ヒロインは七罪   作:羽国

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タイトル見て疑問を浮かべた人と心当たりが出た人がいるでしょう。今回は原作でサブキャラの人が大活躍です。


私の目指したAST

 四糸乃さんと二人で買い物に出かけていました。

「しっかし、兄様も大変でいやがりますね。アイドルとステージで対決しないといけないだなんて」

 買い物袋をくるくると回しながら隣の四糸乃さんに話しかけます。今日は忙しい兄様の代わりに二人でお買い物です。

 

「はい。でも、士道さんなら何とかしてくれると……信じてます」

 四糸乃さんは優しくも力強い瞳で肯定します。十香さんも折紙さんもいるのに罪な男ですね。

「だよねだよね。士道君ならきっと何とかしてくれるよ」

 ウサギのパペット、よしのんが後押ししています。本当に生きてるみたいですね。

 

「そりゃ真那の兄様ですから。その程度、やってくれなきゃ困ります」

 胸を張って肯定しておきます。うちの兄様は世界最強ですから。

 

 二人で楽しく話しながら帰っているとき、不意に背中への視線を感じました。首を動かさないように後ろを見ると、慌てて隠れる影が。

 DEMの刺客でしょうか?それにしては尾行が雑過ぎる気がしますね。

 ちょっと罠を仕掛けてみましょう。

 

「四糸乃さん、少し寄り道していいですか?」

「はい、大丈夫……です」

 四糸乃さんの手を取って走り出します。そしてそのまま裏路地へ。

 三回ほど曲がったタイミングで四糸乃さんを抱いてビルの屋上に飛び上がります。相手も追ってきますが、見失ったようです。

 

 逆にこちらからは相手がよく見えるようになりました。あれは確か――

「えっ、どこに消えちゃったの?」

 泣きそうな顔をして辺りを探しています。そのすぐ後ろに降り立ったのも気づかない。

「久しぶりですね、岡峰美紀恵二等陸士」

「わわわわわーっ!」

 尾行していた張本人は情けない姿で前のめりに倒れてしまいます。

 

「いたたっ」

「そういう無鉄砲なところは変わりませんね」

 こうして見る分には小柄で頼りない童顔の女の子。制服を着ていない今は中学生にしか見えません。

 本当にこれがアシュクロフト事件を解決した張本人だとは。真那も直接この目で見なかったら信じられないでしょう。

 

「真那さん、こちらはどなたでしょうか?」

 事情を知らない四糸乃さんが話しかけてきました。紹介しないといけませんね。

「彼女はASTで折紙さんのパートナーだった人です」

「折紙さんのパートナー、ですか?」

 四糸乃さんは不思議そうに小首をかしげます。確かに意外ですよね、あの人にパートナーだなんて。

 

「少し話をしましょうか、岡峰二等陸士?」

「ミケで構いません。それはこちらから望むところです」

 立ち上がりながら強い瞳を見せてくれます。アシュクロフト装備もない今、勝ちの目がないことなんてわかってるでしょうに。

「相変わらず肝が据わっていますね、ミケさん。嫌いじゃねーですよ、そういうところ」

 思わず口元が緩みます。少し楽しくなってきました。

 

♦♦♦

 

 フラクシナスの艦橋で琴里さんと対面。ミケさんはガチガチに緊張しています。

 ここまでかなり強引に連れてきましたからね。

「ASTらしいけど、見たことない顔ね。一応隊員の顔は頭に入れてるつもりだったんだけど」

 琴里さんは品定めするようにミケさんを眺めています。

 

「岡峰美紀恵二等陸士。今年の春、ASTに入ったばかりの新人です」

「それで、なんでフラクシナスに連れてきたのかしら?」

「彼女は以前折紙さんとチームを組んでいました。何も事情を知らせずに放置するとかえって危険だと思いまして」

 琴里さんは再びちらりと目を向けます。その視線に負けないよう、ミケさんは震えを抑えて頑張っています。

 

「もしかして、命令を聞かないタイプ?折紙みたいに」

「そうですね。気合いと根性はすごいんですけど、命令を鵜呑みにできない性格でいやがります」

「それは厄介ね」

 琴里さんは憂鬱な目で遠くを見ています。

 

