次はいよいよアオイのチームとバトルだ。
まだ勝った事はないけど、今度は必ず勝ってみせる!!
「……すー…すー……」
「……はぁ、居ないと思ったら……」
学園の中庭にある大きな木の下で、カレンは呆れたようなため息をつく。
彼女の傍には、幹に身体を預けて眠っているグリードの姿が。
アヤト達の準決勝が終わり、次は自分達の番だというのに、試合が終わった後彼は人知れず姿を消してしまった。
当然ながら、カレンが捜しに向かい――現在に至る。
「呑気よね、ホントに」
これからバトルが始まるというのに、余裕の表れかそれともマイペースなだけなのか。
後者ね、カレンはすぐさま自問自答し再びため息をつく。
彼の一番のパートナーであるツタージャも、彼の腹部に乗って眠りこけているのだから、やはり彼等はよく似ている。
「……まあ、アンタらしいけどね」
呟く言葉は皮肉が混ざっているが、カレンの表情はこの上なく優しいものになっていた。
しゃがみ込み、寝ている彼の髪を掬うように撫でる。
サラサラと細く綺麗な髪、こう言ってはなんだが彼には似合わない髪質というか、意外だった。
(……寝顔、結構可愛いじゃない)
バトルをしてる時は、あんなにも男前なのに……無防備な彼の表情は、まだまだ子供の幼さを醸し出している。
やばい、口元のにやけが収まらなくなってきた、そう思いつつもカレンはグリードの髪を弄るのを止めたりはしない。
寝ているとはいえ、2人っきりなのだ、この機会を逃す理由はない。
……ツタージャの事を完全に視界から消し、カレンは次第にグリードの頭から身体中へと手を伸ばそうとして。
「――おや、捜しに行ったと見せかけて独り占めとは、君は意外と抜け目がないんだね」
「……カレンちゃん、ズルい……」
後ろから、恨みたっぷりの言葉と視線を向けられてしまう。
振り向かなくてもわかる、サクラとソラネだ。
(……邪魔ね……)
軽く睨みつつも、たしかにフェアではなかったかと自分に言い聞かせ、サクラ達へと視線を向ける。
「ズルいじゃないかカレン、君だけグリードの寝顔を独占するなんて、卑怯…だ、よ……」
「……ふわぁ」
グリードの寝顔を見て、サクラは言葉を途切らせソラネはよくわからない声を上げた。
「……これは、是非収めておかないと」
素早く服の中からカメラを取り出し、シャッターを押しまくるサクラ。
「……サクラ、アンタどこからカメラを……」
「君達も欲しいかい?」
「欲しい!」
コンマ一秒で返答するソラネ、そんなに欲しいのだろうか?
「あたしは……」
「君はタダではあげないよ、そうだね……千円でどうだい?」
「なんであたしは有料なのよ!」
「君はグリードの寝顔を独り占めしていたからね、ペナルティーだよ。
まあ、別にいらないならいいけど」
「ぐっ……べ、別にそこまでしてまで欲しいわけじゃ……」
「今なら、僕が今まで撮ってきた『グリードステキ顔コレクション』の何枚かセットであげてもいいよ?」
「…………」
無言で財布から紙幣を取り出すカレン。
そのなんとかコレクションに対してのツッコミはあるが、誘惑にはやはり勝てない。
「サクラちゃん、新しいコレクションは増えたの?」
「残念ながら、夏休みを挟んでしまったから、これだと思うようなものは撮れてないんだ」
「……ソラネ、もしかしてアンタ常連?」
「もちろんそうさ、それにグリードは学園の中でも人気が高くてね、何と売れ行きはアヤトより上なんだよ」
「……アコギな商売してるわね」
「失礼だね。僕はただグリードの魅力を知ってもらいたいが故に写真を撮ってるんだよ。
アヤトは……需要があるからね、向こうは完全な商売だけど」
「アンタ商売って自分で認めたわね!?」
うん、なんてまったく悪びれた様子もなく認めるサクラ。
しかし、もはやカレンには人の事をあれこれ口にする権利はない。
何故なら、彼女も既に彼の写真を買ったから、それもセットで。
「…………」
「ってソラネ! さっきから静かだと思ったら、何グリードと添い寝しようとしてるの!!」
「おや……君もなかなか抜け目がないねソラネ」
「とか言いつつアンタも寝ようとしないの!!」
「……んっ……」
ぎゃーぎゃーとうるさい3人のせいで、グリードとツタージャは同時に目を醒ます。
視界の先には、なにやら言い合いをしているカレン達の姿が。
「……ツタージャ、あいつら何してんだ?」
「……タージャ」
なんとなく、♀ポケモンの勘で状況を理解したツタージャだが、わからないフリをする事にした。
と、グリードの視界の中にとある少女の姿が入る。
「おーい、アオイ!」
その少女――アオイの名を呼びながら、グリードはツタージャを抱えて彼女の元へ。
「…………」
会いたくもなかったとばかりに冷たい視線を向けてくるアオイ、相変わらず冷たい奴だなとグリードは思いつつ話しかけた。
「次はとうとう俺達とバトルだな、正々堂々おもいっきりバトルしようぜ!!」
