ヒロインは七罪   作:羽国

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長い間息してなかったガールズラブと女体化のタグが大活躍。どこぞの百合姫のおかげです。


天央祭開始

 天央祭は天宮市全ての高校が合同で開催する文化祭。最早天宮市を挙げての一大イベントになっており、高校生に限らず街の人全体が活気づく。

 俺たちのやる模擬店やステージ発表を始めとして、研究発表やアトラクションなど楽しめる場は盛りだくさんだ。

 この活気の中で俺たちは一番を取らないといけない。だからこそ、尊厳なんてものは切り売りしないといけないんだ。

 

「俺は士織、俺は士織、俺は士織」

 鏡を見ながら自分に言い聞かせる。自分は五河士道ではないのだと。

 濃紺のロングドレスの上に純白のフリフリエプロン。フリルで彩られた可愛らしいヘッドドレス。

 どこをどう見ても素敵なメイドさんだ。

 

「士織、あんたもう何日女でいるのよ?いい加減慣れたら?」

「賛成。最近は着替えもずいぶん早くなりました。女の子として十分やっていけるでしょう」

 後ろで耶倶矢と夕弦が腕を組んでみている。俺と同じメイド服を身にまといながら。

 

「慣れたくねーよ!なんで順応しなくちゃいけないんだ。俺は早く男に戻りたいよ!」

 最近何の抵抗もなくスカートに手が伸びる。そんな自分に気づいて悲しくなった。

 このままだと大事なものを失ってしまう気がする。

「ならば勝たねばな。この宴で負けたならば、永劫のときをその姿で過ごさねばならぬのであろう?」

「ああ、そうだよ」

 愛が脅しをかけてきた。美九を封印できなかったら一生この姿にするって。

 

「窮地。夕弦としてもそれは困ります。女の子を恋愛相性にする趣味はありませんから」

「それマジだよな?信じていいんだよな?」

 こいつら俺の服の候補軽く二十は出してきたからな。ときどき不安になる。

 俺をからかって遊んでるだけだと信じたい。

 

「うむ、みんな着替えたようだな。よく似合ってるぞ、耶倶矢、夕弦、そして士織」

 十香がカーテンをくぐって現れる。腰に手を当てて俺たちの姿をまじまじと見ながら、親指をぐっと立てる。

「みんなは宣伝係だ。これを持って人を集めてきてくれ」

 十香は大きめのプラカードを取り出す。そこにはでかでかとポップ調で『メイドカフェ☆RAIZEN』の文字が書かれている。

 下にはメニューがイラスト付きで書かれており、これを見せるだけで広告になる。

 

「十香、これお前が準備したのか?」

 言っちゃ悪いが、俺の知ってる十香じゃない。こんな面倒そうな準備ができるだなんて。

 あんまり構ってやれないから模擬店の方を頼んだだけだったのに。

「そうだぞ。令音がいろいろ教えてくれたのだ」

 十香は嬉しそうに話す。それは努力した者の顔だった。

 

「折紙は美九のもとにいるのだろう。ならば私も頑張らないとと思ったのだ」

「十香……」

 十香がずいぶん頼もしく見える。俺も負けちゃいられないな。

「勝つぞ、来禅高校!」

「おー!」

 みんな元気よく手を挙げる。俺たちなら竜胆寺を、美九を倒せる。

 

♦♦♦

 

 ゲートを通る前から人人人。そしてゲートを越えるとさらに人が増えました。

「これが天央祭でいやがりますか。テーマパークよりも人がいっぱいいますね~!」

 集客をする高校生。パンフレットとにらめっこしてる中学生。

 周囲の人の顔を伺う大学生。『美九命』という独特な服を着ている大人。

 気を抜けば迷いそうなほどです。

 