「ただ、優秀なのは間違いありません。先日のアシュクロフト事件も彼女の尽力がなかったら悲惨な結末になっていたでしょう」

「そ、そんなこと。折紙さん、真那さん、皆さんの協力があったからです。私一人では何もできませんでした」

 琴里さんの目の前でミケさんのことを簡単に説明します。琴里さんにとっても無視できない存在だと。

 

「一応概要は聞いてるわ。元SSSの隊員とドンパチやったんでしょ?」

「琴里さんのおっしゃる通りでいやがります。まあ、あの事件も裏でDEMが悪事を働いていたんですけど」

 後で調べてよくわかりました。悪いのはASTでもあの三人でもなく、DEMだったと。

 

「それで、ASTの危機を救った英雄と話をしたいから、私に話し合いの場所を用意しろと?」

「はい、お願いします」

 内容をすべて話したら琴里さんは頭を抱えて黙ってしまいました。やっぱり不味かったでしょうか?

 

「まあ、黙って勝手に進める愛よりはマシかしらね」

「あんな奴と一緒にしないでください」

 コソコソと卑怯な手ばかり考えて、真正面から戦おうとしない性格最悪野郎。同列に考えられること自体が侮辱です。

 

「わかったわ。確かに放置するのもよくないし、話をつけてきなさい」

 琴里さんはそう言ってフラクシナスの会議室を一つ開けてくれました。

「さあ行きましょうか、ミケさん」

「はい、よろしくお願いします」

 敵地に乗り込んでまで話を聞く勇気。ますます好きになりました。

 

♦♦♦

 

 机に両肘をついてミケの顔をじっと見つめます。その顔には覚悟が込められています。

「それで、何を聞きたいんでいやがりますか?DEMを抜けた真那を追いかけたってことは、危険を冒してまで知りたいことがあったんでしょう?」

 真那はDEMに辞表を叩きつけて喧嘩を売った身です。今頃人でなし社長は真那の首を欲しがってる頃でしょう。

 ASTの隊員がそれを知らないとも思えません。

 

「先日、DEMからASTへ直々に通達がありました。崇宮真那と鳶一折紙。この二名の首に賞金をかけると」

「ひゅ~、そう来ましたか。真那ったら有名人でいやがりますね。

 それで、賞金首を見つけたから捕まえに来たんですか?」

 ちょっと煽ってみます。そんなことのために動く人だとは思えませんが。

 

「違います。私が真那さんを追いかけたのは、折紙さんがどうしてそうなってしまったのか知りたいからです」

 冗談めかした言葉に動揺せずまっすぐ返してきました。

「知ってどうしたいんですか?たかがAST隊員のあなたに、できることなんて一つもねーですよ」

 敢えて挑発してみます。彼女自身、自分の弱さは前の事件で痛いほど知ったはずです。

「そうだとしても、何も知らずになんていられません。目と耳を塞いでDEMの命令に従う人間が正しいだなんて、私は思えない」

 愚直なまでのまっすぐさは彼女の武器ですね。

 

「知ったら後戻りできねーですよ。前の事件とは比較にならない、深い闇を知ることになります。今度は死ぬかもしれませんよ」

「構いません。私は折紙さんのパートナーです。苦しんでいたら寄り添ってあげて、間違っていたら正すのが役目でしょう」

 ミケさんは膝の上で拳を握り締めています。手から血がにじむほどに。

 どうしてでしょうね?また何かしてくれそうと期待してしまいます。

 いや、期待したいんですね。真那自身が。

 

「いいでしょう。教えてあげますよ、真那が折紙さんについて知ってることを全て」

 それから私は知ってることを全て話しました。鳶一愛の話も、DEMに利用された話も、ラタトスクに裏切られた話も。

 

「そんなことが」

 ミケは愕然としていますね。流石に応えたようです。

「折紙さんは今ただ一人の家族を守るために動いています。世界中を敵に回して」

「どうして、そんな大事なこと、話してくれなかったんでしょう……」

 ミケはうつむいてこぶしを握り締めています。歯を食いしばって涙を浮かべながら。

 

