オーバーロード17 支配の共鳴[上]異種族の恒久的平和の為の世界平定と忘れ去られた38人目の忘れ形見(最新16巻直後からルート分岐)   作:ぽきぷし

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第一章:023話 帝都の夜、異種の王達の酒宴

side:魔導国 地下大墳墓ナザリック 第九階層

 

「――では私はこれよりナーベを護衛として雇う手続きが済み次第、レスタト翁と共に帝国に赴く」

 

 玉座の間に、アインズ・ウール・ゴウンの低い声が響いた。

 

 階下には守護者統括アルベドを始めとしたナザリックの守護者達が控えている。

 

「今回は外交が主目的だ。大規模戦闘は想定しておらぬ」

 

「畏まりました、アインズ様」

 

 至高の御身を案じる発言を先んじて制されたアルベドが、優雅に頭を垂れる。

 

 

 

 だが、そこでデミウルゴスが静かに問いを挟んだ。

 

「竜王国への支援計画については、如何なさいますか?」

 

 その言葉に、玉座の間の空気が僅かに引き締まる。

 

 現在、竜王国は獣人国との戦争によって国力を著しく消耗していた。

 

 王都陥落こそ免れているものの、既に地方都市の幾つかは壊滅状態。

 

 人類国家として見れば、滅亡寸前と言って差し支えない。

 

 だがアインズは静かに顎骨へ指を当てた。

 

「……放置した場合、周辺情勢への影響が大きい」

 

「加えて」

 

 深緑の法衣を纏うレスタト翁が続ける。

 

「この世界における“竜王”という存在は、余りにも不明瞭ですからな」

 

 老エルフは静かに目を細めた。

 

「リクを名乗るバトルスーツの操縦者が竜王の場合、六大神や八欲王の伝承とも深く関わっておる可能性が高い」

 

「うむ」

 

 アインズが頷く。

 

「故に、竜王国で得られる情報は今後の戦略上極めて重要だ」

 

 守護者達は黙って聞いている。

 

「特に“竜王”そのものについては、可能な限り情報収集を進めたい」

 

 アインズの脳裏には、転移後度々登場する長命で最強格の代名詞として君臨する数体の竜王という種族が浮かぶ。

 

 別の竜王に使われる予定だったという、アイテムによるシャルティア洗脳事件。

 

 そしてレスタトも触れた、過去の転移プレイヤー六大神と八欲王の痕跡。

 

 それらが一本の線として繋がり始めていた。

 

「セバス」

 

「はっ」

 

 一歩前へ進み出る執事へ、アインズは視線を向ける。

 

「竜王国との交渉窓口については、必ず竜王との面談まで漕ぎ着けよ」

 

「獣人との戦線調整、人道支援、物資供与――手段は問わぬ」

 

「相手側へ恩を売りつつ、警戒されぬ形で接触を進めたい」

 

「御意」

 

 セバスは深く一礼した。

 

 アインズは続ける。

 

「目的は幾つかあるが、最優先は竜王国関連だ」

 

 アインズは玉座の肘掛けを軽く叩く。

 

「ここ10年以上、竜王国は獣人国の侵攻により継続的被害を受けている」

 

「はい」

 

 答えたのはセバスだった。

 

「既に現地支援部隊からも、国境地帯の複数集落にて人的被害の報告が上がっております」

 

「うむ」

 

 アインズは頷く。

 

 獣人国。人間種を食糧として扱う国家。

 

 単なる侵略ではなく、“捕食”を伴う戦争。

 

 故に竜王国側の恐怖と疲弊は深い。

 

「だが、だ」

 

 アインズは続けた。

 

「助けるにしても加減は必要だ」

 

 守護者達が静かに耳を傾ける。

 

「特に獣人側の動向には注意しろ。追い詰め過ぎれば、飢えた連中は統制を失う」

 

「統制を失えば、各地へ分散し無秩序な捕食へ移行する可能性もある。そうなれば被害範囲の予測が難しくなるからな」

 

 デミウルゴスが薄く笑みを浮かべた。

 

「つまり、“敵軍として管理可能な状態”を維持する必要がある、と」

 

「……まあ、そういう事だ」

 

 実際には、そこまで綺麗に整理できている訳ではない。

 

