いつかは当たるとわかってはいたけど、でもいきなりなんて……。
開会式が終わり、けれどイルミナシティはいまだ喧騒に溢れていた。
出店が並び、その行く人々の顔には笑顔が浮かんでいる、まさしく祭りと呼ぶに相応しい状態だ。
しかし……その中で、どこか暗い表情を浮かべ座っている少年と、そんな少年に付き添うツタージャの姿が。
少年の名はグリード、このイルミナリーグに参加しているトレーナーの1人だ。
「グリード」
名を呼ばれ、グリードは顔を上げる。
「フィル……」
声を掛けてきたのは、グリードの友人であるフィル、とある理由によりポケモンと会話する能力を持った不思議な青年だ。
彼のポケモン達の手には、チルットわたあめやオクタン焼き等のお菓子が握られている、どうやらお祭りを楽しんでいるようだ。
「どうしたんだい? なんだか元気が無いみたいだけど……それと、レシラムとゼクロムは?」
「レシラムは出店の食い物を漁ってて、ゼクロムはそのお守り」
「ああ、そう……」
何ともいえない表情を浮かべるフィル。
「明日は試合だろう? こんな所で油を売ってていいのか?」
「あはは……」
シェリーの言葉に、グリードは曖昧な笑みしか返さない。
何だか様子のおかしいグリードに、フィルとシェリーが顔を見合わせ首を傾げていると。
「グリードー!!」
「え――わぷっ!!」
1人の少女が、勢いよくグリードに抱きついてきた。
「こら、フウロ!!」
「そういう事はするなと言ってるだろう!!」
「ひゃーっ!?」
グリードに抱きついてきた少女は、フウロ。
しかし、彼女はすぐさま2人の少女……カレンとアオイの手によって引き剥がされ、拳骨を食らっていた。
「カレン、みんなも……」
「久しぶりね、元気にしてた?」
「お前の事だから、元気にやっていると思ったがな」
「グリード、寂しかったよ〜」
『抱きつかない!!』
「ぐぇ……」
再び抱きつこうとして、2人の拳骨を受けたフウロは撃沈。
と、ここでようやくフィル達の存在に気が付いた。
「……あなた達、たしか国際警察の」
「こんばんは。……ああそうだ、この間はゆっくり渡す暇がなかったから」
言いながら、バッグから名詞を取り出し3人に渡すフィル。
ちゃっかり宣伝を忘れない辺り、さすがと言うべきか……。
「……アンタ、どうかしたの?」
「えっ?」
「明日は第一試合でソラネと戦うのに、異常にテンションが低いわね」
「あー……うん」
またも曖昧な返事を返すグリード。
というのも、グリード自身どうして自分がこんな状態になっているのか、よくわかっていないのだ。
ソラネは強い、きっと自分と別れた後もたくさんトレーニングに励んできたはずだ。
ポケモンの選択や、自分の心構えなどをしっかりしなければ、勝つ事などできるわけがない。
だというのに……どうして。
「――迷ってるの?」
「えっ……」
俯くグリードに、カレンはそんな事を言う。
「そうだな……カレンの言う通り、お前からどこか迷いが見える」
「アオイ……」
「グリード、もしかしてソラネとバトルするの……躊躇ってるの?」
「……………」
核心を突くような言葉に、グリードの表情が固まる。
(……そうかもしれない)
親友であるソラネと、こんな大舞台でバトルをするのは、初めてだ。
だからこそ、自分とバトルをしてもしソラネが負けたら……そう思うと、グリードの中で躊躇いが生まれたのかもしれない。
だが、そんなものは見当違いも甚だしいとカレンは一刀両断する。
「今のアンタじゃ、ソラネには到底勝てないわよ」
「…………」
「そうだな。自分の持てる全力を出せないお前では、ソラネに勝つなどできるわけがない」
「………それ、は」
「ソラネはね、アンタに勝つために最後の調整を行ってる。
なのにアンタは、自分のできる事をしないで逃げるの? そんな事、絶対に許さないんだから」
うなだれるグリードにも、カレンとアオイは容赦ない言葉を浴びせる。
フウロは何も言わない、言わないが……その瞳は彼女達と同意見だと語っていた。
「あたし達も試合があるからここを離れるけど……明日のバトル、どんなものになるのか楽しみにしてる」
そう言って、カレンとアオイは行ってしまった……。
「……グリード、全力でバトルをしないと逆に失礼だよ、それはわかるよね?」
「…………」
無言で頷くグリード、それに満足したのか、フウロはにっこりと微笑みを浮かべ。
「なら、もう大丈夫だよね。じゃあ……私も行くから。
本当はデートしたいけど、邪魔をしたらダメだもんね!」
