オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐) 作:ぽきぷし
集落を出た一行の前に、レスタト翁が静かに顕現し進み出た。
「これより魔導国相談役を仰せつかったこのレスタトが、道を拓きます。王都までの道のり、少々『急ぎ足』で行くとしましょうかぞ。」
唐突に出現したレスタトが古の精霊言語を紡ぐと、森全体がザワザワと歓喜に震え始めた。
「アウラ殿、マーレ殿、合わせてくだされ、始祖の奥義――【精霊の小道(フェイ・パス)】」
それは単なる道を作る術ではない。
レスタト翁が主導するその術は、空間そのものに干渉する大規模なエンチャント(付与魔術)であった。
同行するダークエルフたちの足元には淡い緑の光が纏わりつき、「速度上昇」「疲労軽減」、さらには「体感時間の停滞」という、伝説に謳われる「妖精の時間の流れ」が現実のものとなった。
「アウラ様、マーレ様。土台を整えていただけますかな?」
レスタト翁の呼びかけに、守護者二人が笑みを浮かべて応じる。
アウラが「森林踏破」の権能を解放し、行く手を阻む巨木や蔦を瞬時に左右へ退かせ、マーレが「大地変化」の魔法で悪路を瞬時に平坦な一本道へと造り替える。
その整地された安全の確保された道に、レスタト翁の精霊術が「加速の理」を上書きしていく。
ダークエルフたちは、自分たちが歩いている道が書き換わり、まるで森の方が背後へ飛ぶように流れていく異常な光景に目を見張った。
「これは……伝承にある始祖が、森を跨いで進軍したという伝説の再現か!?」
「ああ……見ていろ。レスタト様の指先で、導かれた精霊たちが踊るように光を放っている……」
同行するダークエルフたちは、もはや興奮が止まらない。中には感涙を隠さない者までいる。
「ダークエルフの我々を再び始祖様が導いてくださるなんて!」
自分たちと同じ、いや、自分たちの遥か源流にある「エルダーエルフ」の英霊のごときレスタト翁。そして彼を「相談役」として従え、子供の姿をした守護者たちに伝説を具現化させるアインズの底知れぬ器。
「これこそが、我らエルフがかつて持っていたはずの誇り……」
「アインズ様は、この伝説を『当然の権利』として従えておられるのか……」
彼らにとって、アインズはもはや強国の「アンデッドの王」ではなく、失われた始祖の栄光を現世に引き戻した「真なる救世主」として映っていた。その瞳には、熱狂的な忠誠の火が灯り始めていた。
「妖精の小道」によって、数日かかるはずの距離をわずか数時間で踏破した一行が到着したのは、陥落したエルフ王都であった。
そこで目にしたのは、傲慢な前王が贅の限りを尽くした城と、対照的に使い捨てられ、放置された同胞たちの無惨な姿。特記戦力はエルフ王によってとっくに死地に送り込まれて戦死し、エルフ王まで討たれたエルフ国に、反撃のリソースは無かった。
エルフ王の進軍命令が途絶えエルフ王の死を知った軍部の動揺は激しく、森の攻略は9割方済まされ、スレイン法国は番外席次捜索の為、慎重かつ凄惨に次陣を進軍させ王都を包囲し殲滅へのカウントダウンが始まろうとしていた。恐慌に陥った比較的冷静なエルフ王国民のいくつかの集団が秘密裏に森へ逃亡を図り全て討たれて死体が晒されている。
スレイン法国の元漆黒聖典と陽光聖典の混成軍の封じ込め戦略は完璧で残るエルフ王国民の心を折るのに十分だった。
「……酷い。これが、私たちの同族の王がやったことなの……?」
同行したダークエルフの一人が、涙を流しながら呟く。
アインズは静かに一歩前へ出た。
「薬師長殿。そして諸君。……この国の民は、王という名の『病』に蝕まれていた。私はこれより、この地に魔導国の秩序(法)を敷く。……力を貸してくれるか」
「当たり前だ、とんでも弟子……いや、アインズ陛下!」
薬師長が声を荒らげる。
「こんな地獄を見せられて、黙ってられるか! おい、お前ら! この国の奴らに教えてやれ。俺たちが連れてきたお方こそが、本当の『希望』だってことをな!」
レスタト翁の導きによって魔導国の「格」を骨の髄まで叩き込まれたダークエルフたちは、今やアインズの最大の擁護者として、絶望に沈む王都の民を説得し、同盟へと導くための強力な手札へと変わっていた。