 だが少なくとも、完全崩壊した集団より統制された敵軍の方が扱いやすい。

 

 その程度の感覚は鈴木悟にも理解できた。

 

「加えて、竜王国には今後も魔導国を必要としてもらわねば困る」

 

 アインズは静かに言う。

 

「無論、民が食われ続ける状況を放置するつもりはない。だが一方的に全てを解決すれば、“助けられる側”は危機感を失う」

 

「脅威が残るからこそ、“誰が救ったか”もまた忘れぬものだ」

 

 守護者達が深く頷く。

 

 アルベドなどは、既に何段階も先の政治構想へ思考を巡らせているようですらあった。

 

「それに、獣人種を完全に滅ぼす必要もあるまい」

 

 アインズは続ける。

 

「魔導国の国是は異種族共存だ。敵対種族であろうと、降伏と融和の余地は残すべきだろう。従属するなら利用価値も生まれる」

 

「流石にございます」

 

 デミウルゴスが恭しく頭を垂れる。

 

 

「ですが陛下。獣人軍を一息に壊滅させた方が、竜王国の民も安心するのでは?」

 

 セバスが静かに問いかける。

 

 するとアインズは玉座へ軽く身を預けた。

 

「安心し切った国家は、恩を忘れるものだ」

 

 守護者達が沈黙する。

 

「脅威が残るからこそ、“誰が救ったか”を忘れぬ。竜王国には今後も、継続して魔導国を必要としてもらわねばならん」

 

 アインズは続けた。

 

「それに、獣人種を完全に滅ぼす必要はあるまい」

 

「……と、仰いますと?」

 

 アルベドが恭しく問い返す。

 

「魔導国の国是は異種族共存だ。敵対種族であろうと、降伏と融和の余地は残すべきだろう。従属するなら利用価値も生まれる」

 

 デミウルゴスが静かに笑みを深めた。

 

「流石にございます」

 

「加えて、だ」

 

 アインズは指先で肘掛けを軽く叩く。

 

「獣人側にも交渉可能な勢力が生まれれば、今後の外交材料にもなる。敵対しか道がない状況は、管理が面倒だからな」

 

 守護者達が深く頷く。

 

 するとそこで、レスタト翁が穏やかに目を細めた。

 

「主上は存外、争いの“終わらせ方”まで見据えておられる」

 

「いやはや。小生など、つい『いっそ全て蹂躙した方が早いのでは』と思ってしまいます故」

 

 一瞬。

 

 守護者達の一部が僅かに反応した。

 

 特にコキュートスなどは、

 

“それも合理的”

 

と言いたげですらある。

 

(……多分、守護者達の考えを代弁してるんだろうな)

 

 アインズは内心でそう察した。

 

 実際、ナザリックの面々は基本的に過剰戦力での制圧を好む。

 

 レスタト翁は、その空気を理解した上で敢えて口にしているのだろう。

 

 だからこそアインズも、わざと肩を竦めてみせた。

 

「簡単に滅ぼせるからといって、毎回そうしていては統治対象が減る一方だぞ?」

 

「ほほう」

 

「恐怖だけでは長続きせん。従わせるなら、“魔導国側についた方が得だ”と思わせた方が楽だ」

 

 するとレスタト翁は感心したように頷いた。

 

「流石は主上。小生など、まだまだ短慮にございますな」

 

(いや絶対わざと言ってるだろこの人……)

 

 だが守護者達の前でそれを口には出さず、アインズは重々しく咳払いだけしてみせた。

 

「では、次回の戦略協議は、竜王との交渉の窓口が開かれた後、あるいはフェーズ2に移行する際に開催とする。解散」

 

 

 

 

 

 

side:バハルス帝国 帝都アーウィンタール 皇城

 

「――陛下。魔導国外交使節団、帝都へ到着しました」

 

 報告を受けた瞬間。

 

 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、静かに目を細めた。

 

「……来たか」

 

 外交官だったデミウルゴスが告げた翌日から、丸2日間ほぼ休みなく帝国を駆けて帝都に向かって来ていた魔導国の一団が遂に到着してしまった。玉座の間へ重苦しい沈黙が落ちる。

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 

 既に近隣最強国家となりつつある絶対支配者の治める新興国。

 

「護衛にはアダマンタイト級冒険者ナーベ殿、並びに複数の魔導国所属冒険者を確認。そして……」

 

 報告役が一瞬言葉を詰まらせた。

 

「魔導王陛下に随伴する、正体不明の長耳種の老人が一名」

 

「……老人?」

 

 ジルクニフが眉を動かす。

 

「はい。エルフ種に酷似していますが詳細不明。ただ、魔導王陛下と対等に楽しげに会話を交わしていたとの報告があります」

 

 空気が変わった。

 

(対等だと?)

