なかなか可愛らしいし人懐っこいから、これから上手くやっていけそうだなーと思った矢先、
ヒヤリングポケモンのタブンネが現れ、更にそのトレーナーであろう女性も現れたんだが……。
なんだか、嫌な予感がするなぁ……。
「――何をしている、それはわたしのタブンネだぞ」
そう言いながら現れたのは、長身の少女。
腰まで伸びる黒い髪、睨むようなツリ目の瞳は髪と同じく見事な黒。
白いシャツに青のジーパンと凄まじくラフな格好に、背中には黄色いリュックを背負っている。
「ごめんなさい、野生のタブンネかと思ってしまって……」
「…………」
素直に謝るモモカにも、少女は厳しい表情を緩めたりはしない。
何をそんなに怒っているのか、モモカは勘違いした事を謝っているというのに……。
「………?」
しかし、ここで少女の視線がモモカではなく……カレンに向けられている事に気がついた。
カレンもそれに気づいているようだが、敢えて何も反応しない……というより、少女から視線を逸らしている。
「……このツタージャとムックルは、お前のものか?」
「へ……?」
暫し呆け、俺に向けられた言葉だと理解し慌てて答える。
「あ、ああ……そうだけど」
「…………」
俺の言葉の何が可笑しかったのか、女性は目を閉じ口元を吊り上げる。
その態度がなんだか小馬鹿にされたような気がして、気分が悪い。
「……トレーナーもポケモンも、たいしたことないな」
「なっ———!?」
ぽつりと呟かれた言葉、その内容はとてもじゃないが我慢できるものではなかった。
「ちょっと待てよ! 確かに俺はド素人だ、最近ポケモンをゲットしたばかりだからな。
でも、ツタージャやムックルを馬鹿にするのは許さねえぞ!!」
「たいしたことがないから事実を言っただけだ、どちらも弱すぎる……この学園で生き残る事などできない程にな」
「こいつ………!」
「――こんな弱い奴の傍に居るなんて、落ちぶれたものだな。カレン」
「えっ……?」
全員の視線が、カレンに向けられる。
「…………」
しかし、カレンは何も言わずに女性を睨むのみ。
「カレンさん、この失礼極まりない無神経女……ではなく、女性を知っているんですか?」
「ちょっと、ね……」
「フン、ちょっとか……なる程そうか、もうわたしとは何の関係もないのだったな」
「…………」
「わたしとて、お前のような弱いトレーナーを助けるような軟弱者に用はない。
いくぞタブンネ、気分が悪くなった」
言いたい放題言い残し、女性はタブンネの共にその場を去ろうとしたが。
「ちょっと待てよ!!」
俺には、どうしても我慢できなかった。
「ムクーッ!!!」
「って、ムックルどうしたんだ!?」
いきなり騒ぎ出すムックルに怒りがどこかに行ってしまった。
ムックルの言葉はわからないが、めちゃくちゃ怒っているのがわかる。
何せさっきのやかましさなんて比にならないくらいムックムックと叫び散らしているからだ。
とりあえず騒がしいので、ムックルの身体を掴んで抱き寄せる。
「落ち着けよムックル、なんでそんなに怒ってるんだ?」
「ムクッ、ムクーッ!!」
うーむ、わからん。
こういう時、ポケモンの言葉がわかれば便利なのにと思ってしまう。
「……主人が馬鹿にされて、怒っているのか」
「えっ?」
女性の言葉に、目を丸くした。
俺が馬鹿にされたから、ムックルはこんなにも怒ってるのか?
そうなのかムックル、そう訪ねると何度も首をこくこくと縦に動かし鳴き叫ぶ。
……こんな状況なのに、嬉しくなってしまった。
「ありがとなムックル、でも俺は大丈夫だ。腹が立ったけどアイツの言った事は事実だからな。
――だけど、お前達を馬鹿にした事だけは絶対に納得できない。だから……取り消せ!!」
「……取り消さないと言ったら?」
「だったら俺とバトルしろ!! そんな大口が叩けるなら強いんだろ!?」
「…………」
「ちょっと、少し落ち着きなさいよ」
「俺のポケモンが馬鹿にされたのに、落ち着いてられるか!!」
「今のアンタが適う相手じゃないってわからないの?」
「――いいだろう。そこまで言うなら相手をしてやる、自分の弱さを再確認するんだな」
………。
睨み合ったまま、俺達は地下のバトルフィールドに赴く。
俺の少し後ろでは、カレンの呆れたようなため息が聞こえたが、無視だ。
「ルールは?」
「本来ならば3対3と言いたいが、お前はその2体しかいないだろう?
