そう決まった俺達は、明日にもイッシュ地方を後にする事に。
せっかくフウロ達と友達になれたけど……しょうがないよな。
『――あらフウロ、どうしたの?』
「あ……うん、ごめんなさいカミツレさん。急に電話して」
気にしないで、とカミツレはフウロに笑みを浮かべる。
それにより、フウロは自分の中で少しだけ緊張がほぐれてくれたのを感じていた。
――ここは、フウロの部屋
彼女はテレビ電話でカミツレに訊きたい事があったから、連絡をしたのだが……。
『それで、今日はどうしたの?』
「えっと……その、今日は訊きたい事があるんですけど……」
『………?』
なんだろう、随分と歯切れが悪く彼女らしくない態度に、カミツレは首を傾げる。
とりあえず言葉を待つが、あーうーと忙しなく表情を変えるだけで、なかなかフウロは本来を切り出さない。
ますます彼女らしくない態度に、だんだん心配になってきた。
『フウロ……貴女、身体の調子でも悪いの?』
「あっ、うぅん! そういうわけじゃないんですけど……その、なんて説明すればいいのか」
『落ち着いて話しなさい、ちゃんと聞いてあげるから』
「は、はい……」
カミツレにそう言われ、とりあえず深呼吸を繰り返すフウロ。
暫く続け……少しだけ落ち着く事ができた。
「……ごめんなさい」
『謝らなくてもいいわ、それでどうしたの?』
「は、はい……その、わたし……変なんです」
『変?』
「実は……もうすぐグリード達がサーナイトの治療を終えて帰っていくんですけど……」
『あら、サーナイトの治療は無事終わったのね』
よかった、とカミツレは呟きを漏らす。
「それで……わたし、グリードがここから居なくなるって聞いたら、何だか胸の辺りが痛くなったんです」
『…………フウロ』
彼女の言葉に、カミツレの表情が僅かに変わる。
その言葉の意味する事は、まさか……。
「今も痛くて、苦しくて……わたし、どうしちゃったのかな……」
『…………』
正体不明の痛みに、フウロの表情が歪む。
だがそれは痛みに耐えるが故ではなく、悲しみに包まれたもの。
……待て、落ち着けとカミツレは自分に言い聞かせる。
まだフウロの痛みの正体は自分の想像に過ぎない、ここはきちんと確かめなくては。
そう思い、カミツレは幾つか質問をする事にした。
『フウロ、貴女グリードが居なくなると思ったら痛みが走るの?』
「……はい」
『……貴女、グリードと一緒に居るとどんな気持ちになる?』
「どんな気持ちって……」
いいから答えて、カミツレにそう言われ怪訝そうにしながらも考えてみる。
――優しい笑み
――暖かな眼差し
裏表のない彼の言葉は、フウロにとって安らぎを与えてくれる。
彼とバトルをした時も、始終楽しかった。
何度でも、戦ってみたいと本気で思えた。
……ずっと、一緒に居たいと思った。
少したどたどしく説明すると、カミツレはやっぱり……と呟き、フウロに答えを与えてあげた。
『フウロ、貴女……グリードに恋してるのよ』
「……………えっ?」
恋?
カミツレの言葉がよく判らず、フウロは暫し言葉を失う。
しかし、やがてその意味がわかると……。
「っ」
面白いくらいに、顔を真っ赤にして固まってしまった。
その様子に、カミツレはただ苦笑を浮かべる。
色恋沙汰に疎いとは思っていたけど……まさかここまでとは。
「えっ、あ……でも、あの……ええっ」
『落ち着きなさい。けど間違いないわ、貴女はグリードが好きなのよ。
だから、彼がフキヨセから居なくなると知って悲しくなったの』
「…………」
好き?
自分が、グリードを?
