転生者セイズ・ベルベットの憂鬱   作:エリス

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第4話 改変

リリルカが【フレイヤ】を訪れてから3日後───セイズはリリルカとヴィトーとギルド職員1人と輝夜を伴ってソーマ・ファミリアのホームを訪れていた。

 

「うっわさっけくさぁ陰気くさい場所ねえ、こらもう既に末期よね、暗黒期がどうとか関係無さそう…こんなのがあと何年も続いていた場合とか考えたくないわねこっわあ」

 

酔いつぶれて横たわっている人間までいる。

 

「あぁん?んだテメェは!丁度いい!お前で()()()()やるぜぇ!」

 

「リリ…」

 

「すいませんすいませんウチのゴミが…っ」

 

リリルカはまだ8歳の小人族(パルゥム)だし、幸いソーマ・ファミリアに彼女に手を出そうとする特殊性癖の輩は居なかったので直接手を出されたことはなかったのだが、こんなファミリアに居れば幼い身でも嫌でも性知識は身に付く。

付き添いのヴィトーは暫く殺人はしていなかったし、禁止もされていたのだが、今にも殺しそうだ。

 

「リリ、格下を制圧する時のお手本見せてあげる、体格あんま関係ないから貴女にも出来るわよ」

 

無造作にセイズに掴みかかってこようとする酔っ払いを凄まじい速さで足払いして無様にすっ転んだ男の顎先に擦るように鮮やかに拳を当てるとあっさり気絶した。

 

(ここ)も人体の急所の1つだから上手く入れられれば簡単に意識落とせるから覚えとくといいわよ。顎なら貴女の体格でも今みたいに倒さなくても結構狙いやすいでしょ?」

 

そう言いながら自身の顎をトントン指すセイズ。

 

「───それより貴女の顔を見てただの性欲の対象としか見なせなかったことに驚きですよ、酔っぱらいとはいえ…ギルド(わたしたち)の中では【猛者(おうじゃ)】の次くらいに有名な冒険者なんですけどね…」

 

「ええ私がぁ?うっそでしょう?団長の次ってそれフィンさんあたりでしょ?」

 

「…貴女まだ13歳ですよ?それでレベル5、その上【女神のお気に入り】で【暗黒期の英雄】、貴女の顔も知らないとかどう考えても早死するでしょうね、冒険者としては落第もいいところですよ」

 

それから絡んでくる団員たちを速やかにリリルカがメインで制圧していって、主神室まで辿り着いた。リリルカは本音を言えば気持ち良かった。今まで自身を虐げていた連中に簡単に勝てるようになったのだ。人間なら当然の心理だろう。

ザニスもリリルカに一撃で落とされた。だがギルド職員だけでなく、恩人たるセイズが視ていることを意識すると自分でも恐ろしいくらいに冷静になれて暴力に溺れる気にはとてもなれなかった。

 

「はい、聖女2人とお姫様とギルド職員1人と元殺人鬼1人入りまーす!」

 

セイズが扉を蹴破る。

 

「なんだ…お前たちは…」

 

「『なんだ』とはご挨拶ですねえ、糞根暗神サマ…お宅のファミリアについて、団員からの酷い内部状況についての告発があったんで、こうしてギルド職員と共に、査察に来たんですよ、

昨日お宅の団長に通達したんですけどね、『明後日来る』って。まあご本人は予想通り、犯罪の証拠の処分真っ只中だったんですけどね、

まず、お宅のファミリアは監督不届きということで酒造りはこちらのギルド幹部のロックさんから「更生した」と判断が降りるまで禁止です。『元団長』さんは当然豚箱入り。

あ、こちらの彼は下戸なんで酒は元々飲めませんよ?つきましてこちらのヴィトーが彼の護衛兼団長代理として、暫く運営することになります。

まあ今は団長に相応しい人物が居ないんで相応しい人物が入団してくれればお役御免となりますね、ヴィトーの役目はちょくちょく【アストレア】や【ガネーシャ】の団員と入れ替わる日もあるんで、

またロックさん以外のギルド職員が来る日もあるんでよろしくお願いしますね」

 

チャンドラ氏は未だ入団していない。暫くはこの体制で回すことになるだろう。

 

「おい、少しはこっち見ろやクズ野郎…テメェの無責任な行いがあんなカスをのさばらせて、幼い子供まで泣かせていたんだぞ?神ってだけで手ぇ出せないと思ってんのか?

