オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐) 作:ぽきぷし
めっちゃ誤字ありました。誤字報告ありがとうございます。
第一章:第013話 黄金の悪姫の出立
アインズが早さを求めて真っ先にダークエルフの集落へ転移した頃、旧王国に派遣を命じられた頃、自分の為すべき事を正確に理解していたラナーはナザリックから旧王国への視察の名目の必要人員の要請等の出立の手筈を整えて大墳墓まえの荒野で、時を同じく帝国を通過して竜王国に向かうクライムとセバスチャン達と出立の挨拶を交わしていた。不在の大墳墓の主に代わり、守護者統括アルベド他、今回の遠征に参加しないであろうプレアデスのルプスレギナやペストーニャが出立の物資積み込みに奔走してるデスナイト達に指示を出しながらデスキャバリエの隊列を見送りに集まっている。
「クライム、しばらく会えなくなりますね。セバス様を初め周りの方々が助けてくれますから敵わない相手には無理せずに退く事も大切ですよ?これから時間はたっぷりあるのですから一歩一歩強くなれば良いのです。」
「分かっています。二度とラナー様を悲しませる様な事はいたしません。その為にもセバス様に本格的に師事してラナー様をお守りできる一人前の騎士になって帰ってきますから期待していて下さい。」
既に疲労無効化のアイテムを与えられているクライムは負傷しても死亡しても蘇生してもらえる確約を得ていた。今回魔導王陛下の望みは自分の望みと同じ、何者の悪意にも害される事のない揺るぎない力を身につける事、弱体化したとはいえ人間種のからを破った悪魔クライムには以前の種族では無かった魔法の素養の他に幾つかの利点があるらしい。それに加えて渡されたのは魔導国基準では大した事のない英雄譚にしか登場しないであろう数々の国宝級アイテム。話に聞く好戦的で食人を好む身体能力に優れたビーストマンの敵兵に対しての実戦で安全に強くなれるのであれば、どんな努力や苦痛があろうと才能皆無と言われてきた孤児上がりの自分にとって、ラナーに拾われた事の次に幸運な出来事だ。今回の成長が魔導王の期待する水準に達しなければ次に機会が回ってくるのは何十年後か何百年後か、二度と来ないかもしれない。そうなれば、既に王国では無視されてきた才を見出されて重要な国家戦略にも早くも関わっているらしいラナーがナザリック地下大墳墓の外での活動に自分が同行する機会は巡って来ないかもしれない。
恩人であるラナーに対して報いる為に、ラナーの忠告は心苦しいが無視する気であった。
(ラナー様、申し訳ありません。魔導王陛下の気まぐれにしろ、自分に与えられた機会を決して無駄にはしません。例え何度も討たれ、四肢をビーストマンに食われる事になろうとも最後にはブレイン様やガゼフ様を超える戦士として五体満足で帰って参りますので、今回のご命令には従えません。)
それぞれの想いを胸に、旧リ・エスティーゼ王国領視察団とバハルス帝国及び竜王国外交使節団は重々しいデスキャバリエを駆り魔導国の旗を掲げる死の軍勢として二手に分かれてナザリック地下大墳墓を出発する。
(あの女が洗脳アイテムを使いたがるとは思えないけど、アテが外れたようね。レスタトの目がある以上これ以上の無茶は難しいかもしれない。あとは、アイテム確保後に何とか理由をつけて実行するタイミングを作る位だけど、現実的ではない…か)
交易都市ロ・タリーは、魔導国領から旧王国を通りレエブン侯爵領に向けて北上する際に必ず通過する位置に存在する。比較的善政で民に優しく搾取より物流と産業に力を入れ税収を得る、文化の育成を程よいバランスで成り立たせていた統治者であるロブスト伯爵としては完璧に近い過不足ない貴族であった。レエブン侯のように旧王国の国の行末を案じ手を打つ程の行動力も聡明も権力もないが、代々受け継がれたロ・タリーという物流の要で内陸地であり安全な税収を搾り取ろうと破綻しない豊かな都市の統治者としては旧王国の貴族の中で最も適任であるともいえた為、堅実で誠実で愚かでない王族からも他貴族からも自領民達からも一定の好評価を寄せられていたのは旧王国貴族にしては珍しい事だった。良き為政者であり二人の妻と健在な三人の子供も含めて、先のカッツェ平野での魔導王の大魔法の供物となった次男の死を受け入れるだけの優先順位を弁えた貴族といえた。
