だけど、いきなりわけのわかんない女が怒鳴りかかってきて……一体何なんだ!?
「ちょっと待てよ、ピカチュウを盗んだって……俺がそんな事するわけないだろ!!」
「じゃあなんであたしのピカチュウを連れてるのよ!!
それに……どうしてサクラ様と一緒に」
「……サクラ様?」
サクラ様って……もしかしなくても、隣に居るサクラの事だよな?
視線を向けると、サクラは少し気まずそうに顔を逸らしている。
「サクラ、お前って相当有名人なんだな」
「あ、あはは……そうみたいだね」
本人はあまりそう言われるのが好きではないのか、曖昧な返事しか返さない。
「ちょ、サクラ様にそんな馴れ馴れしく……!
アンタ、この人を誰だと思ってるのよ!!」
「誰なんだ?」
そう返すと、少女は見事にすっ転んだ。うーむ、見事なリアクションだ。
「あのねぇ……この人は最強の四天王の一人であり、このイルミナ学園の理事長であるキキョウ・ファル・イルミナの娘である、サクラ・ファル・イルミナ様よ!!」
「…………」
「……ふふん、さすがに驚いたでしょ」
「サクラ、お前ってホウエンの四天王だったのか?」
「違うよ。イルミナ学園にも四天王やチャンピオンは存在するんだ」
「へ? それってどういうことだ?」
「この学園の四天王やチャンピオンは、心技体が揃った優秀なトレーナーに送られる称号みたいなものだよ。
――まあ、僕もまだまだ優秀とはいえないけどね」
「へぇ……そうなんだ、すげぇな」
「そんな事ないよ、僕もまだまださ」
少し照れくさそうに頬を掻くサクラ。
けれど、その表情は少し嫌そうだ。
……もしかして、こんな風に言われるの嫌なのかな。
「どうよ?」
「どうよって……なんでお前が偉そうに言うんだよ? すげえのはサクラじゃねえか」
「ぐっ……そ、そうだけど……それより、あたしのピカチュウ返しなさいよ!!」
「返すも何も、トレーナーであるお前を捜してたからちょうどいいや。
――よかったなピカチュウ、主人に会えて」
「ピカッ!」
俺に対してお辞儀をしてから、主人である少女の元へと戻っていく。
「えっ、えっ?」
「なんだよ、ポケモンの方が礼儀正しいじゃねえか」
「な、なんですってえ!?」
がーっ、と怒る少女だが、怒りたいのはこっちの方だ。
こっちは捜してやろうと思ってたのに、いきなり泥棒扱いとは……謝ってもらいたいものである。
「さてと……ピカチュウのトレーナーも見つかったし、部屋の片づけでもするか」
「グリード、僕も手伝おうか?」
「いいのか?」
「うん、どうせ暇だし構わないよ」
「サンキュー、じゃあ早速——」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
「……なんだよ、まだ居たのか?」
こんな失礼な奴と話したくないので、随分つっけんどんな言い方をしてしまったが、構わないだろう。
勘違いして一方的に泥棒扱いしたくせに謝らない失礼な奴に、ちゃんとした態度で接する必要はない。
「ねえ、君」
「な、なんですかサクラ様……?」
上擦った声を上げる少女。
だが仕方ない、今のサクラは……何故か怒ってる。
口調は柔らかいものなのだが、内側から感じる怒りは隠しきれない。
「君は今、グリードを勝手に泥棒扱いした。それなのにどうして謝らないの? それに彼は君のピカチュウを保護してくれてたんだよ?」
「うっ、そ、それは……」
「トレーナーとしてじゃなくて、人としてどうかと思うよ。君の態度は」
「…………」
静かな怒り、それにより少女の身体がどんどん縮こまっていく。
「あ、あのさサクラ……俺は別に気にしてないし怒る事はないと思うんだが……」
……何で俺がフォローに回ってるんだろう。
でも仕方ない、こういう殺伐とした空気は苦手なのだ。
「……謝るべき時はきちんと謝る、それは人として大事な事だよ。君だってそう思うだろう? グリード」
「あー、まぁ……それはそうだけど、コイツだって悪気があったわけじゃないし……ピカチュウが心配だったからだし」
軽く睨まれ、今度は俺が萎縮してしまっていた。
だ、誰かこの空気をなんとかしてくれ……。
「……まあ、君がそういうなら僕からはこれ以上何も言わないよ。それじゃあグリード、早速荷物の整理でもしようか?」
「あ、あぁ……」
機械みたいに頷きながら、部屋の鍵を出す。
