転生者セイズ・ベルベットの憂鬱 作:エリス
「エルソス攻防戦」の討伐隊が全員都市に帰還し、少し経った頃───
セイズがホーム内で見かけたヘグニに怒鳴りつける。
「ヘグニ!こら!」
即ヘグニが逃げ出すが足はセイズの方が速い。やがて観念して捕まったヘグニに声を掛ける。
「アンタ最近私やヘディンのこと恨めしそうに視ているでしょう?大体アンタが何考えてるくらい理解るわよ、男の子だもんねアンタも?
2レベル差も出来た団長のことは一先ず置いておくにしても、アンタは嫉妬で
「ほらほらどうすんのよレベル7の大幹部様に、レベル6の『幹部の真ん中くらい』の中途半端な根暗君は?ヘディンのことライバル視しているらしいけどそれ一方的だったりしないよね?
『因縁?あったかもしれないな…そんなモノも…今ではどうでもいいことだ』とか言ったりしてぇ…」
「ぐ…!そんなことない!」
「うぉ…大きい声出せるじゃない…あはは冗談よ向こうも『今でも意識している』だってさ…まあ、安易に即決着つけさせて負けたほうが使い物にならない腑抜けになられたら困るから、でも『ある日突然』ってのが一番困るから、
もし
「それぞれの3人の役割は聞くまでもないでしょう?ああ、ヘディンの了承は取ってあるわよもう」
まあその程度はヘグニ程度の頭でも理解る。死なせないための
フレイヤの制止の言葉を振り切って聞こえないフリして手を下そうとする可能性までは否定出来ない。その時にはオッタルとセイズが2人がかりで力尽くで止めるのだろう、個々の実力が今の自分達よりも高いのだ。自分たちの因縁など無視して這いつくばらせるに違いない。
「ああ理解った…勝手な場所で始めたりはしない…奴も同意しているのなら尚更だ」
「それじゃあアンタの『頼み事』を言いなさい」
「オレをレベル7にっ…強くしてくれっ!」
「ええ、いいわよ」
あっさりと了承された。蹴落とし合っている他の団員たちでは考えられないことだが、自分に近しい実力者が出てくることにはなんの抵抗も無いらしい。
『洗礼』が減り、冷えた頭で団員たちも最近気付いてきたことだが…最近は最早「派閥内最強」になったところで誰もが一番欲しい「女神の供」というのは務まらないらしい。
未だ最強のオッタルも明らかに供する時間が減っているのだ。だが、「彼女と同じように振る舞うこと」など無理に決まっている。アレは同性かつ一切魅了もされない彼女だから、
自然体に出来ることであり、実力もトップではないとはいえ、非常に高い。普通に人望も他の幹部らよりよっぽどあるし、「気に入らないならかかってきなさい」で大半が黙らされられる。
つくづく同じ派閥の団員と思えないくらい奇異な奴だが、だからこそ大切にされているのだろう。最早主が一番に求めていた「伴侶」など「お前しか務まらないだろう」と誰もが思っているのだが、当人にその気はないらしい。
彼女の魔法の詠唱文にもあるように「自身は主神の娘で友」と在り方を定めているからだ。「主の幸せ」を真剣に想っている彼女でも「伴侶探し」自体は否定しないが「どうせ見つかりっこない」と諦観しているようだ。
何らかのスキルか魔法によるものかは分からないが彼女が昔から時折見せる「未来視のようなもの」は基本外れたことはない。そしてそれに従い多大な功績を生み出す。
【暴喰】と【静寂】の2人を思い留まらせたこと、27階層のこと、ジャガーノート討伐の件などだ。あれ以来順調に頭角を現している誇り高き同胞フィルヴィス・シャリアはフレイヤからの評価も高い。
リリルカ・アーデも居たか。アレが正直一番訳が分からない。当然彼女もフレイヤからの評価も高いが、アレがかつては「虐げられていた元凡夫」なんて信じられないだろう最早誰にも。
お陰でガリバー兄弟はアレ以来「聖女信奉者」みたいな扱いだ。「【ソーマ】潰そう」と昔はよく言ってたし。最近はマトモになってきたらしいがあの派閥も。
そしてアストレア・ファミリアも。自身もアリーゼ・ローヴェルには注目していた身だ。そんな彼女が「伴侶はどうせ見つからない」と諦めているならば何か大きな根拠があるのだろう。
そんな彼女の想いを察し、フレイヤも最近は「伴侶探し」自体に冷めてきた様子がある。こんな思考が出来るようになったのも彼女がファミリアの雰囲気をマトモな方向に持っていってくれたからだろう。