「天央祭は昔からこの街の一大行事だからね。市も協力して盛大に執り行われるんだよ」

 一緒に来た令音さんが解説してくれます。市が協力だなんて、気前のいいことですね。

「士道さんのメイドカフェはどっちでしょうか?」

「早く見たいよね。士道君のかわいいかわいいメイドさんす・が・た」

 四糸乃さんとよしのんが辺りを見回しています。この広い会場では目的の場所を探すのも大変ですね。

「飲食系の摸擬店は入り口近くのようだ。行ってみようか」

 令音さんが飲食店の集まるブースの方を指さします。はぐれないように三人で手をつないで向かいました。

 

 パンフレットの案内に従って進むとメイドカフェが見えてきました。大盛況のようで、長い列ができています。

「並んでお待ちくださ~い。最後尾はこちらで~す」

 様子を見ていると、聞き覚えのある声が聞こえてきました。見ると小柄な少女、ミケさんが案内をしていました。

 最後尾という看板を持って元気に手を振っています。なんであの人のメイド服だけ猫耳と尻尾がついているんでしょうか?

 

「頑張ってますね、ミケさん」

「あっ、真那さん。来てくれたんですね」

 ミケさんはいつも通り嬉しそうに挨拶してくれます。人気が出そうなメイドさんですね。

 

「ミケさん、とってもかわいいです」

「あ~、四糸乃さん。ありがとうございます」

 ミケさんは四糸乃さんの手を取って感謝しています。

 真那と一緒に訓練相手になっていただけありますね。今はすっかり仲良しです。

 

「やあやあ、元気そうだねミケちゃん。尻尾が楽しそうに揺れてるよ」

「えっ、本当ですか?」

 ミケさんはよしのんの言葉を信じて自分の尻尾に手を当てます。本当に騙されやすい人ですね。

 

「その尻尾は動かないものだろう。そもそも、猫の尻尾が揺れているときは不機嫌な証じゃないかな?」

「そうなんですか?」

 令音さんの指摘によくわかっていなさそうな顔をするミケさん。一人暮らしとかさせちゃダメなタイプですね。

 

「に、姉さまはどこにいますか?」

 危なく兄様と言うところでした。兄様は今入院中という設定ですね。

「士織さんですか?今は集客のために外へ出ていると思います」

 ミケさんはあごに指を当てながら思い出します。

 兄様、あの姿で大勢の人にアピールを……。頑張ってください。

 

「そう言えば、折紙さんどこに行ったんでしょうか?天央祭なら来ると思ってたんですが、竜胆寺の方にもいないみたいですし」

 折紙さんはあの日以降ずっと休学中らしいです。誘宵美九の手勢として現れると期待してたんですけど。

「これじゃあ話もできねーです」

 説得するにしろ、無理矢理連れ帰るにしろ、顔を合わせないと始まりません。誘宵美九の家に突撃しないといけないんでしょうか?

「七罪さん……」

 四糸乃さんも暗い顔をしています。

 そうですね。《ウィッチ》は四糸乃さんの友達でしたね。

 

「まあ、もうすぐ何か動きがあるでしょう。あいつは絶対何か企んでいますから」

 誘宵美九の味方になった?はっ、そんなわけありませんね。

 あいつはむしろ誘宵美九を利用するような奴です。その内全員の目が飛びだすようなことを起こすでしょう。

 

「近いうちに何かあります。その時こと折紙さん説得のチャンスですよ」

「はい!」

 ミケさんは元気よく返事します。

 鳶一愛。テメーは一体何を考えていやがりますか?

