転生者セイズ・ベルベットの憂鬱   作:エリス

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第23話 中層トラブル

 リリルカ・アーデは自分が「聖女」と呼ばれてもかつてはすんなり入ってこなかった。だって、立ち居振舞が聖人じみていたわけでもないし、暗黒期に活躍して人助けしたわけでも回復魔法が使えるわけでもない。

「武力特化の女戦士を【聖女】と呼ぶのはどう考えてもおかしい」と思うのは当然の思考回路だろう。「頭が良い」というのも実はあまり知られていない。「勇者(ブレイバー)の弟子」ということで察している者も多いが。

三大派閥の上位陣は当然皆知っている。フィンのことは武力で越えた今でも一応敬意は持っているが実戦で彼と知恵比べをすることなんて考えたくもない。

フィンだけに教わっていたら「既知である互いの思考の癖を読み合う」とかいう不毛なことになりそうなので、セイズの紹介で【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】にも教えを請うた。

彼は出来が良く強い意志を持ち続けられる相手に対しては比較的寛容だ。あくまで()()()()だが。主神以外の全てにナチュラルに鬼畜なのは変わらない。特に頭脳面で自身に付いていける人間は貴重だったので、割と気に入られていた…ように思える。

「頭の出来は自分達と同格」と評されても、結局は経験の差と歳の功で、まだまだ不利なのは否めないが。

 とにかく「聖女」の称号が、「自分には似合わない」と思いつつも「恩人(セイズ)とお揃い」という一点だけで全て許容出来るのだ。「聖女コンビ」とも呼ばれているし。

経験不足を補うためにも新人たちの面倒をなるべく引き受けて指揮を受け持ったりもした。観察眼には長けている方だとは思っているが、

冒険者は同じポジションの者たちでも個性が千差万別で、指揮官はまずはそれを把握しなければいけなく、「指南書通り」というモノが存在しないことを知った。つくづくバラバラの個性を纏める一族の英雄(フィン・ディムナ)の凄さが理解るというものだ。

今では偶に遠征を共にするオッタルやセイズやヘディンら【フレイヤ】上位陣にも指揮を預けてもらえる程度には認められている。【アストレア】の上位陣の先輩達にも。

【ロキ】の情報もある程度把握させているし、セイズはどうやら最終的には「派閥の枠を超えた人類の力を結集させる時の総指揮官」という役割(モノ)を自分に見込んでいるらしい。

あの勇者(ブレイバー)をメインではなく「予備」と見込んでしまうのはすっごい判断だとは思うのだが…

オラリオ上位陣とでも基本的にはサポーターとして活動するが、手が足りなくなった時のみ槍を振るうことにしているのであまり積載量を増やさないことにしているのだが。

まあセイズが居て更にオッタルやヘディンまで居る時に手が足りなくなることはほぼ無い。だから最近は指揮官兼サポーターとして動くことが多かった。

ベルと組むようになってからは意外なことにやり易かった。「普通のレベル1」と見做すのは割と最初の方から無理だったが、とにかく素直で歳下と偽っていた時の自分の指示も結構素直に聞いてくれたからだ。

人を信じ易過ぎるきらいがあったが、決してバカでも愚鈍でも無く、自身で考えられる頭をきちんと持ち、分からないことがあれば素直に教えを請える潔さも有り、妙なプライドに凝り固まっている歳上の冒険者には無い素直さは高評価だった。

「マナナ」として動いていた時からベルに対して指示出しはしていた。その時の貫禄や慣れた感じから「実は高位の冒険者では」と薄々思っていたらしい。

流石に生死に関わる指揮で手は抜けなかったので、どのみち隠し通すのも難しかったかもしれない。

 そうしてヴェルフ・クロッゾと組み3人で潜るようになってから…彼も大半のゴロツキじみた冒険者共よりはマシな方だった。実力も人格も。

実力は「レベル1にしては」という注釈が付くが。それに彼の魔法の詳細は知っている。ダンジョンの判明している限りの大物の何割かには刺さるし、とてつもなく有効だ。対人戦でも。

「武の才能は普通」とのこと。まあ自身の見立ても似たようなモノだ。だが、彼の魔法なら確かにバロールを少数討伐も可能となるだろう。実際にほぼヘグニのための遠征に着いていきその有用性も目撃した。

まあ彼女が使い手だから本来より性能が上がっていた可能性が高いが…鍛えればレベル5くらいならなれる可能性がある。

これはセイズとの共通の持論だが。基礎能力はそこそこの凡才程度でも、環境と師匠と熱意次第ではレベル5くらいまではほぼ誰でも到達出来るのだ。こんなこと言ったら低レベルで燻っているオラリオの大半の冒険者を敵に回すだろうが。

本当の「平凡」と「非凡」の境界は第一級とされるレベル5からではなく、6からだと思っている。10代でレベル5以上に到達している者は紛れもない天才だろうが。

セイズはそのあたりの「試練」の見極めというか「上位の経験値(エクセリア)」の獲得が上手い。自身含めた5人のレベル7と4人のレベル8を誕生させているのだから、その手腕も推し量れるだろう。