「話してしまったら巻き込むからでしょうね。実際、あなたは首を突っ込もうとしてるじゃねーですか?」

「それは……」

 黙り込んでしまいました。少し意地悪だったかもしれません。

「今聞いた話を顕現装置(リアライザ)による記憶処理できれいさっぱり忘れて日常に戻る選択もありますよ。琴里さんに頼んで手配しましょうか?」

 それくらいのことは訳ありません。真那自身、DEMにされてますから。

 

「そんなことしません。そんな道の先に、私の目指したASTなんてありません」

「いいじゃねーですか。それで、どうしますか?」

 彼女の答えが気になりますね。

 琴里さんに怒られるの覚悟でここまでしたんですから。何かしてくれないと困ります。

 

「私が折紙さんを説得します」

「ふむ、悪くないかもしれません」

 折紙さんは暴走する人ですが、人情に篤い面もあります。同じ家に住み、同じ敵に立ち向かったミケさんなら。

「やってみる価値はあるかもしれません」

 もうすぐ琴里さんがやって来ることでしょう。進言してみますか。

 

♦♦♦

 

「この馬鹿、な~に機密情報をべらべら喋ってくれてんのよ」

 琴里さんは部屋に入るなりドロップキックをかましてきました。結構素の戦闘技術もありますね。

「悪いとは思ってますよ。でも、それを話さねーと何の説明にもならないじゃねーですか」

「限度ってものがあるでしょ。愛が精霊だって話はラタトスクでもトップシークレットなのよ」

 琴里さんは咥えていたチュッパチャプスをビシッと向けてきます。

 

「ええと、私のためにすみません」

 ミケさんが申し訳なさそうに謝ってきます。

「気にしなくていいですよ。真那が勝手にやったことですから」

「あんたは気にしなさい。愛よりマシって言ったけど前言撤回するわ」

 琴里さんは悪態を吐いてきます。あれと一緒にされるのは本当に嫌ですね。

 

「それで、この始末どうつけてくれるのよ」

 琴里さんは腕を組んで仁王立ちしています。背後には炎の幻影が見えますね。

「これも大きな成果のために必要なことなんです」

「どういう意味よ?」

 琴里さんは訝しげに聞いてきます。ここからが大事です。

 

「琴里さん。率直に聞きますが、あの三人を止める手立てはありますか?」

「うっ、それは……」

 琴里さんは言い淀みます。やはり目処はついてないんですね。

 

「彼女なら折紙さんを説得できるかもしれません」

「……本気なの?」

 琴里さんは信じてなさそうな目をしています。

 疑うのも無理ありません。真那も根拠は半分以上勘ですから。

 

「ええ、折紙さんのパートナーだったのは伊達じゃありませんよ」

「はい、私折紙さんと話をしないといけないんです」

 いいアピールですよ。琴里さんは押しに弱いですから。

 

「はあ、誰かさんと似たようなタイプね。放っておいても勝手に突っ込んでいきそう」

 琴里さんはまた深いため息を吐きます。

 確かに、誰かのために全力なところや、自分を顧みないところ。私たちの身近な人に似ていますね。

 

「ここで死なれるのも嫌だし、上に掛け合ってみるわ。ただし、返事が出るまの数日間は家に帰れると思わないでよ」

「ありがとうございます」

 ミケさんは手をついて感謝します。これで道が開けました。

 

♦♦♦

 

 あれから三日。私は琴里さんに呼び出されました。

「喜びなさい、とあるお方があなたを支援してくださるとのことよ。装備の提供も訓練の支援も望むだけ許すって」

「本当ですか?ありがとうございます!」

 信じられないくらいの好条件です。良すぎて怖くなるくらいに。

 

「ただし、一つだけ条件があるわ」

「それは一体?」

 今後の人生一生奴隷とか言われるんでしょうか?……折紙さんのためなら。

「その方と面談して合格をいただくことよ」

「それだけ、ですか?」

 あまりに軽すぎます。嘘か疑うくらいに。

 

「それだけよ。お優しい方だけど、失礼のないようにしなさい」

「勿論です」

 今の話を聞いただけですごくいい人だってわかります。こんないきなり現れた小娘を支援するだなんて。

 

