オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐)   作:ぽきぷし

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六神官長
• ベレニス・ナグア・サンティニ(火の神官長):最高齢の女性。厳格で、信仰心に基づいた激しい気性の持ち主。
• ジネディーヌ・デラン・グェルフ(水の神官長):冷静沈着な老魔術師。分析を重んじる。
• ドミニク・イーレ・パルトゥーシュ(風の神官長):元聖騎士。軍事的な視点から現実的な判断を下す。
• レイモンド・ザッグ・ローランサン(土の神官長):漆黒聖典の元第一席次。現場の苦渋を誰よりも理解している。
• マクシミリアン・オレイオ・ラグーリエ(闇の神官長):かつて司法を司り、規律に厳しい。
• イヴォン・ジャスナ・ドナトール(光の神官長):六神官の調整役であり、もっとも伝統を重んじる。


第一章:第009話 スレイン法国最高評議会「法国最強の消失と蒼き壁」  

side:スレイン法国

 

 スレイン法国の心臓部。六大神の聖印が刻まれた円卓を囲むのは、この国の最高権力者である六人の神官長たちである。しかし、今日この場を支配しているのは建国以来かつてないほどの、少なくとも定命の人間種6人の在位以来経験した事もない当惑と焦燥であった。

 

 「皆に集まってもらった用件は理解しているな……信じがたいことだが。エルフ王城へ先行した、漆黒聖典『番外席次』……アンティリーネからの定時連絡が途絶えた。これより六時間、一切の魔法的、あるいは物理的な接触に応答が確認できていない」

 

 「エルフ王を単独討伐できると踏んでの先行であろう。あの悍ましい父の討伐こそ、あの子の宿願。問題にするには時期尚早ではないか?」

 

 「そうじゃ。エルフ王の血を継ぐ準英雄達を確実に陽光聖典と元漆黒聖典の混成軍で屠ってきているのじゃろう?」

 

 「然り。先だって魔導国が旧王国を恐るべき早さで併呑したという。我々にはエルフ共にこれ以上煩わされる余裕が無いという認識で一致していたはず。いつも通り制御の難しい最高戦力が敵の首魁を撃つ、それだけの事。」

 

 「我々が今心配すべきはエルフ国の残党、国民の占領後の統治についてである。優秀な王の血統を新たに漆黒聖典に組み込む戦略を取る場合、これまで奴隷化してきたエルフ共の扱いはどうするか?至急決めねばならぬ。エルフを種族として属国民として受け入れる場合、これまでの異種族奴隷化政策の撤廃をせねばならぬ。失業者と労働力の損失をどう補填するのか?我々が数百年に亘り植えつけたエルフへの国民の差別意識を対魔導国、対アンデッドへすり替える有効な教義を広めるか?」

 

 「馬鹿な!それは闇の神スルシャーナ様への侮辱となるでは無いか!今後かの従者様に助けを乞う必要が出た時にかの御方の理解を得られぬやも知れない教義に軽はずみに書き換えるなど自殺行為であろう。」

 

 『コン、コン、コン。』 

 

 「誰じゃ!最高評議の場には何人たりとも踏み入れる事を禁じているのだぞ!?」

 

 「問題ない。アイリスだ。危急の用件があれば伝えにくる様に言付けておいたのでな。私が対応する。」

もしや魔導国の手先がここまで侵入して来たのではと一同に警戒と緊張が奔る中、ノックの主を予期していた光の神官長イヴォンが室外に出て自身の身の周りの雑務を務める修道女の少女アイリスに対応する。

 

 

 「お待たせアイリス、ご苦労様。この書類を届けてくれたのかな?ありがとう。とても助かった、じゃあ気を付けてね。ああ、帰りに私の部屋に寄ってお茶菓子を貰っていくと良い。来客用のとても美味しいものが余っているみたいだけど、私は甘いものが苦手だからね。傷みだす前にみんなと分けて召し上がれ。」

 無言で頷く、自身の部下に対してにしても非常に丁寧な対応で書類を受け取り、送り出す。

 

 「ああ、白杖の嬢ちゃんかい、まあこの密談の場には場違いだけどもしもの事を考えたら上手い人選だね。」

 

 「盲目で純朴な修道女に対して法国で手荒な真似すれば非常に目立つだろうしね。機密性の高い書類の流出の心配は無いわけだ。」

 

 「おまけに障碍を抱えた孤児を手厚く教育した教会への信仰も恩義も人一倍厚かろうて。」

 

