転生者セイズ・ベルベットの憂鬱   作:エリス

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第32話 期待の新人(レベル8)

 アポロンは正史(ほんらい)通りファミリア解散から資産没収の運びになり、きょうだい分(アルテミス)からの

 

「評判が悪すぎて偶にこちらにも苦情が来る、更生して一から出直せ」

 

という伝言をセイズの口から伝えられてオラリオから追放された。太陽神は普通に神として格が高いので、彼の神血(イコル)の採血と引き換えにセイズが10万ヴァリスほどを与えたりもした。

正史(ほんらい)よりはマシに見えるが、暗黒期でなくともオラリオ外は普通にかつてのエレボスの如くお金を奪われ兼ねない治安の悪さがデフォだが、眷属も0になっていたのでそのへんはどうしようもない。

 

そして新生ヘスティア・ファミリアの新ホームにセイズはやって来ていた。絶賛改装中だ。まあ普通に教会にも出入りしまくっていたし、今更だ。リリもいる。

 

「へえ最高レベル3程度のファミリアでも人数そこそこ多いと結構資産貯まるもんなのねえ…ウルこのきもーい像潰して何かに有効活用出来ないかな?どうせこんなんじゃ売るどころか処分代かかるだろうしなんかの鍛冶材料に出来ないの?」

 

「うーん銅像ですし、武器には不向きですからねえ、いっそこのまま別の銅像にしてしまいましょうか。団員全員分とヘスティア様と、ザルド様とアルフィア様とセイズ姉様の分まで…

いえ、それでも余りそうだから他の姉妹とリリ姉様とヘファイストス様とアストレア様とフレイヤ様の分も作って送りましょう。お三柱(さんかた)のは良いお土産になるでしょう。芸術関連は疎いですけどそっくり作るだけならそんなに難しくないですし…」

 

凄い作業量に聞こえるが彼女はモノづくりに特化した魔法を持っているので大した手間でもない。その後は入口付近に立派な銅像が複数飾られた。

 

「ザルドさんやアルフィアさんの分の部屋はともかく、私やリリの分まで部屋用意したの?」

 

「ああ構わないさっ!君達は既に『名誉ヘスティア・ファミリア団員』だからねっ」

 

ヘスティアが笑顔で親指を立てて答える。ベルの早熟スキルが可愛く見えるレベルの秘密を抱えまくることになったヘスティア・ファミリアだが、奇妙な産まれであっても新しい眷属たちは可愛いものは可愛い。

ちょっと出来が良すぎる子達ばかりで周りに怪しまれ出しているが出自の似ているアイズ関連で他人事では無いロキまで普通に味方になってくれている。同じように秘密を知る【フレイヤ】や【アストレア】も事実上の味方だ。

それにどうもこの街では「聖女(セイズ)に慕われる」というのは一種のステータスらしい。天界で関わりの薄かった神々もこちらと関係を持とうとしたり探ってきている。

今まで散々お世話になっているし今更距離を置けるわけがない。それにヘファイストスやアストレアら神友(しんゆう)達にまで大事な存在を預けられているのだ。

ヘファイストスがあそこまでデレデレしているのなんて初めて見た。自分と同じ名前(ウルカヌス)を名付けることを許可しただけのことはある。

純粋な精霊だったらそこまで可愛いとは思わない。所詮は神々(じぶんたち)似非(えせ)に過ぎないからだ。

だが、【ワルキューレ】の面々は精霊由来の強力な力を持ちながら、地上の子でもあり、自分たちの特徴も継いでいる。誰だって自分に似ていてかつ出来の良い子は可愛い。

アルフィアからの「良さそうな眷属候補がいたら紹介してくれ」という注文に500%以上で応えた結果らしいが。

そのアルフィアからしても予想以上過ぎる出来だったらしく「加減しろバカ」とも言っていたが。

自身の望んだような眷属作り(キャラメイク)をするなんて丸っ切り神視点(プレイヤー)からの行いそのものなのだが、彼女がどのようにしてその視点を持つに至ったかは気になるが、藪蛇だろう。

 

あのフレイヤやアルフィアが入れ込み、公正中立のウラノスまでが気に入るだけのことはあるわけだ。

 

