みつみねさんSS投稿倶楽部に投稿した作品です。お題は「防寒具」……まぁ、寝袋と湯たんぽということで。

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もう三峰不健全シリーズでも作ってやろうか


密閉パック

 果たしてこの関係はセフレと言っていいのだろうか。

 セフレをいわゆる体だけの関係だと言うのであれば確かに正しいのだが、セックスフレンドという名前を尊重するのであれば間違っている。

 体を抱きしめあう、首筋を舐める、体臭を嗅ぐ、胸を揉む……そんな感じの性的な行為は行っているが、セックスはおろかいわゆる風俗店で行われるようなプレイは一度も無かった。性欲由来の行動であるのは双方認めているが、絶対的な一線は「アイドルとプロデューサー」という関係があるという言い訳のために超えない。

 ただ1つ分かっていることは、恋愛関係ではないことだ。

 

 

 暖房がついていても、寒い。べったりついた結露を寒さに我慢してカーテンで拭いても外の光景はまるで分らない。

 

「困ったな」

 

 283プロの事務所でプロデューサーは外の観察をするために開けたカーテンを閉めた。

 

《東京は雨の後の雪によって道路は凍結しており……》

「困ったねぇ」

 

 テレビの音声を聞きながら三峰結華は言った。

 時刻は19時を超えており外は見なくても暗いことは想像できる。雨の中車を走らせていたのが3時間前でそこからは打ち合わせや軽い自主レッスンをしていたら雪が降っていた。降雪は珍しくはないが、問題はその量だった。時期外れ、場所違いの豪雪、とニュースでは言われていた。

 帰れない。電車はかろうじて動いているが、徐行運転でいつ停止するか分からない。ここから徒歩20分先にある寮に泊めてもらおうにも、こんな道路ではおそらく滑る。現実的とは言えない。

 不幸中の幸いとして、インフラは生きているため事務所で一夜を過ごす程度なら問題ないことだった。

 

「ごめん、私が軽く体を動かしたいとか言ったせいで……」

「いや……最近露出が多くなった影響でレッスン時間が取れなくなってきている。だから少しでもレッスンをしなくてはいけないという見立ては間違ってないと思う。大体、こんな時期に路面凍結と豪雪が起きること自体が異常なんだ」

 

 いやはや、異常気象だねぇ。彼は適当にそんな言葉をつぶやいたあとにキッチンに向かった。

 

「あ、ごはん? 私が――」

「いやいいよ。いつも作ってもらってるし」

 

 

 簡単なパスタを食べ終えてしばらくし22時を超えても道路の凍結は改善されていない。どころか交通機関が一部運休になっている。

 

「ここに泊まるしかないな」

 

 テレビを見ながらプロデューサーはつぶやく。

 

「困ったね」

 

 結華のその言葉には一切の戸惑いの成分は含まれていない。

 プロデューサーと一緒に寝れるのだ。彼が一応事務所に置いてある寝袋がどうしても意識してしまう。

 

「ソファで寝るしかないな」

「ソファで寝たら体が痛くなりそうだなー。そういえばPたんは寝袋持ってたような気がしたなー」

「俺のもの使いたい? なら俺はソファで――」

「一緒に寝ない?」

「…………」

 

 その言葉にプロデューサーは絶句する。細く鋭く息を吐いた後に彼は頭を抱えながら言った。

 

「1人用の寝袋だから、入らないよ」

「やってみなきゃ分からないじゃん」

「――ほかの人が使っている寝袋なんて使いたいか?」

「別にー。Pたんのベッドの上でいろんなコトして寝落ちしたこと一杯あるよ?」

「…………いや、でも」

「さすがにいつものように発散はしないよ。事務所だからね」

「………」

 

 それでも認めない彼の指先に触る。

 

「ほら、冷たい。いつものように、ひどい冷え性だね」

「……エアコン点ければいい話だし」

「三峰、アイドルなんですけど。のど痛めたくないかな」

 

 嘘である。家ではエアコンをガンガン点けている。彼女の嘘を見抜いているようにプロデューサーは苦虫を噛んだような表情で訊いた。

 

「………一緒の寝袋で、寝たい?」

「うん」

 

 即答だった。

 

「じゃあ消すぞ――」

 

