ウマ娘の長い短編集   作:のるどすとりーむ

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エスポワールシチーはトレーナーの前だけだと強く反抗できないし、何なら反抗している自分を見捨てないことキュンとくる概念 12月1日「チャンピオンズカップ」歴代優勝ウマ娘:エスポワールシチー

 「彼女」のことを説明するのに「反抗的」の三文字以外を用いる必要はないのではないか、ふと頭の中で思う。

 

 眼の前にいるウマ娘はエスポワールシチー。俺と契約したウマ娘だ。契約したからには、トレーナーとして精一杯彼女のサポートをしなければならないのだが……

 

「ね、ねえ、今日こそ筋力トレーニングしない?……」

「……」

視線を一切合わすことなく、エスポワールシチーは俺の前を通り過ぎる。そしてそのままトレーナー室を出ていってしまった。

 彼女の評判は前々から聞いていたが、ここまでだとは思わなかった。もちろん彼も彼女に対して対策を何も講じなかったわけではない。思春期に関する本や教育指導の本などを読み漁り、ベテラントレーナーにアドバイスを求めたりして、ある程度、彼女への対応の仕方については、知識を入れたつもりだった。しかし、それが実ることはなかった。

 今の今までなぜトレーナー契約の関係が続いているのかが謎である。

 一人残されたトレーナー室で呟く。

「俺はエスポのトレーナーに向いているのだろうか……」

 一抹の不安がよぎった。

 

────

エスポワールシチーは確かに「指導者」に対しては反抗的だ。しかし、「特定人物」には反抗的であることが難しいのが正解である。

「ね、ねえ、今日こそ筋力トレーニングしない?……」

「……」

 息を止めながらトレーナー室から出る。呼吸をすると、そのまま本音が出そうになるから、少々我慢した。

(……あっぶねぇー……もう少しで「分かった」って言っちゃうところだった……危ない、危ない)

 

エスポワールシチーは、トレーナーに対しては少々弱かった。

(なんでこうも、あーしはトレーナーに弱いんだろ……いや、べ、別にアイツがコワイとかそういうわけじゃねーし!…………本当に何でなんだろ)

 

 エスポワールシチーは俯きながら廊下を歩く。

 向こうからエスポワールシチーの担任の姿が見えた。

「あ、エスポワールシチーさん!今度こそ補習に参加してもらいますよ!」

 エスポワールシチーは指導者を嫌うため、当然「教師」の存在も気に入らなかった。そして当然、勉強の成績の方は芳しくなかった。

「うっせー!」

「なっ!……エスポワールシチーさん!待ちなさい!」

 エスポワールシチーは、べっ!と舌を出して来た道を走って戻る。担任はかつてはトレセン学園にいたウマ娘だと聞く。生半可な逃げ方をしてしまえば、捕まってしまう。故に力をいれて逃げる必要が出てくる。

 

 (あれ……この先って……)

 

 彼女は自然とトレーナー室のあるルートで逃げていた。他にも選択肢はあったはずだが、無意識にそのルートを選んでしまっていた。

 

「ちっ……」

軽く舌打ちをして、そのまま走り続ける。担任が追いかけてくることを計算すると、走って来た道を戻ることはできない

 

トレーナー室を見つけるなり、滑り込むように駆け込む。

ガラララ……バンッ!と勢いよく扉が閉められる。

「ハァ……ハァ……」

 此の程度の距離では、ウマ娘は息があがることはない。しかし、 追いかけられるという極度の緊張が彼女を襲ったのだ。

わかりやすく説明すると、ただプールでクロールするより、サメに追いかけられながらクロールするほうがより緊張感があるということだ。

「エスポ?……大丈夫?息が上がっているけど……?」

 困惑と心配が混ざった表情でトレーナーが尋ねる。

 

「別に……」

 そっぽを向ける。トレーナーからすれば、(俺、嫌われてるのかな……)と思うところであろうが、実態は、ただトレーナーと顔を合わせられなくなっているだけである。理由は彼女本人も分かっていない。

 

「水、飲む?」

そっとペットボトルの水を差し出す。

「…………ありがとう」

 エスポワールシチーは少しの間躊躇った後に、水を受け取った。彼女は別に水を必要としていた訳では無いが、水を断るほどに反抗をしたいわけではなかった。

 

「何があったかわからないけど、奥で休んだら?」

「……そうする」

 

 此のときトレーナーはやけに不思議な感覚を覚えた。先程までツンデレのデレがない、つまりツンドラのようにツンツンしていたエスポワールシチーがやけに素直なのである。

 

そんなことを考えているうちに、トレーナー室の扉がノックされる。

 

エスポワールシチーは誰が来たか一瞬にして理解ができた。そのためトレーナー室においてあるソファの裏に隠れた。

 

「すみません、エスポワールシチーさんのトレーナーさんですよね?」

「ええ、そうですが」

「エスポワールシチーさんを見かけませんでしたか?」

「エスポをですか?……」

 エスポワールシチー自身は必死に「いない」と言ってくれることを願った。それが無駄だと分かっていても。

 

「えーっと……見てないですね」

(え?)

 

「……そうでしたか、ありがとうございます。では、失礼します」

一度間を置いてから、担任は会釈をしてトレーナー室を後にした。

 

トレーナーが振り返り、ソファに座る。エスポワールシチーも隠れるのをやめて、反対側のソファに座る。

 しばらくしてから、エスポワールシチーの方から口を開いた。

「……どうして」

「ん?」

 

「どうして、あーしがいないって言ったの?」

 エスポワールシチーは俯きながら、質問をする。

「どうしてかって?そりゃ……エスポが逃げるようにここに来たから、なんかあったんだろうなって思って……で、その後担任の先生が来たから『なるほど!』ってひらめいたわけさ」

 名探偵が推理を披露するかのように得意げに言う。

 

「そうじゃ、なくて……どうしてあーしなんかを庇ったの?」

 言葉を絞り出すように、徐々に言葉から力がなくなっていく。

 

「どうしてって、エスポにもエスポなりの事情があるんでしょ?」

 

「でも、あーしはいつも、トレーナーに反抗してばっかだし、嫌いじゃないの?」

 支離滅裂になりかけているが、それでも言いたいことをどうにかトレーナーにぶつける。

 

「嫌いな訳あるか。エスポが俺に反抗的になっちゃうのは、指導者の俺にも原因があるんだし。君はありのままでいいんだよ。レット・イット・ビーってやつかな?」

 少々臭いことを言うトレーナーに対して、エスポワールシチーは思わず吹き出す。

「フフッ……なにそれ」

 

「……ちなみに、今日の筋力トレーニングには参加してくれる気になりましたか?」

「いえ、まったく」

「えぇ……」

悲しそうな顔をするトレーナーを見て、微笑む。

「ジョーダンだよ、トレーナー」

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