なら2対2にしてやる、尤も……わたしはこの一体で充分だが」
っ、余裕綽々といった態度がこの上なく腹が立った。
どれだけ強いのか知らないけど、だからってポケモンを馬鹿にする道理はないはずだ。
「――ムックル、君に決めた!!」
「ムクーッ!!」
「――ジャノビー、バトルオン!」
「………ジャノ」
「ジャノビー……?」
確かあれは、ツタージャの進化系……。
だけど、相性ではこっちが有利だ!!
『――それでは、試合開始!!』
機械音が混じった審判の声がフィールドに響き、バトルが開始された。
「ムックル、でんこうせっか!!」
「ムクーッ!!」
先手はこちらから、滑空しながらムックルは真っ直ぐジャノビーに向かっていく。
「———遅い」
しかし、ジャノビーはムックルの攻撃をあっさりと回避してしまった。
「何!?」
「そんな程度のスピードで、わたしのジャノビーの捉えられると思っていたのか?
だからそのムックルは弱いと言ったんだ」
「くっ……だったらムックル、かぜおこし!!」
「ムクッ、ムックルーッ!!」
翼を懸命に羽ばたかせ、猛烈な風を巻き起こさせるムックル。
これならどうだ———!
「ジャノビー、リーフブレード」
涼しげに言い放ち、ジャノビーは吹き荒れる風など存在しないかのように走る。
――緑色に輝くジャノビーの右腕
それが、ツタージャのリーフブレードよりも威力が上だと理解した瞬間。
「ジャ……ノ!!」
「ムクーッ!!?」
ジャノビーのリーフブレードが、ムックルの身体を容易に叩き落とした。
「ムックル!!」
「……ムク〜……」
『ムックル戦闘不能、ジャノビーの勝ち』
「——リーフブレードを使う必要もなかったか、まさか一撃で倒れるとはな」
その言葉に含まれるのは、先程以上の呆れと失望感。
「……ムックル、戻るんだ」
ムックルをボールに戻し、ホルスターにしまう。
――強すぎる
あのリーフブレードを見て、すぐさま相手との実力差を思い知らされた。
俺では、いや今の俺達では絶対にあのジャノビーには勝てない。
ポケモンの実力もそうだが、なにより俺と相手のトレーナーとしての実力差が冗談みたいに離れている。
勝てないと、絶対に適わないと理解した。
――だけど、それでも
さっきの言葉は許せないし、何よりも。
こんなに強いトレーナーと戦える事に、ワクワクしてる自分が居る。
だったら、最後まで諦めずにバトルしてやる!!
「ツタージャ、君に決めた!!」
「———タジャ!」
相手が進化後のジャノビーだからか、気合い充分といった様子でフィールドに赴くツタージャ。
「すぐに終わらせてやる、ジャノビー、グラスミキサー」
「ジャノ、ジャ……ノ!!」
ツタージャに向けて、グラスミキサーが放たれていく。
だけど……避けられない技じゃない!!
「ツタージャ、かげぶんしんだ!!」
「タジャ!」
グラスミキサーが当たる前にツタージャのかげぶんしんが決まり、ジャノビーの技は虚しく空を切った。
「…………」
「ツタージャ、リーフブレード!!」
「タジャ!!」
小さな右手を緑色に輝かせ、ジャノビーに向かって走るツタージャ。
「ジャノビー、こちらもリーフブレード」
「ジャノ!!」
すると、ジャノビーも右手によるリーフブレードを展開し――両者共に真っ向からぶつかり合った。
互角か――そう思っていたが、ツタージャの身体が呆気なく宙に投げ出される。
っ、やっぱりパワーは向こうの方が上か……だけど!!
「ツタージャ、へびにらみだ!!」
「———タジャ」
「っ、ジャノ………!」
空中で体勢を立て直しつつ、ジャノビーに向かって瞳を怪しく輝かせるツタージャ。
すると、ジャノビーの動きが少しだけぎこちなくなった。
へびにらみの効果が現れて、今ジャノビーはまひ状態になっているのだ。
「チャンスはここしかない……ツタージャ、つるのムチ!!」
「タジャッ!!」
着地と同時に、つるのムチをジャノビーの身体に打ちつけるツタージャ。
もちろんジャノビーも反撃しようとするのだが、まひ状態になっているせいか技が出ない。
バシッっという音が響き、つるのムチによる三連打がジャノビーの身体に叩きつけられた。
「グリード、一気に畳み掛けろ!!」
「わかってるぜアヤト。ツタージャ、グラスミキサー!!」
「ター……ジャ!!」
「ジャノ………!?」
グラスミキサーによる突風が、ジャノビーの身体を後ろに吹き飛ばす。
よし、このまま一気に倒してやるぜ!!