……でも、思い返すと納得できる部分も存在していた。
「ど、どうしようカミツレさん」
『それは貴女自身が決めるしかないわよフウロ』
「わ、わたし自身が決める……?」
『自分の想いをグリードに伝えるのか、それとも伝えずにその想いを自分の中にしまっておくのか……どの選択にするのかは、貴女が自分で決めないとダメ。
だって、貴女のグリードに対する想いは他でもない貴女自身のものなのだから』
「…………」
そうだ、カミツレの言う通りではないか。
自分の想いは自分だけのもの、ならばどうするかの選択は……自分で決めるしかない。
でも……それがわかっていても、フウロはどうすればいいのかわからなくなる。
無理もない、フウロはこの世に生を受けて19年間、恋というものをした事がない。
その容姿から言い寄る男も居たが、その時は恋愛の概念が存在していなかったので、理解できなかった。
だから――どちらの選択が正しいかなんて、フウロにはわからない。
どうすればいいかなんて……わかるはずもなかった。
『……ゆっくり考えてみなさい、それで答えが出るとは限らないけど……考えもせずに答えが出ないのも事実だから』
「で、でもゆっくり考えてる暇なんてないんです。だ、だって……グリードは明日にはシンオウに行っちゃうんですから」
アヤトの父親であるサイトに会うために、アヤトの故郷であるシンオウ地方に行ってしまう。
そうなれば、もう気軽に会う事などできなくなる。
『……なら、その時までに答えを出すしかないわね』
「そんな……」
『じゃあ、このままさよならしてもいいの?』
「…………」
『後悔しない生き方なんていつもできるわけじゃないわ、人間はそこまで賢い生き物じゃないもの。けど……後悔しないように努力する事はできるから、頑張って』
カミツレとしては、それ以上の言葉は掛けられない。
どんなにアドバイスをしようとも、どんなに言葉を並べようとも、最後に決めるのは本人なのだから。
しかし、カミツレの言葉が少しは気持ちを落ち着かせる要因になったのか、フウロの表情はやや和らいだものになっていた。
「ありがとうカミツレさん、少しだけ……気持ちが楽になりました」
『そう……それはよかったわ』
「それじゃあ、また」
『ええ。……頑張って』
そう言い残し、カミツレは電話を切る。
暗くなった画面を暫し見つめていたフウロだったが、やがてゆっくりと息を吐きながら立ち上がりのろのろとした動きでベッドに倒れ込んだ。
(……わたし、どうしたらいいのかな……)
グリードは好きだ、カミツレのお陰で自覚できるようになった。
でも……想いを伝える事に対しては、やはり躊躇いが生まれる。
想いを伝えても、届かないかもしれない。
恋をする者なら誰しもが抱く不安が、フウロを臆病にしていた。
――瞳を閉じる
浮かぶのは、彼の優しい笑顔。
それにより、フウロの口元にも自然と笑みが生まれた。
「―――好き」
誰も居ない部屋の中、フウロは一人告白の言葉を口にする。
この想いが、彼に届けばいいのに……囁かで可愛らしい願いを頭に浮かべて――またも胸に痛みが走った。
「………バカ」
そんな願いなど、抱いた所で意味などない。
虚しさを感じ、フウロはまたもため息をつきつつ……意識を微睡みの中へと落としていった。
…………。
「……む、にゃ……?」
身体がだるい、目を開けるのも億劫だ。
欠伸をしながらベッドから起き上がると……外は既に日が落ちていた。
「うわぁ……」
どうやら呑気にグースカと寝ていたらしい、そう思うと恥ずかしくて顔が赤くなる。
「……グリードは……」
起き上がり、乱れた髪を直してから部屋を出る。
「………?」
しかし、家のどこにもグリードの姿はなく、彼の肩に乗るツタージャも居ない。
……ポケモンセンターに居るかもしれない。
彼は今日トレーニングをすると言っていたから、疲れたポケモン達をゆっくりさせる為に、行っているのかも。
そう思うやいなや、フウロはすぐさま家を飛び出す。
まだ答えは出ない、だけど彼に会いたい。
恋する乙女が抱く当たり前の感情、それに突き動かされるのは至極当然と言える。
全速力で走り……息を乱しながらあっという間にポケモンセンターへと辿り着いた。
中に入り、少し辺りを見回すと――“彼”は居た。
「…………」
テレビ電話で、誰かと会話している。
(……誰と、話してるのかな……?)
