オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐)   作:ぽきぷし

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第一章:022話 第二回対スレイン法国戦略協議 時々、悟流国家論

side:ローブル聖王国 北部

 

 デミウルゴスは、執務机へ向かう“カスポンド”を演じる者へ視線を向けた。

 

「近く、魔導国より正式な外交特使が来訪します」

 

 穏やかな声音。

 だが、その一言だけで室内の空気が緊張する。

 

「内容は、対スレイン法国に関する外交声明への賛同要請です。もっとも、現段階では“準備”のみ整えていただければよろしい」

 

 カスポンドは静かに頷いた。

 

「……ネイア・バラハ殿との面会を整えれば?」

 

「ええ。それで十分です」

 

 デミウルゴスは窓の外へ視線を向ける。

 

 復興が進む聖王国。

 だが、その民衆心理は未だ不安定であり、だからこそ“魔導王への信仰”が急速に浸透している。

 

 今後必要なのは、その熱を“国家意思”へ転換する工程だ。

 

「聖王国に過度な負担を求めるつもりはありません。ですが――いずれ世界は立場を明確にせねばならなくなるでしょう」

 

「……スレイン法国か、魔導国か」

 

「左様」

 

 デミウルゴスは微笑した。

 

「貴国は賢明です。故に、正しい流れへ乗ることでしょう」

 

 それだけを告げる。

 

 全容を語る必要はない。

 盤上の駒には、必要な情報だけ与えれば良い。

 

「では、後日正式使節が来訪します。それまでに空気を整えておいてください。間違っても異種族排斥すべしといった古い教えに戻らぬようにね。」

 

「御意に」

 

 転移の光が室内を満たす。

 

 そしてデミウルゴスの姿は、静かに掻き消えた。

 

   

 

 

 

 

side:ナザリック地下大墳墓 第九階層 玉座の間

 

 黄金の玉座へ腰掛ける絶対支配者。

 

 アインズ・ウール・ゴウン。

 

 その左右へ守護者統括アルベド、階層守護者たち、各方面指揮官が整列していた。

 

 第二回対スレイン法国戦略協議。

 

 第一フェーズ初日を終えた今、各戦線の整理と第二日目への移行が行われようとしていた。

 

(……よし。落ち着け俺。今回はレスタト翁とかなり事前確認した。流れは整理済みだ。エルフの国でも宣言通りの成果は出したし!)

 

 内心では必死に段取りを反芻する。

 

 だが外見上、玉座の魔導王は静謐そのものだった。

 

「では、協議を開始する」

 

 低く響く声に、守護者たちが一斉に頭を垂れた。

 

「まずエルフ国方面だ。身分を隠して遊興していた際に親睦を深めた闇森人に請われて王都に向かいスレイン法国との戦争に巻き込まれた他国の王がスレイン法国の被害国同士として助力を申し出た訳だが、実質は、崇拝対象である始祖森人のレスタト翁の存在を知った森人達が魔導国に援助と保護を乞うのと変わらない。これまでエルフの王という強者の独裁国家だった為権力の空白が生まれた所にレスタト翁を外部顧問として配置し、アウラとマーレを通じて魔道国も支援を継続する。森人側からの要請という形を維持しつつ、実質的影響力を確保せよ。」

 

「はーい!」

 

「了解です……」

 

 双子が恭しく礼をする。

 

 するとアウラが小さく首を傾げた。

 

「でもさー、アインズ様。エルフ国って今かなり混乱してるじゃん? 急ぎで軍とか整えなくていいの?」

 

「必要最低限で良い」

 

 アインズは即答した。

 

「重要なのは“自主再建しているように見せる”ことだ。こちらが露骨に支配すれば周辺国へ警戒を与える。レスタト翁を介し、あくまで彼ら自身の国家再建という形を取らせる。現状、私とレスタト翁のかけた魔法でエルフの森は現状の敵戦力では侵攻が極めて困難な状態にある。森人側に軍事力を持たせて逆侵攻などさせてはエルフの国の『被害者として魔導国を通じてスレイン法国を糾弾する』という立場がブレる。それぞれにレスタト翁という精神的な支えであり守護者の下で復興するか魔導国に転居して国民となるかの二つの選択肢のどちらかを選ばせる事で魔導国の国際社会での立場を向上させる。」

 

「なるほど……!」

 

 マーレが感嘆する。

 

(よし、言えた……!)

