存在してはならなかった世界   作:真暇 日間

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絶対に存在してはならない世界54.5

 

 戦場とは案外身近に存在すると私達は知っている。命を失いかねないレースで、それでも自身の意思を通すために走り続けるように、私達の人生と戦場は切っても切れない関係にある。

 それはレースを引退しても変わらない。レースと言う戦場から次の戦場へと移り変わっていくだけで、戦場から離れることなどありはしない。あるとするならば、この命を失った後くらいだろう。

 どんな状況であろうとも、生きていく事とは戦場にいることと変わりない。生き抜くためには力が必要で、力がないものは振り回されることしかできない。

 ……そう、今の私のように。

 

「黄昏てないで早いところ書類進めていただけませんこと!?」

「一日で35レースやる上にそれに合わせたトロフィーの製作、副賞の特別な食事券の発行と偽造防止、やらなければならないことはいくらでもある。急いでくれ」

「参加者これで終わり!? 本当に終わり!? 重複チェック完了してる!? 同じ人が複数回参加するのはダメってルールになってるからちゃんと確認!出来たら名簿も作って!そしたらこっちで予選ごとに振り分けするから!」

「参加人数何人よ!? 三千!? なんで!? トレセン学園の学生の総数より多くない!? どうして!?」

「参加資格に『中央トレセン学園の生徒であること』が含まれてないせい、ですかねぇ……以前の聖蹄祭で脳を焼かれた方々が続々と参戦してきています」

「つまりまだ増える可能性あるってこと!? 勘弁してよこれ以上の調整は流石に難しすぎるわよ!と言うかなんで学内の模擬レースに参加しようとしてる人がこんなに多いのよ!? 理由はわかってるけど!」

「わかってるなら手を動かせ。あとそろそろ締め切りだ。安心して仕事をしろ」

「ネイチャさんからの差し入れが無ければこの仕事投げてる所よ!あー!もう!」

 

 突如として発生した仕事。そしてこっそり動いているつもりらしいネイチャさんの動きに細心の注意を払いつつそれぞれの名家お抱えの護衛達が守ってくれているからそこは大丈夫だけど、聞こえてくる内容が酷すぎる!しかも私達以外の生徒にはそれこそ次期当主にも秘密とか、板挟み感が凄い! 当主様からネイチャさんの言葉に従えって言われてなければ胃が壊れてましたよ本当に!

 

「とりあえず足切りありですよね? デビュー前の人達以外は未勝利組は申し訳ないけど足切りです足切り!数が多すぎる!」

「おーい、連中から調整の時間が足りなさすぎるから二月くらい時間くれって嘆願書が来てんぞ」

「形式上ただの模擬レースにそんな時間延長なんて認められるわけないでしょう!?」

「お前このレースがただの模擬レースで終わるとかまだそんな風邪ひいて熱出した時の夢みたいなこと信じてんのか!?」

「ネイチャさんが理事長さんにコースを借りるために会いに行くって言ってましたけど、絶対そこで止められますからそんなに慌てないでも大丈夫だと思いますよ? URAもなんとかして時間を作って場所を用意するでしょうし」

「できなかったら間違いなく大バッシングだろうな。と言うかもしそんなレースがあったことを後から知ってしかも映像も無いとか人によっちゃあテロに奔ってもおかしかねえ」

「流石に乱暴が過ぎません!?」

「いやほら参加者が」

「え? ……え!? ハァ!?!?」

「な?」

「いやこれはどう考えてもおかしいじゃありませんの!理屈が通りませんわよ!?」

「お前、ネイチャさんが動いたことで私らの知ってる理屈が全く問題なく通用した事ってどんだけあったよ」

「……ああ、ええ、いつも通りですわね」

「そう、いつも通りだ。だから今回もいつも通り必死にやるだけさ。役得もあるしな!」

 

 そう言いながら小さなお皿の上にあったお菓子をつまみ、口に放り込むポイノさん。ついでに静かに仕事を進めているナノカさんの口に運んでやれば、視線も向けずにカリカリカリとまるでネズミが種を齧っているかのようにクッキーを齧る。物静かではあるもののネイチャ様の食べ物に対しての執着は私達の中でも一番かもしれない。

 頭を使うには糖分が必要だからと言われて渡されたクッキーは、初めのうちは一口食べるごとに意識が十数分ほど消し飛んで仕事にならなかった。けれどそれも一年近く続けば慣れてきて、こうして書類仕事の片手間につまんでも一瞬脳が弾ける感覚があるくらいで初めて食べた時のような脳が焼かれ砕かれ雷に打たれ丁寧に潰され裏漉しされ生地に混ぜられ元の形に成形されたような感覚に陥ることも無くなった。

 一口食べるごとに『ネイチャ様万歳、万歳、万歳』と万歳三唱する姿もあまり見なくなったし、ふとした瞬間に涙を流しながらネイチャ様の気配のある方向に跪いて祈りを捧げることも少なくなった。

 

「あっ、あっあっあっあっアッアッアッアッアッアッアッアッアッカレーカレーカレー」

「正気に戻れ!」

「はっ!? 私は何を……!?」

 

 ただ、なんの脈絡もなく突然に変な中毒症状のようなものが起きることが増えたのはちょっとだけ笑えない話。もう慣れてしまったけど。

 

 さ、これが終わったら晩御飯です。……食事を楽しみにするだなんて、ずいぶん変わったものだ。

 

 

 

 




Q.誰目線?
A.サクラカモネさん。

Q.なんか途中やばいのが居たんですけど。
A.現在の中央トレセンではよくあること。

Q.ちなみに、何に狂ってる?
A.決まってるのはナリタ→カレー、メジロ→スイーツ、ダイイチ→食事という行為そのもの
 くらいですね。

番外編のネタ(すぐ用意できるものに限る)

  • ナイスネイチャ+αのヒミツ(ウマ娘風)
  • ウィニングカラオケ(NN杯直後)
  • 『ハヤイ』という名の馬について
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