オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐)   作:ぽきぷし

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第一章:第019話 王の凱旋と「息子」への相談

シャルティアと共にナザリックへと帰還したアインズは、転移門(ゲート)を潜り抜け、第十階層にある自身の執務室へと足を踏み入れた。

 

 そこには主の不在を守る守護者総括、アルベドが控えていた。

 山のような書類を前に羽ペンを走らせていた彼女は、レスタト翁(分霊)によってほぼリアルタイムで状況を伝え聞いていたのだろう。アインズの姿を認めるなり、慈愛に満ちた微笑を浮かべて立ち上がった。

 

「おかえりなさいませ、アインズ様。エルフの国における『果実の収穫』、誠に見事な手際でございました」

 

「うむ。シャルティアも期待に応えてくれた。……アルベド、レスタト翁の件だが、予定通り彼をエルフ国新政権の『外部顧問』として送り出す。エルフ側が彼に代表就任を熱望しているという形は、こちらに好都合だ」

 

 アインズは重厚な椅子に深く腰掛け、言葉を続けた。

 

「彼は我が魔導国の相談役という立場を維持したまま、新国家の舵取りを担う。周辺国から見ればエルフ国の救世主に見えるだろうが、実態は我らが放った最強の楔だ。アウラとマーレには引き続き彼をサポートさせ、魔導国の利益につながるよう、エルフ族・ダークエルフ族との関係を強化させるよう手配せよ。」

 

「畏まりました。……あくまでエルフ側の強い要請に応じるという『善意の派遣』を演じつつ、実質的な統治権をレスタト翁を通じて握る……。まさに至高の御計略。彼には引き続き、魔導国の相談役としての最高礼遇を保証いたします」

 

「頼む。それと――一時間後、第二回対スレイン法国(ほうこく)戦略協議を執り行なう。行軍中の守護者たちも、軍の維持をさせたまま各方面一名は転移で招集せよ。……先んじて、パンドラズ・アクターをこの執務室へ呼べ。奴とは先の協議で話せなかったが、事前に詰めておきたいことがある」

 

 アルベドが恭しく一礼して退室すると、アインズは一人、深いため息を漏らした。

 

 机上には、アルベドが作成した「国際条約草案」と「国内法制備に関する提言書」が、(なめ)らかな光沢を放つ最高級の羊皮紙(ヴェラム)の束となって積み上がっている。アインズ――鈴木悟は、その中の一枚を手に取った。

 

「……何この難解な言い回し。現代の法律用語ならいざ知らず、この世界の慣習にナザリック独自の絶対法理を混ぜられると、もはや解読不能な魔導書にしか見えない。……かつての仲間の配下に、法務を専門とする者がいれば良かったんだけど……」

 

 行間を読み解こうとするだけで、精神安定化の光が断続的にアインズを包む。

 文字が脳内を滑り落ちていく感覚に、彼は頭蓋の奥に存在しない頭痛を感じ始めていた。その時――。

 

「お呼びにより! このパンドラズ・アクター、銀星(ぎんせい)の如き瞬きと共に馳せ参じましたぁ!! ヤーヴォール!!」

 

 扉が開くと同時に、ナザリック一の異彩が執務室に炸裂した。

 軍服の裾を大袈裟に翻し、不必要なまでに洗練されたポーズで静止する「息子」。

 

 この時ばかりはアインズは、その珍妙な登場に内心で喝采した。この難解な書類から目を逸らす正当な理由ができたからだ。

 

「……パンドラズ・アクター。楽にせよ。法案の確認は後回しだ。今は、其方と『モモン』の今後について相談したいことがある」

 

「はっ! 我が創造主、アインズ様の御心のままに! それで、本日はどのような極秘任務(ミッション)を!?」

 

 アインズは咳払いを一つ。

 パンドラズ・アクターが「モモン」として外交の表舞台に立つ機会が増えることに伴う、切実な懸念を切り出した。

 

「ナーベラルの件だ。彼女の人間種への剥き出しの嫌悪……。あれは外交上、極めて危険な火種となる。モモンとナーベを同じ使節団に置けば、彼女の失言を『モモン』がフォローせねばならず、動きが制限される。……そこで、其方と彼女を別方面の使節団に配し、個別に運用できるか相談したい」

 

「フムムムム……。ナーベラル嬢の『虫ケラを見るような瞳』! あれはあれで至高の芸術ですが、確かに外交の舞台では台本(プロット)を壊しかねませんな……。しかしアインズ様! 彼女の世間での名声を活用せずにモモンのオマケとするのは勿体無いかと」

 

「……。では、両者をどのルートに配置するのが最適だと考える。其方の意見を聞こう」

 

 パンドラズ・アクターは帽子を深く被り直し、三つの孔しかない顔でアインズを真っ向から見据えた。

 

「提案しましょう! 私(モモン)は何処へなりとも! ナーベラル嬢はその圧倒的火力と冷徹さを活かし、竜王国への援軍、あるいは聖王国のネイア・バラハと連携する『軍事支援ルート』へ! 戦場であれば、彼女の不遜な態度は『強者の矜持』として好意的に解釈される確率が跳ね上がります!!」

 

 アインズは腕を組み、パンドラズ・アクターの分析を吟味した。

 確かに、交渉が必要な場にナーベラルを置くのは危うい。だが、戦力が求められる場所であれば、彼女の性格も「英雄の従者らしい厳格さ」として通るかもしれない。

 

(しかし……ナザリック勢から見て最上位の実力帯でない上に、正式な臣下でない彼女を戦場に投入するのは魔導国の名声や示威行為に直結するのだろうか?)