 

 内心でガッツポーズするアインズ。

 

 実際には、昨夜レスタト翁から「占領地統治では現地自治の外見が重要」と滅茶苦茶丁寧に教わった受け売りだった。

 

「次だ。セバス」

 

「はっ」

 

 竜人執事が前へ進み出る。

 

「其方は引き続き陸路で竜王国へ向かえ。現地では対スレイン法国外交声明への賛同を打診すると共に、竜王との面会を求める」

 

「御意にございます」

 

 ここでコキュートスが口を開いた。

 

「アインズ様。竜王国ハ……現在、獣人国トノ戦時下。外交余裕ガ、存在スルノデショウカ」

 

「だからこそだ」

 

 アインズは地図へ指を置く。

 

「追い詰められた国家ほど、外部支援へ縋る。魔導国は“救援者”として介入し、恩義と依存を形成する。これまでもスレイン法国と魔導国の援助で何とか維持してきた戦線だ、昨日から魔導国がスレイン法国と敵対しスレイン法国の援助が不可能となった以上魔導国の軍事援助は最高値で売れる。」

 

「ナルホド……!」

 

 氷河の武人が深く頷いた。

 

(うん、これもレスタト翁メモ通り)

 

 玉座下ではアルベドが恍惚の表情を浮かべている。

 

 “先を読み切る絶対支配者”。

 

 彼女にはそう見えていた。

 

「続いて帝国方面」

 

 アインズが視線を動かす。

 

「ナーベラル・ガンマ」

 

「はっ」

 

 冷徹な美女が跪く。

 

「其方は今後、冒険者として帝国へ随行する。表向きは私とレスタト翁の護衛の一員だ。」

 

「御意」

 

「その後は帝都へ留まり、闘技場で活動せよ。現武王との試合も含めエキビジョンマッチを定期的に組んでもらえ。同行する冒険者には出来るだけ愛想良くな。」

 

「善処いたします。」

 

 

 一瞬、守護者たちの空気が動いた。

 

 シャルティアが妖艶に笑う。

 

「ほぅ? ナーベを“見世物”に?」

 

「単なる見世物ではない」

 

 アインズは静かに答える。

 

「帝国民へ、“魔導国にはこれほどの冒険者が存在する”と示すためだ。加えて、魔導国の支援を受けた冒険者ギルドへの憧憬を誘導する」

 

「なるほどありんす……。武威だけでなく、民衆心理への浸透でありんすか」

 

「うむ」

 

(危なっ。ちょっとドヤ顔しそうになった)

 

 先だって自身で立ち上げた企画が支持された事に対して内心ガッツポーズしていた所で精神安定化の緑光が微かに漏れる。

 

 だが守護者たちは、その不自然な間すら“深慮による思考”だと誤解していた。

 

「そして――パンドラズ・アクター」

 

「ヤーヴォール!!」

 

 軍服姿の異形が大仰に飛び出す。

 

「其方には、“モモン”として冒険者ギルド経由の依頼を受けてもらう」

 

 玉座の間へ僅かな緊張が走った。

 

「目的地はアベリオン丘陵」

 

「……ホォ?」

 

「ヤルバタオト討伐後の亜人種勢力の動向調査、並びに危険種族の統制。表向きはそれだけだ」

 

 アインズはそこで言葉を区切る。

 

「だが最終目的は、将来的に彼らを“魔導国秩序”へ組み込む下地形成にある」

 

 パンドラズ・アクターの三穴の顔が歓喜に震えた。

 

「素晴らしき配役!! 未知なる亜人共を漆黒の英雄が統べるのですな!」

 

