アーク・ザ・ラッド T   作:魔ギア

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T それはトータスのT
T それはスリーのT

 私がRPGゲームが好きになったきっかけの作品。
 そのクロスオーバー作品です。
 それではご覧ください。


第一話 プロローグ

 スメリア国 トウヴィル村にて

 

「一体どうしちまったんだ……?」

 

 少年は、目の前の光景に立ち尽くしていた。

 そこにあるのは自分の家。いや、家だった場所。母と、十年前に出てしまった父と一緒に暮らしていた我が家。思い出が多く詰まっていた家は、屋根が剥がされ、ドアも壊されており、その姿は見るも無残なものとなって崩れ落ちていた。

 

「母さん・・・どこに行ったんだ……?」

 

 少年は家にいるはずの母を探す。自分を見送り、出迎えてくれる玄関。一緒に食事をしたリビング。そして、今身に付けている鎧と剣が詰まっていた箱があった奥の部屋。額から流れる汗を拭わずに血眼になって母の安否を確かめる。しかし、中はもぬけの殻。母の姿はどこにも見当たらなかった。

 魂が抜け落ちたかのように顔を青ざめて、ゆっくりと家から出てきた少年の前に二人の少年少女が駆けつけた。

 

「アーク、なにが…… 一体何が……?」

 

 紫色の髪をした少女が少年――アークに声を掛ける。彼女も崩れ落ちている彼の家を見ての言葉を失っていた。

 

「ポコ、村の様子は?」

 

 ぶかぶかの黄色の軍服を着た少年――ポコは、アークの問いかけに首を横に振る。

 

「誰もいない。もぬけの殻だよ。ククルの方は?」

 

 ポコもまた、村の惨状に困惑していた。隣にいる少女――ククルの方を見るが、彼女も首を横に振った。

 村に住んでいた人たちは一人も残らずにいなくなってしまったのだ。

 

「何かとっても大きな力が動いているみたいね」

 

 ククルは村の状況からそう推察する。小さな村とはいえ、そこに住む人が全員いなくなるなど、とても個人の力でどうにかできるものではない。

 

「……ちくしょう!」

 

 ずっと沈黙を貫いていたアークは、顔を俯かせたまま吠えた。

 

「俺は……俺はどうしたらいいんだ!」

 

 地面に拳を叩きつけるアーク。強く叩いてしまったのか、彼の拳から血が少しにじみ出てきた。

 彼は数週間前まで平穏な日常を暮らしていた。だが、それは数年前に父が家を出てしまった時と同じくらいの大雪が降った日から変わった。

 父の手がかりを掴むために初めてシオン山へと向かった。そこでククルと出会い、彼女の代わりに山を登った。山の奥に着いた彼はモンスターに殺されかけ、その直後に精霊に命を救われた。

 それからポコと出会い、ククルと再会し、二人とともにミルマーナへと向かった。そこでトヨーケの森にいる恵みの精霊にと出会い、彼女から村に戻るようにと言われた。そこに父が道標を示すと言い残されて。

 そして、村に戻れば、そこに広がっていたのは変わり果ててしまった村の姿。

 いったい何が起きているのか。どうしてこうなってしまったのか。何もかもまったくわからない今の状況に、アークたち三人はひどく混乱していた。

 

 そんな時だった。

 

「あの……すみません」

 

 この場にいる三人とは違う別の声が響いた。三人は声がした方に振り向いた。

 

「え、子ども?」

 

 そこにいたのは、この国では珍しい黒い髪の男の子。

 まだ、十歳にもいっていない小さな少年。地面にまで届きそうな黒いローブを身にまとい、手には少年の背丈と同じサイズの杖と分厚い本を持っていた。頭にはサイズが合わない黒い三角帽子を深く被っており、時々、帽子を上げて、黒と白の虹彩異色(オッドアイ)はアークたちをじっと見つめていた。

 

「あなた、どこから来たの? この村の子どもじゃないわよね」

 

 ククルの問いに少年は黙ってうなずく。

 

 こんな辺境の村に子ども一人が何をしに来た?

 

 ククルの中には少年に対する不信感が膨れ上がった。そんな中、アークはよろよろとした足取りで少年に近づいていた。

 

「どうしてここにきたんだ? 君はここで何があったか知っているのか!?」

 

 アークは藁にも縋る思いで少年の腕を力強く掴む。

 

「あの……いえ、なにも知りません! ごめんなさい!」

 

 その姿が怖かったのか、少年は必死になって首を振り、何も知らないと答えるのだった。

 

「アーク、落ち着いて!  相手は子どもだよ!」

 

 そんな二人の様子を見ていたポコが慌てて二人の間に割り込んだ。

 

「あ……す、すまない」

 

 アークは自分のやらかしに気がつき、慌てて少年に謝罪する。

 

「い、いえ。だ、だいじょうぶです」

 