 

 

 パンドラズ・アクターが一人芝居の様な身振り手振りの演説の様な舞の様なパフォーマンスを聞き流しながら、手元のコンソールでレスタト翁の顕現可能な英霊のSS(ショートストーリー)を流し読みしていく。直接戦闘に不向きなだけであらゆる種族のあらゆるの専門職(スペシャリスト)が網羅されている上にそれぞれのバックボーンの物語が丁寧に有象武将さんによって紡がれている。どうしても各英霊の運用方法に思考がむかうが、平時にじっくりと有象武将さんの作品も楽しみたいものだ。

 やがて一抹の不安はあったが、アインズは決断を下す。

 

「……いいだろう。ナーベラルには戦闘能力を活かす道を考える。其方はモモンとして政治の泥沼を泳げ。パンドラズ・アクター、期待しているぞ。……それと、一時間後の協議では法国への『落とし所』について、守護者たちの前で私の意を汲んだ発言をせよ」

 

「御心のままに! アインズ・ウール・ゴウンの御名に、最高の喝采を捧げてみせましょう!!」

 

 再び始まった「敬礼の舞」を視界から外しながら、アインズは机上の羊皮紙を隅へ押しやった。パンドラズ・アクターという理解者(?)を得たことで、少しだけ心の平穏を取り戻したアインズは、次なる対法国戦略協議に向けて思考を切り替えた。

 

 執務室の空気は、アインズとパンドラズ・アクターという二人の「演者」によって、より実践的な軍議の様相を呈していく。アインズは机上の地図を指で叩き、新たな布石を口にした。

 

「パンドラズ・アクター、ナーベラルの件だが方針が決まった。彼女には『冒険者』の立場で帝国の外交使節に護衛として随行させる。ジルクニフに対し、アインズ・ウール・ゴウンの威光だけでなく、人類最強クラスの冒険者すら魔導国と蜜月にあることを誇示させるのだ」

 

「なるほど! 鮮やかなるかな! 帝国という土壌に、魔導国の芳醇な香りを纏った美しき毒花(ナーベラル)を植えるわけですな!」

 

「毒花というな。……彼女には帝国に長居してもらう。闘議場で現・武王との親善試合(エキシビションマッチ)を執り行なわせるのだ。もちろん、実力差がありすぎては興が削がれる。使用魔法の階位を制限した上で勝利し、観衆の目を釘付けにせよ。これは帝国の在野の強者(イレギュラー)を炙り出し、同時に我が国が推進する『冒険者ギルド』への誘致を加速させるためのプロモーションだ」

 

 アインズの言葉に、パンドラズ・アクターは感動に震えるような仕草を見せた。

 

「素晴らしい! 剣と魔法の殿堂で最強を示し、民衆の憧憬を魔導国へと向ける! ナーベラル嬢のあの凛とした不遜さは、帝国貴族どもの鼻柱を折るには最適の武器でしょう!」

 

「うむ。……問題は其方だ、パンドラズ・アクター。数週間後のスレイン法国遠征には『漆黒の英雄モモン』として随行してもらうが、それまでの空白期間……其方をどう動かすべきか」

 

 アインズは背もたれに体を預け、二つの選択肢を提示した。

 

「一つは、旧王国領でドッペルゲンガーとしての能力を活かし、ラナーの工作に協力し旧王国の国民の感情が対スレイン法国に向くよう暗躍すること。……そしてもう一つは、聖王国のアベリオン丘陵の先に棲まう亜人種どもの統括だ。彼らを真に魔導国の盾として、あるいは労働力として纏め上げる必要がある」

 

 パンドラズ・アクターは三つの孔を細めるような仕草で、しばし沈黙した。

 

「……アインズ様。旧王国領の腐敗した貴族の定型業務(ルーチン)は、もはや作業に過ぎません。しかし、聖王国の背後に広がる未開の地、アベリオン丘陵の種族を『モモン』、あるいは『未知の強者』として教化し、魔導国の版図へ組み込む土台を作る……。これは将来の対法国包囲網を形成する上で、極めて重要な意味を持つのではないでしょうか?」

 

「……。ふむ、聖王国側か。ネイア・バラハの活動も順調だと報告を受けている。其方が裏から亜人種をまとめ、表からネイアが魔導王の慈悲を説く……。挟み撃ちだな」

 

「まさに! 私はスレイン法国への出発まで、聖王国の影として動きましょう。そして時が来れば、漆黒の英雄として法国の喉元に刃を突きつける……。完璧な脚本(スクリプト)です!」

 

 アインズは満足げに頷いた。

 自分の「息子」が、単なる変質者ではなく、レスタト翁主導の戦略を理解し、ナザリックの利益を冷徹に計算できる知略を持っていることを再確認できたからだ。

 

「よし、許可する。アルベドには私から伝えておこう。……パンドラズ・アクター、其方の変幻自在な演じ分けこそが、このチェスボードの勝敗を決める。期待しているぞ」

 

「ヤーヴォール!! 我が父、アインズ様! このパンドラズ・アクター、期待以上の大立ち回りを演じてご覧に入れます!!」

 

 執務室に響き渡る高笑いを聞きながら、アインズは次なる舞台――第二回対スレイン法国戦略協議へと意識を向けた。

 

 外では、エルフ国の訪問者たちを招いて、魔導国のレスタト翁、アウラとマーレによる観光ツアーが、和やかに、しかし着実にその目的を果たしつつ開催されていた。

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