優しいサクラという男……ではなく女の子に案内され、迷子にならずにすんだ。
よかった〜、この歳で迷子とか恥ずかしいことこの上ないからな。
こっちだよ、とサクラに案内され、どうにか校舎の方まで戻ってこれた。
あぁ……人がいるって安心できるな。
「タジャ?」
「ああ、いや……人にいっぱい会えて安心したなぁって」
「………タジャ」
呆れたようにジト目で……元々ジト目だけど、冷たさが増しているような気がする。
まあそれはともかくとして、だ。
……さっきから、周りの人の視線が突き刺さってるのはどうしてなのか。
それだけではなく、俺達を見てひそひそ話を始める者も。
「……なあ、サクラ」
「何?」
「サクラってさ、もしかして有名人?」
視線が俺……ではなくサクラに向けられているし、自分で言うと情けないが俺は有名人でもなんでもない、イッシュ地方以外ではだが。
俺の問いに、サクラは何故か納得したような表情を浮かべ。
「……なる程、やっぱり知らないが故か」
そんな、よくわからない事を呟いた。
「? なんだよ?」
「なんでもないよ。ところでグリード、君は試験を受けて合格したの?」
「いんや。でもどうしてだ?」
「だって、一体もポケモンを持ってないから不思議に思ったんだ。
ここに入学してくる生徒は、必ず最低でも一体はポケモンを持っているものだからさ」
「ああ……なる程ね。ちなみに質問の答えだけど、俺は試験を受けた訳じゃないよ、こいつのおかげで入学できたんだ」
そう言いながら、ツタージャを左手に抱きかかえ右手で鞄の中から封筒を取り出す。
何の変哲もない真っ白い封筒に、中身はこれまた何の変哲もない真っ白な手紙。
「これは……特別推薦状だね?」
「おぅ、そうだ」
詳しい事はよくわからんが、この特別推薦状があれば、無条件でイルミナ学園に入学できるらしい。
しかも、学費等の出費は全て免除という至れり尽くせりなのである。さすが特別と付いているだけはある。
「驚いた……これを持って入学してきたのは、君で2人目だ。君って、実は凄いトレーナーなんだね」
「いやいや、俺はポケモンの事を殆ど知らないド素人だぞ?」
えっ、とサクラは間の抜けた表情をこちらに向けてきた。
さすがに整った顔立ちをしているから、本来なら間抜けなものに映るが絵になるな。
「だって、特別推薦状を貰えるって事は将来性を約束できるような優秀なトレーナー候補も当然なんだよ?
それなのに……ポケモンの事を知らないってどういうこと?」
「実はさ、俺の両親がすげえポケモン嫌いでな、小さい頃からポケモンとは隔離された生活を送らされてたんだ。
だから、ポケモンの知識は本でちょっと読んだくらいだから、知識ゼロって言っても過言じゃないな」
「じゃあ、それは誰に貰ったの?」
「知らない」
「……知らない?」
「俺が15歳の時に差出人不明で送られてきたんだよ、「ここに行けば君は立派なトレーナーになれる。ポケモンが好きなら是非行くべきだ」っていう内容の手紙と一緒に」
もちろん親には反対された、だから親子の縁を切って家を出て行き今に至る。
俺にはどうしても果たしたい約束があったし、何より……両親の命令なんか聞きたくもない。
案の定、俺の話を聞いてポカンと口を開けるサクラ。
「あっ、でもちゃんとこれは本物だからな? 検査だってしてもらったし偽造じゃないぞ?」
「う、うん……それはわかってるよ。けど……やっぱり驚いたな。
――なる程、やっぱり君は面白い人だ」
「………?」
面白い人って……別に俺は面白い事を言った覚えはないんだが。
とは思いつつも、サクラは上品な笑みを浮かべるだけなので、俺もつられて笑みを返した。
と、サクラは突然足を止め俺の方に振り返る。
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
「へ?」
「このまままっすぐ進めば会場だから、それじゃあね!」
言うやいなや、さっさと走り去ってしまうサクラ。
「って、おい! ツタージャ忘れてるぞ!!」
「君が預かっててよ、ツタージャもその方がいいみたいだから!!」
「はぁっ!?」
……なんかよくわからないが、ツタージャを預かる事になってしまった。
とりあえず、ツタージャに視線を向けると。
「…………タジャ」
ぷいとそっぽを向かれ、くいくいと前を指さす。
早く行けと言っているのだろう、とりあえずツタージャもこのまま俺と行動を共にしても構わなそうなので、気にする事をやめた。
……にしてもサクラの奴、なんでいきなりこんな事したんだろうな。
………。
「――ふぅ」
入学式は無事終わった、というか無事に終わらない入学式なんてこの世には存在しないか。
そんでもって今は、休憩所でツタージャと共にお休み中。
「ツタージャ、ミックスオレ飲むか?」