 まだ少し震えていたが、少年はアークの姿を見て、彼の謝罪を受け入れた。

 二人の間に重い空気が流れてしまった。先程、割り込んできたポコもどうすればいいのかとオロオロと慌てふためく。そこにため息を吐いたククルが、少年に近づいて膝を着く。

 

「怖がらせてごめんない。それで君はどうしてここに来たの?」

 

 優しく声をかけるククルに少年は落ち着いたのか、アークたち一人一人に視線を向ける。

 

「えっと、アークという人に会いに来ました」

「俺に?」

「はい、これをアークさんにと」

 

 少年は懐から手紙を取り出して、それをアークに手渡す。

 

「手紙? 誰から」

「えっと……ヨシュアという人から……」

「父さんから!」

 

 アークは急いで手紙を開いた。手紙に書かれている字には見覚えがあった。自分の父、ヨシュアの字だった。アークは目を大きく見開き、取り憑かれるように手紙を読む。そこには多くのことが綴られていた。

 

 人の歴史が終わろうとしているということ。

 人々を救う「聖櫃」がスメリアにあるということ。

 それを手に入れるには、精霊たちに会わなければならないということ。

 そして、恵みの精霊が言っていた、自分たちが行く次の目的地が書かれていた。

 

 父の手紙を読み終えたアークは目を閉じて静かに考える。

 おそらく、これから先の旅は今まで経験したことよりもはるかに危険なものになる。そう直感したアークは後ろに振り返って、ククルとポコを見る。

 

「このことに関わると無事にすみそうにない。ククル、ポコ。それでも付いて来てくれるかい?」

 

 こんな危険な旅に友達である二人を巻き込みたくない。だが、自分一人でなんとかできるとも思えない。

 二人の力を貸してほしい。

 そう切に願うアークの問いかけに二人は、

 

「僕は弱虫で何もできないけど、アークといると勇気が出て来るんだ。ここで逃げ出したら、昔に逆戻りだ。だから、付いて行くよ」

「あなたが旅立つ時に言ったはずよ。これは私の道でもあるの」

 

 何の迷いもなく、二人はアークに付いていくと答える。彼は口元を震わせて俯く。二人の答えに彼は込み上げる嬉しさに耐えながら顔を上げる。

 

「母さんを探すための手がかりは何もない。ただ分かっているのは、多分、全てが一つに繋がっていることだ」

 

 その顔は先程までのものとは大きく変わっていた。己の無力に嘆いていた子どもの姿はなく、大きな決意を胸に秘めた勇敢なる戦士の顔をしていた。

 今は父を信じて前に進むしかない。次の目的地は決まった。父が自分たちに残してくれた。

 オルニスの丘。そこにあるストーンサークルに伝記が残されている。そこに次の道標があると。

 

「でも、その前に」

 

 アークは手紙を送ってくれた少年に振り返る。

 

「手紙を届けてくれてありがとう。家まで送ってあげるよ。どこから来たんだい」

 

 アークの問いかけに、少年は俯いてしまった。

 

「? どうした?」

「……ありません」

「え?」

「帰る家は……どこにもありません」

 

 帰る場所がないと返されてしまい、三人は言葉を失ってしまった。

 

「あの、お願いがあります」

 

 少年は縋るような目で、だけどアークと同じように強い決意を込めた目で三人を見つめていた。

 

「僕も、皆さんと一緒について行ってもいいですか?」

 

 これが、後に勇者と呼ばれる少年アークと、異世界に迷い込んできた少年 光月勇仁の最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーク・ザ・ラッド・トータス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日の朝。まだ人通りが少ない道路を歩く黒髪の少年――光月勇仁は大きく欠伸をしていた。

 

「勇仁君、寝不足?」

 

 勇仁の隣で一緒に歩く黒髪に眼鏡をかけた少女――中村恵理は見上げるように彼の顔を覗いていた。

 二人とも同じ青の学生服を身に纏い、学校に登校する真っ最中だった。

 

「心配するな。学校に着く頃には眠気は消えてるよ」

「大丈夫? 無茶していない?」

「してない、してない。疲れはしっかり取れているからよ」

 

 170cmを超える勇仁は自分よりも背の低い恵理の頭をぽんぽんと叩く。いきなりのことに驚く恵理だったが、頬を少し赤くして、ただ彼から視線を逸らすだけだった。

 そんなやり取りをしている間に勇仁たちは学校にたどり着く。教室に入ろうとドアを開こうとしたが、中から聞こえる騒がしい声に勇仁は眉を潜ませる。

 

「はぁ~~またあいつらか。飽きないのか」

 

 愚痴を漏らす勇仁。その声には面倒くさいという感情がはっきりと籠っていた。彼は苦笑いをする恵理を連れて、教室の中へと入る。

 

「ハジメ、おはよう」

「あっ、おはよう勇仁、中村さん」

「うん、南雲君もおはよう」

 

