空間震警報がけたたましく鳴り響く。一般人にとっては厄介な天災を告げるものだが、僕たちにとっては”仕事の開始”の合図だ。
「行くぞ、七罪。」
「ええ、分かったわ。」
僕はCRユニット《ノルン》を装備して、七罪は霊装と天使を顕現させる。フラクシナスには寄らず、そのまま霊波反応があった場所へ飛ぶ。
僕たちの速度なら、ASTよりも先に現場まで到着するはずだ。
現場に着いたら、少し余裕が有ったから琴里達と連絡を取る。士道もフラクシナスにいるようで、作戦会議が行われている最中だ。
今回の精霊は《ハーミット》、つまり四糸乃であることを教えられた。ここまで原作との違いはなさそうだ。
まあ、雨が急に降りだした時点で十中八九そうだろうと思ってはいたけど。
「琴里、ちょっと良いかしら。」
『あなたが作戦中に話しかけてくるなんて珍しいわね。何かしら?』
七罪がインカムを通して琴里に連絡する。七罪はあまり使わないけど、一応ラタトスクのインカムは持っている。
勿論僕も持っているし、このCRユニットにも連絡機能が備わっている。精霊攻略中は大抵戦闘中だから余り使わないけど。
「士道君への伝言よ。四糸乃を、《ハーミット》を泣かせたら士道君のノートを漫画にしてネットに投稿するって伝えて。」
何か恐ろしいことを言っておられる。士道の黒歴史を七罪の技術で漫画に仕上げてネット公開するそうだ。
そういえば、最近絵を描くための道具を色々買っていたな。絶対人気になるだろうなー(棒)。
『どういった風の吹き回しかは知らないけど、了解したわ。投稿するときは言って頂戴。ラタトスクが全力で支援するから。』
琴里は楽しそうに七罪に協力を申し出る。普段は仲が悪い癖に、こういうときだけ手を組む。士道に合掌しつつ、ASTの到着を確認した。
現在、四糸乃は街中にいる。ここでは士道が攻略するのに面倒だから、屋内に移動して欲しい。
だから、ASTの攻撃を見逃して、四糸乃が逃げるように誘導する。七罪も嫌々ながら了承してくれた。
四糸乃がデパートに入るのを確認してから、
その瞬間――近くで待機させていた他の
後方から真っ直ぐこちらを狙っている。シンプルな奇襲だが問題はその速さだ。
どう考えても、ASTの隊員では出せない速度を出している。舐めてかかったら痛い目を見るだろう。
幸いにも七罪とは少し距離が空いている。だからここは奇襲に対してカウンターをしかけることにしよう。
ギリギリまで気づいていない振りをする。相手が攻撃を止められないタイミングで、横にスライドして回避。
空振りしたところを逃さず、
しかし――即座に
AST隊員とは明らかに違うCRユニット。僕と同じ中学生位の身長。特徴的な左目の下の泣き黒子。どこかの誰かを彷彿とさせる青いポニーテール。士道の実妹(?)の崇宮真那だ。
「久しぶりだな、崇宮真那。いきなり奇襲とは、アデプタスナンバー2の名が泣くぞ。」
「あなたにとってはあんなの挨拶にもならないでいやがりましょう、
「その中二臭い名前は止めろ。」
恥ずかしい通称で呼ばれて恥ずかしくなる。アメリカに居た頃、活動している間に付けられた通称が
個人的には嫌なのだが、本名を晒すのも嫌だった。かと言って自分でコードネームみたいなものを考えるのもそれはそれでって感じ。放置した結果、DEMの大物にすら使われるようになってしまった。
誰だあんな恥ずかしい名前を考えたのは。どこぞの双子精霊の片割れじゃないだろうな。
「あははははは!