「タジャッ」
こくりと頷き、ひったくるように俺の手からミックスオレを奪い口に含むツタージャ。
……そんな乱暴に取る事ねえだろ。
(……しかし、あっちこっちにポケモンがいっぱい居るな)
そんなの当たり前だ、この学園の生徒は全員トレーナーなのだから。
もちろんブリーダーやコーディネーターも存在しているが、ポケモンを持っている事に変わりはない。
見た事がないポケモン達ばかりで、心が弾んでくる。
「タジャ、タージャ!」
「? どうした?」
空になったミックスオレをつるのムチに俺に手渡すツタージャ、おまけに何か訴えている。
……コイツ、まさか。
「お前、もう一本欲しいとか言うつもりじゃないだろうな?」
「タジャッ」
当たり前だ、そう言わんばかりの鳴き声を返された。
「ふざけんな。お前殆ど飲んだくせにもう一本なんて贅沢———あででででっ!!?」
全部言い終わる前に、ツタージャからつるのムチをお見舞いされた。
「おいコラ、我が儘言ってんじゃねえ!!」
「タージャ、タジャタジャ!!」
睨み合う俺とツタージャ。
端から見ると、おかしな光景に見える事だろう。
……はぁ、仕方ねえな。
「……あと一本だけだからな? ちゃんと約束守れるなら買ってやる」
「ツタジャ」
本当にわかっているのだろうかコイツは、無駄な出費は抑えたいというのに……。
ぶつくさ文句を言いたいが、結局ツタージャに愛着が湧いている以上言えるはずがなく、おとなしく自販機へ向かう。
……サクラに請求しようかな。
「………ピカ」
「………?」
鳴き声のようなものが聞こえたので、何だろうと視線を下げる。
するとそこにいたのは……。
「あっ……ピカチュウ」
「ピカ……」
こいつは俺も知ってる、イッシュには生息してないけどこの可愛らしい容姿から手持ちに加えるトレーナーは多い。
ということは、このピカチュウも間違いなく主人がいるはずだが……。
「どうした? お前主人は?」
「……ピーカ」
ふるふると首を横に振るピカチュウ。
「もしかして、トレーナーとはぐれたのか?」
そう訊くと、またも首を横に振って否定するピカチュウ。
はて、では野生のピカチュウという事なのだろうか……。
「ピーカ、ピカピカ……ピカチュウッ」
必死に何かを訴えかけるピカチュウだが、あいにくとポケモンの言葉がわかるわけではないので、この子が何を言っているのかはわからない。
だが、ジェスチャーを交えての説明だったので、予想はできた。
「もしかして……お前がトレーナーとはぐれたんじゃなくて、トレーナーがお前とはぐれた……とか?」
「………ピカ」
こくこくと頷きながら、頭を掻くピカチュウ。
な、なる程……一体どうしたらそんな状況になるのかはわからないが、このピカチュウも苦労しているようだ。
しかしまいった、まさか迷子センターなんかあるわけないし……。
「――とりあえず、お前もミックスオレ飲む?」
「ピカ? ピカ…ピカチュウ?」
「もしかして遠慮してるのか? なら気にする必要なんかないぞ。それとも、喉乾いてないか?」
ふるふると首を横に振るピカチュウ、それを見て苦笑しながらミックスオレを一本余分に買い、ツタージャの元へ。
「ほらよ、ツタージャ」
「………タジャ?」
俺からミックスオレを受け取りながらピカチュウに気づいたのか、首を横に傾けるツタージャ。
「ああ、コイツのトレーナーがどっかに行っちまったみたいだから、これを飲み終わったら主人を捜しに行くぞ」
「ピッピカチュウ!」
ツタージャに向けて挨拶するピカチュウ。
しかし、ツタージャはぷいとそっぽを向いてしまった。
あっ、ピカチュウがショック受けてる。
「ごめんなピカチュウ、コイツ警戒心が強いしなかなか心を開いてくれないんだよ。
根は良い奴……だと思うから、あまり気にしないでくれ」
「……ピカ」
こくんと頷き、座りながらちびちびとミックスオレを口にするピカチュウ。
……しかし、人間はこんな缶なんぞ持つのは簡単だけど、ピカチュウとかツタージャみたいな小さなポケモンが持つのは大変そうだな。
それでもこぼさずにちゃんと飲んでる辺り、やっぱりポケモンは賢い生き物だとわかる。
「あっ、こんな所に居たんだねグリード」
「おぉ、サクラ」
いつの間に居たのか、俺達の目の前にサクラが立っている。
……また、視線がこちらに集中してきた。
少し居心地の悪さを感じるが、サクラは慣れているのか構わずに会話を始めた。
「はい、これは君にプレゼントだよ」
「えっ?」
そう言って、サクラが渡してきたのは……。
「……モンスターボール?」
ポケモンを捕まえる為に必要なトレーナーの必需品、モンスターボール。
「サンキュー……けど、なんで?」
「だって、ツタージャをちゃんと自分の手持ちにしたいでしょ?」
「えっ………」
ツタージャを、俺の手持ちに?