こちとら何柱もこの手で邪神共送還しまくってんだぞ?今この場で邪神認定してやろうか?」

 

最初に一瞥したっきりセイズ達を視ようともしなくなった酒神(ソーマ)相手に、セイズの語気が荒くなる。

 

「…お前らこの酒飲んでみろ」

 

差し出された神酒(ソーマ)(おもむ)ろに口にするセイズ。

 

「不っ味…前世(むかし)飲んだキンッキンに冷えたビールの方が何倍も美味いですね、酒精の高さと神威だけで誤魔化しているゴミですわ」

 

「なにっ!?」

 

「そもそもフレイヤ様にも魅了されないこの私がこんなゴミの虜になるはずないでしょうにリリも飲んでみなさい、多分今なら大丈夫」

 

尚普段飲んでいる酒もあまり味自体が美味いと思ったことは当世ではない。今の彼女にとっては「誰と飲んでいるか」の方が重要なのである。高ランクの【耐異常】のせいで全然酔えないし…

リリルカも恐る恐る口にする。少し口に付けた後一気に全部飲み干す。涙を滲ませながら(さかずき)を床に叩きつけるリリルカ。

 

「リリは…リリはっ…こんな物のためにっ…」

 

「貴方がすぐに悔い改められるようならこのままリリを任せたままでも良かったんだけどね、アル中だらけのこのファミリアには置いておけないわ、ギルドからも『あんな所に子供は置いておけない』って言われているし…

かといってウチに入れるのもどうかと思うから【アストレア・ファミリア】に預けるつもりだわ。あそこの上位陣になら任せられるから気になったなら自分で足を運びなさい引きこもり、ほらリリを『改宗待機』状態にしちゃって早く」

 

「もし悔い改められられないのなら強くなったリリがファミリアごと潰しに戻って来ますからっ」

 

「いーっだ」と最後に言い放つリリルカ。

 

「これは誰だ…?」

 

「本当に送還してやろうか」と思ったセイズだが続く言葉があったので一先ず聞きに徹する。

 

「リリルカ・アーデ…なのか?こんなに強い子供を私は知らない…」

 

「8歳の子供なんて本当は大人に頼ることくらいしか出来ないんですよ…周りが腐っていたから外にまで目を向けることしか選択肢がなかった…この()が他所の派閥にまで頼るまで強くなった意味をきちんと考えてください

なぁにが『酒に溺れる子供は弱い、醜い』ですか、1人2人ならまだしも何十人も腐らせている時点でばら撒いているモノの方が腐っているに決まってるじゃないですか、そんなことも理解らなかったんですか?本当に…」

 

「次はこんなゴミじゃなくてもっと真っ当な酒、真っ当な眷属を用意しておいてください」

 

それからリリルカの改宗準備が整ってからホームを後にした。輝夜は黙ってずっと後ろで聞いていた。人選は「一応は黙って冷静で聞いていられそう」とのことから。途中無理してニコニコしていて「あ、これキレかけだな」と察せられていたが。

 

「明確な悪党の騒ぎが収まってもまだまだこの街の問題は山積みだらけ…そちらも残党もいっぱいいるし…理解ったでしょう?」

 

「そうですね、アレで改心しないようなら本当に貴女が邪神認定して潰した方が早いでしょうね…」

 

「とはいえ、闇派閥(イヴィルス)という明確な悪党でなくともあのザニスとかいう小物がのさばるような余地があるのは考えものですね…まあそのへんは数の多い【ガネーシャ】に頼らざるを得ないでしょうが…」

 

ちなみに、ザニス、もう既に引っ立てられている。【ガネーシャ】の団員に。

 

「とにかくこの()のこと任せたわよ」

 

「まあそちらさんは主にライラに任せることになるでしょうが…私もなるべく気にかけますよなにせ『聖女様からの預かり物』ですからねぇ」

 

