんには透明な真球が淡く輝いている。

 星のようなきらめきが周囲を漂う。

 

 握ったと同時にその天使の使い方が頭に流れ込んでくる。それが当然だとでも言わんばかりに。

 そして、理解できると同時に冷や汗が出てくる。何だこの天使の能力は?

 強いとか便利とかいう以前に狂っている。崇宮澪がこんな天使を作ったのだとしたら正気じゃない。

 この天使は世界を滅ぼす。簡単に実行できるだけの力がある。

 

「実験しないといけないな」

 天使を見つめながら考える。これを使うには練習が必要だ。

 世界を壊さないよう、慎重にできることを増やさないといけない。

「丁度いい実験台がいるな」

 ちらりと横に目を向ける。その先には情けない顔の隊長がいる。

 顔面はもう土気色になっている。精神状態が限界を超えたか。

 

 まあ状態はどうでもいい。生きてさえいれば十分だ。

 隊長に向けて断罪覇王(アズラエル)を掲げる。透明な真球が白と黒の混沌とした輝きを放ち始める。

 そのままゆっくりと近づき、一メートルもないくらいに近寄る。これで条件は整った。

 

「解析開始」

 目を閉じると膨大な情報が頭に流れ込んでくる。年齢、性別、体重、身長、魔術師(ウィザード)としての適性。

 隊長の個人情報がつまびらかになっていく。プライバシーなんて言葉は存在しない。

 むしろ情報が多すぎて困るくらいだ。制御しないと頭が割れてしまう。

 必要な情報だけに絞れ。二十年以上前の情報なんて必要ないだろ。

 一分以上かけて何とか欲しい情報だけに絞ることができた。練習がかなり必要だな。

 

「改変開始」

 次の工程に進む。この天使の能力は二つの工程に分かれている。

 今のは準備段階。これからが本番だ。

 なるべく変化がわかりやすくて無駄な影響のない項目を選ぶ。そして、記載を書き換えるようなイメージをする。

 

「何だ、何が起こってる⁉」

 隊長は自分の身体の異変に気が付いたようだ。どんどん身体の形が変わっていく。

 髭面だった顔からは髭が一切消える。軍人らしくがっしりしていた体つきは、筋肉質ながらも脂肪の多いものへ変わっていく。

 髪も肩にかかる程度に伸びていき、いつの間にか結ばれている。最後には服装までそれに合ったものに変わってしまった。

 

「なるほど、こうなるのか」

 女になった隊長を見つめてつぶやく。予想通りと言うか、予想以上の変化に驚く。

「愛さん、これは一体?」

 狂三が問いかける。目の前で起こった現象に驚いているようだ。

 

「この天使、断罪覇王(アズラエル)の能力だよ。

 情報の解析と改変。ありとあらゆる生物の情報を任意に書き換えることができる」

 それがこの天使の恐ろしい能力。どんな生物だろうと好き勝手に弄れてしまう。

「生物の改変?でも、服装まで変わっておられるようですが?」

 狂三は隊長を見てつぶやく。この隊長は姿形が変わっただけでなく、髪は結ばれ服装も女性用のものになっている。

 生物の改変ならこれは不自然だろう。でも、これは()()()()()の改変だ。

 

「狂三、前提が間違ってる。そこの隊長は身体が女になっただけじゃない。今まで女として生きてきたことに変わったんだ」

「何ですって?」

 狂三は目を丸めて驚く。今の言葉だけで理解したのか。流石だな。

 

「それって、世界の改変じゃない⁉」

 今度は七罪が指摘する。七罪もこの能力の恐ろしさを理解したようだ。

「そう。この天使の能力で生物の情報を書き換えると、疑似的に世界を改変できる。今、この隊長が女として生きてきた世界に書き換わった」

 この天使はゲームの改造ツールのようなものだ。世界というゲームの中で生物というプログラムを任意に改ざんできる。

 下手をするとゲーム(世界)そのものを破壊しかねない。超をいくつつけても足りないような危険な代物だ。

 

「きひひひ、素晴らしいですわ、素晴らしいですわ!愛さん、あなたはいつも私の予想を超え続ける。

 わたくしは愛さんのことをまだ過小評価していたようですね。あなたは最高の協力者ですわ」

 狂三は本当に嬉しそうに笑う。その狂った瞳はこの能力の使い方を見据えている。

 こいつは気づくだろうな。この天使が始原の精霊のいなかった世界への可能性を秘めていると。

 実際はそんなレベルじゃない。狂三のための能力かと疑うほどだ。

 

「さて、狂三。殺すのは後でもいいか?少し練習したいんだ」

 僕は冷め切った目でまだ生きている隊員たちを見つめる。そこには丁度いい実験台がたくさん転がっている。

「勿論、構いませんわ。是非、その天使を使いこなしてくださいまし」

 狂三は狂気に駆られながら応援してくれる。その言葉を聞いて僕は実験を開始した。

 七罪の視線を背中に感じながら。これはどうしても必要なことだ。




遂に『鳶一愛』の天使が二回目の登場です。やっと本当の姿が書けました。

今回の裏話は勿論断罪覇王について。

やっと基本能力が明かされましたね。能力は生物の情報の解析・改変です。何が一番近いかと言えばBleachの月島さんですね。過去を改変して疑似的に現在も改変します。狂三は喉から手が出るほど欲しい能力ですね。

死ぬほど難しい能力だと思うので質問があれば感想欄でもXでも何でもいいので聞いてください。現状、可能な限りお答えします。
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