転生者セイズ・ベルベットの憂鬱 作:エリス
リリルカが【フレイヤ】を訪れてから3日後───セイズはリリルカとヴィトーとギルド職員1人と輝夜を伴ってソーマ・ファミリアのホームを訪れていた。
「うっわさっけくさぁ陰気くさい場所ねえ、こらもう既に末期よね、暗黒期がどうとか関係無さそう…こんなのがあと何年も続いていた場合とか考えたくないわねこっわあ」
酔いつぶれて横たわっている人間までいる。
「あぁん?んだテメェは!丁度いい!お前で
「リリ…」
「すいませんすいませんウチのゴミが…っ」
リリルカはまだ8歳の
付き添いのヴィトーは暫く殺人はしていなかったし、禁止もされていたのだが、今にも殺しそうだ。
「リリ、格下を制圧する時のお手本見せてあげる、体格あんま関係ないから貴女にも出来るわよ」
無造作にセイズに掴みかかってこようとする酔っ払いを凄まじい速さで足払いして無様にすっ転んだ男の顎先に擦るように鮮やかに拳を当てるとあっさり気絶した。
「
そう言いながら自身の顎をトントン指すセイズ。
「───それより貴女の顔を見てただの性欲の対象としか見なせなかったことに驚きですよ、酔っぱらいとはいえ…
「ええ私がぁ?うっそでしょう?団長の次ってそれフィンさんあたりでしょ?」
「…貴女まだ13歳ですよ?それでレベル5、その上【女神のお気に入り】で【暗黒期の英雄】、貴女の顔も知らないとかどう考えても早死するでしょうね、冒険者としては落第もいいところですよ」
それから絡んでくる団員たちを速やかにリリルカがメインで制圧していって、主神室まで辿り着いた。リリルカは本音を言えば気持ち良かった。今まで自身を虐げていた連中に簡単に勝てるようになったのだ。人間なら当然の心理だろう。
ザニスもリリルカに一撃で落とされた。だがギルド職員だけでなく、恩人たるセイズが視ていることを意識すると自分でも恐ろしいくらいに冷静になれて暴力に溺れる気にはとてもなれなかった。
「はい、聖女2人とお姫様とギルド職員1人と元殺人鬼1人入りまーす!」
セイズが扉を蹴破る。
「なんだ…お前たちは…」
「『なんだ』とはご挨拶ですねえ、糞根暗神サマ…お宅のファミリアについて、団員からの酷い内部状況についての告発があったんで、こうしてギルド職員と共に、査察に来たんですよ、
昨日お宅の団長に通達したんですけどね、『明後日来る』って。まあご本人は予想通り、犯罪の証拠の処分真っ只中だったんですけどね、
まず、お宅のファミリアは監督不届きということで酒造りはこちらのギルド幹部のロックさんから「更生した」と判断が降りるまで禁止です。『元団長』さんは当然豚箱入り。
あ、こちらの彼は下戸なんで酒は元々飲めませんよ?つきましてこちらのヴィトーが彼の護衛兼団長代理として、暫く運営することになります。
まあ今は団長に相応しい人物が居ないんで相応しい人物が入団してくれればお役御免となりますね、ヴィトーの役目はちょくちょく【アストレア】や【ガネーシャ】の団員と入れ替わる日もあるんで、
またロックさん以外のギルド職員が来る日もあるんでよろしくお願いしますね」
チャンドラ氏は未だ入団していない。暫くはこの体制で回すことになるだろう。
「おい、少しはこっち見ろやクズ野郎…テメェの無責任な行いがあんなカスをのさばらせて、幼い子供まで泣かせていたんだぞ?神ってだけで手ぇ出せないと思ってんのか?