「……お前達なんかとバトルをしても、無駄なんだがな」
「うへぇ……」
本当に相変わらずの彼女に、もはや怒りは浮かばず苦笑するグリード。
グリード自身、アオイと仲良くなりたいと思っているのだが……とりつく島もないとはまさにこの事で。
「そ、そうだ。お前のポケモン達は元気か? あんまり無理させない方がいいぞ?」
「余計なお世話だ、お前には関係ない」
「うぅ……」
さすがにそこまで言われるて、いくらグリードでもヘコんでしまう。
一体自分の何が気に入らないのか、グリードには首を傾げる事しかできない。
「…………アオイ」
グリードが内心傷ついていると、こちらへとやってきたカレンがアオイに視線を向けている事に気づく。
カレンを見て、アオイの表情が更に険しくなる。
「……まだ、こんな弱い奴と一緒に居るのか」
「グリードは弱くないわ、今はあたしより強い。トレーナーとしても、人間としても」
「それはお前が弱くなっただけだ、情けないものだなカレン……まあ、情けない者同士お似合いかもしれないが」
「そんな言い方――」
「……情けないのは、どっちでしょうね」
ソラネがくってかかろうとした瞬間、ぽつりと呟くように、けれどはっきりと聞こえるようにカレンはそう口にする。
「………なんだと?」
「アオイ、確かにアンタとアンタのポケモン達は強いわ。
けど、相手の実力も推し量れないようじゃ……決勝に行くのはあたし達ね」
「…………」
怒りを隠そうとせず、カレンを睨むアオイ。
しかしカレンはまったく動じずに、言葉を続けた。
「……あたしはずっとアンタから逃げてた、目を背けて……アンタを見てやれなかった。
だから、あたしにはアンタを昔のアンタに戻す力も権利もない。
――でもね、グリードなら……彼ならきっとアンタを完膚無きまでに倒してくれるわ」
「カレン……?」
「ふざけるな。こいつがわたしを倒すだと?」
「ええ。自分の弱さを認め他人に頼り己を磨く、昔のアンタが持っていた大切なものを、グリードは濁らさずに持ち続けている。
だから……アンタじゃグリードには勝てない」
「っ、笑えない冗談だ……本気で言っているなら、本当に笑えないな!!」
「当たり前じゃない、冗談なんかじゃないんだから笑えるわけないでしょ?」
「……お、おい。なんか変な空気になってないか?」
そそくさとカレン達から離れ、周りに聞こえないようにグリードは2人に話しかける。
「というより……ようやく向かい合ったと言うべきか」
「? サクラ、一体どういう事だ?」
「僕はね、完全ではないのだけど……2人に何があったのか、知っているんだよ。
一年前の事は、何人かの教師が知っていたようだからね」
「一年前……」
それが何なのかわからないが、2人がこうなってしまった原因があったのだろう。
おそらく親友であった2人が、こうして睨み合うようになってしまった理由が……。
「……なら、それを証明してみせろ!!
本当に、こいつがわたしに勝てるのかどうかをな!!」
「えっ……?」
ちょっと待て、そう反論しようとしたグリードだったが。
「……グリード、悪いけどバトルでこのへそ曲がりの根性を叩き直してくれないかしら?」
「は……?」
「誰がへそ曲がりだ!!」
「アンタよアオイ、まったく……確かにアンタのまっすぐな性格を考えるとあたしにも非があったとはいえ、いつまでも根に持つなんて子供すぎるわよ」
「いや、カレン。なんでバトルをする事になってるんだ?」
もう少ししたら準決勝が始まってしまう、そんな時だというのにバトルをするのは……。
「……ごめん、バカな事を言ってるのはわかってるわ。
けど、あたしはまたあの子と……友達に戻りたいのよ」
「…………」
「けど、あたしじゃあの子を本当の意味で負かせられない。
アンタじゃなきゃ……ダメなのよ」
「………カレン」
強気な彼女では考えられないくらい、弱々しい口調に、グリードは反論するという選択肢を自然と消していた。
過去に何があったかは知らない、でも……カレンはアオイと歩み寄りたいと思っている。
でも自分だけじゃ解決できないから、恥を忍んでグリードにバトルをしてほしいと頼んでいる。
……それが、グリードには嬉しかった。
頼ってくれるというのがわかるから、それが本当に嬉しい。
だから――もう彼の選択肢は決まっている。
「――わかった。バトルするよ」
「グリード……」
「タッグバトルは棄権する事になるけど、カレンが困ってるのを放っておく事はできないしな」
「………ありがとう、グリード」
「サクラ、悪いけど大会運営委員に準決勝を棄権するって言っておいてくれないか?」
「グリードくん、本気なの……? せっかく準決勝まで来たのに」
「ここまで来れば補習は免除されるだろうし、今の俺はカレンのパートナーなんだ。
パートナーが困ってるのを、見過ごすわけにはいかないさ」
そう告げるグリードの口調には、一片の迷いもない。
それを感じ取り、ソラネはこれ以上何も言う事ができず、サクラも諦め気味に頷きを返した。