 

 あの魔導王と?あの絶対者と?

 

 並び立つ存在など、帝国は知らない。

 

 エルフの国の絶対的強者として君臨するエルフ王が脳裏をよぎるが、老人の風貌とは一致しない。

 

 一体何者なのか。

 

「……面白い」

 

 ジルクニフは静かに笑った。

 

「歓迎しよう」

 

 報告役の声が僅かに硬い。

 

 当然だ。

 

 ジルクニフにとってナーベとは、“人類を超越した怪物達を抑止し得る、魔導国内でも限られたアダマンタイト級の枠に収まらない英雄の片割れ”として認識されている。

 

 それを護衛として従えている時点で、魔導国の底知れなさを再認識させられる。

 

「……出迎える」

 

 ジルクニフは立ち上がった。

 

「無礼は許さん。最大限の礼をもって迎えろ」

 

  

 

 

 

 皇城正門。

 

 整列する帝国騎士団。

 

 帝城前に停車した魔導国からの外交団のデス・キャバリエの一団から一際豪奢な装飾の施された一台の漆黒の馬車が、用意された赤絨毯の先まで進み静かに停止した。

 騎乗していたアンデッドの護衛は帝城前の一団と共に待機しており、帝城まで進みでた馬車の周囲には騎乗した人間の姿が確認できる。報告通り護衛の冒険者には漆黒の鎧を身につけた英雄の姿は見当たらない。

 

 馬車の中から、まず姿を見せたのは、黒き法衣の骸骨の王。アインズ・ウール・ゴウン。

 

 続いて、深緑の外套を纏った長耳の老人。

 

 その背後には、冷徹な美貌を持つナーベを始め、複数の冒険者の装いの者が控えている。

 

 周囲の空気が張り詰めた。

 

 カッツェ平野の大虐殺をこの目で見ていない帝城の護衛も、内政官も誰もが本能でする。

 

 強者。それも国家そのものを飲み込む規模の存在。

 

 

 だがジルクニフは、属国の皇帝として一歩前へ進み、恭しく礼を取る。

 

「ようこそ帝国へお越し下さいました、アインズ陛下」

 

 臣下としての敬意を込めた、丁寧な一礼。

 

「この度の御来訪、帝国一同、謹んで歓迎致します」

 

 そして視線を老人へ向けた。

 

「そちらのお方は……?」

 

 アインズが静かに頷く。

 

「うむ。件の地下大墳墓にて長らく眠りについていた者でな。つい最近目覚め、現在は魔導国相談役を務めている。」

 

 老人は穏やかに目を細めた。

 

「レスタトと申します。以後、お見知りおきを」

 

 柔らかな声音。

 

 だが、その奥に底知れぬ深淵を感じる。

 

 ジルクニフは内心の警戒を隠したまま、再び礼を返した。

 

「これはご丁寧に」

 

 そこで。

 

 アインズが僅かに肩を竦めた。

 

「そう固くならずとも良いぞ、ジルクニフ。歓迎はありがたいが、余り形式張られるとこちらも肩が凝る」

 

 その言葉に、ジルクニフは僅かに目を細めた。

 

(闘技場で武王を下した後、私へ“友人”として接してきた頃に近いな)

 

 適度に空気を崩し。

 

 相手へ冗談を許し。

 

 距離を詰める。

 

 あの時と同じ、“親しみやすい支配者”を演じているようにも見える。

 

(……そして、“あくまで自分は何の謀略も巡らせておらず、帝国側が勝手に傅いたに過ぎない”という形を保つつもりか)

 

 実際、属国化を申し出たのは帝国側だ。

 

 魔導国は圧倒的軍事力を見せつけはした。

 

 だが少なくとも表向きには、帝国へ直接的な脅迫も強制も行っていない。

 

 友好的態度を崩さず。

 

