存在してはならなかった世界   作:真暇 日間

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絶対に存在してはならない世界34

 

 ライスが新しく人を連れてきた。ミホノブルボンと言う、アタシでも知っている相手だった。

 アタシの知っているミホノブルボンは、毎日のように坂路を走っては自身の限界を越えようとするウマ娘だった。走り方の違いから併走とかはあんまりしたことは無いけれど、それでもテイオーの次の世代で三冠を求められていたことは知っている。その三冠の夢を挫いたのが、ライスだということも。

 

 ただ、この世界ではそんなことはできない。スパルタ的に鍛え上げようにもそのためには尋常じゃないほどの精神力が必要になるし、その精神力も二つの方向で使われる。

 一つは延々と坂路を走り続けたり、泳ぎ続けたり、そしてやめろと言われればそれに従ってやめることのできる精神力。そしてもう一つは、尋常じゃない不味さの食事を無理矢理にでも腹に詰め込み、消化し、身に変えることができる精神力。トレセン学園に来る前ならその負担は余計に大きくなるのはわかり切っているし、トレセン学園に入ってきた後でもほぼ塩以外の味のしない栄養食を延々胃に流し込むと言うのは精神を大きく削る行為に他ならない。

 

 しかしそんな精神を削り続ける行為を、ミホノブルボンはこれまでやってのけていた。アタシだったら多分生まれて半日でギブアップするに違いない。実際したから今こうしてちゃんと成長しているわけだけど。

 そしてそうやって延々と精神を削りながら鍛え上げ続けてきたが、最近になって少し状況が変わってきている。そう、アタシの作った野菜や作物による栄養状態や味の改善である。

 栄養価が高く、同時に精神を削ることなく食事ができる。苦痛なく続けられるため体格はよくなり、栄養が常に不足気味であった身体にしっかりと肉がついてきたウマ娘達が現れた。それにより、ただ追い込むだけでは勝てないと認識したミホノブルボンのトレーナー、つまりマスターさんは、ミホノブルボンを美食研究会に一時所属させることにしたということらしい。

 

 つまるところミホノブルボンは、美食には興味はないけれど三冠を取るために必要になると考えて美食研究会の門をたたいたと言う訳だ。

 

 まあ、でも実際必要なことだとは思う。ライスとミホノブルボンを見比べてみればわかるけれど、明らかにライスの方がガタイが良い。身長はミホノブルボンの方が大きいのだけれど、身体の厚みが明らかに違う。重厚感がある、と言い換えてもいい。

 ……年頃の女の子に重いとかそう言う言葉はよくないかもしれないけれど、この世界に限ってはそうでもない。食べることがすなわち苦痛であるこの世界では、そんな苦痛を超えてしっかりとした体を作れているというのはとても素晴らしい精神力を持っているものとして扱われるのだ。まあ、ごく最近そんなの全く関係ないものが現れたけど。

 

 で、だ。アタシの知る限りミホノブルボンというウマ娘は非常に努力家で、諦めを知らないウマ娘だった。本来なら諦めて然るべき獣道を『道があるから』と歩いていけるような、そんなウマ娘。アタシも昔は少し憧れを抱くくらいのウマ娘だった。

 まあ? 今のアタシはそうでもないけどね? だってアタシはトレーナーさんのウマ娘なんだから。トレーナーさんの隣に唯一立っていい、たった一人のウマ娘なんだから。相手がトレーナーさんのことを知らなくてもそれだけでアタシは前を向いて歩いていける。

 さてそんなミホノブルボン、目的のためでもなんでも構わない。美食研究会に入ったからにはきっちりとやることはやってもらう。ミホノブルボンは機械類を触るとそれなりの確率で壊すから機械類を触らせられないのがちょっと問題ではあるけれど、それならそれでやりようはある。

 それに、畑仕事は体力はともかく瞬発力は結構つくからね。元々スプリンターで、そっち方面には十分な……普通に練習していればまあオープンクラスなら普通に勝てるくらいには才能があるミホノブルボンには悪くない選択肢のはずだ。

 とは言え本人が必要としているのは体力。あと根性。あまり畑仕事とは合っていない。しかしそれでも体調や栄養状態を考えればお釣りが来る程度には効果があるからね。ミホノブルボンは相当頑張って食べていて、体型もかなり痩せ型ではあるけれどギリギリ健康的な領域にある。本当にギリギリだけど。

 ただ、その体を維持しながら更に筋肉などをつけるためには見てるだけでちょっと気持ち悪くなるくらいの量を取らなければいけない。耐えられるだけで進んでやりたいものではないはず。それでも必要ならできるあたり、それもある種の才能と言えるかもしれない。

 

 まあそれはそれとして、いろいろ食べてもらいましょうかね。チーズがあればピザパーティーでもしたところなんだけど、無いものは無いので代わりにポトフでも。肉がないから出汁が足りない? そこにアタシが実験的に育ててたトマトがあるじゃろ? コレを使うんじゃ。

 トマトの旨み成分はグルタミン酸。なので組み合わせるべきはイノシン酸。そういうことで干し椎茸を投入。和風と洋風のドッキング!なおこの世界に和風とか洋風といった料理はほぼ無い。なにしろ全部が不味いから毒がなければそれでよし、くらいのものでね……。

 他の材料はニンジン、じゃがいも、固めの豆腐、白菜、そしてにんにくと長ネギ。味付けは醤油にちょっと砂糖、つまりよくある日本の煮物だね。まあポトフは日本で言うところの煮物だし、日本風ポトフといえば間違ってないからセーフということで。

 数百人分の料理を一人でやるのは大変なので、メシマズ物質が体からある程度抜けてきた人達に手伝ってもらっている。つまりいつものメンバーだね。

 ちなみに手伝ってくれる人には味見として先に一口食べられる権利が与えられます。

 

 さ、できたし食べようか。いただきます。

 

 





Q.結局砂糖使うんかい。
A.そりゃどうせ食べるなら美味しいもの食べたいでしょ。

Q.ブルボンは健康体なの?
A.まあギリ。激しめの運動をするとあっという間にバランスが崩れる程度ではあるけれどギリギリ健康。この世界でレースやってるウマ娘は一番いい状態が大体これくらい。

Q.動物性タンパク質が無いね……。
A.早いところチーズとか作りたい……。

番外編のネタ(すぐ用意できるものに限る)

  • ナイスネイチャ+αのヒミツ(ウマ娘風)
  • ウィニングカラオケ(NN杯直後)
  • 『ハヤイ』という名の馬について
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