こちとら何柱もこの手で邪神共送還しまくってんだぞ?今この場で邪神認定してやろうか?」
最初に一瞥したっきりセイズ達を視ようともしなくなった
「…お前らこの酒飲んでみろ」
差し出された
「不っ味…
「なにっ!?」
「そもそもフレイヤ様にも魅了されないこの私がこんなゴミの虜になるはずないでしょうにリリも飲んでみなさい、多分今なら大丈夫」
尚普段飲んでいる酒もあまり味自体が美味いと思ったことは当世ではない。今の彼女にとっては「誰と飲んでいるか」の方が重要なのである。高ランクの【耐異常】のせいで全然酔えないし…
リリルカも恐る恐る口にする。少し口に付けた後一気に全部飲み干す。涙を滲ませながら
「リリは…リリはっ…こんな物のためにっ…」
「貴方がすぐに悔い改められるようならこのままリリを任せたままでも良かったんだけどね、アル中だらけのこのファミリアには置いておけないわ、ギルドからも『あんな所に子供は置いておけない』って言われているし…
かといってウチに入れるのもどうかと思うから【アストレア・ファミリア】に預けるつもりだわ。あそこの上位陣になら任せられるから気になったなら自分で足を運びなさい引きこもり、ほらリリを『改宗待機』状態にしちゃって早く」
「もし悔い改められられないのなら強くなったリリがファミリアごと潰しに戻って来ますからっ」
「いーっだ」と最後に言い放つリリルカ。
「これは誰だ…?」
「本当に送還してやろうか」と思ったセイズだが続く言葉があったので一先ず聞きに徹する。
「リリルカ・アーデ…なのか?こんなに強い子供を私は知らない…」
「8歳の子供なんて本当は大人に頼ることくらいしか出来ないんですよ…周りが腐っていたから外にまで目を向けることしか選択肢がなかった…この
なぁにが『酒に溺れる子供は弱い、醜い』ですか、1人2人ならまだしも何十人も腐らせている時点でばら撒いているモノの方が腐っているに決まってるじゃないですか、そんなことも理解らなかったんですか?本当に…」
「次はこんなゴミじゃなくてもっと真っ当な酒、真っ当な眷属を用意しておいてください」
それからリリルカの改宗準備が整ってからホームを後にした。輝夜は黙ってずっと後ろで聞いていた。人選は「一応は黙って冷静で聞いていられそう」とのことから。途中無理してニコニコしていて「あ、これキレかけだな」と察せられていたが。
「明確な悪党の騒ぎが収まってもまだまだこの街の問題は山積みだらけ…そちらも残党もいっぱいいるし…理解ったでしょう?」
「そうですね、アレで改心しないようなら本当に貴女が邪神認定して潰した方が早いでしょうね…」
「とはいえ、
ちなみに、ザニス、もう既に引っ立てられている。【ガネーシャ】の団員に。
「とにかくこの
「まあそちらさんは主にライラに任せることになるでしょうが…私もなるべく気にかけますよなにせ『聖女様からの預かり物』ですからねぇ」
「【聖女】ねぇ…ガラじゃないんだけどねぇ…」
「『最強の眷属』が【
「貴女の普段の型破りな言動も確かな実力と結果のお陰で好意的に見られている…逆にそれくらいないと完璧すぎて気持ち悪がっていたかもしれませんわね」
それからその日はライラにも紹介して一晩【星屑の庭】に2人で泊まった。
そうして次の日───
「ライラ、君から『紹介したいヤツがいる』だ、なんて珍しいね」
「しゃーねーだろアタシだけじゃ判断出来ねえからお前にも視てもらいたかったんだ」
「それにアレだ『セイズのいつものやつ』の延長線上だ」
ちなみにスキル名は【
「女神のためなら死ねる」とか最初から
今のところファミリア側や被紹介者側から不満が挙がった例はない。それだけに彼女の確かな選定眼と判断力は信用も信頼もされている。
元々そういった傾向もあったが、ザルドやアルフィアらと関わるようになってからは特に「オラリオ全体の底上げ」を意識する動きをするようになった。