 いくつかの禅問答のあと彼はあきらめたように言った。

 パチン、という音ともに共用スペースの電気が消える。暗闇の中、彼のスマホのライトがゆらゆらとこちらにやって来た。

 

「しかしどうやって一緒の寝袋に入ったものか」

「三峰が先に入ろっか?」

「そうすると結華が雑巾がけになる。具体的に言うと、俺の足が結華の頭を踏み潰しそう」

「それじゃあ……抱きついて入ろっか……」

 

 そんなやり取りをしていたら、結華は急に恥ずかしくなってきた。

 室内にも関わらず暖房を付けずに一緒の寝袋を使うなど、まるでバカップルのそれだ。自分たちの関係があくまで性的に都合の良い存在であるという建前を忘れたのか……?

 

「……結華?」

「あっ、はい! なんでしょう?」

「入らないのか? 寝袋使わないのであれば暖房を――」

「いやいや、一緒に入るから! ……喉を痛めないためにも、ね?」

 

 嘘だ。実際は概念的セフレであるという関係を出汁にして彼と一緒に寝たいだけだ。

 彼がそんな結華の本心を分かっているのか分からない。ただ、暗闇の中では紅くなった結華の顔は見えないはず。

 裸眼のぼやけた視界の中で脚だけを寝袋に納めた彼の首に抱きつき彼の身体の上に乗る。そのまま脚探りで寝袋の穴の中に下半身を納めた。タバコの臭いと1日掛けて染み付いた彼の体臭が鼻につく。

 恍惚としていると背中に強い感触。

 

「もうちょっと強く抱きしめないと入らない」

「あ、うん……わかった」

 

 強く抱き締める。結華の微かな乳房が彼の胸板に密着する。ここまで強く抱きしめていると互いの心音が感じ取られる。思考もまとまらない中ではどちらが自分のものなのかも分からない。

 ずるずる、ずるずる。ゆっくりと身体が寝袋の中に入っていく。そして最後には入り口がキュッと締まって密閉された。「案外、入るものなんだな」と彼が呟いた。

 

「苦しくないか?」

「うん、大丈夫……」

 

 少し抱きしめる力を緩めてみたが上半身の部分は余裕が無いらしく、寝袋によって締め付けられ心臓の距離は変わらない。視界は彼のワイシャツの肩辺りしか見えない。

 彼の腕が結華の頭と腰に回された。ひゅっ、と声が漏れてしまう。

 

「横になるぞ」

「え――」

「結華の身体がいかに軽くても、一晩中40キロ代の下敷きにはなれない」

 

 確かにその通りだ。結華の身体は完全に彼の身体の上に乗っかっており、辛うじて脚や手のごく一部が床に接している程度だった。米一俵を持ち運べた戦前の人間ではない現代人には難しいだろう。

 

「えー、でも三峰いつもPたんの下敷きになってるよ?」

 

 頭の中ではそう思いつつも、口ではいつもの様な軽口。動揺しているときに起きる一種の防衛反応だ。

 

「そうか……ならやめておこう」

 

 しかし彼はその言葉を真っ当に受け止めてしまう。

 

「あぁ! いいの、いいの! ちょっとした軽口のつもりだったしからさ! 別に三峰としては……構わないから」

「そうなのか?」

「三峰としては……Pたんに甘えられるの、好きだからさ……」

 

 あの圧迫感が、いつも余裕を見せているプロデューサーが私にだけ力強く抱きつき、縋り付いて私の身体に手を這わせる瞬間がとても好きだ。

 そして最後に申し訳なさそうに謝る彼に対価として紳士的に触ってもらう瞬間が、崩れたときと平衡を保っている瞬間のギャップを感じられる瞬間が好きだった。

 じゃあ行くよ、と声がかかって身体が横になる。彼は努力しているみたいだが肩幅の差からどうしてもこちら側に体重が乗ってしまう。結華としてはもう少しこちらに体重をかけてくれても良いのだが……まぁ贅沢は言うまい。

 代わりに彼の腕枕に頭皮をこすりつける。シャワーなど浴びてない身体で少し恥ずかしいが、時折汗まみれの身体を嗅いだり舐めたりする彼にとっては少し物足りないかもしれない。

 それを証明するかのように先程よりも強く抱き締められた。どんどん鼻息が近づいていく。

 

「もう、ダメだよPたん」

 