頑張ってね、労いの言葉を掛けてから、フウロもグリードの元から離れていった。
「………グリード」
少しだけ躊躇いがちに、フィルはグリードに声を掛ける。
すると、彼は顔を上げ。
「フィル、俺とバトルしてくれないか?」
フィルの顔を見て、そんな事を言い出した。
「バトル……?」
「俺、こんなモヤモヤしたままじゃ何も良い考えが浮かばない。
だから、バトルをしてスッキリしたいんだ」
「ほぅ、ちょうどいいじゃないか。フィル、観るのもいいが実際に普通のトレーナーのように指示をしてバトルをした方が、感覚を掴めるんじゃないか?」
「そうだね……」
シェリーの言う通り、実際にバトルをした方が効果的かもしれない。
それに何より、友達が困っているのだから助けなければ、そう思ったフィルはバトルの申し出を承諾する。
――それでは、とばかりに人気のない草むらに移動
「ルールは?」
「1対1で頼む、俺はツタージャでバトルするよ」
〈わかったわグリード、さて……誰があたしの相手になるのかしら?〉
前に出て、挑発するように手を動かすツタージャ。
〈俺が行く〉
〈私もバトルしたいです〉
〈おいらが行くッスよ!!〉
〈わたし、わたしが行く!!〉
わいわいがやがやと、自分が行くと騒ぎ出すフィルのポケモン達。
それに少し困り顔になりながら……フィルはバトルさせるポケモンを選んだ。
「じゃあ……ハル、君が行ってくれる?」
〈やったぁっ!!〉
ハルは喜び、他のメンバーはあからさまに顔をしかめてブーイング。
ごめんごめんと謝りながら、フィル達も所定の位置についた。
「じゃあ審判をシェリー……は、できないよね?」
「当たり前だ」
(何で自信満々?)
まあいいか、とフィルは自分を納得させ……身構えた。
「ハル、今回は僕の指示だけで動いてね?」
〈はーい〉
「ツタージャ、いくぞ?」
〈任せなさい。……軽くひねってあげるわ、ハル〉
〈むっ、随分余裕だね、ツタージャは〉
〈まあね〉
ふふんと勝ち誇ったようなツタージャの笑みに、ハルは頬を膨らませる。
今の自分など、相手にならないと言わんばかりだ、思い知らせてやるとハルは身体に力を込め。
「ハル、リーフブレードだ!」
フィルの指示と共に、バトルが開始された。
〈いくよ、ツタージャ!!〉
跳躍し、三つ叉の尻尾にエネルギーを込め、突撃するハル。
「リーフブレード!!」
〈し―――!〉
それに対し、ツタージャもリーフブレードで対抗。
尤も、彼女のはハルとは違い小さな右腕でのリーフブレードだ。
右腕と尻尾、ツタージャというポケモンの身体ならば、当然大きくエネルギーを込められるのは、尻尾の方である。しかし……。
〈えっ、嘘……!?〉
〈――はああっ!!〉
ツタージャは、ハルのリーフブレードを押し戻してしまった。
結果は相殺、両者共にダメージはないが……ハルにとって、この結果はショックだった。
自分の攻撃の方が、大きくエネルギーを込められるというのに、劣るはずの右腕のリーフブレードで引き分けた。
〈………強いな〉
〈ええ〉
〈うわぁ……ツタージャのパワー、めっちゃ上がってるッスね……ハルだって前より成長したのに〉
そのバトルを観戦しているトナ達は、今の攻防を見て少なからず驚きを見せていた。
それと同時に、トナとリコはある事実に気が付いてしまった。
〈――勝てないな〉
〈勝てませんね〉
「エナジーボール!!」
〈避けるか防御しなさいよ!!〉
ハルに警告をしながら、ツタージャは瞬く間に5つのエナジーボールを自分の周りに生み出し、すかさずハルに向かって発射する。
「ひかりのかべを張りながら、とぐろをまく!!」
〈うん!!〉
まずは箱状にひかりのかべで自分を包み、自らを強化しようと技を繰り出そうとしたが……。
〈っ、きゃあぁぁっ!?〉
ツタージャのエナジーボールが、ハルのひかりのかべを突き抜けて、彼女をにダメージを与えたのだ。
「くっ……!?」
これには、フィルもまともに表情を変えて焦りを見せる。
ひかりのかべで、エナジーボールの威力は半減するはず、だというのにハルへのダメージは大きい。
火力、スピード、そのどちらも……ハルはツタージャの足元にも及ばない。
(一体、どれだけの事をすればここまで……)
だがまだ諦めない、たとえ勝てないとしても最後まで戦うのがトレーナーなのだから。
「ハル、とぐろをまくだ!!」
〈う、うん……〉
苦しそうに顔をしかめながらも、ハルは立ち上がり自分の身体をキュッと絞っていく。
(…………これは、来るのか?)
