オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐) 作:ぽきぷし
章の区分けは後日正します。
「この子達がデケムのスペアとして今は亡き八欲王の血の覚醒を期待され育てられた者と、攫われ孕まされた母親たちです。私は戦闘力の面で早々に見切りをつけられましたが、治癒の魔法とタレントの活用の為、王城内での生活が許されていました。有用な才が発現する前の子供たちとその母はここで最低限度の寝食を提供されひたすら鍛錬をして血の覚醒を求められてきました。そしてデケムの気まぐれに思いついた才能開花の試練と称した思いつきの実験体にされるのです。」
ヴィオラに案内され、アインズは王城の地下深くに王女、王太子は能力に応じて区画分けされ軟禁同然の生活を強いられていた「スペア」の王子・王女、そしてデケムの毒牙にかかった女性たちの下に案内された。
彼らが怯えているのは、「死の王」への恐怖からではない。「古代森人」への畏怖からでもない。デケムが語り続けた「強者の血」という呪縛に、精神を焼き切られていたからだ。居住区に大勢が押しかける時は決まって次の「スペア」の性能を見極める為に死地に送る子の選別の為だ。
アインズたちを迎えたのは、次に死刑宣告を告げられる者は誰かと死んだ目の来訪者に向ける視線だ。
(マーレとアウラは置いてきて正解だったかもな。これが王に飼われるか敵国に飼われるしかなかった長命種の精鋭の姿か。どう考えてもあの子たちの教育に悪いよな。レスタト翁の)
「……案ずるな。デケム・ホウガンは死んだ。彼が誇りとした『八欲王の血』などというものは、私に言わせれば、ただの愚者の残滓。不快な遺物に過ぎぬ。」
アインズの静かな断言に、一人の少女――かつてデケムに「失敗作」と罵られた王女が顔を上げた。
「八欲王の血……。私たちの存在意義であったデケムの求めた血は無価値だと?」
「血の濃淡で価値が決まるなど、愚の骨頂だ。……私はアインズ・ウール・ゴウン。貴殿らを一人の『民』として、魔導国の同盟者として迎えに来た」
アインズは、彼女たちの精神的な傷を癒やすための「証言」という役割を与えた。それは、自分たちが受けた苦痛を「正当な告発」へと変えるための救済であった。また、新たに興るエルフ国でも彼らの働きによって魔導国との同盟が成り、スレイン法国との戦争が終結すれば能力が高く功績のある彼らは王の血族であっても、デケムとは別の停戦と同盟締結の功労者として新政府に組み込まれ易くなるだろう。
アインズは、城の最深部で震える「デケムの子供たち」と、虐げられてきた女性たちの前に立った。
彼らは、デケムが説き続けた「八欲王の血」という重圧に押し潰されていた。八欲王――500年前に世界を蹂躙した神のごときプレイヤーたちの末裔であるという事実が、彼らにとっては呪いそのものだった。
「顔を上げよ。デケム・ホウガンは、自らが誇った血の如く、無残に散った。もはや貴殿らを縛る言葉は何一つない」
アインズの静謐な声に、一人の王子が問う。
「僕たちは……血の薄い『失敗作』ではないのですか?」
「血の濃淡で魂の価値が決まるなどという言葉は、己の無能を血筋で誤魔化す弱者の言い訳だ。各人の適性を見極められず、育てられなかったのであれば、その責は、指導者であるデケム王の無知と無能にある。劣悪な環境で非効率な鍛錬を強いられたエルフ王とスレイン法国の所業の被害者たちよ、我が名はアインズ・ウール・ゴウン。強きも弱きも、等しく我が法の下で安寧を得る……魔導国の王である。」
アインズとレスタト翁はデケムの被害者たちに救国の英雄となる術を授ける。それは奪われた尊厳を取り戻させるための「戦う機会」の提供であった。
side:エルフ王都中央広場
スレイン法国の侵攻が止み混乱から立ち直って気力も戻ってきた王都中のエルフの民が王城前の中央広場に集まった。近隣から徴兵されたエルフも含めた各種族のエルフとダークエルフたちを前に、アインズはレスタト翁、ヴィオラ、ベアネを伴いバルコニーに立った。
アインズは高らかに宣言する。
「森の民よ。魔導国はエルフ王国と不可侵、かつ相互防衛の同盟を望む! スレイン法国の理不尽な侵略に対し、我らは毅然と立ち向かう。デケムの暴政は終わり、これからは貴殿ら自身で、この森を再興させるのだ!それに先駆けて、停戦と再興の目処がつくまで支援物資と復興人員、防衛戦力はアインズ・ウール・ゴウン魔導国が無償で提供しよう。これは共通の敵からエルフ族、ダークエルフ族を守る為の多種族融和・共生を望む大義の為である。」
広場を揺らす大歓声。アインズの傍らで、レスタト翁が静かに涙を流すエルフたちを見守っている。
この瞬間、エルフ王国の主権は魔導国の庇護下へと移った。それは同時に、スレイン法国が「一国の主権と人道を蹂躙した犯罪国家」として、周辺国家の前に引きずり出される準備が整ったことを意味していた。
