存在してはならなかった世界   作:真暇 日間

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絶対に存在してはならない世界94.5

 

 繰り返される退屈な日常。王族としての義務に縛られる生活。これまで王族として国民に納められた税を使って育てられてきたのだから最低限の義務は果たすつもりだが、それ以上を行う気にはどうしてもなれない。

 その中で唯一楽しむことができること、それは走ること。レースであればさらに良い。しかしそれも未だ出来上がっていない身体を壊さぬようにと全力で走ることは止められている。無論、命を懸けるに値するレースでもあればそんなものは無視してしまうだろうが、レース以前のトレーニングで死ぬのはあまりにも愚かと言うもの。私は宮廷医官とトレーナーの指示に従い、全力で走ることはほぼして来なかった。

 

 今日もまた同じような時間が続くと思っていた。退屈な日常に僅かな刺激を入れて誤魔化し、いつの日にか破裂するだろうという確信を持ちながらベッドに入るのだろうと。

 

 そんな私の視界に、世界を覆すものがいた。

 

 まるで獣のような、技術も何もない走り。そこから僅かな間に練り上げられ、異様な速度で駆け抜ける赤。

 見覚えはない。一度見せられれば忘れることなどあり得ない巨体に、かの英雄ク・ホリンの盟友マハを思わせる尋常ならざる速度。あの身体にこれでもかと筋肉が詰め込まれていることを嫌でも理解させる体格。こんなウマ娘が存在していたなど、私は知らない。

 そこで、私の頭のどこか冷静な部分が呟いた。いいや私は知っているはずだと。

 

 今この時この場所にいるウマ娘について、私は父に聞かされていたはずだ。

 確か日本のウマ娘で、食物について革命的な改良を成し遂げた結果、日本のウマ娘の実力が大きく底上げされるという快挙を成し遂げたとか。

 そして日本という高速環境においてではあるが、どれも今後100年は更新されることのないだろう凄まじい……あるいはそんな言葉で表現することすら愚かしく思えてくるほどの異様な記録を多々打ち立てているだとか。

 そんなウマ娘がブリテンとフランスのレースに参加するために一時的にアイルランドで脚を慣らすためにやってくると、確かに聞かされたような覚えがある。

 確か、その名前は───

 

「Nice nature……」

 

 唇から名前が零れた。すると走っていたそのウマ娘は視線を一瞬私に向けて立ち止まり、次の瞬間私の前に立っていた。

 

「呼びました?」

 

 ……しまった、何を言われたかわからない。日本に行く予定もなかった私は、日本語での問いかけに応えることができなかった。それどころか、それが問いかけだったのかすら理解できない。声も、出ない。

 はくはくと音のないまま口を開き、閉じ、また開く。そんな滑稽な姿を見せることしかできないまま少し時間が過ぎ、彼女は何かに気付いたように一瞬視線を左上に向けてから再び私に視線を合わせる。

 

『お呼びになりましたか? ピルサドスキー殿下』

 

 今度はわかった。アイルランド語でこそないが、現代でも広く使われる英語で話しかけられた。私も英語ならば十分に会話ができるし何を言われたのかもわかる。

 

『あ、ああ、いや、すまない、練習中にも関わらず声をかけてしまった』

『いえいえ、慣れるには十分な時間走らせていただきました』

 

 彼女、ナイスネイチャが走っていた時間は長く見積もっても精々十分。十分程度で慣れたと言われても普通ならば嘘か誤魔化しか見栄だと思う所だが、先程の走りを思えばそうしたものとは思えない。彼女は本当に走り始めてから十分程度でこの芝に慣れてしまったのだろう。

 

『用件は、無いんだ。ただその……あまりにも美しく走るものだから、父から聞いていた名前が零れてしまった』

『それは光栄です』

 

 笑顔だ。間違いなく笑顔なのである。そのはずだ。害意もなければ悪意もない、純粋な笑顔のはずだ。

 しかしピルサドスキーには、その笑顔が何か恐ろしいものに思えてならなかった。

 

 事実、ネイチャは悪意はないが自分の趣味の一つについて色々と考えていた。ネイチャにとってピルサドスキーと言うウマ娘は先輩であるエアグルーヴにご執心のアイルランドの王族ウマ娘であるくらいの認識であった。それはかつてあった少しデビュー時期がずれた時にエアグルーヴと共にジャパンカップでレースをしてからも変わらなかったし、それ以上詳しく知ろうということもなかった。

 ただ、王族と言うだけあって美人だなと思うことはあった。態度や口調などで変わり者だなと思うことはあったが、当人が美人であることには変わりない。そんなことを考えていた。

 そして今、そのピルサドスキーが幼い姿で自分の前に立っている。しかも僅かではあるが畏怖の感情を抱いて。ついうっかり、ネイチャの中の悪戯心が騒いでも致し方ない状況だった。

 

 しかも運がいいと言うべきか悪いと言うべきか、ピルサドスキーにもファインモーションと同じかそれ以上のそちらの系統の才能があった。レースの才能ではない、精霊や妖精、神格と繋がるための才能の話だ。

 ファインモーションとは僅かに方向性の違うその才能。ファインモーションは精霊や妖精に悪戯されながらも守られ世話を焼かれるのに対して、ピルサドスキーはその背について行きたいと思わせる魅力がある。

 王としてどちらが優れているといった話ではなく、性質の違い。そしてこの状況であれば恐らくピルサドスキーの方が黎明期においては優れた王となる事だろうとネイチャは考えた。

 

 が、ネイチャは覚えている。ピルサドスキーがアイルランドの王となったのは、ファインモーションが存在しないか亡くなってしまった後のこと。ファインモーションが生きている間は徹底して表舞台に出ようとしていなかったということを。

 つまり、一時的に玉座を押し付けてもファインモーションが戻ればまず返そうとする存在だということを。

 

 ネイチャはにっこりとした笑みを崩さないまま、アイルランドの神官、ドルイドの服装を思い出していた。

 




Q.昨日どうした?
A.寝てた。久し振りに十五時間くらい寝た。

Q.ネイチャは何を考えてる?
A.ネイチャ「どっちか日本留学してくれれば色々教えながらアタシは美味しいもの食べられるなーって」

Q.ネイチャって英語できるの?
A.まあ、それなり以上に長生きなので。よっぽどのマイナー言語じゃなければ何となく意味が通じる程度には話せます。
 なお最近マイナー言語とか関係なしに意思疎通できる言語が突然頭の中に湧いてきた模様。

番外編のネタ(すぐ用意できるものに限る)

  • ナイスネイチャ+αのヒミツ(ウマ娘風)
  • ウィニングカラオケ(NN杯直後)
  • 『ハヤイ』という名の馬について
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