彼女が本格的に鍛えればヴェルフ・クロッゾにも新たな境地が開けるかもしれないが、現状では厳しいと言わざるを得ないだろう。

たとえヘファイストスに匹敵する鍛冶師になれたとしても、戦士として前線に立つのを続けるのなら、妙なプライドなど邪魔にしかならないからだ。そんなことでヴェルフ・クロッゾとリリルカはあまり相性が良くない。

戦闘中に指示を無視するような愚は犯さないのだが、後で不満を漏らすことがしばしばあるのだ。何回か「正体を明かしてブチのめしたろか」と思ったこともある。

今のところリーダーで一番強い(表向き)ベルが大人しく自分に従っているので、大きな問題になっていないが。

「魔剣を作らない」という方針も理解に苦しむ。「『剣』じゃなく魔道具…『使い捨ての消耗品』として割り切れれば良いのにねえ」とはセイズも言っていたが。「他人が言っても反発して逆効果にしかなんないから今はそっとしておきなさい」

と言われたけど…セイズ自身は持って生まれた能力(チカラ)にあんなに真摯に向き合って研究しているというのに…リリルカの能力(チカラ)もほぼ裸にされていると言っていいほど研究させられた。「生死に関わることだから当然」とも言い切られた。

セイズに言わせれば「大半の冒険者は自身の能力(チカラ)の研究が甘い」とのこと。魔法にせよスキルにせよ、だ。自身も特異な能力(チカラ)を持つようになってからは強く共感するようになった。

自分も変身魔法(シンダーエラ)を研究し尽くしたし。結局ダンジョンでモンスターに変身しても普通に襲われてしまうことが分かってからは対人専用になってしまったが。

 なんだかんだ上手くいっていたのだベル達とも、自身の「今出せる範囲での全力」を存分に発揮して臨んでいたのに…

 

「押し付けられました!」

 

おっそい動きで桜花達タケミカヅチ・ファミリアの面々に押し付けられる。その気になれば怪物進呈(パス・パレード)されたモンスターを一瞬で斬り伏せて彼らも叩き伏せて即報復することも出来た。

【タケミカヅチ】の面々とリリルカは顔見知りであった。セイズの紹介でタケミカヅチには稽古を付けてもらっていたこともあったからだ。まあ緊急時故しょうがないのだろうが、それはそれとして後で、イビってやる。

流石にこの窮地で自身の力を隠し続けることはしない。懐のナイフを抜いて対処する。レベル4程度の身体能力と無駄のない動きで次々とモンスターを灰にしていく。

普通の獣が相手なら死体が残って屍の山が築かれ動きを阻害していただろうが、相手はモンスターだ。的確に魔石を一突きにすれば、すぐ灰になり行動に支障は出ない。

小柄な身体にナイフという圧倒的リーチ不足を感じさせない流麗な動きで次々と懐に入って一刺しで仕留めて、それを続けてやがて乗り切った…と思ったら天井が崩落してきた。

流石にレベル4程度では乗り切れなかったので結構本気を出して強引に、落ちてくる岩石を弾いていった。

 

「ヘスティア様…リリから報告『中層でトラブルがあって帰還が遅れます、絶対無事に送り届けてみせますので心配しないでください』とのことです。」

 

セイズがヘスティアとアルフィアにそう告げる。

 

「そうか…まあ彼女がついていれば大丈夫だよね?」

 

「確かにリリが本気出せば強引にベル達を安全に連れ戻すことも出来るでしょう、ですが『それ』をやったら多くに目撃され今後彼らは組みにくくなる。それは相性が良くパーティとして噛み合っている彼らの本意ではないでしょうだから私が迎えに行きます。

事情を知るタケミカヅチ・ファミリアも戻ってきたらそちらと一緒に…ヘスティア様はお留守番ですからね?」

 

そうしてタケミカヅチ・ファミリアのホーム付近で戻ってきた者達を含めて事情を話し合っていると強引に割って入る者が湧いてきた。

 

「オレも協力するよヘスティア!あと、ついていく!」

 

セイズに極寒の視線を浴びせられ冷や汗をかくヘルメス。

 

「それには及びませんよ…私の手の者が既に彼らついているから万一も有りません。確かにアスフィは戦力になりますが、この私が居るのにそこまでは過剰でしょうよ」

 

「そんなこと言わずにさぁオレも君たちほどの面子が期待する英雄候補の力、見てみたいんだよぉ~ゼウスの方にはセイズちゃんが『賢者の発明品』まで使って逐一報告しているらしいから、

反応芳しくないんだよね…『セイちゃんの方が有能すぎ』なんて言われてさぁ…」

 

恨めしそうに言うヘルメス。

 

「はあ…まあいいでしょう…ゼウス様への報告は半分以上が貴方への嫌がらせが目的でしたからね、その埋め合わせくらいはさせてあげましょう…但し護衛は全てアスフィが受け持つこと…良いですね?」

 

「それと…神のダンジョン入りがバレて罰則(ペナルティ)科せられても私は庇う気無いですからね、今やCランクにもなる貴方達への罰金…相応の額になるでしょうねえ」

 

そうして捜索隊(過剰戦力)が結成され余計なオマケもついてダンジョンに潜っていくのであった。

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