鳴り止まない歓声の最中締結される条文の署名の際に、ヴィオラとバンプーはアインズに一つの条件を申し出る。
「是非、レスタト様に新たな政権の最高評議顧問として我々を導いていただきたいのです。」
アインズとレスタトは目線を交わし密かにほくそ笑んだ。
「では、レスタト翁(分霊)を魔導国の在エルフ国大使の兼任を命じる。これから興るエルフ国での役職は我の関する所ではない。好きにせよ。」
かくして、エルフとダークエルフに請われる形で魔導国相談役レスタト・Tゲバー・フリーヴンが主導する新政権の最高権力者となり、同盟国でありながら自由に導けるレスタトの子供達が誕生した。
side:アインズ・ウール・ゴウン魔導国・トブの大森林近郊
「ここが私の支配する国の比較的安全な森、トブの大森林だ。この道を進めばゴブリンとオーガとドワーフと人間の共存するカルネ村、更に南方には人間種を始め様々な種族が共存し始めたエ・ランテルという都市がある。森人の暮らし易く受け入れられ易い土地といえばまずはこの辺りだろう。レスタト翁(分霊)とアウラとマーレを付けるので希望者は転移ゲートを通って見学してもらって構わない。」
そこには、証人として選ばれた被害者たち、そしてダークエルフの村から「魔導王の治める地」を見てみたいと志願した若者たちが並んでいた。
「ヴィオラ殿、ベアネ殿。レスタト翁と私の手勢の守りが破られればすぐに探知できるので王都の守りはご安心を。……ティラ率いる隠密部隊は、法国軍が不審な動きを見せぬよう監視を続けろ。エルフ王の死の情報の流布とスレイン法国軍への工作はこちらの指示があるまで待て。」
「「御意にございます!」」
アインズは、怯えながらも一歩を踏み出したエルフの子供の手を、骨の指で優しく引いた。
「さあ、行こう。魔導国には、君たちと同じような肌の色をした……アウラやマーレという、とても優秀な者たちもいる。彼らも君たちの到着を心待ちにしているはずだ」
更に開かれたゲートの向こうには、整然と区画されたエ・ランテルの街並みが見える。
エルフたちが驚愕の声を漏らす中、アインズは満足げに内心で呟いた。
(これで、法国を糾弾する『生きた証言者』の確保は完了。……次は、アルベドの作成した国際法とこの『声明文』をどう使うか。忙しくなりそうだな)
魔導王とエルフの一団がゲートへと消える。
後に残された大森林では、レスタトの放つ「緑静の波動」が、もはや動くことすら叶わない取り残されたスレイン法国軍を冷たく包み込み続けていた。
広場に集まった万の森人たちの前で、アインズは高らかに「エルフ王国と魔導国の相互防衛同盟」の締結を宣言した。
「エルフ王の暴政は終わり、これからは臨時政府がこの国を導く。魔導国は友邦として、この森を侵すいかなる軍勢も許しはせぬ!」
地鳴りのような歓声が上がる。
「今更であるが、エルフ王デケムの遺体を王城の秘密の通路で発見したそうだが、遺体に罪はないだろう?弔う気もないならこちらで処理しておくが問題ないかな?」
「今更我々が目にした所で憎しみが増すだけでございます。デケムの圧政はアインズ様とレスタト様という偉大な指導者が降臨するまでの森の試練だったのでしょう。どうか王族の方々には知らせず処分していただければ。」
バンプーらの承諾と要請を受け、正式にプレイヤーの血族の素体を入手した。
(これで、スレイン法国を『侵略者』として公式に糾弾する外堀は埋まったな。)
デケムという「八欲王の末裔」を排除し、民を救ったことで、魔導国の正当性は揺るぎないものとなったのだ。
エルフを侵略したのも、エルフの子、番外席次にエルフ王を殺させたのも、エルフの民を隷属しているのも人類の守り手を自称するスレイン法国である。
王城前、緑の粒子が舞う境界線に、巨大な[転移(ゲート)]が口を開いていた。
証言者として選ばれた者たち、そしてダークエルフの村からアウラやマーレと同じ種族との交流を夢見て志願した若者たちが、列をなしてそれを見上げる。
その背中を見送ったのは、救われたエルフたちの祈りにも似た視線と、森林の拠点でただ衰弱を待つしかないスレイン法国兵たちの、音なき絶望の沈黙だけであった。
スレイン法国糾弾の最初の手札が無事に手に入った。ナザリック勢にしてみれば児戯に等しい魔法と種族スキルを少々行使しただけで、後はレスタト翁の導きに従っただけである。レスタト翁の手腕は側で説明を受けながら協力していたアインズにとって非常に理解しやすいものだ。ちょっと希望を述べただけのアインズは、ただただ無い舌を巻くのみである。
開示設定:レスタト・Tゲバー・フリーヴン
職業:導師(マギステル/ドクトル)
導師種族スキル
『導き手の誉れ』
指導した者、信仰・畏怖の対象とする者の数とレベルに応じて獲得経験値率・ステータス上昇