オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐)   作:ぽきぷし

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第一章 フェーズ1-2(対スレイン法国戦略開始 2日目以降)
第一章:第021話 深淵の精査


 ナザリック地下大墳墓、第九階層のアインズの私室。

エルフ国からの帰還を果たしたアインズ・ウール・ゴウンは、一時間後に迫った「第二回対スレイン法国戦略協議」を前に、思考の整理を急いでいた。パンドラズ・アクターとのナーベラル派遣に関する相談を終えた彼は、今、別の「懸念事項」を確認するために、一人のメイドと一人の老翁を呼び寄せていた。

 

「――ユリ・アルファ。そしてレスタト翁。急な呼び出しに応じたこと、感謝する」

アインズの前に跪くのは、プレアデスが長女、ユリ・アルファ。

 

そして、その隣で静かに、しかし圧倒的な質量を感じさせる影を纏って立つのは、有象武将の創造せし最高傑作の一角であり、Tゲバーを束ねる老翁――レスタトであった。

 

「……ユリよ。旧王国にてラナー王女、そして我が外交官バランスと共に行動したお前の、率直な所感を聞きたい。特に、あの二人の『人間性』……いや、その本質についての評価をな」

アインズの問いに、ユリの端正な顔が微かに曇った。

彼女は「善」の属性を一定数持つNPCである。秩序を重んじる彼女にとって、旧王国での任務は精神的に小さからぬ負荷を与えていた。

 

「……申し上げます。アインズ様。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。あの女は、人間の皮を被った『何か』です。その知性はデミウルゴス様やアルベド様に比肩しうるものですが、その根底にあるのは底なしの虚無と、愛執という名の狂気。……正直に申し上げれば、生理的な嫌悪を禁じ得ませんでした」

アインズは頷いた。ラナーの異常性は既に周知のことだ。だが、問題はその次である。

 

「では……バランスについてはどうだ?」

ユリは一瞬、言葉を詰まらせた。バランスは、隣に立つレスタトから派生した霊魂群体『ゲバー』の一員。霊的な繋がりを持つ創造主の前で、否定的な評価を口にすることへの躊躇いがあった。

「案ずるな、ユリ・アルファ殿。」

レスタトが、掠れた、しかし深く響く声で助け舟を出した。

「バランスは私の一部でありながら、私とは異なる霊魂の色彩を持つ。お前が抱いた違和感は、そのまま私への報告となる。隠す必要はない」

 

アインズもまた、赤い燐光を優しく揺らして促した。

「正直に話せ。これは、今後の戦略を過たないための精査だ」

「……はっ。失礼を承知で申し上げます」

ユリは居住まいを正し、絞り出すように語り始めた。

「バランス様は、ラナー王女以上に……『危うい』御方でした。デミウルゴス様のような冷徹な機構ではなく、彼はあまりにも『信心深く、熱狂的』なのです」

「熱狂的、だと?」

意外な言葉に、アインズが問い返す。

 

「はい。彼は今、アインズ様が掲げられた『異種族共存』という魔導国の国是を、何よりも清く、正しい救いであると盲信しておられます。その信仰心は、我らNPCの忠誠とはまた別の、渇望に近いものです。……しかし、その熱量はあまりにも極端です。彼は自らが信じる理想の盤面を作り上げるためなら、既存の秩序を壊すことに躊躇いがありません。過去、彼が所属したコミュニティを自ら崩壊させてきたという経緯も、その『壊れた性質』ゆえではないかと推測いたします」

ユリは自らの手を見つめ、震える声で続けた。

 

「バランス様は、世界をアインズ様の盤面として処理しているのではなく、あくまで『自らの望む盤面』に塗り替えようとしておいでです。現在は幸いにも、魔導国の進む道と彼の信仰が一致しております。ですが、もし何かの拍子に、魔導国が彼の抱く理想と異なると感じた瞬間……彼は、最も愛し信じたものを自ら破壊する、凄惨な反乱分子へと反転する危険性を秘めています」

 

 沈黙が部屋を支配した。

 

 秩序の守護者であるユリが感じたのは、バランスの「壊れた整合性」への恐怖であった。彼は愉快犯的にすら見える軽やかさで、自らの理想のために世界を解体しようとしているのだ。

「……苦労をかけたな、ユリ。下がって良い。休息を命ずる」

「勿体なきお言葉。……失礼いたします」

ユリが退室した後、アインズはレスタトに向き直った。

「レスタト翁。お前の派生した霊魂の評価、どう見る。ユリの懸念は的中しているか?」

レスタトは静かに首を振った後、薄く笑った。

 

「……流石はプレアデスの長女、本質を突いておりますな。バランスは『信仰』によってのみ生を繋ぎ止められる霊魂。彼は現在、アインズ様という太陽を信仰の対象に据えているに過ぎません。その光が翳れば、あるいは彼が期待した色と異なれば、彼は太陽そのものを引きずり下ろそうとするでしょう」

「……随分な劇薬だな。有象武将も、業の深いもの(設定)を遺したものだ」

アインズは、骨の指で顎を擦った。

 

「しかし、アインズ様。その『独善的な信仰』こそが、スレイン法国という偽りの神を崇める連中を解体する最大の武器となります。奴らは自分たちが正しいと信じている。ならば、より強固な、狂気じみた『正しさ』をぶつけるのが最も効率的です。バランスならば、法国の教義を根底から否定し、奴らの世界そのものを愉快そうに壊してみせるでしょう」

 

「情がないからではなく、自分の正義にのめり込んでいるからこそ、無慈悲になれる……か」

 

「左様でございます。……アインズ様、スレイン法国との外国において、バランスには『ヤルバタオト騒動の転嫁』という最大級の泥を投げさせます。彼ならば、自らの信仰を汚す不浄な存在として、法国を心底楽しみながら断罪するでしょう」

アインズは立ち上がった。

 

ナザリックのNPCたちが抱く「忠誠」とは一線を画す、バランスの「信仰」という名の時限爆弾。それを制御しつつ、最も効果的な戦場へ解き放つ。

 

「……ふむ。レスタト翁、今後の活動には不可知化した分霊として同席して監視を頼む。バランスという刃を研ぐのはお前の役目だ。それとTゲバーの他の霊体も積極的に運用していきたいから説明を頼む。」

 

「御意に。皆、外で活動したがってますので喜ぶでしょうな。」

 

 

 丸一日かけて築いたエルフ国との繋がり、ユリから聞いた危うい人物評価、Tゲバーに属する霊魂の人格の説明。それらすべてを自らの中に飲み込み、レスタトと今後の詳細な計画を打ち合わせを済ませると、魔導王としての仮面を深く被り直す。

 

「さて、第二回対スレイン法国戦略協議。……この大陸から、独善の牙を抜く時だ。」

背後に従うレスタトの影が、一層濃く、そして深く揺れた。

 

 それはこれから始まる、一国を信仰の重圧で窒息させるための、静かなる行進の始まりであった。

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