……サクラって、大人しそうな子だと思ったけど、もしかしたらそれは間違いなのかもな。
「何か言ったかい?」
「い、いや……何も」
………。
「——よし、こんなものだろ」
荷物の整理は先程ピカチュウに言ったように、すぐに終わった。
何せ私物が少ないのだ、衣類などしかないのですぐに終わるのは当たり前と言えるだろう。
「サクラ、ツタージャ、手伝ってくれてありがとな」
「気にしないで、僕から手伝うって言ったんだから」
「タジャッ」
「それとピカチュウと……あー、わりぃ、名前なんだっけ?」
「……カレン。アサヒナカレンよ」
「サンキューカレン、手伝ってくれて助かった」
「別に……さっき、勘違いしちゃったし……」
少し顔を赤くしてそっぽを向くカレン。
ピカチュウはそんな彼女を見てから、苦笑をこちらに向けてきた。
どうやら、彼女は素直な性格ではないらしい。
「そうだグリード、学園からの支給品は開けてみなよ」
「ああ、そういえば」
なんでも新入生には必ず学園から支給品が貰えるらしい。
かくいう俺にも白いダンボール箱で部屋の中に置いてあった、中身はまだ見ていないが。
サクラに言われ、早速ガムテープを剥がして中身を見てみると……。
「えっと……モンスターボールが5個に、きずぐすり……あと、なんだこりゃ?」
いくつかの道具はわかったが、よくわからないものも入っている。
「これはポフィンケースだよ、あとこっちはポケギアだね」
「ポケギアは知ってるけど……ポフィンケースって何だ?」
「ポフィンを入れる入れ物だよ、そしてポフィンはポケモンにとってのお菓子のようなものさ。
外見が美しくなったりするから、コーディネーターにとっては必需品と言えるね」
「へぇ……ポフィンケースか」
「アンタ、ポフィンも知らなかったの……?」
「しょうがねえだろ、俺は知識ゼロ人間だからな」
「……そんなんでよく入学できたわね」
「まあ色々あったんだ、それよかサクラ、これは何だ?」
そう言ってサクラに見せたのは、赤い色の機械。
長方形で、何やらボタンみたいなものがついているが、ポケナビやポケッチとも違うようだ。
「これはポケモン図鑑だよ」
「へぇ……って、もしかして生徒一人一人図鑑を持ってるのか?」
「うん、そうだよ。僕も持ってるし」
「あたしもあるわよ」
そう言って、サクラは紫色の、カレンは緑色の図鑑を取り出し見せてきた。
しかし、ポケモン図鑑を生徒一人一人に手渡すとは……改めてこの学園の凄さがわかった瞬間だった。
「これがあれば自分の手持ちの技が一目でわかるし、自分の知らないポケモンが現れても対象できるからね」
「ははぁー……すげえなポケモン図鑑って」
「……本当にアンタってド素人なのね」
「うるせえな」
「そうだグリード、君のトレーナーカードを図鑑に読み込ませて。そうしないとその図鑑は君のものにならないから」
「ならないとどうなるんだ?」
「まずそのままじゃ使えないし、読み込ませる事によって君以外の人間が使えないようにする事ができるんだ」
なるほど、と納得しながらトレーナーカードを図鑑の差し込み口に入れる。
すると機械音が響き……やがてまた静かになった。
「これでこの図鑑は君のものになった。開く時はその青いボタンを押すんだ。その後は書いてあるから色々試してみるといいよ」
「サンキュー、サクラ」
よし、せっかくだからツタージャの事を調べてみるか。
と、その時いきなり電子音が鳴り響く。
視線を向けると、サクラがポケギアを取り出し誰かと会話を始めていた。
「……うん、うん……わかったよ。すぐ行く」
「誰からだ?」
「ちょっと呼ばれちゃったよ、他の四天王に。それじゃあグリード、またね」
手を振りながら、サクラはそのまま部屋を出て行ってしまった。
……今度、ちゃんとしたお礼をしないとな。
「…………ねえ」
「何だ?」
「あんたド素人なんでしょ? だからバトルしてみない?」
「バトル?」
バトルって……殴り合いの喧嘩か?
「ポケモンバトル、どうせやった事ないんでしょ?」
「あ、ああ……」
ポケモンバトルの事だったのか……。
まあ、ちょっと考えればわかるよな、普通は。
「でも、いいのか?」
「当たり前でしょ。それとも嫌なの?」
「全然、よし、バトルしようぜ!!」
立ち上がり、気がつくと握り拳を作っていた。
初めてのポケモンバトルか……なんだかワクワクしてきたぜ!!
