存在してはならなかった世界   作:真暇 日間

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絶対に存在してはならない世界28

 

 その日、学園は震えた。正確には学園に所属する多くの大人たちが震えるほどの衝撃の言葉がネイチャの口から伝えられた。

 それは即ち、美食研究会による美食の解放。ナイスネイチャ曰く、ラーメンなる料理を今回のファン感謝祭で広めるつもりらしい。

 

 それに一際激しく反応したのは名家でも理事長でもなく、すでに一度ラーメンを食べたことのあるたづなであった。

 たづなは覚えていた。忘れられるはずもなかった。あの熱、あの味、あの香り。そして叶うならばもう一度、何度でも食べたいと願っていた。それこそ喉を掻きむしるほどに。

 ただ、今回のファン感謝祭で出されるのはラーメンのみ、餃子やビールはでないと聞いて少しだけがっかりしたものの、それでも求め続けて届かなかったものに手が届く機会が来ると聞き、ひっそりとワクワクしていた。

 故に、その状況を台無しにしようとする輩の行動には人一倍敏感であった。

 

 まあ、台無しにしようとする者など居なかったのだが。

 

 去年に収穫された小麦で作られた喉越しの良い麺。作られてから日は浅いがその若さを風味として楽しめる醤油。出汁を取るのに使われただろう椎茸や野菜の甘み。バーナーで炙られ焦げ目がついた厚切りの押し豆腐。渾然一体となったラーメンに敵うものなどいるはずもなく、トレセン学園は今日も平穏に過ぎた。なお、ラーメンにやられてしまった哀れな女の視点によるものである。

 

 視点を変えて見てみれば、様々なことが起きていた。

 トレセン学園にどこからともなく集まってきた、多くの名家の首脳陣。日本という国を動かす政治家。有名な会社の社長。そして他国の王族。まるで誘蛾灯に誘われた虫のように、しかし静かに集まってきていた。

 中には記者も混じっていたが取材お断りの看板と偶然にも突然現れた人混みにどこかに連れて行かれ、戻ってくる頃には静かにラーメンを食べるだけになっていた。不思議なこともあったものだとその場にいた全員が静かに笑った。

 ラーメンというものを知っているネイチャからすると名家の首脳陣や政界の重鎮が並んでラーメンを啜っているその光景には違和感しか感じないが、そんな違和感はネイチャ以外は全く感じていない。ネイチャにとっては少し見覚えのあるとある王族の少女がSPに囲まれながらラーメンを啜るのも、誰も気にもとめていない。この場で大切なことは、ラーメンがあること。それだけだとでも言うように。

 

「……なんか異様な空気じゃない?」

「何をもって『普通』とするかにもよると思うが、中々ない空気であることは確かだと思う。なにしろ年に二度あるだけのファン感謝祭なんだからな」

「前回のファン感謝祭ともだーいぶ違う気がする」

「前回は食べ物を出していなかったからだろう。食べ物をこうして出している場所と言うのは珍しいからな。そうそう触れるような空気ではないと私は思うぞ」

「……誤魔化してないです?」

「誤魔化してはいるができればネイチャには誤魔化されていて欲しいと思っている。悪いようになっていないことだけは保証できるが、足りないか?」

 

 ……そう言われると前に誤魔化されてくれた分こちらも誤魔化されておかないといけないから困る。まあ、悪いようにならないと言ってるし、オグリ先輩の場合は自分の手に負えない範囲になる前にちゃんと報告入れてくれるから、そのあたり信用できるのは間違いないですし?

 とりあえず、今回はこちらも誤魔化されておくことにする。と言うか、こうやってラーメン出しちゃった以上はもう逃げられないのは間違いないしね。

 今回はちょっと水が足りなさそうだから、そのあたりトレーナーさんに解決してもらってるから調理中に中に人入れられないんだ。アタシとオグリ先輩とマーベラスとライスの四人で基本回して、外からの注文はクラスメイト達にお願いしている。ちなみに代金は仕事中の賄いとしてラーメン大盛野菜マシマシカラメ。アブラは無いけどニンニクはお好みで。もし残ってたら夜にも出すけど、残らなかったら新作出すよって言っておいた。熱気が凄かったなぁ。

 

 ……二十万食用意しましょうって言われた時にはもうこいつら何言ってんだおかしくなったかと正気を疑ったけどなんか本当に二十万食無くなりそうで怖い。一日だよ? 朝九時から夕方五時半くらいで終わるんだよ? 一分で何個出てるのこれ? どれだけ並べてるかわかってる? 尋常じゃない量出てるからね? わかってる?

 

「その尋常じゃない量の七割以上を一人で出してるネイチャが言っても説得力はないぞ」

「オグリ先輩だって残った二割五分のうち半分くらいは出してるじゃん」

「比じゃないな。まあ終わったらお疲れ様会として何か食べさせてくれるのだろう? 楽しみにしている」

「うん!ライス、頑張るね!」

 

 ……まあ、こう言われちゃあ仕方ない。ここで頑張ってくれたらその時はちゃんとしたラーメンを振舞うことにしよう。秘密のやつね。つまり、チャーシューや煮卵完備のやつ。餃子だってつけるし、チャーハンもあっていいね。スープも豚骨のにしちゃおうかな。むかーしにトレーナーさんと一緒に作ったことあるやつ。学園祭で出したらオグリ先輩に消されたやつ。

 よし、そうしよ。





Q.なんか色々人がいない?
A.居ますね。でも大丈夫。

Q.アイルランドのお姫様いない?
A.居ますね。でも大丈夫。

番外編のネタ(すぐ用意できるものに限る)

  • ナイスネイチャ+αのヒミツ(ウマ娘風)
  • ウィニングカラオケ(NN杯直後)
  • 『ハヤイ』という名の馬について
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