気になり、なんとなく後ろめたくなって気づかれないように近づいてみると……。
「―――――」
おもわず、息を呑んだ。
「――それでさ、なんとレシラムとゼクロムに会ったんだよ!!」
『本当!?』
『へぇ……それは凄い事だね、それが真実ならだけど』
『そうね、それが真実なら凄い事ね』
「おいコラ、カレンもサクラも失礼だな!!」
うがーっ、と画面越しに怒鳴るグリード。
彼が今話しているのは、未だ学園に居るカレンとサクラとソラネの3人。
無論、フウロは初めて見る相手であり……だがそれでも、わかってしまった。
彼と話す彼女達の表情を見て、3人が彼をどう思っているのかを。
自分の予想でしかない、しかし……同じ人を好きになった故か、否が応でも理解してしまう。
『? グリードくん、後ろの人は?』
「えっ?」
ソラネの言葉に、グリードは後ろを振り向く。
「あっ、フウロ。どうしたんだよ?」
「あ………」
『……あなたは、フキヨセのジムリーダーのフウロさんですね?』
「え、ええ……」
『はじめまして、僕はサクラ・ファル・イルミナといいます。彼とは……友人、ですかね?』
「お前さ、なんで毎回俺とは友達なのかわかんないような自己紹介をするわけ?」
『気にしないでいいよ、難しい乙女心というやつさ』
(……意味がわからん)
『あたしはアサヒナカレンといいます』
『カザミヤソラネです』
「……ええ、よろしく」
3人の顔をまともに見れない。
……彼の傍には、既に自分と同じような想いを寄せる女の子が。
「そんじゃみんな、また夏休み明けにな」
『うん。いい夏休みを送るといい』
『が、頑張ってね』
『少しは強くなってなさいよ、グリード』
三者三様の言葉を貰いながら、グリードは通信を切る。
「フウロ、どうした?」
「あ……えっと、家に居なかったから……ごめんね、邪魔しちゃって」
「大丈夫だよ、もう切る予定だったし。それよか腹減ったな……何か食うか?」
「もぅ……しょうがないなぁ」
お腹を押さえて情けない表情を見せるグリードに、フウロはつい苦笑を浮かべる。
バトルの時は、あんなにカッコいいのに……子供みたいなグリードに、呆れながらもフウロはおとなしくついていくのだった。
…………。
「――けぷっ、食った食った」
「タージャタージャ」
「……よく食べるね」
日はすっかり沈み、世界は夜に包まれる。
月光が地面を照らし、フキヨセを幻想的に映し出していた。
「あんなに食べなくてもよかったんじゃない?」
「だってよ、明日にはフキヨセのメシが暫く食えなくなるし」
「…………」
そうだった、グリードの言葉で改めて思い知らされる。
明日には、彼は友人と共にこのフキヨセから……。
(――ダメ、やっぱりそんなの!!)
たった数日、けれどこの数日で彼に対する想いは大きくなり過ぎた。
「フウロ」
「っ」
彼の声で我に返る。
そして視線を向けてみると……彼は、相も変わらず優しい笑みを浮かべながら、口を開いた。
「色々ありがとな、本当に助かったよ。
それに、フウロのおかげで凄く楽しいバトルもできたし」
「あ……うぅん、別にこれくらい当然だよ。わたしジムリーダーだもん」
「……俺、イッシュの生まれなんだけどさ……はじめて友達ができて、嬉しかったんだ」
「…………友達」
「ああ。だから本当に嬉しい、本当にな」
変わらない笑み。
だが、その口から紡がれた言葉は、フウロにとっては残酷な事実。
……彼は、自分を友達としてでしか見ていない。
それがわかり、フウロの中で一番重い痛みが走った。
届かない、と。
自分が恋い焦がれた感情は、彼に届かないとわかってしまったから。
そんな彼女の心中を知らない彼は、尚も言葉を続けた。
「暫く会えなくなるけどさ、次にあったらまたバトルしような?」
「………うん」
ひどいね、君は。
できる事なら、そう言ってやりたかった。
子供っぽくで純粋で、けど時に男らしいこの少年に、言ってやりたかった。
―――どうして気づいてくれないの?