「ツタージャ、リーフブレード!!」
「タジャッ!!」
再びジャノビーに向かっていくツタージャ。
ジャノビーは動けない、これなら………!
「―――弱いくせに!」
「え―――」
おもわず、バトル中だというのに……それを忘れてしまった。
だって、今の声は……。
「ジャノビー、リーフブレード!!」
「ジャ……ノッ!!」
「タジャ!?」
声を荒げた指示が、女性から放たれる。
それに含まれるのは——怒りと、悲しみ?
それを体現するかのように、ジャノビーの力強いリーフブレードがツタージャの身体を地面に叩きつける。
その威力は、先程よりも更に強い………!
『ツタージャ戦闘不能、ジャノビーの勝ち。よって勝者、アオイ』
審判が、このバトルの幕を降ろす言葉を放つ―――が。
「――ジャノビー、リーフストーム!!」
「なっ!?」
「どうして!?」
あの少女――アオイは、まだツタージャに攻撃を仕掛けようとジャノビーに指示を出した。
「ジャノ……?」
さすがにジャノビーも、主人の命に耳を疑ったのか、視線をアオイへと向ける。
「ジャノビー、リーフストームだと言っ――」
「ツタージャ、戻れ!!」
ツタージャの元に走りながら、ボールを翳して中に入れさせる。
それを確認してから、俺はアオイの元へと詰め寄った。
「お前、どういうつもりだ!! もう勝負は着いたのに何で攻撃を―――!」
仕掛けたんだ、そう言って胸倉を掴もうとしたんだけど……。
……アオイの、辛そうな表情を見て、瞬時に怒りが霧散してしまった。
「………お前」
「っ、近寄るな!!」
「どわっ!?」
勢いよく身体を押され、フィールドに倒れ込んでしまう。
「グリード、大丈夫か?」
「グリードさん!……あなた、どうしてこんな酷い事を」
「煩い、黙れ!!」
「っ、そうですか……人が下手に出てれば調子に乗って………!
――どうやら、仕置きが必要みたいねこの女には」
「ま、待ってくれ!!」
何やら怪しいオーラを放つモモカを、慌てて引き止める。
「止めないでくださいグリードさん、こんなわけわからん女には身の程を理解してもらった方が」
「悪いモモカ、気持ちはわかるけど落ち着いてくれ」
尚もブツブツと恐い雰囲気を醸し出すモモカ。
しかし、アヤトがモモカの首根っこを掴みズルズルと後ろに連れて行ったおかげで、ようやく話ができる状況に。
「……お前、どうしてそんな」
「――二度と、わたしに近寄るな。わたしはお前みたいな誰かに助けてもらわねば何もできない弱い奴が大嫌いだ!!」
一方的に吐き捨て、アオイはフィールドから出て行った。
しかし、ジャノビーは一度こちらを見てから。
「………ジャノ」
まるで謝るように一言鳴いてから、アオイの後を負った。
「…………」
負けた、完膚なきまでの敗北。
アイツの言った通り、ジャノビー一体だけで負けてしまった。
「何なんですかあの女、今度会ったらどうしてくれましょうか……」
「……モモカ、どうしたんだ?」
さっきから彼女の雰囲気が恐くてたまらない、迂闊に話しかければこっちに被害が来るような気がする。
「気にするな、あれは時々発生する……病気みたいなものだ」
「ふーん……」
なんだかよくわかんないけど、これ以上訊くなという雰囲気を感じ取ったので、この話題は止めにする。
……そういえば、さっきからカレンがずいぶんおとなしいような。
「カレン、どうしたんだ?」
「……別に、なんでもないわよ」
棘のある物言いで返されてしまった。
アオイと知り合いみたいだから、それについて訊いてみようかと思ったんだけど……こんな状況じゃ訊けるわけがないか。
「とりあえず、先にポケモンセンターに行かないと」
「そうだな。……それにしてもあのジャノビー、かなり育てられてるぞ」
「ああ……けど、次は勝ってみせるさ!!」
拳を握りしめ、アヤトに言い放つ。
そんな俺を見てアヤトは苦笑を浮かべていたけど、「頑張れよ」と言ってくれたのは嬉しかった。
それにしても……俺ってこの先バトルで勝つ事ができるのか?
2連敗した事で、少しだけ落ち込みながら。
俺はカレン達と一緒に、ポケモンセンターへと向かったのだった。
To.Be.Continued...
【ツタージャ】♀ 【ムックル】♂
【使えるわざ】 【使えるわざ】
・つるのムチ ・たいあたり
・リーフブレード ・かぜおこし
・たいあたり ・でんこうせっか
・かげぶんしん
・へびにらみ
・グラスミキサー