転生者セイズ・ベルベットの憂鬱 作:エリス
ある日のバベル最上階───
「アポロン・ファミリアが…貴女の『仮の姿』を探っているようね…それに【神の宴】…招待がきてたわよ…貴女の言う通りに」
「まあ当然ですね…奴らの団長を赤子扱いにしたんですから素性を確かめて敵対しないという確信が持てない限り恐くて本格的に仕掛けられないでしょうよ…せめてベル君とザルドさん達が繋がっていることでも分かれば自ずと
『セイさん』の正体も絞れたでしょうが…アストレア・ファミリアでの訓練も知らない奴らじゃあ特定は無理でしょうよ…」
「じゃあ?」
「いえ…結局堪え性の無い
無駄にある能力の高さで大体が思い通りになるから基本的に堪え性が無い。根本的には自身の命までは脅かされないから危機察知能力が著しく低い。」
フレイヤ様が眼を逸らす。落ち着いて熟考すれば頭そのものは殆どの神々が良いはずなのに深く考えずに感情と衝動だけで生きているようなのばかりだから大抵が「ロクデナシのバカ」にしか視えないのだ。
「随分前から『仕込み』はしておいたし『あの子達』も使うから余裕でしょうよ、本来の力量差と正当性考えればザルドさん達ぶっ込んでも文句言われる筋合い無いと思うんですけど『それじゃつまらない』とか言って殆どの神々が反対するんでしょう?」
「フレイヤ様は『都市外の冒険者の助っ人1人』だけを認めるように進言してくれるだけで良いです。ぶっちゃけその必要もあんまり無くなってしまったんですが…ロキ様やヘファイストス様、アストレア様、エレボス様、タケミカヅチ様、デメテル様らに話は通してあります。
ついでにヘルメスも。」
「分かったわ…くすくす勝ちを確信したアポロンの顔が絶望に歪むのは楽しみねえ♪」
そしてアポロンからの【神の宴】の当日、私はフレイヤ様のパートナーとして出席した。
こういうのは普通は異性が良いと思うんだけどね…
みたいな考えを幹部連中でも共有するようになってきたので、隣りにいる団員はあまり定まっていない。その筆頭が元々私だったし。
だが、畏まった場なら尤も相応しいのは私になるのである。そうじゃなきゃヘディンあたりだろう。団長じゃフレイヤ様以外の話に応じず寡黙につっ立っているだけだろうし。
いくら「冒険者は強さ第一」とはいえ限度があるだろう。私は元王女のアスフィを雇ってその手の作法は学びまくったし、女神レベルには及ばないが美人だし、強い。
まだまだ若く超美人で同性では同格も存在しなく、個人の実力では事実上の世界最強であるアルフィアさんでも私と比較すると「名声」という点では一歩劣る。人当たりが良くなく「恐さ」が先行するからだ。
アレでもザルドさんから言わせれば「お前らのお陰で丸くなった」らしいが。人当たりの良い私は外交役みたいなモノだ。ヘディンじゃ協調とか無理だし。
というか私が居なかった場合の
交渉なんてものも殆ど挟まずにフレイヤ様の魅力と武力を背景にした強引なゴリ押しばっかだったのだろうきっと。あの鬼畜眼鏡が恫喝紛いの強引な舵取りをしていたのが目に見えている。
そらそれが通用しない少数の女神様達には嫌われるわ。私はハトホル様達あたりにもウケが良いのである程度の緩衝材にはなれている。デメテル様以外に
ちなみに「友達少ない」はフレイヤ様以外でもロキ様やヘルメスとかにも刺さる。神話的にはロキ様とトール様とか仲良いはずなんだけど地上には居てもオラリオに居ないし…イズン様もだけど。ヘルメスはエレボス様くらいしか居ないし友達。
───
ベルは入場してから早々にヘルメスに捕まっていて会話をしていた。そして
「おっと…大物の登場だ…セイズちゃんも今日は決まってるねえ」
普通なら同じ女性が着飾ったところで全て
自然体でも「覇気」とでも言えばいいのか
「あ…セイ姉…ってことはアレがフレイヤ様…?」
「君は彼女の弟子でもあるんだっけね…この街のパワーバランスのことなんかはあんまり聞いていないのかい?アルフィア達はあまり興味無さそうだからねそういうの」
「ええ、はい、触り程度しか…」
「一昔前まではゼウス・ヘラの独裁状態だった。ザルドやアルフィア達ですら頂点に近い位置に君臨はすれども幹部の1人でしかなかった。とはいえ流石に今のレベル8ともなれば
かつての頂にも届きそうな位置に居るがね。アルフィアなんて『病気さえなければ
「凄かったんですね…おじいちゃん達…」
「だが黒竜討伐の失敗もあってゼウス達は去った。数年前までは『代替わりは失敗した』なんてのが大方の評価だったんだけどね…
今のフレイヤ・ファミリアは勢いがある。それに暗黒期を経て頭角を現してきたアストレア・ファミリア…僅か数年で三大派閥状態にまで持っていかれるとは殆どが予想外だっただろう。
セイズちゃんが彼女らを昔から眼にかけている、というのを聞けば彼女の【眼】の確かさも理解るものだろう。
更に【フレイヤ】はレベル8の【
彼らがマトモに連携出来るようになれば一昔前の最強たちにも劣らないだろうね。それだけ【
君も受けただろうあの常識外れのバフを。個人の戦闘力でもトップクラスなのにあんなモノまであるんだ。今は『ロキ・アストレアで連合を組んでも厳しい』というのが大方の見立てだ。
【ロキ】と【アストレア】の子達も勿論素晴らしいんだが…『聖女の有無の差』は大きい。【フレイヤ】は彼女以外の