「必要ならば、現地で“力による調停”も許可する」

 

「御心のままにッ!!」

 

 ここでマーレがおずおずと手を挙げた。

 

「あ、あの……でも亜人種って、人間を食べる種族とかもいるよね……?」

 

「だからこそ統制する価値がある」

 

 アインズは低く告げる。

 

「無秩序な脅威を排除するだけでは、いずれ別の脅威が生まれる。支配構造へ組み込み、“利用可能な秩序”へ変換する方が長期的利益は大きい。」

 

「⸻知性ある者ならば、法と秩序へ組み込める」

 

アインズは静かに告げる。

 

「魔導国は、その可能性を捨てん。その範囲を拡大する事で争いの種族間の争いの少ない平和で住みやすい国を目指す。肉食の種族であっても必ずしも知的生物を食せねば生きられないという事はないはずだからな。シャルティアの吸血行為も魔導国内では違法だな。」

 

 

「なっ!? アインズ様の御許可無く吸う事などありんせん!」

 

 

「……!」

 

 聖王国で牧場運営していた、デミウルゴスの瞳が歓喜に揺れた。

 

「流石はアインズ様……! 種族間闘争そのものを“国家法”で上書きなさるとは……!」

 

(いや、そこまで考えてないよ!?)

 

 だが今さら否定できない。

 

 そしてアインズは、最後の人物へ視線を向けた。

 

「ラナー」

 

「はい、アインズ様」

 

 妖しく微笑む黄金の姫。

 

「旧王国への芸術復興布告の進捗はどうなっている」

 

 守護者たちの前で問われ、ラナーは優雅に礼を取った。

 

「全ての領地を周り終え各領地への工作は既に完了しております。芸術家、職人、吟遊詩人らへの支援制度も整備を開始しました。今後は“魔導国によって文化が守られた”という認識が、旧王国民へ浸透していくでしょう」

 

「よろしい」

 

 アインズは満足げに頷いた。

 

(うん、これも大事らしい。“文化保護してる支配国家”ってイメージ作り)

 

 

そこまでは、表向きの報告だった。

 

 そして次の瞬間、黄金の姫の笑みが僅かに深まる。

 

「加えて――ガゼフ・ストロノーフ戦士長の英雄譚を各地へ流布する下地も整いました」

 

 玉座の間の空気が僅かに動く。

 

「ほぅ?」

 

 アインズが促すと、ラナーは恭しく続けた。

 

「“最後まで民を守ろうとした忠臣”、“腐敗貴族に苦しめられた王国”、“友との約束を守った魔導王”“友の愛した国を国と国の約定に背いた愚かな貴族のせいで泣く泣く誅さなければならなかった悲劇”――その構図で物語化を進めております」

 

 シャルティアが愉悦混じりに口元を歪めた。

 

「つまり、人間共の感情を物語で誘導するのでありんすね?」

 

「はい」

 

 ラナーは頷く。

 

「民衆は複雑な政治や国際情勢よりも、“誰が悪で、誰が救ったか”という単純な構図を好みます。ゆえに、旧王国崩壊の原因を腐敗貴族と、裏で暗躍していたスレイン法国へ自然と結び付ける流れを作っております」

 

 デミウルゴスが満足げに目を細めた。

 

「なるほど。憎悪の方向を整理することで、魔導国支配への抵抗感を薄めるのですか」

 

「左様です」

 

 ラナーは微笑む。

 

「ガゼフ殿を悼む感情。王国への郷愁。腐敗貴族への失望。そして法国への敵意。それらを一つへ束ね、“強大な魔導国の庇護下こそが平穏”という結論へ誘導します」

 

 アウラが感心したように声を漏らした。

 

「へぇー。人間ってめんどくさいねぇ」

 

「ふふふ。その“面倒さ”こそ統治には重要なのです、アウラ様」

 

 ラナーは柔らかく答える。

 

「力のみでは、人は長く従いません。自ら“納得した”と思い込ませる必要がございます」

 

 アインズは静かに頷いた。

 

