やっぱり、ショックは大きいみたいで……情けないよな。
でも……しょうがないじゃないか。
「―――おはよう、グリード」
寮内でグリードの姿を見つけたカレンは、いつものように挨拶を交わす。
「…………」
「……グリード?」
「ん……あ、ああ、おはようカレン」
「…………」
しかし、グリードからの反応は鈍く……やはり、まだ立ち直れていないのがわかり、カレンの胸がチクリと痛んだ。
……ミロカロスとの別れから、4日が経った。
グリードの表情は暗く、なんとかいつも通りの笑顔を見せようとする姿が、ただ痛々しかった。
無理もない、彼にとってミロカロスは家族だったのだ、その家族との別れは彼に大きな傷を与えたのは想像に難くない。
もちろん、カレン……いや、彼を慕う者達は元気を取り戻してほしいと思っている。
しかし、こういうものは無理矢理取り戻せるものではないし……時間に任せるという選択肢も、方法の一つだ。
――それでも、やはり彼のこんな表情は見たくない
「……今日は、どうするの?」
「んっ……どうしよう、かな……何も、やる気がしなくてさ……」
「…………」
「……ごめんな。心配ばっかり掛けて……もう少し、後もう少しで……元に戻れると思うから」
そう言って、のろのろと自分の部屋へと帰っていくグリード。
「………バカ、こんな時くらい……気を遣わなくていいのに」
自分達が彼を心配してくれている事を、グリードは知っている。
だから、無理矢理いつもの自分に戻ろうとしてるのがわかって……カレンは唇を噛み締める。
こんな時まで、他人を思い遣ろうとする彼の優しさが、ただ辛かった。
「カレン」
「………アオイ、それにみんな」
いつから見ていたのか、後ろを振り向くとそこにはアオイ達の姿が。
「グリードくん、やっぱりまだ……」
「……うん。それなのにあのバカ、あたし達に心配掛けないようにしてるんだから……本当にバカよね」
「グリードはそういう人だからね、でも……確かに僕にとってもあの態度は辛いよ」
なんとかしてあげたい、でもできない。
そのジレンマが、彼女達に自分は無力だと思い知らせる。
……一瞬だけ、ミロカロスが憎くなった。
でもそれは間違いだ、グリードが母親の元にあの子を返すという選択をした以上、自分達がどうこう言う権利はない。
でも、それでも……感情が納得してくれない部分もあった。
(……どうすれば、いいのかしらね……)
誰か、答えを知っているなら教えてほしい。
カレン達は、そう願わずにはいられなかった……。
…………。
「…………ふぅ」
情けない、それが自分に対する評価だった。
みんなに心配を掛けている、それがわかっていながら……俺は立ち直れない。
それだけミロカロスの存在が大きかった、そう言えば聞こえはいいが……結局、俺は後悔してるだけなのかもしれない。
――俺がまだ半人前にすらなってない頃、あの子に出会った
初めのうちは凄い泣き虫で、泣き声は本当に酷かった。
それでも、俺と一緒に少しずつ強くなって……泣き虫な部分はだんだんとなくなってきたけど、甘えん坊な部分はちっとも改善されなくて。
とても綺麗な肌は、触ると少し冷たくて……優しい手触りだった。
……でも、あの子はもういない。
俺が、自らの意志であの子を母親に返したのだから。
その選択は、間違ってなかったと思う。
あれが正しい選択だったと、胸を張って言える自信はある。
でも……情けない事に、感情がそれを納得してくれない。
離れたくないと、子供じみた自分勝手な意見が、俺を責め立てるのだ。
何故、ミロカロスを母親に返した、と。
何故、これからもずっと一緒に居ようと言えなかったのか、と。
くだらない、実にくだらない責め。
陳腐で、自分自身に呆れかえるような、今更な問いかけ。
……でも、そんな自問にはっきり「後悔してない」と答えられない自分が、一番許せなかった。
あの子の幸せを考えているはずなのに、自分の幸せを優先しようとした自分が……本当に許せなくて。
「………タジャ」
「ツタージャ……」