「上手く話してはおくけど、貸し1つだよ?」
「サンキュー、いつか返すよ」
そうサクラに言いながら、グリードはアオイへと視線を戻す。
「……ルールは、どうする?」
「6対6のフルバトルだ、そこまでする必要があるとは思えないが……あそこまで言われては、仕方ないからな」
「了解、それじゃあバトルフィールドに行くか」
そう言って、歩き出すグリード。
アオイは黙ってそれについていき、サクラとソラネはグリード達の棄権を運営委員に伝えるために会場へと向かう。
その中で、カレンは暫しその場で立ち尽くし。
(……グリード、お願いね)
心の中でそう彼に告げながら、グリード達の後を追ったのだった。
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「――もぅ、いないと思ったら何でこんな状況になってるんですか?」
場所は変わり、地下のバトルフィールドへ。
既にフィールド上にはグリードとアオイが対峙しており、観客席にはポケモン達の治療を終えたアヤト達の姿が。
カレンから事情を聞き……モモカから心底呆れたような言葉が漏れた。
ルーテシアとフェイトも似たような反応を見せたものの……アヤトだけは、真剣な表情を浮かべカレンに問うた。
「カレン、グリードは嫌々バトルをやろうとしてるわけじゃないんだな?」
「……ええ。そんな事は絶対にさせないわ」
「……そうか、ならオレは別に構わん」
「構わんって……アヤトはそれでいいんですか?
グリードさんと決勝で戦えるかもしれないって言ってたのに……」
「確かに残念ではある、だが……グリードが自分の考えでカレンの願いを聞き入れたのなら、オレは賛成だ。
あいつにはあいつの考えがあり、そして……それが正しいと思ったからこその選択ならば、反対する権利はないさ」
グリードの望むままにすればいい、アヤトはそう考えているからこそ、自分の思いを押し殺した。
そんな彼に、アヤトラバーズの3人がこれ以上何か言う事ができるはずもなく……。
「――ボスゴドラ、バトルオン!!」
「ボガァァァァッ!!」
そうこうしている内にバトルが始まりそうだ、アオイが出したのは……ボスゴドラ。
「ボスゴドラか……ならコジョンド、君に決めた!!」
「――コッジョ!!」
グリードの一体目はコジョンド、相性ではボスゴドラに有利なポケモンだ。
「……まだそのコジョンドを持っていたのか」
「こいつは強くなった、お前の所に居た時よりも遥かにな。
いくぜコジョンド、アオイに強くなったお前も見せてやるんだ!!」
「コジョコジョ」
頷きながら、コジョンドはボスゴドラに向かって掛かってこいとばかりに指を動かす。
もはや、今の彼女に前のトレーナーであるアオイに対する恐怖心はなく、むしろ逆にボコボコにしてやろうという気概が見え隠れしている。
「いいだろう。ならその強くなった所を見せてみろ!!
ボスゴドラ、すてみタックル!!」
「ボガァァァァッ!!」
右肩を突き出し、突撃してくるボスゴドラ。
「来るぞコジョンド、きあいパンチだ!!」
「コジョッ!!」
右腕を構え、真っ向からボスゴドラに拳を叩き込むコジョンド。
ぶつかり合う両者、この衝撃音こそが2人のバトルの開始を意味するゴングとなった―――
To.Be.Continued...
【ツタージャ】♀ 【ムクホーク】♂ 【ミロカロス】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・つるのムチ ・はがねのつばさ ・たつまき
・リーフブレード ・かぜおこし ・アイアンテール
・リーンフォースブレード ・でんこうせっか ・ハイドロポンプ
・かげぶんしん ・つばさでうつ ・れいとうビーム
・へびにらみ ・つばめがえし ・じこさいせい
・リーフストーム ・ブレイブバード ・ふぶき
・リーフブレード二段斬り ・インファイト ・アクアリング
・エナジーボール ・かげぶんしん ・アクアテール
・はかいこうせん ・みずのはどう
【オノンド】♂ 【コジョンド】♀ 【グライオン】♂
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・ダブルチョップ ・みきり ・シザークロス
・シャドークロー ・はっけい ・れんぞくぎり
・りゅうのいかり ・とびひざげり ・ほのおのキバ
・ドラゴンクロー ・はどうだん ・クロスポイズン
・りゅうのいぶき ・おうふくビンタ ・ギガインパクト
・りゅうせいぐん ・ギガインパクト
・あなをほる ・ドレインパンチ
・りゅうのはどう ・ストーンエッジ
・きあいパンチ
【クチート】♀ 【ゴチム】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】
・てっぺき ・なし
・アイアンヘッド
・かえんほうしゃ
・ねごと
・ラスターカノン