「加えて、“戦士長ガゼフ殿と魔導王陛下の友情”や“虚実織り交ぜたスレイン法国の王国内で行った様々な非道な工作とそれを暴いた魔道国”を題材にした吟遊詩などもバランス様が擬態して各地で状況に応じて流布して参ります。民衆感情を統合する象徴として、スレイン法国とガゼフ戦士長は有効に機能するかと。」

 

(……すご。ラナー怖。いやでも確かに、ガゼフさんの話なら旧王国民も感情移入しやすいのか……。ユリが手腕を警戒するのも無理ないよな。)

 

 そして納得と同時に、僅かな痛みも覚えていた。

 

 ガゼフ・ストロノーフ。

 あの武人への敬意だけは、アインズにとって偽りではない。

 

 だからこそ、その名が“統治の道具”として利用されることへ、ほんの少しだけ複雑な感情が生まれる。

 

 だが魔導王として、その感情を表へ出すことはない。

(ガゼフ・ストローフも自分の勇名が旧王国民の平穏な暮らしに繋がるなら喜んで使ってくれと考えるだろうからな。)

 

 

「よろしい」

 

 玉座の王は重々しく告げた。

 

「旧王国民には、“魔導国に征服された”のではなく、“魔導国によって秩序を取り戻した”と認識させよ。実際に残した領地は魔道国の介入を機に嫌でも豊かになり幸福度が向上するのだがな。」

 

「御意に」

 

 ラナーは深々と頭を垂れた。

 

 その唇には、誰にも見えぬ愉悦の微笑が浮かんでいた。 

 

 

 

 

 

武力だけでは長期統治できない。

それもまた、レスタト翁が事前に整理していた内容だった。

だが、その知識を咀嚼し、自分の言葉として発することで、アインズは少しずつ“王らしく”なっている実感を覚えていた。

 

 虚勢だけではない。

 

 積み重ねた経験が、確かに彼を変え始めている。

 

 玉座の間を見渡し、アインズは静かに宣言した。

 

「各方面作戦は概ね予定通り進行中だ」

 

 守護者たちの視線が集中する。

 

「これより、対スレイン法国包囲戦略――フェーズ1、二日目へ移行する」

 

 空気が震えた。

 

 誰もが理解している。

 

 これは単なる戦争ではない。

 

 国家。

 文化。

 宗教。

 外交。

 種族。

 

 世界そのものを盤面として組み替える、大戦略なのだと。

 

「各員、引き続き任務を遂行せよ」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは玉座へ深く腰掛ける。

 

「スレイン法国には、“世界が既に変わった”ことを理解してもらう」

 

「「「ははっ!!」」」

 

 絶対服従の声が響き渡る。

 

 その中心で。

 

 鈴木悟は誰にも気付かれぬよう、心の中だけで安堵の息を吐いていた。

 

(……今回、かなり“それっぽく”できたんじゃないか?)

 

 

 

「ああ、それとアルベドの作成してくれた国際法案と、その他諸々。小難しく作りすぎだな。バランスと共に作り直すように。普通の国民、識字可能な商人が読んで理解できる程度の分かりやすい文章にせよ。利用する国民が理解できなくては意味がない。法とは法律家や支配者だけの物ではない。法に造詣が深いバランスと共に国民の多くが理解できる法案作りを心掛けるように。」

 

 

「っ!失礼しました。直ちに取り掛かります。」

 

 

「国民ガ理解出来ヌ法デハ、真ノ意味デ秩序ハ齎サレヌ……」

コキュートスは感服したように呟く。

 

「流石デス、アインズ様」

 

「……法を支配者の道具ではなく、“民へ浸透させる秩序”として設計なさるとは。流石はアインズ様……。国家運営を既に次段階でご覧になっておられるのですね。」

 

デミウルゴスの瞳が細められ喜悦の表情を作る。

 

(うん。単に長ったらしい、利用規約やマニュアルを誰も読みたくないよねって話なんだけどね。)

 

 

 

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