それから数日後───ヘスティア・ファミリアは新入団員を募集していた。入団希望者は300人以上と非常に多く戦争遊戯(ウォーゲーム)の宣伝効果は大きかった。

正史(ほんらい)ならイケロス・ファミリアやら何やらの危険な連中と()り合うことになっていた以上死ぬ可能性の高いレベル1の新入りなんてヘタに入れられなかったのだが、そいつらが消えて無くなった上に全体的な底上げも出来た以上、

普通に入団させても問題はほぼ無い。派閥を成長させるのは本来はこうした地味なことの積み重ねなのだ。まあベルとワルキューレなんてSSRの面々に(ミコト)やヴェルフもSRくらいは普通にある。

ヘスティア様も一般的な(コモン)に慣れておくべきだろう。

 

「とんでもない子達ばっかり入団しちゃったけど在野にも光る子はいるはず!きちんと見極めて面接していくよっ」

 

「良からぬ輩は私とセイズ様が弾いていくので気楽に構えててくださいよヘスティア様…」

 

「しっかしなぁあのワルキューレの面々とベルだけでもう大抵の中堅より上なんじゃないか?あいつらも、もう殆どレベル2だろ?」

 

全員が全員あの戦争遊戯(ウォーゲーム)でランクアップしたわけじゃないのだが、後日セイズが付き合ってきっちり全員ランクアップさせた。今日アストレア・ファミリアからはリリルカの他にライラが来ている。

リリルカは基本常識人側なのだが、セイズと一緒だと止めないどころか普通に一緒にバカをやる時がある。リリルカは今のアストレアでの戦力面での2トップだが、自分より古参の先輩の言うことは普通に聞く。

ライラは特にお世話になった先輩なので、自分より弱かろうが敬意を持っている。小人族(どうほう)を完全には見限っていないのも彼女の存在が大きい。ライラの護衛としてティオネを撃退したことなど数知れない。

今日のライラはお目付け役ということだ。セイズが昔のアストレア・ファミリア(じぶんたち)以上に入れ込んでいるのだ。ヘスティア・ファミリアには。ある意味では文字通りに「自分たちの後輩」だ。気になるのが人情というものだろう。

先日の戦争遊戯(ウォーゲーム)の効果は大きく、冒険者志望の若者達が多数面接を受けに来ている。

 

「───というか仮にも他所の私とリリ達帯同って…それでいいんですかね?」

 

「リリ君のお陰で少しは成長したとはいえベル君はまだまだ騙され易いからねっそれにキミは幾多の冒険者志望を捌いてきた鍛えられた面接官と聞いているぜっ?」

 

まあそれを言われると弱い。対立派閥(ロキ・ファミリア)にまで人員を送っている実績まであるのだ。まあ本気でロキ・ファミリアと相争うような関係は真っ平ごめんだが、

それなりに意識し合って対立して緊張感は保たれていた方が良い。「身内にしか競争相手が居ない」なんて思われる方がよっぽど不健全だ。

 

「まあ貴女様に任された仕事なら今日はきちんとこなして、善良で見どころありそうな子はきちんと確保しておきますよ」

 

そして粗方面接が終わり大半の眷属候補を絞り終わった頃にある男女の二人組が現れた。

 

「ふむ…後の方に来て良かったな大半の有象無象共は捌けたらしい、それになかなか良い建物じゃあないか、セイズの策に乗って私達との関係を隠し、ゴミ共に仕掛けさせたのは正解だったようだな」

 

「なあ『この形』で来る必要が有ったのか?俺達の入団を断れるファミリアなんてあるわけないだろう」

 

「まあフレイヤ連中と()り合う必要が無くなったらしい以上私達が無理に入る必要も無かったのだが…それはそれとしてどこかの探索系に入っておいた方が良いことには違いないだろう。

偶にベルやセイズの要請を受けた時はこちらの方が動き易いだろうからなベル達にはサプライズというやつだ、セイズとヘスティアはもう知っているがな」

 

「まあ俺もヘスティアは気に入っているから構わないんだが…」

 

「これでセイズまで入団してくれていたら最高だったのだが…」

 