ロブスト伯爵自身も派閥を越えたレエブン侯の助言を真に受け止めて自領の保護の為に魔導国への恭順を真っ先に示した時流の読める面もある。先のエ・ランテルを巡る対帝国との戦争でも、伯爵という中位貴族の中で軍を率いていた次男を含めた多くの領兵の被害を出しながらも真っ先に自領の為に国を見限る程度の先見性と貴族の尊厳や父としての怒りよりも優先させるべきものを理解していた。むしろ、レエブン侯と歩調を合わせる必要を感じなければエ・ランテルに近しい地理的な理由から、どこぞの馬鹿貴族が魔導国の馬車を襲撃する珍事件の起きる前に独自に恭順を示していただろう。今後の魔導国の統治上の交通の要衝である事も含めてどの道助かるべくして助かった都市、今や自責の念から僅かな流民を限界まで受け入れているレエブン侯爵領に並ぶ程の豊かな都市の命運を握っている訳だが、ロブスト伯は先代からの教えを守り、国の支配者が代わろうとただただ領民、領土の為に王道の統治を行うのみである。
そんな善良で暗愚とは程遠い伯爵の治る領都に予期せぬ一団が到来する。
「ラナー元王女が率いる魔導国の使節団が外壁に到着しているだと?すぐに領主館にお連れしろ。」
「急な視察か?何事だ…魔導王陛下は我々に何も求めず各領主の施政には不干渉と仰っていたというのに。」
「まさか、まだ王国民の血が足りないと仰せなのでしょうか?」
「いや、かの御仁は我々を殺す事には、それ程関心を抱いておられないはずだ。少なくとも無闇に八つ当たりする程愚かな主人の組織が王国を降したとは思いたくないな。レエブン侯を通してのあの調略、レエブン侯だけが望んでもあそこまで速やかにまとまるまい。魔導国も想定して望んだ形のはず、そして王国の肥沃な国土を得て我々以外の滅ぼした所領は全て魔導国が自由に使える、不眠不休で働けるアンデッドの労働力で望むままの開拓でも実験でも行えるのだからな。」
王都を含む王国の多くの都市を壊滅させた恐怖の象徴の旗を掲げた馬車の来訪に動揺する家令や秘書を前に、揺るがずに来訪者によりもたらされる変化に冷静に対応するよう努める領主。
彼にとってラナー王女は王国においてもっとも聡明で不幸な王族である。王国を富ませ、発展させる様々な素晴らしい政策をランポッサ3世に献策し多くが採用されるも王女の名で公布されるや否や貴族派や八本指などの反対勢力の妨害により結実しない。そればかりか隣国に知られたその政策の模倣により帝国や法国が発展する事も少なくない。貴族派はそれを指して王女と王の失政を責めて権力を増していく。結果重税で苦しむ民が増え治安が悪くなる。民から搾り取った金は貴族と八本指の懐に入り、民の不満は貴族を統べて税の行き着く先のはずである王族に向かう。唯一のランポッサ3世を遥かに凌ぐ慈悲と叡智を兼ね備えた傑物はいずれその美貌のみ評価され、良くて他国の王族か国内の有力貴族の正妻となる未来しかなかった。今思えば、アインズ・ウール・ゴウン魔導王が攻めて来ずとも、王女が治めた歴史の無い王国が復興するにはいっそバハルス帝国が占領してジルクニフの正妻としてラナー王女を迎えて統治させるしか無いと夢想した事がある程、袋小路に立っていたのだ。
レエブン侯に数年以内に侵略されずとも破綻する王国の未来を聞かされるまで気付けなかった自分は所詮一都市の統治者程度の技量しかない。
生存が噂されていたラナー王女が確かに健在で魔導国に仕える事で旧王国民を守っているのかもしれない。かつて目にした聡明で可憐な少女が無事で、また出会えるだけでもここ数年で一番の吉報に思えた。そして再度、家臣達には魔導国への怒りや恐怖を抑えて今後のロ・タリー領の民の為に魔導国に仕える臣下として最善の振る舞いをとるように念をおす。
「ラナー様は質素倹約を尊ぶお方であった。我々の普段口にしている物の中で最上級の物で歓待の準備をするように。」
物流が途絶えて久しいが未だに蓄えはある。ラナー元王女の心を曇らせぬよう良き王国の日々を思い出せる趣向を凝らせぬものか考えを巡らすのだった。