頬に伝う涙を、ツタージャは優しく拭ってくれた。
「……ごめんなツタージャ、本当に……ごめん」
「…………」
ふるふると首を横に振り、俺の胸に顔を埋めるツタージャ。
そんな彼女を、俺はぎゅっと抱きしめた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――アヤト、大丈夫ですか?」
自室のベッドで先程から外を眺めているアヤトに、モモカは声を掛ける。
「………オレよりも、今はアイツの方が辛いさ」
「…………」
ぽつりと呟いた言葉に、モモカ達は言葉を詰まらせる。
彼の辛そうな顔を見て、アヤトも静かに傷ついていた。
親友だというのに、何もできやしない自分が情けなくて……支える事ができない自分自身に腹を立て、傷ついている。
そして――それはアヤトだけでなく、このポケモンも。
「……サナ」
「サーナイト、あなたも苦しいの?」
ルーテシアの言葉に、サーナイトはこくりと頷きを返す。
彼女は、グリードの心が見えてしまった。
その中身は痛みや悲しみに溢れ、見ているだけでこちらが傷ついてしまうような、悲しい感情しか存在していない。
「………仕方ないわよ、だってミロカロスを帰したのはグリード自身なのよ? それなのにいつまでも悩んで……迷惑よ」
「っ、ルーテシアそんな言い方……!」
「そうですよルーちゃん、グリードさんだって好きでミロカロスを手放したわけじゃ———」
「わかってるわよ。でも……これ以上、こんな状態が続くのは……嫌なんだから」
絞り出すような言葉。
……ルーテシアとて、こんな事を言いたいわけじゃない。
でも……いつものメンバーがいつも通りの日常を送れないのは、やっぱり悲しいではないか。
笑いあって、バカをやって……それがいつもの日常なのに。
それが送れないのが、ルーテシアには寂しかった。
「………サナ」
と、サーナイトは急に立ち上がり……部屋を出て行った。
「サーナイト?」
「あの子、いきなりどうしたんでしょうか?」
「…………」
サーナイトの突然の行動に、モモカ達が首を傾げる中……アヤトはベッドから抜け出し、部屋を出ようとする。
「アヤト?」
「……いつまでも部屋に籠もってもしょうがないしな、気晴らしに散歩でもしてくるさ」
「あ……じゃあ、私も行きます!!」
「ワタシも」
「……私も、いいかな?」
「好きにしろ、それじゃあ行くぞ」
アヤトの声に全員が頷きを返し、部屋を後にする。
「………グリードさん、早く元気になってくれればいいですね……」
「……アイツは強い、きっと立ち直れるさ。
それに……アイツの傍にはアイツを大切に想う人達も居る」
だから、きっと大丈夫。
自分に言い聞かせるようにして、アヤトは目的もなく歩を進めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈――ティア、わたし……どうしたらいいのかな?〉
場所は変わり、ここは心の泉。
そこに佇むのは、この泉の住人であるティアと。
グリードの事でいてもたっても居られず、かといって自分だけでは思いつかないので、ティアの元へとやってきたサーナイトの姿が。
〈わたし、グリードの心を見たの。
凄く悲しくて、辛そうだった……ティア、どうすればグリードは元気になってくれるかな?〉
〈…………〉
〈アヤト達も元気がないし……わたし、こんなのやだよ……〉
〈……そうだね。私も……グリードが元気ないのはやだよ〉
けれど、明確な打開策が思いつかない。
ティアとて、何も考えていないわけでは……。
「……あら、あなたアヤトのサーナイト?」
〈えっ?〉
後ろへ振り向く。
そこには、サクラとソラネとアオイ、そしてカレンの姿が。
彼女達の姿を確認したティアは、すぐさま人間形態へと変わり、スケッチブックを取り出した。
―――どうしたの?
「ただの気晴らし……になればよかったんだけどね」
苦笑を見せるサクラ、やはりその表情はいつも通りのものではなく、暗く寂しそうだ。
―――グリード、まだ元気ない?
