オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐) 作:ぽきぷし
「……薬師長。少し、よろしいでしょうか」
アインズ――今はまだダークエルフの男「スズキ」の姿をした主が、作業場にいた薬師長に声をかけた。薬師長は手に持っていた薬草の調合の手を止めず、背を向けたまま鼻を鳴らした。
「ああ、あんたか。……随分と早いお帰りじゃねえか。もう王都まで行って、あの馬鹿王の顔でも拝んで文句の一つでも言ってきてくれたのか?」
「……いえ、王都へは行きましたが、話が少々込み入りまして。それよりも、まずは紹介したい者がおります」
アインズが促すと、背後に控えていた少女――シャルティアが、一歩前に出て作業場に入ってきた。薬師長はようやく振り返り、その鋭い眼光をスズキとシャルティアに向けた。
「……妙だな。あんたの周り、以前よりも『死臭』が濃くなってやがる。その娘……。見た目は美味そうな菓子みてえなツラしてるが、薬師の勘が警鐘を鳴らしてやがる。ただの嬢ちゃんじゃねえな」
アインズは内心で舌を巻いた。レベル差を超えた、生と死を見つめ続けてきた老薬師の「経験」が、理屈を越えて本質を突いている。
(流石は、薬学に生涯を捧げた御仁だ。……これ以上、彼を欺き続けるのは私の矜持が許さないな)
アインズは、霊体化して傍らに浮遊しているレスタト翁に無言の合図を送った。
「薬師長……。貴殿には、2つ嘘を吐いておりました」
アインズが合図を送ると、レスタト翁が周囲に認識阻害の結界を張り巡らせる。同時に、アインズを包んでいた幻術のヴェールが霧散した。
現れたのは、絢爛豪華な法衣を纏い、神々しいまでの魔力を放つ、純白の頭蓋骨。
「……なっ……!? アンデッド……だと?」
薬師長の目が見開かれる。だが、アインズは逃げることなく、その虚ろな眼窩を真っ直ぐに薬師長へ向けた。
「すまなかった、薬師長。私は旅人のスズキではない。魔導国を統べる不死種の王、アインズ・ウール・ゴウンだ。……貴殿には薬学の知識を乞うておきながら、あまりに大きな不義理を働いていた。……許してくれとは言わぬ。」
アインズの声には、王としての威厳以上に、一人の「鈴木悟」としての誠実な苦渋が混じっていた。
「貴殿から学んだ調合の知恵、伝えた魔導国に住まう人間種の薬師の友人の話、そして共に過ごした時間は、私にとって真実であった。……君が誠実であったからこそ、欺瞞を持って応じ続けてきた己の不誠実が、この胸を焼くのだ」
・・・・・・・沈黙が流れた。
薬師長は震える手で腰の煙草を取り出し、火をつけた。紫煙を一つ吐き出し、彼はアインズの頭蓋をまじまじと見つめる。
「……おいおい……、とんでもねえ『化け物』を弟子に持っちまったもんだな、俺は」
薬師長は、愉快そうに、そしてどこか誇らしげに笑った。
「姿がどうあれ、あんたが俺に叩き込んだ薬学の真理、そして俺の技術を盗もうとしたあの必死さは本物だ。……さて、王様。俺に不義理を詫びるってんなら、一つだけ条件がある」
「……何かな」
「あんたのその大そうな国の連中相手に、俺の調合が通用するか試させろ。あんたを弟子にした俺の意地だ。……そして、この村の連中には俺からも話してやる。あんたは絶望してる奴らに派手に大見得きって圧倒的強者の慈悲の手を差し伸べてやってくれ。」
アインズは、この「友人」を得られた幸運を噛み締めながら、力強く頷いた。
「元よりアウラとマーレの同族のダークエルフはできるだけ救っておきたかったからな。助かるよ。」
その後ろでレスタト翁が、満足げに顎髭を撫でていた。
「では、アインズ様の救国劇を始めましょうかの」