「ガキ共を育てるのにあいつ以上の人材は居ない、あいつの望む場所で望むようにしてやった方が一番良いのはこの7年でよく理解っただろうが」

 

かつてのヘラ・ファミリアだったらとっくに奪っていてもおかしくないほどの人材だ。ヘラも間違いなく気に入るし。

 

「実際に【フレイヤ】のガキ共も結構やるようにはなってきている。オッタル以外の連中もな、【ロキ】と【アストレア】連中の方にはこれから本格的に着手する見込みだそうだ。」

 

ザルドは「真っ当に後進を育成してくれ」というかつてのセイズの言葉を忠実に実行しており戦いの野(フォールクヴァング)にも結構顔を出している。

まあいくら広いあの場所でもレベル7以上が本気で激突すると普通に崩壊するので、そのレベルの連中とは流す程度なのだが。

レベル6以下の連中が連携も碌にせず、殺意全開でバラバラに襲ってもあっさりとノされる。【ロキ】も幹部陣だけは特例で参加している。二軍以下には内緒で。リヴェリアだけは最近は別口でセイズによって近接戦闘を仕込まれているが。

弟子(レフィーヤ)の予想外の成長に焦ったとかなんとか。

 

「ふんセイズが居て他のレベル7以上が1人だけという(てい)たらくのままだったらとっとと叩き潰してたやもしれんがな…」

 

「まあ俺達もここでは『新人』らしい。初心に戻ったつもりで行ってみようじゃないか」

 

そしてそのままワルキューレの面々の案内を受けて面接室まで導かれる。彼女らとは普段からよく関わっている上に、2人は「勇士」としての魂の質は極上だ。敬愛する長姉と自分達の師匠でもある。

大半が口をあんぐり開けて驚いていたがそのまま部屋に顔を出す。

 

「よう…面接希望者2人だ…構わないかい?」

 

「お待ちしておりましたよ…ヘスティア様はずっとソワソワしていましたし、どうせなら真っ先に来て欲しかったのですが…」

 

「なに…真打ちは遅れて登場するものだろう?それじゃあ【静寂】のアルフィアと…」

 

「【暴喰】のザルド2名面接希望者に追加だ…」

 

「「「「「はあ!?」」」」

 

合格を言い渡された入団希望者達が驚く。冒険者未満の新人達でも流石に今代の最強(レベル8)達の顔と名前は知っている。聡い者は「聖女(セイズ)が居た時点で有り得なくもない」と勘付いていたようだが。

 

「おじさんっ!?お義母(かあ)さんもっ…!?」

 

「フフ…ベル団長殿…セイズ…いっそ入団試験でもしてみるか?」

 

()()()()()?」

 

セイズが即切り返す。レベル8という領域は人の形をした天災だ。地上ではよほど広い場所でなければ全力での戦闘など出来ない。今現在判明している階層主程度なら当たり前のようにほぼ瞬殺が出来るような者達だ。そんなのを試すなんて同格の者でも難しい。

 

「セイズ…お前はよく出来た弟子だが…『私達を越えよう』という意志は見えても『私達を倒そう』という意志はまるで見えてこないな…何故だ…?」

 

「何を言うかと思えば…上位陣は皆一発逆転の切り札を持っています。そんな中で『誰が最強』かなんて論じるだけ不毛、地力に大差なく持ち得る手札の相性差もほぼ無かったら勝負なんてその時の状況次第、それ含めた時の運でしょう。

別に何が何でも決着を付けなきゃいけない因縁があるわけでもなし。私はアーディの能力と豊富な手札がある以上『集団戦で自分以上に有用な者など居ない』と自負していますが、個人戦では貴女に『アレ』がある以上、

『貴女に絶対に勝てる』なんて世迷言(よまいごと)言えませんよ。有象無象の『誰が最強か』なんて論争何の意味も無い」

 

