友達になったフィルに会うためだ。
フィル、元気かな……。
――潮の香りが、鼻孔をくすぐる
「アヤト、クチバの港が見えてきたぜ!」
「ようやく着いたか……長かったな」
やれやれと肩を竦め、船旅が終わる事にほっとするアヤト。
……アヤトの故郷であるシンオウ地方を離れてはや2日。
俺は約束通り、前に友達になったポケモンブリーダーのフィルに会いにカントー地方へとやってきた。
ただ……故郷でのんびりすると思っていたアヤトが一緒に来たのは、ちょっと驚いた。
「オレは一刻も早く強くなりたい、のんびりしてる暇なんかないさ」とはアヤトの弁だ。
でも、アヤトが来るからモモカ達も絶対に来ると思ったんだけど……。
「お二人のバトルを見て、夏休みが終わるまで1からやり直したいと思いました。
ですからアヤト、非常に残念ですが夏休みが終わるまではさよならです」
そう言ったモモカに、俺はおろかアヤトまで驚いてたっけ。
というわけで、モモカとルーテシアはシンオウに居残り。
サイトさんとシロナさんは、それぞれの立場に帰っていった。
そういえば、サイトさんが。
「君は、君の信じる道を歩むといい。純粋にポケモン達を愛する事ができる君のままで居てくれたまえ」
とか言ってたけど……どういう意味なんだろ?
そんな事を考えていると、船がクチバの港を着いたアナウンスが流れた。
ツタージャを肩に乗せ、荷物を持って船を降りる。
さて、フィルはどこに居るかな……。
〈グリード、こっちですよ〉
「おっ……」
頭に響いた、女の子の声。
視線をそちらに向けると、人の波の中に……久しぶりに見知った顔が視界に映った。
「フィル、みんな!!」
「久しぶりだね、グリード」
走り寄り、パンッとハイタッチを交わす。
トナもリコもハルも元気そうだ……って、見慣れないチャオブーが居るけど……。
「フィル、このチャオブーは?」
「この子はバリオン、僕の手持ちの一体さ」
バリオンと呼ばれたチャオブーは、器用にぺこりと頭を下げる。
っとと、こっちも紹介しないとな。
「紹介するよフィル、俺の友達のアヤトだ」
「はじめましてアヤトさん、フィルと呼んでください」
「宜しく、オレのことはアヤトでいい。オレもフィルと呼ばせてもらうが、構わないか?」
「もちろん構わないよ、アヤト」
互いに握手を交わし、微笑み合う2人。
よかった、どうやら仲良くやっていけそうだ。
「さてと……いつまでもここに居てもしょうがないし、どこに行く? クチバのスポットはだいたい調べてきたからさ」
「そうだなぁ……アヤトはどこか行きたい所とかあるか?」
「いや、オレの事はいいからお前の行きたい場所を選んでくれ」
「うーん……」
とはいえ、別に特別行きたい場所があったわけじゃない、ただフィルに会いたかっただけなのだから。
でも、あえて行きたい所といえば……。
「……静かな所に、行きたいかな」
「静かな所?」
うん、と返すとフィルは少し考える素振りをしてから……。
「――だったら、ぴったりの場所があるよね?」
そう言って、フィルは隣に居るトナ達に向かって笑いかけた。
…………。
ぴったりの場所がある、そう言ったフィルに連れてこられたのは……。
「……港町の傍に、こんな所があるとはな」
隣で歩くアヤトから、感心したような声が漏れた。
――ここは、クチバの近くにある森の中
樹齢数百年はあるであろう巨大な樹々が並び、時折流れる風が葉を鳴らし心地よい音色となって心を癒してくれる。
「驚いた? ここはクチバシティができる前からあるんだって。
まあ、野生ポケモンが沢山生息しているから、一般の人は滅多に来ないんだけど」
つまり、ここはポケモン達が平和に暮らす国みたいなものか。
「ここなら、静かに時間を過ごせると思わない?」
「思う思う。んー……気持ちいいな……」
大きく伸びをしながら、顔を真上に上げてようやくてっぺんが見えるような巨大な樹の麓に身体を預けるようにして寝転がる。
ツタージャは俺のお腹の上に身体を預け、心地良さそうに目を閉じていた。
「けどさ、フィルもアヤトもよかったのか? 俺の我が儘でここに来ちゃったけど……」
「オレはお前の好きにしろと言ったしな、気にする必要はない。
それに、ここは落ち着くから嫌いじゃないさ」
言いながら、俺の隣に寝転がるアヤト。
「僕も、別に構わないというか……こういう落ち着いた所の方が好きだからさ。
――それに、どこか元気がない君の話を聞く場所としては、ちょうどいいと思うし」
「…………」
じゃれ合っているハルとバリオンを微笑ましく見つめながら、フィルは言った。