 むしろ“友人として接していた相手が、自ら頭を下げてきた”という構図を維持している。

 

(厄介だな……)

 

 武力だけではない。

 

 相手へ“自ら選ばせた”という形を取る事で、支配される側の反発すら抑え込もうとしている。

 

 やはりこの魔導王。

 

 怪物でありながら、統治者として完成されつつある。

 

 無論、それを額面通り信じるほどジルクニフも甘くはない。

 

 だが同時に。

 

 超越者でありながら、敢えて歩み寄る姿勢を取っている事実もまた確かだった。

 

 ならばこちらも、必要以上に硬直した態度を見せるべきではない。

 

 少なくとも今この場においては、“友好的な空気へ応じる属国の皇帝”を演じる方が得策だ。

 

 ジルクニフは口元へ薄い笑みを浮かべた。

 

「では、少し肩の力を抜かせて頂きましょう」

 

 そう言って、ナーベへ視線を向ける。

 

「ナーベ殿も、噂に聞く以上の美しさだ。帝都の若者達が見れば、仕事も手につかなくなるでしょうな」

 

「……お世辞を言われても嬉しくありませんが」

 

 ナーベラルは冷たく返した。

 

 だが即座にアインズが口を開く。

 

「ははは。許してやって欲しい。ナーベ殿は冒険者になった頃からこの通り、愛想が少々足りぬそうなのでな」

 

「申し訳ありません。皇族との応対は依頼内容に含まれていませんので」

 

 わずかに頭を下げる依頼主である魔導王のみにナーベ。

 

 その様子に、帝国側の緊張が微かに和らいだ。

 

「世辞のつもりなど全くなかったのですが、ご不快に感じられたなら失礼しました。」

 

(……なるほど)

 

 にこやかに謝罪しながら、ジルクニフは内心で観察する。対象はナーベではなく魔導王。

 

(この男、以前より“王”として自然になっている……?)

 

 かつて感じた、得体の知れぬ超越者特有の異様な圧迫感。

 

 それは依然存在している。

 

 だが今は、それを“統治者”として制御しているようにも見えた。

 

(少なくとも我に対しては、地下の墳墓、カッツェ平野、我が国の闘技場と都合三度邂逅した際に見せつけた圧倒的武威と知略でこちらの戦意を削ぐ段階は過ぎたという事か?)

 

「ジルクニフ殿」

 

 そこでアインズが静かに言った。

 

「形式張った歓迎も悪くはないが――今宵、小規模な宴席を設けてもらえぬか?」

 

「ほぅ?」

 

「少人数の内輪だけで良い。魔導国からはこちらの相談役レスタト翁と我の二人のみ出席しよう。逗留しているというクアゴアの氏族王も交えてな」

 

 アインズは続ける。

 

「其方の最も信頼のおける者と共に、互い、本音で語れる場というのも必要だろう。今回魔導国は大きく動く事になる。帝国に我々の要請を受けてもらう前に、こちらのレスタト翁と共に酒の席で親睦を深めて、誤解を解いておきたい」

 

 一瞬。

 

 ジルクニフは思考を巡らせた。

 

(……本題はそこか)

 

 飲食不可能な自分から宴席を求めて、友好的空気を演出した上で、少人数での腹の探り合いへ持ち込む。外に漏れた際に対外的にも属国に対しても友好的で、親睦が深まったと写るだろう。

 

 実に政治的だ。

 

 だが同時に、この男は必要ならば正面から全てを踏み潰せる力を持つ。

 

 それでも“対話”という手順を踏もうとしている事実には意味があった。

 

「……良いでしょう」

 

 ジルクニフは静かに笑みを返した。

 

「無礼講にて、お相手しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 皇城奥部の小宴会室。

 

 参加者は僅か五名。

 

 アインズ。

 レスタト翁。

 クアゴア王ペイリユーロ。

 帝国の皇帝ジルクニフ

 そして皇帝唯一の政治的相談相手――妾ロクシー。

 

 容姿ではなく知性によって寵愛を得た女。

 

 フールーダーが既に魔導国へ傾倒している現状、ジルクニフにとって最も信頼できる“帝国側の理性”でもあった。

 魔導王に対してあえて通じている己の師を同席させるという誠意の見せ方もあったが、魔導王の以前より為人に興味を持っていたロクシーの視点からこの化け物達を分析してもらう方が有意義と判断しての賭けだ。