前にハルが見せた、ギガインパクトとリーフブレードの合体技、“ギガブレード”。
その前準備だと察し、グリードはツタージャに呼びかける。
「ツタージャ、こっちも全力の攻撃で迎え撃つぞ!!」
〈………ええ。そうした方がいいみたいね〉
あのギガブレードの威力は、前に戦ったツタージャもよく覚えていた。
だからこそ、次の一撃には全力で応える準備をする。そして……。
「――ギガブレード!!」
〈はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!〉
大きく跳躍するハル。
彼女の身体から、ギガインパクトの膨大なエネルギーが溢れていき、その力が尻尾へと込められていき。
〈――やぁぁぁぁぁっ!!!〉
必殺の一撃が、ツタージャに向かって振り下ろされる―――!
瞬間、グリードもツタージャに必殺の一撃を放つよう、指示を告げた。
「ツタージャ、リーンフォースブレード・EX!!」
(EX……!?)
〈はあぁぁぁぁ………!〉
静かに、けれど大きく力を込めながら、ツタージャは両腕を大きく広げる。
見る見るうちに彼女の両腕が、深緑の剣へと変化しそして。
〈は―――っ!!〉
裂帛の気合いを込め、真っ向からハルのギガブレードとぶつかり合う!!!
「うわっ!?」
強大なエネルギーのぶつかり合いから起きた衝撃波を受け、フィルはたまらず腕で顔を覆った。
〈ぐ、ぐぅぅ……!〉
〈…………〉
どうにか圧し出そうとするハルとは対照的に、ツタージャは無言で彼女を見つめ。
〈え―――あ、きゃあぁぁぁぁっ!!?〉
ハルの一撃を、完膚なきまでに叩き潰してしまった。
「ハル!!」
地面を転がりながら、フィルの所まで戻ってきたハルは……立ち上がる事ができない。
「ん……ここまでだな」
「………だね」
ハルを優しく抱きかかえ、バッグからきずぐすりを取り出し彼女に吹きかけるフィル。
「ツタージャ、よく頑張ったな」
〈ありがとグリード、でもハルもよく頑張ったわよ〉
「………ハル?」
きずぐすりでダメージは回復した、だというのに……ハルは俯きフィル達に顔を見せようとはしない。
〈もしかして、負けて悔しくて拗ねてんのか? 一回や二回負けたくらいで拗ねんなよ。
俺やリコなんか今まで何回負けたか数え切れないんだぜ?〉
〈そうですよハル、それに負ける事で得られる事もあるんですから〉
〈そんなに、気にする事ないと思うっすよ?〉
トナ達もそう言ってハルを励ますが、逆効果だったのか彼女はフィルの胸にしがみついてしまった。
〈やれやれ……ガキだな〉
〈仕方ありませんよ。でも……どうせなら私の胸に飛び込んできてほしかったです、優しく慰めてあげたのに……〉
〈……残念そうっすね〉
「ハルもよく頑張ったよ。……それでグリード、スッキリしたかい?」
「ああ。ありがとう、フィル、みんな」
そう告げるグリードの表情からは、先程見せたような暗さは見当たらない。
「それじゃあ、部屋に戻って明日の準備をしてくるよ!!」
「うん、僕達も明日は応援に行くから、頑張ってね?」
おう、と手を挙げながら返事をし、グリードは大急ぎで寮にある自室へと向かったのだった。
〈慌ただしいヤツだな、相変わらず〉
トナは呆れ、リコとバリオンはクスクスと笑みを浮かべている。
……その中で、ハルだけが暗い表情を浮かべていた事に、その時は誰も気づかなかった。
…………。
「―――あれ?」
自室に向かう途中の廊下で、グリードは懐かしい人物を見かけた。
「あっ、グリード」
「マイじゃないか、久しぶりだな!」
そこに居たのは、アヤトと壮絶なフルバトルを行った、元四天王のマイ。
「よかった、あなただけ会えなかったから、けどなんとか間に合ったみたいね」
「………?」
ほっとするマイに、グリードは首を傾げる。
一体何が間に合ったと言うのだろう、それに……彼女が何故か大きめのリュックサックを背負っている点も、グリードは疑問に思った。
すると、マイは「実はね…」と前置きをしてから……こう言った。
「私――退学したの」
「はぁっ!?」
その言葉に、グリードはおもわず素っ頓狂な声を上げる。
「別に何か深い事情があるわけじゃないの、けど……私、ずっと前から世界中を旅してみたいと思ってたのよ。
でも四天王だったし、学園で最高のバトルを経験できてなかったから、くすぶったまま日々を過ごしてた」
そんな中、自分に追いついてきた1人の少年に出会った。
その子の名は――アヤト。
「アヤトとバトルをして、負けたけど……とても楽しかったし、最高に充実できた。
それから、暫く考えて……旅に出ようと思ったのよ」
「………そっか、イルミナリーグの選手欄に名前が無かったのは」