トナは頭に手を乗せ完全に寝るような体勢になり、リコはフィルと同じようにハル達を見つめながらも、意識はこちらへと向けている。
「君は結構わかりやすいから、再会した時にどこかしら元気がないのはわかってたんだ。
安易に聞いていいかわからないかもしれないけど……もし、話して楽になるなら、話してくれないかな?」
少し言葉を選びながら、フィルは俺の力になろうとしてくれてる。
けど、無理して話さなくていいという雰囲気を出してくれているのは、さすが年上だなっと思った。
見た目はちょっと頼りなく見えるかもしれないけど、フィルはこうやって時折年上らしい事をしてくれるのだ。
「………リコ、ちょっと隣に座って」
〈はい?〉
ちょこんと首を傾げながらも、おとなしく俺の隣に座ってくれるリコ。
そんな彼女にありがとうと言いつつ、俺はリコの頭を撫で始めた。
〈わふっ……〉
ふにゃふにゃとした表情になり、俺に身体を預けるリコ。
可愛いなちくしょう、毛はふさふさだし……ルカリオをゲットしたくなってきた。
「タージャ!」
そんな俺を、ツタージャは怒ったようにペチペチと叩き出した。
リコにだけ構ったのが嫌なのだろうか、ごめんごめんと返しながら……ある事を思い出す。
やべっ、そろそろごはんをあげないと。
上半身に起こし、モンスターボールを手に取る。
「ゴチム、出てこい!」
「――チム〜」
「そのポケモンは……」
「タマゴから孵ったばかりだからかな、凄い食いしん坊なんだよ」
フィルにそう返しつつ、バッグから既に用意したモーモーミルクが入った哺乳瓶を手に取り、ゴチムの口へ。
すると、ゴチムはねんりきを使って俺から哺乳瓶を受け取ると、自分で飲み始めた。
「まだ生まれてから数日なのに、もうこんなに成長したんだよ。本当に、ポケモンは凄い生き物だよな」
人間の赤ん坊ではこうはいかない、そう思うと……ポケモンのポテンシャルに改めて驚かされる。
もう一度寝転がり、ツタージャとリコの頭を撫でながら、俺は「元気がない理由は、たいしたことじゃないよ?」と前置きした。
しかし、フィルはそれでも話してほしいと、俺の言葉を待つ。
それに観念した…わけじゃないけど、俺は一度息を吐いてから話そうとして。
「クチクチッ」
「あ……」
俺達の前に、もきゅもきゅときのみを食べているクチートが、木の上から降りてきた。
けど、現れたクチートはただのクチートではなく……。
「これは珍しいね、色違いのクチートじゃないか」
そう、目の前のクチートは色違いのクチートだったのだ。
頭部や腕の部分は明るい紫、身体はクリーム色と普通のクチートとはやはり違う。
黙々ときのみを食べながら、俺達をじっと見つめてくるクチート。
人間が珍しいのか、それともただ警戒心がないのか、クチートは暫く見つめ続け……にぱっと笑みを見せた。
可愛いな、なんだか餌付けしたくなってきた。
「ほーれクチート、ポフィンだぞー」
「クチ?」
ポフィンを見て、首を傾げながらもとりあえず手に取りクンクンと匂いを嗅いでみるクチート。
すると、ちょっと恐る恐るといった様子でポフィンを咀嚼。
「――クチッ♪」
暫くして、満面の笑みを返してくれた。
「クーチ、クチクチッ」
「こんなに美味しい食べ物初めて食べたよ、もっと頂戴だって」
フィルが翻訳してくれたクチートの言葉に苦笑しつつも、ポフィンを取り出す。
「クチッ♪」
ぱくぱくもぐもぐと、どんどんポフィンを消化していくクチート。
それを微笑ましく見つめながら、クチートを抱きかかえた。
「タージャ……」
ぷくっと頬を膨らませるツタージャ、そんな拗ねるなよ。
「ところでグリード、さっきの話の続き……聞かせてくれないかい?」
「……別にたいした事じゃないよ、ただ……アヤトとのフルバトルに負けて、悔しいって気持ちが強くてさ……それで元気がないように見えたんだ」
ツタージャ、リコ、ゴチム、クチートの順番に撫でながら、口を開く。
「……グリード」
「先に言っておくけど、アヤトは何も悪くないからな。
全力でバトルして、全力で負けた。だからアヤトは気にするなよ。
それに、みんなに会えたから元気なんてすぐ戻ったさ」
強がりではなく、心の底からの言葉。
そう言ったら、ポケモン達みんなが笑みを返してくれた。
「……グリードは、ポケモン達を本当に愛してるんだね」
「当たり前だろ。ポケモン達は家族なんだから」
「家族……そういえば、グリードの家族ってどんな人なの?」
「―――――」
それは、不意打ちに近い言葉だった。
家族……フィルの言っているのは“人間”のという意味だろう。