………。
場所は変わり、地下のバトルフィールドへ。
「ははぁー……地下にこんな所があるのか」
「もちろん一階にもあるんだけど、あっちは授業用なの。でもこっちはフリーでいつでもバトルできるのよ」
「へぇ……」
辺りを眺めると、確かにバトルをしているトレーナーがちらほら。
あっ、あのポケモンは何だろう……。
「ほら、さっさと行くわよ」
「ぐぇ……」
ポケモン図鑑で調べようとしたら、いきなり首根っこを掴まれてしまった。
……コイツ、本当に乱暴な奴だな。
「カレン」
「………?」
「ああ、アヤト」
いきなり声を掛けられたと思ったら、どうやらカレンの知り合いらしい。
歳は俺と同じくらいか、銀髪に灼眼が特徴的だ。
目つきは鋭く見ようによっては冷たい印象を抱いてしまいそうだが、俺には嫌なヤツには見えなかった。
ここに居るという事は、こいつもトレーナーなんだろう。
「ちょっと、今日はモモカと一緒に居ないの?」
「……今、ようやく逃げられた所なんだ」
疲れたように呟くアヤトという男、どうやらそのモモカという人物は苦手な部類らしい。
そんな事を考えていると、視線がこちらに向けられた。
「彼は?」
「コイツはグリード、今日からこの学園に入学してきたド素人よ」
やかましい、事実だがあんまりド素人ド素人言うんじゃねえ。
「アヤトだ。よろしくなグリード」
「おぅ、よろしくなアヤト」
お互いに握手を交わし、自己紹介も済ます。
「それより、ここに居るという事は……ポケモンバトルでもするのか?」
「そうよ。コイツってばバトルすらした事ないから、あたしが指南してやろうと思って」
「偉そうに……ポケモンに迷惑掛けてる奴が先生ぶるなよな」
「なんですって?」
「落ち着けカレン。それより、オレもそのバトルを見学させてもらってもいいか?」
「もちろん、アンタもいいでしょ?」
「ああ。だけど参考になんかなるわけないと思うけどな」
それでも構わない、アヤトもそう言ってきたので俺はそれ以上何も言わずにフィールドへと向かう。
そしてトレーナーが立つ位置で止まり……カレンと対峙した。
『それでは、これよりカレンとグリードによるポケモンバトルを開始します。
使用ポケモンは互いに一体ずつ、どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点で終了になります』
うはぁ、審判はコンピューターがやってくれるのか……便利なもんだ。
感心していると、カレンの方は準備万端なのか、早速ポケモンを出してきた。
「ピカチュウ、出てきなさい!!」
「ピカッ!」
「あのピカチュウか……」
でんきタイプって……たしかじめんタイプが有効なんだよな。
でも俺にはツタージャしかいないし、とりあえずポケモンを出そう。
モンスターボールを手に取ると、少しだけ手が震えている事に気づいた。
……やっぱ、緊張するよな。
しょうがないよな、初めてのバトルなんだから。
でも……どうせやるやらやっぱり勝つ、そして勝利をゲットだぜ!!
「——ツタージャ、キミに決めた!!」
勢いよくモンスターボールを投げ、ツタージャをバトルフィールドに出す。
「タージャ」
「ツタージャ、初バトルだけど頑張ろうな!!」
こちらには振り向かず、頷きだけ返すツタージャ。
『先攻はカレンからとなります、では——試合開始!!』
「いくわよ。ピカチュウ、でんこうせっか!!」
「ピッカッ!!」
四本足でツタージャに向かっていくピカチュウ。
その動きは速く、あっという間にツタージャとの間合いを詰めていく。
「え、えっと……ツタージャ、つるのムチ!!」
「タジャ!!」
やや遅れたが、ツタージャは指示通りにつるのムチでピカチュウに攻撃を仕掛ける。
だが。
「ピカッ!!」
「タジャッ!?」
つるのムチはあっさりと回避され、ピカチュウのでんこうせっかによる体当たりがツタージャを吹き飛ばす。
「ツタージャ!?」
「ピカチュウ、続いて10まんボルト!!」
「ピーカチュウゥゥッ!!!」
ピカチュウから放たれる凄まじい電撃。
それは迷う事なく、倒れたツタージャへと直撃した———!
「ツタージャ!!」
「…………タジャ」
しかし、ツタージャはしっかりと立ち上がってくれた。
あ、あれ……?あんな電撃をまともに受けたのになんで……。
「くさタイプのツタージャに、でんき技は効きにくいんだ」
アヤトの言葉で、思い出した。
そうだった、ツタージャはくさタイプ、でんき技は効きにくいんだ。
よーし、なら勝てる!!