―――わたしはこんなに好きなのに
―――友達だなんて言ってほしくない
……けれど、それは自分の我が儘だ。
自分の想いを彼に伝えてないくせに、そう思うのは愚かでしかない。
人は他人の心を読む事なんてできない、それなのに自分の想いをわかってもらおうと考えるのは間違いだ。
理屈ではわかっている、だが感情と一緒に繋げられるほどフウロは――いや、人間はそんな利口な生き物ではない。
――けど、それでも
「………次は、わたしが勝つからね?」
フウロは、自分の感情を押し殺して、理屈に従って言葉を放った。
「おぅ、俺達だって今よりもっと強くなるからな!!」
「どうかなー? ジムリーダーとしての意地もあるし、負けないよ」
望む所さ、そう言って彼は先に歩き出す。
(……これでいいんだ)
今はこれでいい、我慢するしかない。
けど……諦める事は決してしない。
次に会ったら、容赦なんてしてやるものかと、フウロは心の中でグリードに宣言した。
……痛みが薄れていく。
またチクチクと痛むけど、自分なりに納得した結果だから、痛みはかなり和らいでくれた。
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「――それじゃあフウロ、プレシアさん。色々ありがとうございました」
一夜明け、場所はヒウンシティの港へと変わる。
ここからシンオウ地方への直行便に乗り、アヤトの故郷へと行くつもりだ。
「アヤト、サーナイトに無理をさせないようにね?」
「わかっています。色々とお世話になりました」
「グリード、ジェットバッジとボルトバッジ、大事にしないと承知しないよ?」
「当たり前だろ。これには俺とフウロ達のポケモン達が戦った大切な思い出の塊なんだ。俺の大切な宝物だよ」
なら良し、とフウロは笑う。
と、船の汽笛が鳴り始めた。
「それでは」
一礼して、アヤトは一足先に船に乗り込む。
グリードもそれに続こうと踵を返した瞬間。
「おっ……?」
背中に、軽い衝撃が。
その正体が、フウロに抱きしめられていると気づくのに、数秒の時間を要した。
「……用が無くても、連絡してね」
「お、おぅ……」
さすがに恥ずかしいのか、グリードの顔に赤みが差す。
そして、暫くそのままの格好のまま時が過ぎ……ゆっくりと、フウロはグリードから離れる。
「―――またね」
最後に掛けた言葉は、その一言だけ。
けれどそれで充分だ、フウロの表情に後悔や悲しみの色はない。
「ああ、またな」
グリードも、一言だけそう告げて船に入っていった。
程なくして船は出航し、やがてその姿も小さく映っていく……。
「…………また、ね」
もう一度、既に届かなくなった彼に言葉を掛ける。
寂しくない、そう言えば嘘になるが……伝えなくてよかったとフウロ自身納得しているので、気持ちは晴れやかだった。
(見てなさいよグリード、もっと魅力的な女になってあなたを虜にしてやるんだから!!)
覚悟してなさい、とフウロは笑みを浮かべつつ、踵を返す。
そんな彼女に、プレシアは優しく微笑みながら、彼女の後を追ったのだった。
To.Be.Continued...
【ツタージャ】♀ 【ムクホーク】♂ 【ミロカロス】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・つるのムチ ・はがねのつばさ ・たつまき
・リーフブレード ・かぜおこし ・アイアンテール
・たいあたり ・でんこうせっか ・ハイドロポンプ
・かげぶんしん ・つばさでうつ ・れいとうビーム
・へびにらみ ・つばめがえし ・じこさいせい
・リーフストーム ・ブレイブバード
・リーフブレード二段斬り ・インファイト
・エナジーボール ・かげぶんしん
・リーンフォースブレード
【キバゴ】♂ 【コジョンド】♀ 【グライオン】♂
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・ダブルチョップ ・みきり ・シザークロス
・シャドークロー ・はっけい ・れんぞくぎり
・りゅうのいかり ・とびひざげり ・ほのおのキバ
・ドラゴンクロー ・はどうだん ・クロスポイズン
・りゅうのいぶき ・おうふくビンタ ・ギガインパクト
・ギガインパクト
・ドレインパンチ
・ストーンエッジ