「やっほベル君にヘルメス、面白い話をしているじゃないですか…ベル君そんな奴に聞かなくても私が直接教えてあげても良いんですよ?」
「う…セイ姉あんまり【ファミリア】のことは自分から話してくれないから…」
ベルとヘルメスが話し合っているところにセイズが割り込む。
「やあやあやあやあ!そこに居るのは我が友ヘルメスに期待のルーキー君にセイズちゃんじゃあないか!」
「フフ…俺は
エレボス様まで割り込んできた。今日はパッと見は三下臭など全く感じさせない見事な貴公子だ。私がかつて話した【知識】のことで揺さぶりをかけているのだろう。あわよくばなんか面白い話を聞き出せないか、とかそんなとこだろう。
「ザルドさん来てないんですか?貴方がベル君と同時にいると声がそっくり過ぎて耳が混乱するんですよ」
「アハハハヴィトーは御存知の通り出向中だからねえ今日のパーティも『眷属帯同が許可されている』ってだけで別に必須なわけじゃない。
オレの眷属が2人だけなのは有名だからねえ。本人らの知名度と合わせて。君のお陰さ。ザルドもそうだったが、特にヴィトーの方は本来君以外じゃ絶対無理だっただろうよ。
ザルドはまあザ冒険者って感じの巨漢だからねえ若返ったとはいえ…『ああいう場には合わない』だってさ。」
「
「『
ひらひら手を振ってその場を後にするエレボス様。
「セイ姉…エレボス様って…」
「ザルドさんの主神ってことでベル君も興味あったんだろうけど…あの方も根っこの部分は決して邪神なんかではなく、悪いお方ではないのだろうけど、基本的にはそこのヘルメスと同類のロクデナシなんで、敬意なんて持たない方がいいと思うわよ?」
自分ではそう言いつつも「様」付けで常に敬語を使っている程度には敬意は持っている。セイズは「様」付けしない神の方が珍しい。「神◯◯」のような呼称もあまり使わない。
呼び捨てにするのは基本的には
その後はデメテルやヘファイストス、アストレアやタケミカヅチやミアハ、ロキ等の神々と談笑し、何柱かの男神やベルともダンスをし、やがて───
「───諸君、宴は楽しんでいるかな?」
「
ヘスティアとの少しのやり取りの後にそう言い放つアポロン。セイズがアストレアに目配せをする。
このような理不尽な場面で況してや
ちなみにセイズの頼みでリリルカが改宗すれば一瞬で色々と終わる。アストレアなりにリリルカのことも可愛がっていて、リリルカも主神を慕ってはいるが、本人のスタンス的に「セイズ第一」なので受け入れ先が信頼出来る神相手なら手放すのも惜しくはない。
「重傷?そちらの団長と
素直に『ベル君の貞操狙って眷属に茶番を演じさせた』って言ったらどうなんです?ほらほら。どうせその【代償】とやらも『ベル君よこせ』とかそんなんでしょう?」
全部が筒抜けなことに一瞬、頭が真っ白になるが、正面から人間相手に
「聖女…フレイヤ眷属の君には黙っていてもらおうか…いかに君とはいえ…この私の愛を阻むのであれば…ハッ『セイ』という女はまさかっ…!?」
「クスクス今頃気付いたんですね…お馬鹿さん♪なぁにが愛ですか。貴方の【ソレ】はそんな高尚なモノでなく単なる醜い肉欲に過ぎないのでしょう
「
聖女の宣言。オラリオの住人にとっては事実上の死刑宣告のようなものだ。下界の人間にここまで言われたら、神威を解放して膝まづかせたくなるが*1今でも付近から眺めているフレイヤが
厳しい視線を浴びせている。「私のセイズにクソみたいなこと言い放つつもりじゃねえよなゴルァ?」というのが伝わってくる。セイズ1人だけでも簡単に皆殺しに出来る力量があるのにフレイヤ・ファミリアそのものを敵に回したらこの街に居場所が失くなる。
というか既にこの場に味方が1人も居ない。「唯単に強いだけ」のフレイヤ・ファミリアだけならともかく、「聖女が味方するほうが正しい」という図式がオラリオでは、特に民衆の間では出来ている。
結局屈辱と針の筵の中アポロンはヘスティア・ファミリアに
「証人」も準備していたらしいがそんなもの聖女がヘスティア側についた時点で意味がない。
一歩引いて眺めていたロキはセイズが挑発しているあたりでは腹を抱えて笑っていたが、未来を知り、勝利を確信しながら挑発しまくって逃げ場を無くさせていたその容赦のない手際にドン引きした。
(何より普通なら絶対反対したであろうドチビや良い子ちゃんのアストレアが特に反対せずにあっさり受け入れていたこともや。勝ちを確信しているかのような奴らの動き…アポロンは「詰み」やな。
まあ「欲望に駆られた自業自得」と言ったらそれまでなんやろうけど。)
「ロキ…大丈夫なの?」
アイズがちょいちょいロキの脇腹をつついて聞いてくる。
「ああ、少年は大丈夫やろ、セイたん達のアレは勝ちを確信している連中の動きや」
(それに「悪のアポロンと被害者のヘスティア」って図式が完全に出来上がった。勝っても負けてもオラリオに居場所が無くなる。セイたん自身がどこまで理解して利用しとんのかは判らんが恐すぎやなアポロン如きじゃもうどうにもならんやろうで。)
結局勝負は2週間後と決まった。セイズをよく知る者達からすれば既に結果そのものは視えた茶番に成り下がっていたがベル・クラネルの実力を見るのには間違いなく良い機会だ。それに大半の神々からすれば「聖女の弟子」という事実は予想外だった。
トントン拍子で