七罪は空中で笑い転げるという器用な真似をしている。人の恥を笑いやがって。
戦闘モードの崇宮真那は真剣そのものだ。煽っているという訳でもなさそうだ。
「ではきちんと名前で呼びやがります。鳶一愛。」
「……姉さんか、隊長辺りかな。」
アメリカでは本名は出さなかったが、ASTには所属していたから名前どころか個人情報が筒抜けだ。誰かは知らないが、教えてもらったのだろう。
「半年前の借りはきっちり返してやりますよ。」
そう言うと、崇宮真那はこっちに突撃してきた。
「どうする?二人で相手する?」
「いや、ここは僕一人で相手する。七罪は他のAST隊員を頼む。」
「りょーかい。」
七罪の提案を断って、一人で相手することにする。半年前は敵わなかったが、今ならものさしとして丁度良い。自分の力を試してみたい。
六個の
崇宮真那は先ほどと違い、直線的な攻撃は仕掛けてこない。そんなことしたら
こちらも甘い相手ではないことは想定済みだ。適度に攻撃を仕掛けつつ三個の
それに気づいて崇宮真那が遠距離から光線を放つ。でも、別の
こちらの攻撃の準備が整ったからお返しだ。狙いをつけさせないためにちょこまかと動き回る崇宮真那だが、
崇宮真那レベルの相手を止められるのは三秒程度だが、それで十分。準備したレーザーは直撃した。
崇宮真那は
ここまで傍目から見たら、僕が優位に見えるだろう。しかし、実際はそうではない。これでようやく五分五分と言えるかどうかだ。
何故なら崇宮真那は一撃でもこちらに当てることができたら、勝利が大きく近づく。それ程の出力差が有るからだ。
僕の《ノルン》の戦闘力は
単純に硬くて強い相手にはあまり向いていない。はっきり言って崇宮真那相手には火力不足だ。
こっちは長時間崇宮真那を相手に無傷で立ち回り、攻撃を当て続けなければならない。一方、崇宮真那は一発でも攻撃を当てたらほぼ勝利確定だ。正直かなり辛い。
それでも、崇宮真那程度の相手に苦戦していられない。はっきり言って崇宮真那は「デート・ア・ライブ」の中では弱い方だ。
今後それ以上の化け物が当たり前に出てくる。崇宮真那位は簡単に倒せないと、この先七罪を守ることなんてできない。
僕は
「さあ、ここからが本番だ。行くぞ崇宮真那。」
やっていること自体は先ほどとあまり変わらない。
まだ余力が有ったようだ。先程の倍近い速度で動いている。
それでも避けきれずに崇宮真那は少しずつ被弾する。被弾自体は痛くも痒くもないだろうが、それで減速するのが致命的だ。減速によってさらに攻撃が当たるようになり、やがて大技の当たる隙に繋がる。
このままでは不味いと崇宮真那も気づいたようだ。彼女は大きな賭けに出る。
止まったと思ったら、銃身が異常に短い大型の銃を構えた。チャージを始めたが明らかに隙だらけだ。
何を考えているか分からないが、攻撃のチャンスを逃す手はない。
銃の放つ光が太陽の様な極光に変わったことで。その威力の恐ろしさを感じ取る。当たれば僕の防御など紙のように破壊するだろう。だから、決して避けるタイミングを間違えてはいけない。
銃口の光量が最大になりチャージが完了したと判断し、大きく避ける。崇宮真那はそれを気にせず引き金を引いた。
当たりもしない攻撃を行って何の意味が有るのか。そう思ったが違った。
崇宮真那が放ったのは弾丸ではなく柱だ。全てを焼き尽くす光の柱。それが空に伸びている。銃だと思っていたのは大型のビームサーベルだったのだ。
崇宮真那はそれを僕に向けて振り下ろす。それはまるで罪人を葬る神罰のようだ。
あんなもの振り回したら周囲の被害だって甚大になるだろうに。なんて奴だ。
地獄の避けゲーを続けるが、どんどん追いつめられる。あんな出力、崇宮真那でも長時間出しつつ蹴るのは無理だ。時間いっぱい逃げ切ったら勝ちだ。しかし、それよりも先にこちらが攻撃に当たってしまう。
僕自身は攻撃を避けていられているが、振るわれるたびに
予備はいくつか有るが、総数が六個未満になったらこちらの負けはほぼ確定だ。こんなに差が有るとは思っていなかった。
「これで終わりでいやがります。」
崇宮真那は上段に構えている。対してこちらは体勢が崩れていて、避けることはほぼ不可能。
そして、崇宮真那は剣士のように光の刃を振り下ろした。
「
突如、虹色の光が剣を包み込む。その瞬間、剣は棒状のスナック菓子に変わった。
勢いはそのままだが、スナック菓子では僕の防御を貫けない。ぼろぼろと簡単に砕けてしまった。
こんなことができる人物は一人だけだ。頭にその顔を浮かべつつ、光の源に向き直る。
「七罪。」
「間に合ったようね。」
そこには箒のような天使、
「ありがとう、七罪。でも、ASTは?」
「ちゃんと無力化しているわよ。」
七罪が指さした方を見ると、巨大なだるま落としが有る。ASTが
明らかに遊んだ跡がある。痛い目を見ているに違いない。
「随分と美味しそうなお菓子をくれるのなんて。優しいのね、崇宮真那ちゃん。」
「くっ、《ウィッチ》。」
七罪は
七罪は以前も崇宮真那を完封している。今回、相手をしなかったのは僕の我儘だ。
やはり、僕は弱い。崇宮真那よりも七罪よりも圧倒的に。
悔しさを噛み締める時間もなく、事態が動き出す。ビルの方から轟音が響き、壁を突き破って巨大なウサギが出てくる。
背中にはレインコートの女の子が乗っている。四糸乃と
原作通りによしのんを奪われて冷静さを失ったのだろうか?文字通りに脱兎の如く逃げだした。