 

 豪奢だが静かな席。

 護衛すら室外に最小限。

 互いに、本当に信用する者のみを置いた空間だった。

 

「アインズ陛下は、酒を嗜めぬのでしたな」

 

 ジルクニフが言う。

 

「うむ。アンデッド故な。味覚も酩酊も存在せぬ」

 

 アインズは淡々と答えた。

 

 その時だった。

 

「……ならば」

 

 レスタト翁が静かに口を開く。

 

「一つ趣向を凝らしましょうぞ」

 

 全員の視線が集まる。

 

 老人は穏やかに微笑んだ。

 

「私の持つ種族特性に、“精神弛緩”の類がある。アルコールを摂取できぬ主上も酒宴の空気を共有しやすくなりましょう」

 

「共有?」

 

 ロクシーが僅かに眉を寄せる。

 

「酩酊感を深め、気分が多少高揚して本音が出やすくなる程度だ。害意ある支配ではない。酒に酔う感覚へ近い」

 

 レスタト翁はアインズへ視線を向けた。

 

「主上も、精神系無効を一時的に解除すれば、“場の酔い”へ加われる」

 

 ジルクニフの目が細まる。

 

(精神系作用……)

 

 そして同時に、己の指輪の存在を意識した。

 

 精神異常耐性の魔道具。

 

 皇帝である以上、常時装備は当然。

 

 だが――。

 

(この場で私だけ防御するのは……)

 

 無礼講。

 

 本音を語る席。

 

 そこで一人だけ防御を維持するのは、“信用していない”と言っているに等しい。

しかも相手は、あの魔導王――知りうる限り近隣最強の軍事力を誇る国家の支配者だ。ここで及び腰を見せるのは悪手。

 

「……よろしい」

 

 ジルクニフは指輪を外した。

 

「無礼講なのでしょう?」

 

 アインズが僅かに頷く。

 

「すまぬな」

 

「いえ。こちらも興味があります」

 

 ロクシーも静かに首元の魔道具を外す。

 

 一方、ペイリユーロ王は露骨に緊張していた。

 

 彼の腕には、種族の垣根を超えて友となったジルクニフから以前贈られた簡易状態異常耐性付与の腕輪。

 

 それを慌てて外す。

 

「よ、余も従います……!」

 

「では」

 

 レスタト翁が静かに目を閉じた。

 

「翠は停滞せず。命もまた然り。木々の息吹よ遍く巡れ___緑陽相へ調律『緑陽の波動Ⅰ』」

 

 

 次の瞬間。

 

 淡い翠光が、室内へ柔らかく広がり満たした。

 

 春風のような気配。

 

 深い森の木漏れ日。

 

 警戒心が緩む。

 

 肩の力が抜ける。

 

 酒精が、妙に心地よく回り始める。

 

「……ほぅ」

 

 ジルクニフが息を漏らした。

 

 酔っている。

 

 だが意識は明瞭。

 

 むしろ、“本音を隠す理性”だけが緩んでいく。

 

「では」

 

 アインズの眼窩奥の紅光が揺れた。

 

「状態異常無効――停止」

 

 一瞬。

 

 場が静まる。

 

 ペイリユーロ王は目を見開き肩を震わせた。

 

(切れるのか!?)

 

 圧倒的な実力差があるとはいえ、超越者が、自ら防御を解く。

 

 その事実が異様だった。

 

 だが次の瞬間。

 

「……おぉ」

 

 アインズが妙に感心した声を漏らす。

 

「これは確かに、“酔う”という感覚に近いな。この感覚は...なんとも懐かしい」

 

「でしょう?」

 

 レスタト翁が笑う。

 

「酒を飲めぬ者でも、宴席の空気を共有できる。古い森人の宴ではよく使われておりました」

 

「なるほど……これは悪くない」

 

 アインズは珍しく柔らかい声音だった。

 

 時間が過ぎる。

 

 酒が進む。

 

 細心の注意と警戒を持って臨んでいたにも関わらず、会話は次第に砕けていった。

 

 

「……正直、怖いですよ。なんで私が皇帝になってこれからというタイミングでこんな!」

 

 最初に本音を漏らしたのはジルクニフだった。

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