「【聖女】ねぇ…ガラじゃないんだけどねぇ…」

 

「『最強の眷属』が【猛者(おうじゃ)】なら『最高の眷属』は【戦乙女(ヴァルキュリア)】だ、と既に囁かれ出しているでしょう?今回の件もギルドを通して喧伝されるかもしれませんわよ?」

 

「貴女の普段の型破りな言動も確かな実力と結果のお陰で好意的に見られている…逆にそれくらいないと完璧すぎて気持ち悪がっていたかもしれませんわね」

 

それからその日はライラにも紹介して一晩【星屑の庭】に2人で泊まった。

 

そうして次の日───

 

「ライラ、君から『紹介したいヤツがいる』だ、なんて珍しいね」

 

「しゃーねーだろアタシだけじゃ判断出来ねえからお前にも視てもらいたかったんだ」

 

「それにアレだ『セイズのいつものやつ』の延長線上だ」

 

主神(フレイヤ)とほぼ同レベルの精度の「眼」を持つセイズは入団希望者や冒険者志望者と面接しては他所のファミリアに紹介している。

 

ちなみにスキル名は【勇士選定眼(スカウター)】、実に【戦乙女】と転生者らしい能力名である。ベル君の輝きを眼にして「ボンッ」とか眼球が弾けないかが心配である。

「女神のためなら死ねる」とか最初から(のたま)う魅了済みの狂神者候補は蹴ったら問題起こしそうなので充分やっていけそうな能力があった場合はなるべく引き取っている。

自分(セイズ)に憧れてきた場合は憧れだけでやっていけるほど【フレイヤ】は甘くないので大体の場合は蹴った上で綿密な聞き取りの後に相性の良さそうなファミリアを紹介している。

今のところファミリア側や被紹介者側から不満が挙がった例はない。それだけに彼女の確かな選定眼と判断力は信用も信頼もされている。

元々そういった傾向もあったが、ザルドやアルフィアらと関わるようになってからは特に「オラリオ全体の底上げ」を意識する動きをするようになった。

これが普通のフレイヤ眷属だったら、有望な新人は全員独占して「女神のための駒となれ」とか考えそうなものだがそのあたりの心配は普段の振る舞いからはされていない。

何がしたいのかって1番は「黒竜討伐」なんだろうが。本人と全体の利益を優先的に考え、進路を考えているのだ。勿論【フレイヤ・ファミリア】と相性が良さそうなら普通に採用している。それでも、頭の悪そうな輩は蹴っているが。

良さそうな魂を持っていても自分で考える頭のない、戦士としての力があろうと結局役割としては駒としての価値しか見出だせない脳筋はもう食傷気味なのである。ヘディン以外そんなのばっかだし…ヘイズは正史(ほんらい)よりそのあたりは改善したのだが。

自分以外の余分なものに時間を割きまくっている割にセイズは強い。「黒竜殺す」とか「最強になる」とか言ってる割に未だオッタルにも殆ど相手にされていないレベルのアレンはセイズとの相性が最悪だし、普通にセイズに見下されている。

(ヘイズ)は「雑魚」と切り捨てるのには無理がある確かな才能を持っているが、完全上位互換のセイズと比べれば見劣りするだろう。

だが、そんな「余分」を、妹を抱えたまま強くなったセイズは、アレンにとっては眩しすぎて毒だった。「一番大事な妹から逃げた愚か者」とセイズからは吐き捨てられている。

抱えたまま自身だけでなく妹そのものも鍛えて、自分が守る必要のないように(こころ)みているし。「その体たらくでフレイヤ様にテメェの身勝手な幻想押し付けてんじゃねーぞ」と。セイズがレベル6になった後にボコられることになるのだが。

何より滅多に直接口にはしないがセイズは「(ヘイズ)が大切、誰よりも主神(フレイヤ)様よりも」と普通に口にすることがある。アレンのように面倒臭く拗らせてはいないのだ。

気恥ずかしくて他人に聞かれても「まあまあ可愛い」としか言わないが。気合いを入れ直す時によく口にするのだ。一番大事な原点(オリジン)を忘れないように。

 