……俺の、家族。
俺の、家族は……。
「――俺の家族は、ツタージャ達だけだ」
「えっ………」
「俺の家族はツタージャ達だけだ、それ以外は居ないさ」
自分に言い聞かせるように、フィルへと告げる。
……そうさ、俺に家族と呼べるようなのはツタージャ達だけ、あの子達だけだ。
少し怪訝そうなフィルにも、何も答えない。
「………やはりか」
「………?」
ぽつりと呟くアヤトの声に、視線を向けると。
「親父から聞いたが、お前はエグフィード家の人間だそうだな」
「―――!!?」
心臓が、止まってしまったかのようだった。
それほどまでに、アヤトの言葉は俺にとって衝撃的で。
「エグフィード家、って!?」
フィルの驚愕に満ちた声が、俺に向けられた。
……サイトさん、恨みますよ。
サイトさんには俺の家がどんなものか知っている、けど……友達には知られたくなかったから、隠していたのに。
「……オレは、オレ達はお前がエグフィード家の人間であろうと、変わらず接していきたいと思っている。もう少し、オレ達を信用してくれないか?」
「……信用してないわけじゃない、でも……あんな家の息子だなんて、知られたくなかったんだ」
「あんな家って、けどエグフィード家は……」
「フィル、ごめん。その名前は出さないでくれ」
嫌悪感を隠そうとしないまま、フィルの言葉を中断させる
「……複雑な、事情があるみたいだね」
「…………」
その問いには答えない。
だからフィルも、そんな俺にそれ以上の問いかけはしないでくれた。
「……クチッ」
「……タジャ」
「チム〜」
顔を俯かせる俺に、心配そうなツタージャ達の声が聞こえる。
(……ごめんな、情けない主人で)
けど、俺は何も言えずに瞳を閉じた。
……気分が悪い。
もちろん、アヤトもフィルもツタージャ達も悪くない、けれど……気分が悪くなった。
みんなの優しさが、今は少し辛い。
無理のないことだけど、腫れ物を扱うような視線を向けられるのは、勘弁してもらいたかった。
「………寝る」
そう一言呟いて、俺はそのまま寝入ってしまう。
何か言ってきても応えたくない……そう思っていたのだが、気を利かせたのかアヤトもフィルも何も言わずに、そのまま完全に大樹へと身体を預けていた。
……また、こうやって迷惑を掛けてる。
情けないと思う反面、仕方ないと思う自分が……酷く滑稽で腹立たしかった。
〈……グリード、あなたの波導が乱れてます〉
「………それは、心が乱れてるってことか?」
はい、とリコは事もなげに口にする。
リコ……結構言うな。
〈フィルが訊かない以上、私も無闇に訊いたりはしません。
ですが……あなたはもう少し周りに頼った方がいいと思います。
フィルは、ああ見えて結構頼りになるんですからね?〉
「…………」
ああ見えてって……否定できないけど、失礼だなリコ。
けど、いたずらめいた彼女の言葉で、少しだけ気が楽になった。
ありがとう、口には出さず心の中で感謝の言葉を口にしながら、俺は少しずつ微睡みの中に落ちていって。
〈っ―――はっ!!〉
リコの、焦りを含んだ気合いの声が響き渡り。
森全体に響くような爆発音が、俺達を非日常ふと引きずり込んだ……。
To.Be.Continued...
【ツタージャ】♀ 【ムクホーク】♂ 【ミロカロス】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・つるのムチ ・はがねのつばさ ・たつまき
・リーフブレード ・かぜおこし ・アイアンテール
・リーンフォースブレード ・でんこうせっか ・ハイドロポンプ
・かげぶんしん ・つばさでうつ ・れいとうビーム
・へびにらみ ・つばめがえし ・じこさいせい
・リーフストーム ・ブレイブバード ・ふぶき
・リーフブレード二段斬り ・インファイト ・アクアリング
・エナジーボール ・かげぶんしん ・アクアテール
・はかいこうせん ・みずのはどう
【キバゴ】♂ 【コジョンド】♀ 【グライオン】♂
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・ダブルチョップ ・みきり ・シザークロス
・シャドークロー ・はっけい ・れんぞくぎり
・りゅうのいかり ・とびひざげり ・ほのおのキバ
・ドラゴンクロー ・はどうだん ・クロスポイズン
・りゅうのいぶき ・おうふくビンタ ・ギガインパクト
・りゅうせいぐん ・ギガインパクト
・あなをほる ・ドレインパンチ
・ストーンエッジ
・きあいパンチ
【ゴチム】♀
【使えるわざ】
・なし