これが普通のフレイヤ眷属だったら、有望な新人は全員独占して「女神のための駒となれ」とか考えそうなものだがそのあたりの心配は普段の振る舞いからはされていない。
何がしたいのかって1番は「黒竜討伐」なんだろうが。本人と全体の利益を優先的に考え、進路を考えているのだ。勿論【フレイヤ・ファミリア】と相性が良さそうなら普通に採用している。それでも、頭の悪そうな輩は蹴っているが。
良さそうな魂を持っていても自分で考える頭のない、戦士としての力があろうと結局役割としては駒としての価値しか見出だせない脳筋はもう食傷気味なのである。ヘディン以外そんなのばっかだし…ヘイズは
自分以外の余分なものに時間を割きまくっている割にセイズは強い。「黒竜殺す」とか「最強になる」とか言ってる割に未だオッタルにも殆ど相手にされていないレベルのアレンはセイズとの相性が最悪だし、普通にセイズに見下されている。
だが、そんな「余分」を、妹を抱えたまま強くなったセイズは、アレンにとっては眩しすぎて毒だった。「一番大事な妹から逃げた愚か者」とセイズからは吐き捨てられている。
抱えたまま自身だけでなく妹そのものも鍛えて、自分が守る必要のないように
何より滅多に直接口にはしないがセイズは「
気恥ずかしくて他人に聞かれても「まあまあ可愛い」としか言わないが。気合いを入れ直す時によく口にするのだ。一番大事な
閑話休題──────
「?それはアストレア・ファミリアへの紹介ということじゃないのかい?」
「いやどっちかっつーとアタシ個人への…もっと言えば
「君にしてはやけに歯切れが悪いね…」
「『フィアナの生まれ変わりを見つけた』って言われたらどうする?」
「…それは
「勿論
大変不名誉な
かくいうライラも「育ちが良くない」と自称するだけあって
前者なら相手にするまでもない。単なる冷やかしとして切り捨てるところだが…だが、
「まずは会ってみるしかないね…」
「初めまして【
パッと見は普通の
「こんにちはーフィンさん団長自ら対応ご苦労さまーアイズちゃん元気?」
「内容的に僕以外応対出来ないだろう、況して君が来るのであれば…」
「じゃあ4日前に門番していた奴訓練場に呼んできて?この
「セイズ様っリリはもう本当に気にしていないんでっ貴女に見出されなければ今でもグズのままでしたし…貴女と出会えたことに比べればどうということはないんで…本当にっ…」
そうしてロキ・ファミリアの訓練場に呼び出された少し前の門番とリリルカ。当初その男は団長直々からの呼び出しという事実に多少の緊張と共に舞い上がっていた。
そして素手の
フィンに対しては憐れみもあったが「ロキ・ファミリア大丈夫?」と。男との模擬戦はあっさり終わった。摺り足すらしないで舐めまくってドタドタ走って近付いてくる男の手から得物を奪い、
柄の方で腹を殴りつけてあっさりのしてしまった。「眼」の力を使うまでもなかった。ここ数日格上と手合わせしまくったリリルカにとって男の動きは遅すぎた。
後から聞き取ってみれば「レベル2に成り立てで調子に乗っていた」とのこと。尚興味を持ったアイズも突撃してきたが、純粋な白兵戦は普通に負けた。
流石に今度は槍を最初から持たせたが。既にレベル2で魔法にも目覚めていたが、魔法を使いかけたところで強引に止められた。
ロキ・ファミリア上位陣に純粋な剣士は居ない。当代最強の剣士としても名が売れていたセイズに弟子入りをアイズは希望していたのだが「自制も出来ない子はちょっと…」と断られていた。
呆気に取られる周囲を尻目に、
「基礎はある程度叩き込んだんで後はフィンさんの技術と知識を伝えてあげてください
『伴侶候補』とか言い出したら容赦なくぶっ潰すんで早くライラのこと貰ってあげてくださいね」
と言い放つセイズ。尚ライラ自身は「モットイッテヤレー」と小声で囁いていた。この日からリリルカ・アーデへの本格的な英才教育が始まり、アイズに初めての同年代の友達が出来たのであった。