「………うん」
「グリードくん……どうしたら元気になってくれるかな……?」
「時間が経てば……そう思ってたけど、やっぱりそろそろ限界よ。
――アイツのあんな顔なんて、これ以上見たくない」
カレンの言葉に、全員が頷きを返す。
しかし……やはり打開策が思いつかない。
「ミロカロスの代わり……は無理だろうけど、新しい家族ができれば少しは元気を取り戻すかもしれないね」
「あ、あと……グリードくんが好きなバトルをするとか……」
「……どっちも難しいわね、今のアイツにバトルできる活力があるとは思えないし、新しい家族……つまり新たなポケモンをゲットすればって事でしょ?
それも、今のアイツにできるとは思えないわ」
「確かに……あいつが自分から望まない限り、無理だろうな……」
無理矢理そんな事をしても意味はないだろうし、さて困った……本当に策が見つからない。
座り込み、うんうんと唸るカレン達。
と。
「あれ? カレンさんに皆さん、それにサーナイトまで……」
「あら、モモカ達じゃない」
「……全員、勢揃いしたわね」
「オレ達はここなら落ち着けると思ったが……カレン達は、グリードの事で話してたのか?」
「まあな……」
「それで、何かいい案は浮かびました?」
全然、とモモカの問いに首を振るカレン達。
それを見て、アヤト達の表情も曇る。
「……グリードさんが居ないと、なんだか変な感じですね」
「それだけ、グリードの存在が大きかったって事よね……」
「…………」
どんどん暗くなっていく場の空気。
他者の心を感じ取れるサーナイトの表情も、どんどん暗くなっていった。
「……………」
そんな中――ティアはある決心を抱き、スケッチブックに何やら書き始め……カレン達に見せる。
「どうしたの?」
「なになに――『グリードをここに呼んで、手持ちポケモンを連れて』?
呼ぶのは構わないけど、どうしてわざわざ手持ちポケモンを連れてなんて……」
「…………」
サクラの言葉を、ティアは真剣な表情で中断させる。
「……僕は真剣な表情を浮かべるとこんな感じなんだね。わかったよティア、すぐに連れてくる」
そう言って立ち上がるサクラ、私も行くとソラネも立ち上がり泉を後にする。
カレンとアオイはついていかなかったが……気になった疑問をティアに投げかける事に。
「ティア、いきなりグリードを連れてこいだなんて……どうしたの?」
「まさか、打開策が見つかったのか?」
―――わからない。でもこのままじゃダメだから…邪魔しないでね?
「………?」
邪魔をするなというティアの言葉に首を傾げるカレン達だったが、ティアなりに考えがあると自身を納得させ、とりあえず頷きを返しておいたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――サクラ、ソラネ、どうしたんだよ?」
いきなり「ティアが呼んでる」と言われ、2人に引っ張られながら心の泉へと赴いた。
「あれ、みんな……」
そこにはみんなの姿もあり、そして。
「………ティア?」
ティアが、じっと自分を見つめていた。
けど、そんな事よりも……ティアから感じる、威圧感のようなものは一体何なんだろう?
「ティア……どうかしたのか? 俺に何か用があったみたいだけど――」
そう言った瞬間、ティアは無言でスケッチブックを見せてくる。
そこには……こう書かれていた。
――私と、バトルして、と。
「………えっ?」
いきなりの、ティアからのお願い。
……けど、彼女には悪いが今は。
―――拒否なんてさせない、無理矢理にでも……バトルしてもらう
「ち、ちょっと待ってくれよティア。……俺がこうしていつまでもウジウジしてるから、お前は嫌いなバトルをしてまで元気づけようとしてるんだよな?
でも、そんな事しなくても俺は――」
―――行くよ、グリード
「ティア―――」
瞬間、ティアの身体が光に包まれる。
そして、ポケモンの姿に戻った瞬間。
「クォォォゥッ!!」
両手を胸の前に合わせ、エメラルド色の光球を撃ち出した………!
「なっ!?」
あれは、ティアのりゅうのはどう!?