「洗礼」の熱に浮かされている内には無理なことだ。「ようやくマトモな『探索系派閥』になってきた」なんて他所からも言われている始末だ。そして結局
「で、団長の後追いってのも不満だろうけど『バロールソロ討伐』…アンタ出来そう…?」
「流石に無理だな…というか6の時にそれをやったアイツがおかしい」
「理解っているわ『推奨レベル』ってのは本来そのレベルに達した者達が徒党を組んで討伐するモノだろうからね、況して階層主というのは…でもだからこそソレを下回るレベルでソロで達成すれば『誰もが認める偉業』となる。」
「じゃあ一番厄介な
「うーんそれだけで充分な【偉業】な気もするけどもう一押し欲しいわね、アンタ、ウダイオスとソロで対峙した時行動パターン変わるの知っている?」
「ああ、オッタルが1人で倒したという時のアレだろう?お供のスパルトイの群れを出さなくなり代わりに大剣を持ち出し自己強化をすると、それを倒せば剣そのものも手に入るというやつだろう?」
「うんアンタはそのモードとの相性は良くないだろうから…だから私も戦場の【玉座の間】の奥に入って、アンタは通常モードのウダイオスの相手をすればいい。
私はスパルトイを適当にいなすだけでそっちもきちんとアンタが狩り尽くしなさい…これはこれでほぼ実質ソロ討伐みたいなもんだけど、どう…出来そう?」
「ああ…多分」
「そ。じゃ挑戦する前にちょっとアンタの強化、出来そうか試してみましょうか。ヴィクティム・アビス持って表に出なさいな」
───
「私代償ありきの
「ああ、後悔するなよ?」
「ハッ誰がっ…」
「シィッ!」
キキキンッと甲高い音と火花が散って増えた斬撃が全部相殺される。
「ハ?」
「対人魔剣*1とまではいかないけど…
アンタの格下狩り特化のせこい武器なんて私くらいになると通用しないわけよ。実際団長には一撃で捻じ伏せられていたでしょう?」
「その『増える斬撃』の発生場所調整出来ないの?ちょっと貸してみなさいよ、それ」
了承の声も確認せずにサクッとヘグニの手から剣を奪い取る。そこまで速くもない動きで。こうしたところで彼女の技量の高さを垣間見る。
最初は雑にブンブン振り回す。段々動きが良くなる。増える斬撃の範囲が段々と狭くなる。
「ほら、こうやって、だんだん…よし…この増える斬撃を剣に留めたまま一気に放出するイメージで…フッ」
空に向かってバカでかい黒い光が放たれた。
「ハ?」
「被害出ないように空に向けて放ったけど…体力吸われるのがめんどいわね、この武器…アンタも今の出来るようになりなさい、休み休みで練習してみてさ」
「言っておくけどレベル7以上の剣士は皆似たようなこと出来るわよ?私はレベル6の時はスキル込みでやっとだったけどさ、あ、言っておくけど今のはレベル6くらいの力でやったのよ?だから今のアンタにも不可能じゃないはず、この武器結構やり易い条件揃っているし…」
「レオンさんは大袈裟に『残光』とか名付けていたけどザルドさん達曰く『出来そうだから飛ばして見せただけ」だってさ…私がアルフィアさんから見せてもらった時は密林が一太刀で断たれて巨木から何から何までモンスターもかなり巻き込まれていたけどさ
『ズズーンズズーン』って、ぜーんぶ倒れちゃって伐採後の森林みたいに切り株だらけになっちゃってさ、アレでよくジャガーノート出ないわよねえ、木もダンジョンから生えているのに『有機物はダンジョンの一部ではない』とかいうガバ判定なのかしら?」
「ほら…『道』は示したわよ?なら後は簡単でしょ?」
なんでもないことのように言うが…正直オッタルよりこの女のほうがヤバいだろう…レベル8になればもう冗談抜きで世界最強になるんじゃ…この剣の腕ですらこいつの強さのほんの一部に過ぎないのだ。
だが「数少ない得難い同胞」と想っている仲間から「お前なら出来るだろう?」と言われてしまえば…自身にもちっぽけだが「戦士の誇り」くらいはあるのだ。
この1ヶ月後くらいに2体の階層主を1回の遠征で討伐を成功させたヘグニ・ラグナールは新たなレベル7になったのであった。
発想の元ネタはコナン作者の旧作、YAIBAの【