「そう緊張しなくていい。私は本音で語り合いたいだけだよ」

 途中で車いすの男の人が眼鏡の女の人に押されながら入ってきました。金髪の素敵なおじさまです。

 見ているだけで心が落ち着く優しい雰囲気を感じます。

 

「ウッドマン卿、来ていらしたのですね」

「話を聞いて、いても立ってもいられなくてね。初めまして、お嬢さん。ウッドマンと呼んでくれ」

「は、初めまして!岡峰美紀恵と言います!」

 ウッドマンさんに全力で頭を下げます。とにかく第一印象は大事ですから。

 

「元気のいいお嬢さんだ。美紀恵嬢と呼んでもいいかな?」

「全然大丈夫です!」

 柔和な笑顔をずっと崩しません。でも、なんとなくすごい人だと感じます。

 覇気を抑えてるっていうか、私を緊張させないように気遣ってるんだと思います。

「君はどうして折紙を助けたいと思ったんだい?」

 目を閉じて考えます。今まで折紙さんに貰ったもの全て。

 

「私の家いわゆるエリート家系なんですけど、私自身は勉強も運動も得意じゃない落ちこぼれでした。自信なんてこれっぽっちも持てないで、死んでしまいたいとすら思っていました」

 お父さんに見限られたと誤解して、何もかもなくしたと。そう思い込んでいたんです。

「精霊が目の前に現れて、死を願ったはずなのに怖くて震えていました。そんなどうしようもない私を助けてくれたのが折紙さんだったんです」

 

 私の目の前に現れたのは地獄から現れた悪魔だと思いました。物理法則を無視して空間を抉り取り、剣戟で全てを破壊する暴力の権化。

 精霊を知らない私は震えることしかできなかった。そんな私を守り、折紙さんは精霊と戦っていました。

 人間でありながら精霊という不条理に抗う姿。あの姿に私は魅せられました。

「折紙さんとASTのみなさんと一緒に戦う中で自信が持てるようになりました。折紙さんがいなければ、今の私はありません」

 お父さんと仲直りできたのも、一人前の隊士になれたのも。折紙さんのおかげなんです。

 

「今度は私が折紙さんを助ける番なんです。例え折紙さんに邪魔だと言われようと、折紙さんの支えになってみせます」

 折紙さんは強い人です。でも、どこか遠くへ行ってしまいそうな不安定な人でもあります。

「折紙さんが望むのならとASTを抜けていくのも黙って見送りました。でも事情を聞いた以上放っておけません」

 

 そこまで言って気づきました。一人で相手のことも考えずにしゃべり続けていたと。

「す、すみません。勝手にしゃべり続けてしまって」

「構わないさ。聞きたいことを聞くことができた」

 ウッドマンさんは目を閉じて笑っています。合格ってことでしょうか?

 

「君が折紙を大事に想うように、私も愛のことが大事でね。一番の弟子なんだよ。喧嘩をしてしまったけど」

「鳶一愛、ですか」

 以前折紙さんが話していました。

 家を出て行ったたった一人の家族だと。戻ってきたからASTを辞めると。

 

「私はね、彼を諦めたくないんだ。彼以上に私の後継に相応しい人間なんていると思えないからね」

「そんなに凄いんですね」

「ああ、才能も心意気も私を遥かに凌ぐ。なにより、優しい子だ」

 ウッドマンさんの気持ちが私にまで伝わってきます。大事なんですね。

 

「ただ、私の言葉はもう届かない。情けない話だが、誰かに期待するしかないんだ。」

「わかりました。その言葉きっと届けてみせます」

 こんな優しい人をこんな顔のままにさせていいわけありません。

 

「約束通り、君を支援しよう。一緒に頑張ろうではないか」

「はい、よろしくお願いします!」

 もう一度深く頭を下げます。折紙さん、待っててください。




というわけでサブキャラ登場です。この子もアシュリー達同様に出したいと思っていました。真の強いキャラはいいですね。

今回の裏話は岡峰美紀恵について。

だいたいデート・ア・ストライクと同様の道を辿っています。折紙に憧れてASTの門を叩き、いろいろあって成長しました。

折紙が辞めたときはかなりショックを受けました。本人を問い詰めるくらいには。それでも折紙が幸せならと送り出した結果がこれです。

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