あの時、モニターにはマイの顔写真は映っていなかった。
それに違和感を覚えつつも、まさか……とは思ったが、予想通りだとは夢にも思わなかった。
「本当は、もっと前にみんなに報告しようと思ったのだけど、イルミナリーグに向けて旅に出ちゃってたから、言えなかったの。
伝言だけ残して行くなんて、それは失礼だと思ったしね」
「……アヤト達には、もう言ったの?」
「言ったわ。みんな驚いたけど、頑張ってって応援された」
「そっか……よかったな」
彼女の決めた道だ、友達ならば……祝福するのが当然である。
「ありがとう。それじゃあ……もう行かないと」
「えっ、今から?」
「まだ船の最終便には間に合うからね。……早く色んな世界を見てみたいの、自分の足で向かって目で見て……そんな体験を、してみたいのよ」
「………そうだな、それじゃあ…また」
自分でもあっさりしていると思える、別れの挨拶。
けれど、マイはそんなグリードの心中を理解して。
「ありがとう。みんなにも言ったけど、グリードもイルミナリーグ頑張ってね?」
「ああ。アヤトにも負けないさ!!」
「ん……けどねグリード、サクラにも気をつけた方がいいわよ?」
「わかってるよ、サクラだって四天王だもんな」
サクラとて、アヤトと同じく四天王なのだから、充分強敵であるのは間違いない。
だが、マイが言いたかった事はそうではなくて……。
「そうじゃなくて……まあいいわ、実際に見ればわかるでしょうし」
「………?」
その物言いに、グリードは首を傾げるが。
「じゃあね、グリード」
聞き出す前に、マイはそう言って走り去っていってしまった。
「………むぅ」
〈何よあれ、気になる言い方して行っちゃうなんて〉
グリードの方に乗りながら、ツタージャはむすっと頬を膨らませる。
「……まあいいか、それより一回戦の準備をしないと!」
まずは予選を勝ち進めなければ、本戦など夢のまた夢なのだ。
少しずつ確実に前に進んでいき、アヤト達に追いついてみせる。
心に決意を抱きながら、グリードは自室へと戻りポケモン達の編成を始めたのだった……。
To Be Continued...
【ツタージャ】♀ 【ムクホーク】♂ 【ミロカロス】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・つるのムチ ・はがねのつばさ ・たつまき
・リーフブレード ・かぜおこし ・アイアンテール
・真・リーンフォースブレード ・でんこうせっか ・ハイドロポンプ
・かげぶんしん ・つばさでうつ ・れいとうビーム
・へびにらみ ・つばめがえし ・じこさいせい
・リーフストーム ・ブレイブバード ・ふぶき
・リーフブレード二段斬り ・インファイト ・アクアリング
・エナジーボール ・かげぶんしん ・アクアテール
・ギガドレイン ・はかいこうせん ・みずのはどう
・リーンフォースブレード・EX
・ハードプラント
【オノノクス】♂ 【コジョンド】♀ 【グライオン】♂
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・ダブルチョップ ・みきり ・シザークロス
・シャドークロー ・はっけい ・れんぞくぎり
・りゅうのいかり ・とびひざげり ・ほのおのキバ
・ドラゴンクロー ・はどうだん ・クロスポイズン
・りゅうのいぶき ・おうふくビンタ ・ギガインパクト
・りゅうせいぐん ・ギガインパクト ・はがねのつばさ
・あなをほる ・ドレインパンチ
・りゅうのはどう ・ストーンエッジ
・はかいこうせん ・きあいパンチ
・かみなりパンチ
【クチート】♀ 【ラティアス(ティア)】♀ 【ゴチルゼル】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・てっぺき ・ラスターカノン ・ねんりき
・アイアンヘッド ・じこさいせい ・ひかりのかべ
・かえんほうしゃ ・はかいこうせん ・サイケこうせん
・ねごと ・りゅうのはどう ・サイコキネシス
・ラスターカノン ・りゅうせいぐん ・まもる
・かみくだく ・れいとうビーム
・かみなりのキバ ・ドラゴンクロー
・はがねのつばさ
・サイコキネシス
【ピカチュウ】♂ 【キュウコン】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】
・10まんボルト ・かえんほうしゃ
・アイアンテール ・ほのおのうず
・ボルテッカー ・じんつうりき
・でんこうせっか ・エナジーボール
・かみなり ・アイアンテール
・ボルテッカー・アイアンテール ・ソーラービーム
・オーバーヒート
・フレアドライブ