これもレベル8が5人にまで増えてしまったからだろう。正史(ほんらい)のこの時期の「都市最強」は唯一のレベル7だった団長一択で論じるまでもなかったのだろうが、

長らく「()()最強」と言われることが無かったのは結構前からレオンさんも設定だけはあったからなのだろう。だが、今や都市だけでレベル8が4人だ。

その面子がもし敵対していたら群雄割拠の有り様だったのだろうが、現状最悪の殺し合いに発展するようなことはまず無い。

まあもしエニュオが居たらどうにかして私達を殺し合わせようと画策していただろうが、というかそれしか勝ち筋が無い。

地下に篭っているヴァレッタやタナトス程度の頭じゃ大した策も打てないだろう。「【ゼウス・ヘラ】にビビって表に出てこなかった」という話なのに個人に限って言えばその頃以上の面子が揃いつつあるのだ。

レベル9はまだ居ないが。正直【女帝】がどれほどのものでも今のアルフィアさん以上とは思えないからな…まあそんなこんなで有象無象共の最近の流行りは「最強論争」というわけである。

ちなみに「聖女(わたし)が最強」と言うのは素人意見だそうだ。まあ能力の多彩さを考えれば単純に考えたら私だもんな。「単純すぎて捻りが無いから」と結構否定され易いらしい。

玄人気取りの「あいつはオッタルだぞ」おじさんとかが何て言っているのか気になる。顔知らないからどこにいるのかすら判らないけど。というか同格同士でも確かなことは言えない程度の力量差だ。

まあレフィーヤにも言えることだが、いくら能力が多彩でも使いこなせなくては意味が無い。あまりに引き出しが多すぎると適切な場面で適切な能力を使うのに高度な判断力が求められるようになるからな。

「無限のなんちゃらがあっても究極の一には敵わない」なんてセリフもあったな、これも某運命ゲーだったな。この辺の話をベル君にしてみたらまあウケたウケた。実際今の身体能力なら彼らとも結構良い勝負出来そうなのがまた…

アルフィアさんの耳にもチラッとそのへんの有象無象共の話が入ったのだろう。

 

「まあ試験なんざ不要ですね、はい合格。どちらか副団長くらいやる気は無いんですか?」

 

「そのあたりはレティシアあたりにやらせておけばいいだろう」

 

「…それでこれでレベル8が2人になりましたがご感想は、ヘスティア様?【アストレア】あたり引っ張ってこれればウチとも良い勝負出来ますよ?」

 

「当初危惧していた『ベル君への注目度』なんてこれで吹っ飛ぶんじゃないですか?」

 

「うぐぐ…そうかもしれないけどぉ…」

 

「レベル8の2人にワルキューレの面々…有望なベルに希少能力持ちの(ミコト)にヴェルフ…リリどう思う?」

 

「野心が強い所だったら即潰しにかかっていたでしょうね…現状手出し出来そうなのは【フレイヤ】くらいのものでしょうけどウチや【ロキ】が組んでも何人も主要幹部が欠ける結果になるでしょうね」

 

「まあそんなモンだろうな…アストレア様とヘスティア様が神友(しんゆう)で本当に良かったぜ…」

 

ライラとリリルカがそう評する。

 

「ベル君どうしたの、口開けたまま固まって、まあ嬉しすぎて無理ないか」

 

「ヘスティア様正式に同盟を組むのなら【アストレア】が良いと思いますよ、最初の内はお2人におんぶに抱っこになるでしょうが、そこは仕方ないでしょう。【ロキ】も悪くないですが、まあロキ様がヘスティア様に対してアレですからね」

 

「ファミリア等級ランクを無駄に上げて税を搾り取られないようロイマンの豚野郎にはきっちり言い聞かせておきますんで心配しないでください。今のヘスティア・ファミリアの財なんてお2人の個人資産が大半なんですから。」

 

「ああ、ありがとう…いつも済まないなセイズ…」

 

オラリオで住み易いように2人の周囲を整え今までギルドとやり取りをしていたのもセイズだ。「そこまではやらなくていい」と言っても聞かないのだ。「私が好きでやっていることなんで」と言って。

ちなみにアルフィア用の部屋は、フェルズの協力も得て防音設備に無茶苦茶気を遣われている。そんなこんなで借金も無い新生【ヘスティア・ファミリア】が始動するのだった。超大型新人()の2人の加入と共に。

 

 




ダフネとカサンドラは結局ミアハ・ファミリアに入りました。
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