 

♦♦♦

 

 竜胆寺女学園の控室。そこでは美九が女の子を侍らせていた。

 天央祭当日だが何かをしようという気構えは一切ない。むしろ自分の気分をよくするために大事な人員を割く始末だ。

 この子たちがいれば模擬店の人気を上げることができるだろうに。これでステージにも過剰な人数を取っているのだから救いようがない。

 

 誘宵美九はアイドルとして超一流だ。しかし、マネージャーとしては五流未満。

 音楽系のスキルを持つ子は全部自分のステージに持ってきている。どうして生徒半分以上も自分のステージの専任にしてるんだか。

 見ていて手を出さないように我慢するのが辛かった。でも、今日でおしまいだ。

 

「美九さん、私たちはこの後予定がありますから」

「あら、私のライブ見てくれないんですかぁ?」

 美九は残念そうに私たちを引き留める。大事な精霊を近くに置いておきたいんだろう。

「これから大事なようがありますので。安心してください、明日はまた戻ってきますよ」

 明日もこのイベントを楽しめるような状態であればの話だけれど。

 

「わかりました。明日は士織さんたちと一緒に回りましょう」

「ええ、楽しみにしていますよ」

 美九は自分の勝利を疑っていない。このガタガタの状況で。

 

 立ち去り際に竜胆寺の模擬店を見る。少ない女の子が必死になって回している。

 美九の洗脳を受けていない女の子だ。彼女たちが頑張っているから辛うじて形を成している。

 去年の人気から列はできているのに捌けていない。注文待ちの客がイライラして途中で帰ってる。

 お客様に迷惑をかけて泣きそうな顔で謝る女の子たち。美九がいなければこのようなことにならなかっただろう。

 

「かわいそうな子たちね。逃げちゃえばいいのに」

 七罪がつまらなそうに見ている。七罪が同じ立場だったらそうするのだろう。

 私も同じ側の人間だ。恩義のない相手のために理不尽を受け入れる気はない。

 

「ステージ発表、模擬店部門、展示部門は同じだけの配点がされている。この状況で誘宵美九の負けは必至」

 姉さんが冷静に現状の分析をする。完全に同意見だ。

 どれだけステージの発表が素晴らしくてもステージの満点を取るが限界。総合したら二位か三位になるだろう。

 テストで数学だけ満点取って他赤点だったら褒められるか?そういうことだ。

 

「さて、しばらくしたら狂三から連絡が来るだろう。いつでも出られるように準備しておこう」

 これは私たちとは関係ない戦い。今回の戦場は別のところにある。

「久しぶりねこういうのは」

 七罪が贋造魔女(ハニエル)を顕現させて肩に置く。一昔前の不良のように。

 既に霊装を身につけている。魔女帽子に手を置いて不敵に笑う。

 

「いつでも大丈夫。そのための準備は既に済ませている」

 姉さんがポケットから金属タグのようなものを取り出す。《ブリュンヒルデ》の緊急着装デバイスだ。

 頑張って整備したから問題なく使えるだろう。こういうときのために顕現装置(リアライザ)の勉強してきたんだから。

 

 二人とも戦闘の準備はできているようだ。私も準備しよう。

神威霊装虚番(ミュー)

 身体に満ちる霊力を掌握し、身にまとう。豪華なドレスとなり、堅牢な白となる。

 この力にも段々慣れてきた。もう痛みなど感じない。

 身体が霊力に適合し切ったのか。それとも、痛みを感じないほど感覚が鈍ったのか。

 どっちにしろ、この力に頼る以外の道はない。崇宮澪を打ち倒すためにこの力は必須なのだから。

 

断罪覇王(アズラエル)

 最強最悪の天使が顕現する。断罪する覇王を私が持つだなんて、皮肉が効いてるじゃないか。

 これからこの天使はどれだけ滅ぼすのだろうか?少なくとも、これから一企業を叩き潰す。

 

♦♦♦

 

「わたくし、日本では天央祭が始まりましたわ」

 ここはウェストコットの本拠地イギリス。日本は朝ですが、ここは月の輝く深夜ですわ。

 予定の時間が来ましたわ。第二次襲撃を仕掛ける最高の時間が。

 天央祭の開催が宣言され、士織さんたちが忙しさに追われている今この瞬間。それがDEMを襲撃するに最も適した時間ですわ。

 