 顔は向けない。メガネがない上に暗闇かつ密着状態で視覚は役に立たない。

 首に回していた手を恐らく口であろうそれの前にかざして親指でなぞった。

 

「今日は、発散じゃないからね?」

「………」

 

 吐息から不満そうなのは伝わってきたが、それでもこれ以上何かをする気は無かったように鼻息は離れていった。

 

*

 

 今日は発散のためじゃない。

 その言葉が自分の首を締め付ける。

 

(……これは、良くないなぁ)

 

 密着。相手の心音が自分の心臓で感じ取れるほど近づき、全身が彼の感触を脳に集め続ける。

 密閉。互いにシャワーを浴びず、彼の普段遣いの寝袋はずっと彼の臭いを充満させ鼻腔に流し込まれる。

 彼の逞しく硬い肉体、鼻につき刺激してそれでも永遠にそばにいたくなる体臭。

 何よりも結華の股に絡みつくように挟み込まれた脚。スラックスのウール生地であること、スカートを着てきたためそれの間に阻むものが薄いショーツとタイツであること。

 

(まっず……っ)

 

 頭は不味いと危険信号を出すくせに下半身は彼の脚に触れては引いて触れては引いてを繰り返す。

 甘い感覚を感じては正気に戻ってを繰り返す。少しずつ、少しずつ正気のタカが崩れるのを感じていた。何よりも触覚が嗅覚がどんどん淫靡に染まっていく。

 どうする、いっそのこと浅ましく――

 

「――結華」

「っ!?」

 

 寝ていたはずの人間が急に自分の名を呼んだことに驚き肺の空気が漏れ出る。

 

「吸って」

「――」

「……吐いて」

「――」

 

 結華は口から大きく息を吸って吐いた。

 

「じゃあ……鼻から吸って」

「え……」

「鼻から、吸って」

「……。――――……っ」

 

 優しく、しかしやや冷酷に彼は命じた。急かすように結華の股座にあった彼の太腿が押し付けられた。

 鼻腔にお互いの体臭が混じった寝袋内の空気が充満する。

 脳に響く。タバコのヤニのにおいと香水の微かな匂い。誰が渡したものだろう。プロデューサーに香水を渡す人間は多いが、体臭がこびりつくまで体を重ねるのは結華しかいない。

 

「吐いて」

「――――っ……っ」

 

 脳がパチパチはじける。彼の無骨な指の感覚が結華の体を強く拘束する。

 

「吸って」

「――っ――っ」

「吐いて」

「――――っ、っ」

「吸って」

「――っ、っ」

「吐いて」

「――――っ」

 

 彼の体臭が胎内に溜まる。こもった熱を排出せんと体がかくかくと勝手に動き快楽を制御しようと試みる。

 

「――ダメ」

 

 彼の言葉がそれを封じた。湧き上がる快楽を逃そうと力を込めてワイシャツを握っていた右手が彼の手によって優しく解かれる。

 

「快楽から目をそらしちゃダメ。逃げるな」

「――っ、――っ」

「結華の中に押しとどめて、ため込んで――最後に一気に解き放つんだ」

「――っ! ――っ、――っ、――っ」

 

 もしかして彼は催眠音声のようなものをやりたいのだろうか。震える脳液の中で結華の思考はそんな推測を導いたが、具体的な感情にならない。

 押し付けられた太腿が強く結華を責め立てる。

 

「俺の臭いと結華の匂いが混ざり合って、結華の胎内に溜まって体を循環して、染め上げる」

「――っ――っ――っ……っ」

 

 彼の言葉は今の結華にとってはひどく官能的で……とても素晴らしいように思えた。

 

「そして10秒後――胎内を巡る俺と結華が爆発する……10」

「……!? ――っ、」

 

 その言葉に結華は蕩けた思考であっても動揺する。でも体の中に彼を取り込むのをやめない。

 

「きゅーう」

「――っ、――っ、……」

「はーち」

「――っ、――っ、――っ、――っ」

「なーな……」

「――っ――っ、――っ」

「……ろーく」

「――っ、――っ」

「………ごーぉ」

「――っ――っ」

 

 カウントがどんどんゆっくりになっていく。それに伴って呼吸が深くなり、胎内に溜まっていく。熱をどこかに押し付けたくて、でも押し付けられた太腿のウール生地の抽象的な感覚のみが少しだけ熱を出して溜まるばかり。

 