閑話休題──────

 

「?それはアストレア・ファミリアへの紹介ということじゃないのかい?」

 

「いやどっちかっつーとアタシ個人への…もっと言えば小人族(パルゥム)全体に関することだ」

 

「君にしてはやけに歯切れが悪いね…」

 

「『フィアナの生まれ変わりを見つけた』って言われたらどうする?」

 

「…それは()()()の意味でだい?」

 

「勿論聖女(ほんらい)の意味でだ。」

 

小人族(パルゥム)にとっての【フィアナ】とは2つの意味がある。他種族も知っている一般的な方は「小人族(じぶんたち)ででっち上げた架空の神」*1という

大変不名誉な意味(もの)と、「実在した騎士団の頭領にして聖女」という確かな史実としての意味(もの)だ。

 

かくいうライラも「育ちが良くない」と自称するだけあって聖女(ほんらい)の意味はフィンに教わるまで知らなかった。一般常識ではないのだ。決して。

前者なら相手にするまでもない。単なる冷やかしとして切り捨てるところだが…だが、聖女(ほんらい)の意味で来たのなら───況してあのセイズからの紹介というのなら───

 

「まずは会ってみるしかないね…」

 

「初めまして【勇者(ブレイバー)】様、アストレア・ファミリア所属でセイズ様の弟子のリリルカ・アーデです…」

 

パッと見は普通の小人族(どうぞく)だ。何の力も感じない子供…

 

「こんにちはーフィンさん団長自ら対応ご苦労さまーアイズちゃん元気?」

 

「内容的に僕以外応対出来ないだろう、況して君が来るのであれば…」

 

「じゃあ4日前に門番していた奴訓練場に呼んできて?この()の相手させて、逃がした魚の大きさ理解らせてあげるから」

 

「セイズ様っリリはもう本当に気にしていないんでっ貴女に見出されなければ今でもグズのままでしたし…貴女と出会えたことに比べればどうということはないんで…本当にっ…」

 

そうしてロキ・ファミリアの訓練場に呼び出された少し前の門番とリリルカ。当初その男は団長直々からの呼び出しという事実に多少の緊張と共に舞い上がっていた。

そして素手の小人族(パルゥム)の少女と向き合わされて憤っていた。種族蔑視に近いことも言いかけて、周りに白い眼で見られた。「自分たちの団長のことを何だと思っているのか」と。セイズにも白い眼で見られた。

フィンに対しては憐れみもあったが「ロキ・ファミリア大丈夫?」と。男との模擬戦はあっさり終わった。摺り足すらしないで舐めまくってドタドタ走って近付いてくる男の手から得物を奪い、

柄の方で腹を殴りつけてあっさりのしてしまった。「眼」の力を使うまでもなかった。ここ数日格上と手合わせしまくったリリルカにとって男の動きは遅すぎた。

後から聞き取ってみれば「レベル2に成り立てで調子に乗っていた」とのこと。尚興味を持ったアイズも突撃してきたが、純粋な白兵戦は普通に負けた。

流石に今度は槍を最初から持たせたが。既にレベル2で魔法にも目覚めていたが、魔法を使いかけたところで強引に止められた。

ロキ・ファミリア上位陣に純粋な剣士は居ない。当代最強の剣士としても名が売れていたセイズに弟子入りをアイズは希望していたのだが「自制も出来ない子はちょっと…」と断られていた。

呆気に取られる周囲を尻目に、

 

「基礎はある程度叩き込んだんで後はフィンさんの技術と知識を伝えてあげてください()()()()教えるかはお任せしますが…あと頭もかなり良いですよ、あの()

『伴侶候補』とか言い出したら容赦なくぶっ潰すんで早くライラのこと貰ってあげてくださいね」

 

と言い放つセイズ。尚ライラ自身は「モットイッテヤレー」と小声で囁いていた。この日からリリルカ・アーデへの本格的な英才教育が始まり、アイズに初めての同年代の友達が出来たのであった。

 

*1
恐らく初期設定はこちらが真実

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