「君ならそのツタージャを上手く育てられるはずだ。ちゃんと許可も貰ってるから気にしなくても大丈夫だよ。
もちろん、君が良ければだけど」
「あ、いや……俺としてはもちろん嬉しいけど」
何せ生まれて初めてポケモンをゲットできるのだ、しかも愛着が湧いてきたツタージャを。
サクラの申し出は素直に嬉しい、二つ返事でOKしたいけど……。
「だけどさ、ツタージャが嫌なら……」
「タージャ、タジャタジャッ!!」
「えっ……?」
俺の言葉を否定するように声を荒げるツタージャ。
「ツタージャも、君ならトレーナーになっても構わないみたいだよ?」
「…………」
そうなのか、目で訴えると、ツタージャはこくりと頷いてくれた。
……モンスターボールのスイッチを押し、手のひらサイズにまで大きくさせる。
そして、ツタージャにボールを投げつけた。
ボールはツタージャの頭に当たり、赤い光がボールから発せられ中に入っていった。
少しゆらゆらと動き――すぐにボールは動かなくなる。
「……ゲットした証拠だよ、持ってみなよ」
「お、おぅ……」
少しおっかなびっくりしながらも、ツタージャの入ったモンスターボールを手に取った。
……生まれて初めての、ポケモンゲット。
大袈裟かもしれないが、感動と嬉しさが全身から込み上げてくる。
それが抑えきれず、俺は気がつけばボールを持った右手を高々と上げ。
「――ツタージャ、ゲットだぜ!!」
と、高らかに叫んでしまっていた。
「……お、おめでとう……グリード」
サクラは少し表情を引きつらせながらも、祝福してくれた。
「ありがとなサクラ、よーし……ツタージャ、出てこい」
ボールが開き、ツタージャが外に飛び出してきた。
「ツタージャ、これから宜しくな」
「タージャ」
こくりと頷くツタージャを、俺は優しく抱きしめてやる。
驚いたのか、少しばかり暴れるツタージャだったけど、すぐにおとなしくなってくれた。
(……グリード、か。本当にポケモンの知識を持ってないみたいだ、ボールの使い方もぎこちなかったし、でも……何か彼からは光るものを感じる……やっぱり、彼は)
「あ、やべ!!」
「? グリード、どうしたの?」
「……寮の荷物、整理しないと」
明日から本格的な勉強の時間だ、今日中に部屋の整理をしないと面倒な事になる。
「ピカチュウ、わりぃけどお前の主人を捜すのは部屋の整理をしてからでもいいか? すぐ終わるからさ」
俺の言葉に、ピカチュウは気にしないでと首を縦に振ってくれた。
「そのピカチュウ、どうしたの?」
「トレーナーがどっかに行っちまったんだと。それよかサクラ、寮までどうやって行くのか教えてくれないか?」
「……そっか、まだわからないもんね」
「ああ。てかこの学園が広すぎなんだよ!」
「確かに……それじゃあついてきて」
サクラの後に続く俺とツタージャ、そのすぐ後ろにはピカチュウが歩いてくる。
………。
「――にしてもすげえよな、一人一人に個室が与えられるなんてさ」
「個室は高等部からだけどね。グリード、君の部屋番号は?」
「えっと……104だな」
「それならこのまま真っ直ぐ行けばすぐ着くよ」
どうやら部屋は校舎と近い位置にあるらしい、ラッキーと思いながらサクラと共に部屋の前まで辿り着いて……。
「あーっ!!」
耳障りな大声が、前方から響き渡った。
「あん……?」
「えっ?」
サクラと2人、声が聞こえた方へと視線を向けてみる。
瞬間、ものすごい勢いで人がこちらに向かってきた。
そして俺の前で立ち止まり、おもっきり指を指して怒鳴り散らす。
「アンタ、あたしのピカチュウを盗んだわね!!」
「………はぁ?」
To.Be.Continued...