「よーん……」

「――っ――っ――っ――っ」

「さーん……」

「――っ、――っ、――っ、――っ」

「にーい………」

「――っ、ふーっ、ふーっ、ふーっ」

「……いーちぃ…………」

「ふーっ、ふーっ、ふーっ――!」

 

 彼の腕が結華の腰を、頭を彼のほうに強く――強く抱き寄せる。胎内の彼がより高まり、心臓の鼓動が融合する。もはや自分と彼の境界線は曖昧だ。

 まずいまずいまずい――。催眠ASMRのカウントなど信じてなかったが、脳が快楽を堆積していることから屈服しかかっているのは確かだ。

 このままいったら私は――

 

「ゼロ」

「――~~~~~~~っ!?」

 

 冷たく言い渡されたゼロカウントに、浅ましく結華はため切った快楽を放出した。

 熱が、快楽が、声にならない吐息が結華の体を蹂躙し耐えきれない。しかし彼の命令の元、放出を最速で行う方法が行えない。

 太腿と腕と体とにおい。すべてが曖昧で間接的なのに――それらが結華の理性を焼き尽くして、ただただ快楽を受光するための存在となり果てる。

 大きく吐かれ、なんとか青息吐息で吸う空気には彼の臭いが染みついておりさらに快楽がたまる。

 

「――っ、――っ、――っ! ~~~~~~っ!!」

 

 筋肉が硬直と弛緩を繰り返し、意識が明滅する。そして最後には快楽に耐えられなくなって意識が消えた。

 

「お休み、結華」

 

 意識が消える直前にプロデューサーが頭を撫でたような気がした。

 

 

 翌日、事務所の屋上。凍結した路面はすでに解決し、屋上も普通に出歩ける。

 

「昨日は三峰といっしょに同じ事務所なんて、お楽しみだったんじゃないんですかー?」

 

 摩美々の言葉をプロデューサーは鼻を鳴らしてマッチを擦る。手巻き煙草に火をつけて紫煙が体に纏わりつく。

 

「……お楽しみって?」

「そりゃあ……運動会?」

「アイドルをキズモノにする勇気はないな」

「本当かなー……?」

 

 チィシェ猫を想起させる摩美々の顔がこちらを見るが、手を振ってあっち行けとジェスチャー。単純に副流煙の問題であった。

 ぎぃ、とドアが開かれ結華が屋上にやって来た。

 

「2人とも、話そうとしないからつまんない」

「まみみんが何を考えているかわからないけど、別にそんなことしてないから」

「えー」

 

 その抗議を無視して結華はプロデューサーの前に立った。彼女の口には火の点いていない煙草。

 

「……ん」

「ん? ――」

 

 まるで結華はキスをせがむ恋人のように咥えた煙草を見せた結華にプロデューサーは若干諦めたように、特に何も感情を乗せずに火のついたタバコの端を付けた。

 

「え、あ――………」

 

 その光景に摩美々が絶句する。先ほどまで揶揄っていたとはいえ、同じ屋根の下で一夜を過ごした男女が特に何のやり取りもせずにシガーキスをかましたら誰だって混乱する。

 

「あ………じゃあ、わたしは帰りますんでー……」

 

 慄いてこの場から逃げた摩美々を見送った後、結華は口を開いた。

 

「……その、昨日はごめん。攻めすぎた」

「あぁ、うん。俺も……良くなったよな」

「いや良くはあったんだけど……」

 

 ぼそりと思わずつぶやいてしまった言葉に結華自身が驚き弁明するように彼のほうにあわてて向いた。

 

「いや、その――」

「3、2、1――」

「ちょ――」

 

 昨夜のことを思い出し体を強張らせる。まさか昨日の今日で体が条件反射するほど調教されるとは思えないけど――

 

「0」

「――…………」

 

 体の調子を確かめる。なんともない。

 少し期待してしまった自分への恥ずかしさと昨夜のこともあったのにおふざけでカウントダウンを始める怒りが沸き上がる。

 

「……Pた~ん――?」

「あー……、ごめん」

 

 プロデューサーに甘えられ依存されながらも、彼の掌で転がされている感覚が結華にとっては結構好みだった。

 

 

 

 




Q.お前の恋愛SSセフレスタート多くない?
A.なんでなんやろ

Q.セックスしてなきゃR-18にならないと考えてる?
A.はい

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