URAが所有するレース場は全国各地に存在する。これは日本のどこでもウマ娘が自由にレースをできるようにすることが目的だと言われている。裏を返せば、レースをするのに日本各地を訪れなければならない、ということだ。これにはある程度のデメリットがある。一応、金銭面は全額トレセン学園が負担してくれるが、一番の心配は移動によるウマ娘への健康影響だ。日本国内の移動とは言え、ウマ娘にも多少の負担は出てくる。そのため負担を軽減すること、慣れない環境への適応することをを目的として、ある程度の長期滞在が推奨されている。
そして俺とキングヘイローは、西の都と名高い京都を訪れている。現在は新幹線の発達で東京から京都まではすぐに行ける。しかし、それでも万全を期すために長期滞在を決めた。(もちろん京都旅行を堪能したいからというのもあるが)
京都駅のモダニズム的な要素を持つ、特徴的な駅舎から抜けると、そこは京都のメインストーリートに出る。冬の季節の京都は、東京のように冷たい風が吹き荒れるわけではなく、比較的快適である(寒いことには変わりがないが)
「京都だー!……よしキング、清水寺行こう、清水寺」
「はぁ……旅行しに来たのじゃないのよ?」
キングヘイローは呆れた顔でトレーナーを見る。ちなみに、本人はそう言いながら駅から清水寺へ行くバスを探す手伝いをしている。
「お二人方、旅行ですか?」
杖を持った、お婆さんが話しかけてくる。
「ええ、まあ」
「(ちょっと!)」
キングは、囁くようにして突っ込む。
「清水寺へ行かれるなら、あちらのバス停で、二百五番のバスに乗ればいけますよ」
「わざわざ、ありがとうございます」
「いえいえ、それより……」
キングヘイローに耳打ちする。
「新婚旅行、頑張ってください」
「!?」
新婚旅行、などと想定していなかったワードに対してキングは、顔から蒸気が出るのかと思うくらいに赤面する。
「では」
スタスタ、と老人らしからぬしっかりとした足取りで、お婆さんはその場を去っていった。
──
京都の顔とも言える清水寺は人で溢れかえっていた。当たり前のことである。紅葉のピークを過ぎたからといって、かの寺に人が集中しなくなる訳では無い。
「うわ……」
「これじゃあまともに観光できそうにないわね……」
観光どころではない状況に対して、二人が立ち尽くしているところに、
「おおっ、そこの別嬪さん、写真いかが?」と一眼レフを構えた見るからに写真屋の格好の、四十代くらいの女性が話しかけてくる。
「いえ……大丈夫です」
「無料で取ってあげる……いや撮らせてください!着物もタダで貸しますので!」
──
清水寺の近くにある、観光客向けの写真屋を訪れた。
「うおおおおおキングーーー!かわいいぞおおお!」
興奮しているトレーナーの視線の先には、彼女の勝負服のイメージに近い、深緑色の着物を着て、和傘を差している。
もともと大人びた、「美人」という言葉がよく似合うキングの雰囲気と、和の、落ち着いた印象を与える着物が合わさって、それはもうすごい「美人」となっている。かつてあまりの美人さと歌われた「傾城」「傾国」と呼ばれた人々も、キングの美しさには敵わないだろうと、トレーナーは内心思った。
「ちょっ……流石に恥ずかしいというか……」
再び赤面するキング。それもまたかわいいなと思うトレーナーであった。
「なにをしているのです?旦那さんも着替えてくださいよ?」
差も当然の可能ように、トレーナーにも、男性用の着物を渡す。
「え?」
──
「うおおおおおお流石ですーーー!!!眼福ーーーー!!」
写真屋がパシャパシャと連写する。まさか自分も撮られる対象だと思っていなかったトレーナーは目を丸くしながら、キングの横に立つ。こうしてみると家族写真のようにも感じる……と内心トレーナーは思った。
「……」
「……」
二人して気まずそうに見つめ合う。
「すいません、軽くポーズとってもらえますか?」
いつの間にか写真会に発展していることに困惑しつつも、それとなくポーズを取って見せる。
「キャッ!」
キングが軽い悲鳴を上げる。バランスを崩したのか、倒れそうになる。
「……っと、大丈夫?」
間一髪のところで、トレーナーが抱き抱える。意図しない形であったため、お互いの顔が近くなる。
「…………うん」
キングは弱々しい返事をして立ち上がる。キングは心の奥でフワフワと浮いたような感触がした。
──
写真屋を後にして、京都の町中を歩くことにした。古都の名は伊達じゃないほどどこの道を行っても、映画の舞台のような一昔前の建物が立ち並んでいる。二人の足音だけがその町並みを響かせるような、静寂に包まれる。
懐から先程撮ってもらったものを、何枚か印刷してもらったものを取り出す。一枚は手帳に挟んで置けるような小さなサイズ、もう一つは額縁で飾れる、一般的なサイズにした。
「今撮ったやつ?」
キングが横から覗き込んでくる。傍から見れば異常に距離が近いが、本人は全くの無自覚である。
「そう」
「よく撮れてるじゃない」
「だよね」
「特にキングとか、実に最高だ」
「特にトレーナーとか、最高よ」
お互いの声がかぶる。
「……ま、まあそれとして、なんかこう……ちょっとだけ寂しような」
「そうかしら?」
「写真として、俺がキングの横にいたことは残るけど、いつまでも君の横にいられるとは限らないからね」
「…………おばか」
キングに頬を突っつかれる。
「このキングが……アナタが私の側を離れるなんてこと、絶対に許すわけがないわ」
ひと呼吸置いて、キングがトレーナーに向かって言葉を放つ。
「いい?アナタに一生隣にいる権利をキングがあげるわ!感謝しなさい!」
それは別の意味にも聞こえるような言葉であった。
「……ありがとう」
風が一瞬、止まった気がした。