 「邪推が過ぎるぞ。六大神の、光の神と水の神の教えに従っているでけだ。誰もが健康で文化的な最低限の生活を維持できる様に手を差し伸べる、耄碌しすぎて教義の根幹も忘れたか。」

 

 「くくく。冗談だ、目くじら立てるな。ただお主の優しい神官長の姿があまりにも新鮮でな。それで至急の続報が入ったのであろう。一部しか準備されていない最新の情報とみえる。まずは共有しようじゃないか。」

 

 「全く。まあ待て何々・・・。」 

 アイリスの来室という珍事に和み弛緩する場の空気の中、報告を読み進めるイヴォンの表情が険しい物に変わっていく。

 

 「どうした?まさか番外席次がエルフ王を殺した後に王都で虐殺でも始めたとでもいうのではないだろうな?」

 

 「おいおい、それは厄介だ。我々には止める力がない。あの娘は苦労してきた、エルフ相手であれば落ち着くまで暴れさせておくのも悪くないやも知れんぞ?」

 

 「なるほど、エルフ王を討った法国の最強戦力の恐怖をエルフ国民に知らしめるのであれば悪くないやも知れぬな。」

 

 

 「ふぅー。ふざけている場合ではないぞ。番外席次が失踪した。おそらく敗北したのであろう。その後は侵攻軍が侵攻できずにお手上げだそうだ。我々の指示を仰いできている。」

 顔面蒼白のイヴォンは震える手で報告書を円卓の面々に回し読みするように差し出す。

 

 「それこそ冗談がすぎるぞ?何々?」

「『アンティリーネは王城に侵入しデケム王を単身殺しに向かった。やがて王城で激しい戦闘音が鳴り響き半壊した事を確認。その後数時間アンティリーネとの通信のやり取りが不能に、王都近郊を包囲しつつあった侵攻軍より王都襲撃及びアンティリーネ捜索を開始。先だって入都していた漆黒聖典の隠密部隊によると彼女が王城に侵入してから番外席次及びデケム王の姿が確認出来ず?その後隠密部隊とも通信途絶?!』バカな!漆黒聖典第十席の子飼い部隊がか?!『通信途絶と同時に王都より発生した蒼い光の粒子が王都外周に波及?現在も満ちているそのオーラのような粒子に触れた侵攻軍は皆一様に無気力状態および重度の衰弱に陥り継戦困難と判断、粒子に触れた人員を至急救助しながら戦線を後退、以降の指示を本国に仰ぐ』?!」

 

「なんと!エルフ王の能力なのか?もっと力任せな粗略な戦術しか用いてこなんだ男が急になぜ?」

 

「蒼いオーラ……。アズス・アインドラという冒険者の魔力とは違うのか? いや、規模が違いすぎる」

レイモンドが低く唸る。

 

「まさか、エルフの秘宝なのか。それとも……」

 

「魔導国か」闇の神官長マクシミリアンが掠れた声で呟く。

「かの王国を数日で塵にした、あのアンデッドの王が動いたのか」

 

 神官長たちは、互いの顔を見合わせた。自分たちが誇る最強のカード、アンティリーネが封じられ、さらに軍そのものを無力化する未知の事象。

 

 「全軍に更に後退命令を。設置した森内の各拠点にて蒼のオーラに侵された兵の介抱に当たらせる。これ以上の被害は許されん。皆も依存ないな?」

 

 光の神官長イヴォンが決断を下す。

 

 

 彼らのこの激しい議論、そして「アンティリーネの消失」という致命的な失策は、かねてより仕掛けられた『耳』を通じて、旧王国のラナー元王女へと鮮明に届けられていた。

 

 彼女は今頃、この絶望に満ちた声を聴きながら、至福の笑みを浮かべているに違いない。スレイン法国という自分の祖国を陥れクライムとの生活を脅かす画策をしていた者どもの悲鳴は、スレイン法国の虚構の正義の壁が内側から崩れ始める最初の亀裂の音は、旧王国で作戦開始するラナーにとって最良の福音であった。

 

 

 

 

 

 

設定記録

 

アイリス(オリキャラ)

 

法国の弱者救済の教義に則り神官長たち特にイヴォンとマクシミリアンの雑務を行う神官長付きの修道女、白杖を使って日常生活を送る盲目の孤児。盲目で純粋である為、むしろ機密文書の取り扱いなどに重宝される。法国国営の孤児院出身で法国関係者以外との接触がほぼ無い、他に生きる術もない分信頼されている。また本人の人柄から神官長たちに護るべき無辜の国民として慈しまれ可愛がられている。

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