「行きなさい、わたくしたち」

 明かりがちらちらと輝くビルの屋上。わたくしたちがDEMの本社ビルめがけて突っ込む。

「貴様、《ナイトメア》か!」

「また殺されに来たのか」

 当然、建物へたどり着く前に魔術師(ウィザード)たちが湧いてきますわ。日も変わるような時間帯だというのにご苦労なことですわね。

 

 同時に空間震警報が発令されます。起きている人は案外多かったようで、一斉にシェルターへ駆け抜けていきましたわ。

 民間人を巻き込まないため――というより全力を出すのに邪魔だからでしょうね。この会社の体質を考えると。

 わたくしたちと魔術師(ウィザード)の戦いが長引くほどにどんどん敵の数が増えていきます。

 流石天下のDEM本拠地。魔術師(ウィザード)を腐るほど飼っておられますね。

 

 わたくしとしても、この数相手に戦ったら徒に『時間』を消費するだけですわね。ではそろそろ次の一手を打ちましょう。

 しまっておいた通信機を取り出して口元に近づけますわ。そして一言。

「あなたたちの主人に代わって命令しますわ。敵を殺しなさい」

 それと同時に魔術師(ウィザード)たちの心臓に刃が突き刺さりますわ。同じDEMの魔術師(ウィザード)の手によって。

 そのような事態が敵の軍勢の中でちらほらと。当然、混乱が広がります。

 

「何だ、お前」

「狂ったの⁉」

「止めろ、ブラザー」

「止めて、いやー!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図。折角ですので少しおまけして差し上げましょう。

 

「わたくしたち、DEMというこの世界の腫瘍に血の惨劇を。愚かな魔術師(ウィザード)に死の制裁を」

 手を振り下ろす。それと同時にわたくしたちが一気に魔術師(ウィザード)を討ち取っていきますわ。

 内と外からの不意打ち。どのような優秀な部隊でも、対処するのは困難でしょう。

 大した労力をかけることもなく、世界最強の軍隊が崩壊していきますわね。なんて愉快な光景でしょうか?

 

「愛さん。あなたと手を組んだこと、やはり間違いではありませんでしたわ」

 一番厄介で一番頼りになるお方。愛さんがいなければ、ここまで簡単にDEMの牙城を崩すことができなかったでしょう。

 敵の忠誠の対象を愛さんに書き換えて潜入させる。正に毒を流し込むような最悪の手段ですわ。

 

「《ナイトメア》、やってくれましたね」

 現れたのは世界最強の魔術師(ウィザード)、エレン・メイザース。返り血をシャワーのように浴びておりますわね。

 きっと山のような命を刈ってここまで来たのでしょうね。敵も、味方も。

 

「あらあら、直接顔を合わせるのは初めてでしょうか?

 ごきげんよう、わたくし時崎狂三と申します。《ナイトメア》などと呼ばれるのは不本意ですので、以後お見知りおきくださいませ」

 スカートをつまみ、淑女らしく一礼を。挨拶は優雅に、敵意を以て。

 

「一度ならず二度までも。あなたの目的は一体何ですか?」

「それを素直に教えると思いますか?夢を描くような装置を造っているだけあって、頭の中も夢いっぱいですわね」

 エレン・メイザースは目にも留まらぬ速さで近づき刃を振り下ろす。影の中に隠れてやりすごしますわ。

 これで目的は十分果たしたと言えるでしょう。あとは頑張ってくださいまし、愛さん。




天央祭開始です。士織たちが頑張ってる裏で、愛君たちが悪だくみしてます。何が目的でしょうか?

さて今回の裏話は愛くんの数字について。
XでDMくれた方には明かしているんですが、愛くんの数字のモチーフは虚数単位のiです。i→アイ→愛という言葉遊びみたいな変換を経ています。現実世界に存在しない虚数と原作世界に存在しない『鳶一愛』をかけてこの名前をつけました。

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