「っ、タジャ!!」
跳躍し、リーフブレードでりゅうのはどうを撃ち落とそうとするツタージャ。しかし――
「タジャーッ!?」
りゅうのはどうは破壊できたものの、ツタージャの身体は吹き飛ばされ……けれど空中で体勢を立て直し、そのまま無事に着地を果たす。
「ティア、何すんだよ!?」
「…………」
ティアは答えない、その瞳には――戦えという意志が浮かび上がっていた。
「………どうして」
「……グリード、ティアはね……自分をゲットしてみせろって、言ってるんだよ」
「……………えっ?」
そう言って、サクラは地面に落ちたスケッチブックを俺に見せてきた。
そこには……。
―――私をミロカロスの代わりにグリードの家族にして、私は……絶対にグリードの傍から居なくならないから。
でも、今のグリードにゲットされたくないから、グリードらしくバトルで私に勝って私をゲットして!!
「――――」
心臓を、鷲掴みにされたようだ。
……ティアは、そこまでして俺の事を。
「グリード、ティアだけじゃない……僕達も、前の優しく強い君に戻ってほしいと思ってる」
「サクラ……」
「グリード、今のアンタを見たら……ミロカロスが悲しむわ」
「カレン……」
「グリードくん、私……グリードくんには、いつも元気で居てほしいよ」
「ソラネ……」
「グリード、わたしを変えてくれたお前の心の強さ、もう一度見せてくれ」
「アオイ……」
みんな、俺なんかの為にこうして元気づけようとしてくれてる。
俺、なんかに……。
「クォォォゥッ!!」
「―――――」
再び、りゅうのはどうを放とうとするティア。
その、瞬間。
「――タジャ」
ツタージャが、こちらに振り向き……短く鳴いた。
その瞳はただ。
――信じてる、と。
その想いのみが、込められていた。
「……………」
俺は、バカだ。
悲しんだって仕方がない、もうミロカロスは居ない。
でも、自分はこの選択を後悔してる?
否、後悔などしたくない。
だったら………!
「――ツタージャ、かわせっ!!」
俺の声と同時に、りゅうのはどうが放たれる。
だがツタージャはその攻撃を回避し、俺に満面の笑みを見せてくれた。
「………ティア、俺らしいバトルをすれば……俺は、お前に相応しいトレーナーになれるか?」
「クォォゥ♪」
はっきりと、笑みを見せて頷くティア。
よし、と俺は頬をパンッと叩き気合いを入れ直す。
「ティア、俺は必ずお前に勝ってゲットしてみせる!! ツタージャ、バトル開始だ!!」
「タジャ!!」
身構えるツタージャ、ティアからも笑みが消え戦闘態勢へ。
このバトルだけは、絶対に負けられない。
みんなの為にも、なにより……ミロカロスに恥ずかしくないように、前のような自分に戻る為にも。
必ず……必ず勝つ!!
「いくぞ、ティア!!!」
「クォォォォゥッ!!!」
To.Be.Continued...
【ツタージャ】♀ 【ムクホーク】♂ 【ミロカロス】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・つるのムチ ・はがねのつばさ ・たつまき
・リーフブレード ・かぜおこし ・アイアンテール
・リーンフォースブレード ・でんこうせっか ・ハイドロポンプ
・かげぶんしん ・つばさでうつ ・れいとうビーム
・へびにらみ ・つばめがえし ・じこさいせい
・リーフストーム ・ブレイブバード ・ふぶき
・リーフブレード二段斬り ・インファイト ・アクアリング
・エナジーボール ・かげぶんしん ・アクアテール
・はかいこうせん ・みずのはどう
【オノンド】♂ 【コジョンド】♀ 【グライオン】♂
【使えるわざ】 【使えるわざ】 【使えるわざ】
・ダブルチョップ ・みきり ・シザークロス
・シャドークロー ・はっけい ・れんぞくぎり
・りゅうのいかり ・とびひざげり ・ほのおのキバ
・ドラゴンクロー ・はどうだん ・クロスポイズン
・りゅうのいぶき ・おうふくビンタ ・ギガインパクト
・りゅうせいぐん ・ギガインパクト
・あなをほる ・ドレインパンチ
・りゅうのはどう ・ストーンエッジ
・きあいパンチ
【クチート】♀ 【ゴチム】♀
【使えるわざ】 【使えるわざ】
・てっぺき ・なし
・アイアンヘッド
・かえんほうしゃ
・ねごと
・ラスターカノン