存在してはならなかった世界   作:真暇 日間

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絶対に存在してはならない世界74

 

 あのレースの日から一週間が過ぎ、たづなはとある場所に立っていた。

 トレセン学園からウマ娘の足で緩やかに走って10分程度の位置に、小さな小屋がある。つい最近建てられたばかりだと思われるその小屋はこの世界においては非常に珍しい食事を提供する店であるようで、ドアの横に立てられた小さな看板には店名と思われる『Nature's Mark』という文字が彫られていた。

 しかしそのドアには『貸切』の札が掛けられており、明らかに一見さんお断りという雰囲気を醸し出していた。

 

 たづなは手元にある招待状と店の名前を確認して、コンコンコンと三度ノックをした。するとすぐにドアが開かれ、一人のウマ娘が出迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました、駿川たづなさん……いえ、トキノミノル様」

「ミホノブルボンさん……?」

「はい、ミホノブルボンです」

 

 見知った顔。しかし見知らぬ姿。たづなを迎え入れたミホノブルボンは、なぜかきっちりと執事のような服を着こんでいた。

 

「コートをお預かりいたします」

「あ、はい……えっと……?」

「本日は(しゅ)のオーダーに従い、皆様をお出迎えする役割を仰せつかっております。お給料は今回皆様にお出しする料理の試作品の味見です」

「ああ、なるほど……」

「ちなみにそちらで半分液体になっているのがデザートを食べてから未だに戻れていないトウカイテイオーさんです」

「えっちょっまっ」

「味の保証はするよぉ~♡」

「うわぁ……その状態でどうやって喋ってるんです? と言うかその状態でなんで生きてるんです?」

「しらなぁい♡」

「マーベラスさんもいらっしゃいますが、マーベラスさんは室内でのサービスが多めになっております。私も皆様が到着してからは混ざらせていただきますが」

 

 たづなから預かった上着を美しく整えて立体的なハンガーにかけ、ミホノブルボンはたづなを案内する。外から見た時には気付かなかったが、この店は思っていた以上に広い……と言うか、ありえないほどに広い。

 

「お気付きとは思いますが、主の御力により空間そのものを広げられているとのことです」

「……死者を呼び出すこともできることを考えれば、今更と言う所ですね」

「その通りです。……こちらが会場となります。どうぞ、ごゆるりと」

 

 開かれたドアの先は、落ち着いたバーになっていた。カウンター席があり、いくつかのテーブル席があり、中央に今回のような大人数が集まる時にのみ用いられるだろう大きなテーブルが置かれていた。

 既に数人がテーブルに指定された名札の元におり、和やかに会話を始めていたらしい。こちらに気付くと笑顔のまま手を振られたので、たづなも同じように手を振り返す。そして自分の名前の入っている席に座ると、その隣にはつい最近見知ったばかりの人が座っていた。

 

「……キンチェム、さん?」

「はぁ~い♪ キンチェムさんです~」

 

 既に出来上がっているようにも見えるキンチェムは、こちらに向けて振っている手とは逆の手にグラスを一つ、大切そうに持っていた。薄いガラスでできている細長いグラスには泡立ち続ける透き通った褐色の液体が注がれており、その液体を一口ずつ大切に飲んでいたらしい。

 既に来ていた……と言うよりは恐らくこの場に直接呼ばれたのだろう存在達の前にはそれぞれグラスが置かれていて、様々な色の液体がグラスの中で揺れている。

 

「ようこそ☆ たづなさんへのサービスドリンクだよ☆」

「あ、はい、ありがとうございます」

 

 差し出されたのは間違いなくビールであった。正直、初めてそれを飲んでからというもの忘れたことなどなかった。また飲む機会があれば仕事を投げ出してでも飲みに行きたいと思っていたし、なんなら今日の招待に応じるためにいくつか仕事を中途半端な所で投げ捨てて今ここに居る。

 大きなジョッキに注がれた金色の液体。その上に蓋をするように広がる白い泡。ネイチャの言う所のビールであった。

 まずは一口。季節がら身体は冷えていたのだが、この店の中に入った瞬間に何故か寒さが消えてしまっていたことを思い出す。十分に温まっていた体が、口から一度に冷やされる。口の中で弾ける感覚。麦と、何らかの香草のようなものの香り。一口だけのつもりが、気が付いた時にはジョッキの中には僅かな泡しか残っていなかった。

 

「ほら、やっぱりみんな一杯目は一気に行くんだって」

「知るか。好きに飲ませろ」

「バイアリーに出されたそれは、ああやって少しずつ行くのが正式らしいわよ?」

 

 キンチェムの前に座るダーレーアラビアンと、少し離れた位置のバイアリーターク、ゴドルフィンバルブの両名がそれぞれの色の液体をグラスの中で揺らしながら笑い合う。エクリプスがじとりとした目で斜向かいのポテイトーズを睨みつけながらルビーレッドの液体を口の中に流し込み、ポテイトーズは無色透明の液体……目の前にある壜のものと仮定するならば芋焼酎というものを上機嫌で飲み続けている。

 そしてテーブルの奥。一番の上座では今回のレースの勝者である統界帝王が一人、黄金色の濃厚な液体をのんびり啜っていた。

 

「……飲む? 多分びっくりするほど甘いけど」

「いえ、私にはこちらのものがありますので」

「そっか」

 

『本日の主役』と書かれたタスキをつけているのは……多分ネイチャさんの趣味なんだと思う。以前に行われていたG1優勝おめでとうパーティーでは自分以外の優勝者に対してそんな感じのものをつけていたことを思い出しながら苦笑する。

 

 ───ああ、本当に、美しい味だ。

 

 少しずつ酔いが回ってきている意識の中で、そんな言葉が浮かんだ。

 




Q.なんでテイオーは溶けてたの?
A.脳破壊と再生を喰らいすぎて溶けました。ご飯は美味しかったそうです。

Q.なんでブルボンたちは執事っぽい服?
A.ネイチャの悪ノリ。

Q.優勝は、統界帝王?
A.はい。本日は帝王のためのパーティーです。

番外編のネタ(すぐ用意できるものに限る)

  • ナイスネイチャ+αのヒミツ(ウマ娘風)
  • ウィニングカラオケ(NN杯直後)
  • 『ハヤイ』という名の馬について
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