「今度はこっちからだ、ツタージャ、つるのムチ!!」
「ター…ジャ!!」
しなやかなつるのムチがピカチュウに襲いかかる。
よし、これは命中——
「ピカチュウ、右にかわしてからでんこうせっか!!」
「ピカッ!!」
「え――」
つるのムチは虚しく地面を叩くだけに終わり、代わりにピカチュウのでんこうせっかが再びツタージャを吹き飛ばす。
「タ、ジャ……」
さすがに効いたのか、立ち上がったツタージャの表情は苦しそうだ。
……くそっ、負けてたまるか!!
「ツタージャ、もう一度つるのムチ!!」
「そんな単調な攻撃当たるわけないでしょ!! ピカチュウ、でんこうせっか!!」
「ピカッ! ピカッチュウ!!」
「タジャーッ!!!」
「ツタージャ!!」
こちらの攻撃は当たらず、向こうの攻撃はまったく避けられない。
「くっ………!」
ツタージャも限界だ、でもどうすれば……。
「———そうだ!!」
サクラが言ってた、ポケモン図鑑で自分のポケモンが何を覚えているかわかるって!!
なんでその事に気づかなかったんだ俺は……!
すぐさま図鑑を開き、ツタージャの事を調べる。
俺のツタージャはつるのムチの他に……リーフブレード、たいあたり、へびにらみにかげぶんしん。
……どれも、どんな技かわかんねえ。
「ピカチュウ、10まんボルト!!」
っ、こうなりゃ一か八かだ!!
「ツタージャ、かげぶんしんだ!!」
「タジャ!!」
電撃が、ツタージャに迫る!!
しかし、ツタージャに当たる瞬間――何体ものツタージャがフィールドに現れた。
「な、なんだこりゃ!?」
「これがかげぶんしんという技だ、知らないで使ったのか?」
呆れを含んだアヤトに少しカチンと来たが、今はそんな事どうだっていい。
「ツタージャ、次はリーフブレードだ!!」
「タジャ!!」
ツタージャの小さな手が緑色に輝く、というかあれは初めてあいつと会った時に俺が受けた……。
「タージャッ!!!」
「ピカァッ!!」
右手によるリーフブレードが、ピカチュウの身体を弾き飛ばす。
よし、初めてダメージを与えられたぞ!!
「ツタージャ、たいあたりだ!!」
このまま一気に押し切ろうと、更に違う技を指示する。
文字通り体当たりをしようと、倒れたピカチュウに向かって走っていくツタージャ。
ピカチュウは起き上がれない、これなら………!
「ピカチュウ、アイアンテール!!」
「———ピカッ!!」
立ち上がり、飛び上がるピカチュウ。
見ると、尻尾が鈍い光沢を放つ鉄色に変わっていた。
そして――その尻尾で向かってきたツタージャを殴り飛ばす!!
「タジャアアアアアッ!!?」
その威力は凄まじく、何度も転がりながらツタージャは吹き飛んでいき……立ち上がる事無く動かなくなった。
『ツタージャ戦闘不能、ピカチュウの勝ち。よって勝者、カレン』
「やった!!」
「ピカッ、ピカチュウ!」
勝利に喜ぶカレンとピカチュウ、しかし俺はそれどころではない。
「ツタージャ、大丈夫か!?」
慌ててツタージャを抱きかかえる。
――おもわず、息を呑んでしまった
傷だらけのツタージャを見て、自分の未熟さを思い知らされ……。
それと同時に、ツタージャに無理をさせてしまった罪悪感が、一気に襲いかかる。
「…………」
「それくらいなら大丈夫よ、ポケモンセンターに行けば治るわ」
「ほ、本当か!?」
「本当よ。だからその今にも泣きそうな顔はやめなさい、なんかあたしが悪者みたいじゃない」
「あっ……わ、わりぃ」
「いいわよ。それより行きましょう」
「…………」
ツタージャを抱きかかえたまま、黙ってカレンについていく。
……自分の浅はかさに、腹が立った。
ポケモンバトルがしてみたかったからって、ろくに勉強もしないで……ツタージャに怪我をさせてしまった。
情けない、情けなくて自分を殴りたくなる。
「……みんな、初めはそんなものさ」
「………アヤト」
「あまり自分を責めるな、お前がそんな事じゃツタージャも悲しむ」
「…………」
アヤトの優しい言葉に頷きだけ返し、ツタージャを優しく撫でた。
……結局、初めてのバトルは完敗に終わり、改めて自分がトレーナーとして如何に落ちこぼれかを再認識する結果となってしまった。
でも……次は絶対に負けない。
この悔しさをバネにして、必ず次は……勝利をゲットしてみせる!!
To.Be.Continued...
【ツタージャ】♀
【使えるわざ】
・つるのムチ
・リーフブレード
・たいあたり
・かげぶんしん