崇宮真那は直ぐに追いかけようとしたが、即座人形に変身させられて無力化された。これで暫くは動くことができないだろう。
「琴里、何が有ったの?」
『よしのんと士道が事故でキスをしてしまったのだけど、十香が見てしまったわ。そこから十香とよしのんが喧嘩になって、ウサギのパペットが十香に取られたの。その後によしのんの精神状態が悪くなって、天使を顕現させたわ。』
「琴里、あんた何言っているの?意味が分からないのだけど。」
七罪は琴里が何を言っているか分からないようだ。無理もない。七罪と琴里で認識が異なっているのだ。
琴里が四糸乃とよしのんをごちゃごちゃにしている。だから、四糸乃とよしのんの違いを知っている七罪には話が通じない。
『とにかく、今回の攻略は失敗よ。撤退しなさい。』
琴里の指令を聞いて七罪と顔を見合わせる。琴里と通信している間に四糸乃は
その前にすることがある。よしのんを取りにいかないといけない。でないと後で面倒なことになる。
そう思ってビルの中に入ろうとするが、足が動かない。先ほどの戦闘の負荷が、一気にのしかかってきた。立っていることすらできなくない。
「愛、どしたの?ちょっとしっかりしなさい!」
七罪の声が聞こえるのを他人事のように感じつつ僕は気を失った。そして、よしのんを拾いに行く余裕もなく、僕の意識は闇に沈んだ。
♦♦♦
「無理しすぎよ。数日はゆっくり休みなさい。これだから放っておけないのよ。」
七罪は腰に手を当てて、呆れと怒りが混ざったような顔をしている。家の中にいるから本来の小柄な姿だ。
目を覚ますと、蛍光灯の光が眩しく感じられた。背中の感触が柔らかい。
多分、自宅のベッドの中だ。七罪がここまで連れて来てくれたようだ。
枕もとの時計を見ると時刻は二十時。攻略作戦は夕方にもなってなかったから、それなりの時間寝てしまった。
「どうしてあんなに崇宮真那と戦うことに拘ったの?」
七罪は不思議そうに聞く。七罪に任せればすぐに終わった。それのにどうして危ない目に遭ってまで一人で戦ったのか、疑問なのだろう。
ASTと崇宮真那の役割を交代すれば、簡単に鎮圧することができた。今までの戦績からそれは明らかだ。
「今の自分の立ち位置を知りたかった。これから強い奴らが出てくるから。」
僕は、強くなった。この一年で、確実に。
それでも七罪より明らかに弱い。神無月さんなんて勝率ゼロだ。
だから――知りたかった。自分の強さがどれくらいなのかを。アデプタスナンバー2とどれくらい戦えるのかを。
正直勝てるんじゃないかと思っていた。けど、甘かったようだ。崇宮真那は強かった。
「……これからね。約束だから聞かないで上げるけど、そんなに長くは待たないわよ。」
七罪は目を細めている。約束破りは許さないということだと思う。いつか話すって約束したから。
「今日あんたの番だったけど、私が代わりに作っておいたから。食べたくなったら、好きに食べて頂戴。」
ぶっきらぼうに言っているが、僕の仕事をしておいて、恩にも着せないあたりが七罪の優しさを感じられる。
七罪は僕が軽く肯くのを見てからリビングに戻った。僕の部屋のドアを半開きにして。
そしてそのまま自室に戻らず、何か作業を始めている。半開きのドアから見える位置に座っている。あれはわざとだろうか?
僕は少し考える。脳が疲れている感じだが、何も考えていないのもそれはそれで落ち着かない。内容はいつ七罪に全部話すか。
七罪に話していない理由は大きく分けて三つある。一つは
全知の天使である
だから言っていない。無論、精霊の反転自体を阻止するつもりだけど、保険を掛けておくに越したことはない。
二つ目は始原の精霊に知られるリスクが有ることだ。既に始原の精霊はラタトスクに潜り込んでいる。
彼女に未来の事を知られようものなら何をするか分からない。動き出したら僕には何かできると思えない。そういう訳で彼女に情報が洩れる可能性はなるべく下げたい。
三つ目は七罪のトラウマを刺激したくない。七罪の精霊化前の記憶はトラウマの塊だ。だからできれば刺激したくない。
以上の理由から、未来の出来事と始原の精霊に関する情報は誰にも伝えていない。勿論七罪にも。
誰にも話さず、記録せずに僕の頭の中だけに留めていた。しかし、七罪との関係が悪くなってしまうのでは元も子もない。そろそろ話すべきなのかもしれないな。
そうなると僕が転生したことも含め話さないといけない。でも、話すと約束した以上、遅いか早いかの違いでしかない。面倒なことは先に処理するのが僕のポリシーだ。
だから決めた。四糸乃の攻略が終わったら七罪に全部話そう。
そろそろ投稿ペースを落とそうかな。理由は色々あるんですが一番はもうちょうクオリティを上げたいからですね。
過去の投稿も含めもうちょっと推敲しようと思います。投稿ペースが落ちたらお察しください。どんな風に書いたら読みやすいか教えていただけたら幸いです。
さて裏話をしましょう。色々考えたのですが今回は真那と愛君の過去の出来事について。それを話さないとこいつら何言っているんだってなりそうなので。
真那は狂三を追ってアメリカに行ったことが有ります。その際に愛&七罪vs狂三vs真那という三つ巴の戦いが発生しました。
狂三は愛君に探りを入れつつ手加減しまくった戦いをして、真那は七罪に完封されました。この事件があったから、愛君と七罪は真那のターゲットその二とその三になっています。