 そこで最初に会ったのは、彼の友人――南雲ハジメだった。

 

「で、お前らは何しているんだ?」

 

 そして、彼が次に目に入ったのは、ハジメを絡んで、ちょっかいをかけていた小悪党――檜山大介とその取り巻きである斎藤・近藤・中野の三人だった。

 

「こ、光月……」

「もう一度聞くぞ。何しているんだ?」

 

 勇仁はさっきよりも低く、重みのある声で檜山たちを睨みつける。

 

「ヒッ! な、何でもねぇよ!」

 

 檜山たちは悲鳴を上げてその場から立ち去ってしまった。勇仁はそのまま傍観していたクラスメイトたちにも一睨み。教室に入った時からあったハジメに向けられていた敵意を含んだ視線が一気に消え去った。

 

「あ、ありがとう勇仁。それにしてもすごい声だったね」

「うん。すごいメンチ切っていたね」

 

 ハジメと恵里は檜山たちほどではないが、勇仁の声に少しビビっていた。

 

「安心しろ。知り合いの侍よりはマシだ」

「どんな侍だよ」

(っていうか、今の時代に侍って……)

 

 思わず素が出てしまったハジメ。恵理も勇仁のズレた発言に内心でツッコむ。

 檜山たちが立ち去り、ハジメの席に勇仁と恵理が集まる中、そこに一人の女子高生が近づいてきた。

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 黒のロングストレートに天然無邪気な笑顔を浮かべる女子高生――白崎香織。この学校で二大女神と呼ばれている美少女だ。

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん」

 

 クラスの中から再び敵意を含んだ視線がハジメに向けられた。クラスメイトたちは面倒見がいい香織が、周囲から居眠りの多い不真面目な生徒だと思われているハジメを気にかけていることが気に入らないらしい。

 それを口には出さずに、不快な目で見るクラスメイトたち姿にただ呆れるだけの勇仁。その時、彼らの下に三人の生徒が近づいてきた。

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

 苦笑いを浮かべる茶髪の少年――天之河 光輝。香織の幼馴染で成績優秀、スポーツ万能、更にイケメンという完璧超人高校生。彼が見せる爽やかな笑みに彼を見ていた女子生徒の大半が見惚れていた。

 

「南雲君、勇仁、恵理。おはよう。毎日大変ね」

 

 次に来たのは長い黒い髪をポニーテールに結んだ少女――八重樫雫。香織と同じ二大女神と呼ばれている美少女だ。

 

「全くだぜ、こんなやる気のない奴に何言っても無駄だと思うけどなぁ」

 

 最後に来た大柄の少年――坂上龍太郎。光輝の親友であり、見た目通り、運動神経が良く、頭が少し悪い脳筋のスポーツ男子だ。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

 乾いた笑みを浮かべるハジメに光輝は彼を窘めるように強い言葉を発する。

 完璧超人に見える光輝だが、自分の意見が絶対に正しいと信じており、都合の悪いことがあっても、自分にとって都合のいい解釈をする悪い癖を持っていた。彼の目線からもハジメは香織を困らせる不真面目な生徒だと思っているのだろう。

 

「光輝君? 私は私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 香織の天然発言にハジメに向けて、再び殺気と嫉妬が入り交じった視線が集まる。

 その視線にいい加減、嫌気がさしたのか、勇仁は再び一睨みして霧散させる。

 

「え?・・・ああ、本当に香織は優しいな」

 

 光輝は香織の発言を聞いて、思わず苦笑いをする。また、彼のご都合解釈が発動したのだろう。

 

「雫ちゃんおはよう。今日も勇仁と()()で登校してきたよ」

「ふ~ん、そう。()()でね」

 

 そんなハジメたちをよそに恵理と雫は勇仁を間に挟んで、お互いにとてもいい笑顔を見せつけあっていた。

 

「雫、頼まれたものを持ってきたぞ」

 

 牽制し合う二人の様子を無視して、勇仁はカバンからある物を取り出した。

 

「ありがとう、勇仁。でも、ごめんなさいね、持ってこさせて。大切な宝物なんでしょ」

 

 勇仁がカバンから取り出したのは、魔女が被っていそうな黒い三角帽子。

 経緯は知らないが、雫は彼がその三角帽子に対して深い思い入れを持っており、とても大切にしていることを知っていた。

 雫はお礼を言いながらも、同時に申し訳なさそうな顔で勇仁に謝る。

 

「気にするな。見るだけなら問題ない。それにお前なら大丈夫そうだからな」

「そ、そう……。じゃあ、ちょっと借りるわね」

 

 顔を少し赤くする雫は勇仁から尖がり帽子を丁寧に受け取った。その様子を恵理は不服そうに見つめていた。

 

「光月。お前もお前だ。いつまでも雫や恵理に甘えるな。彼女たちだってお前を構ってばかりはいられないんだぞ」

 

 すると先程までハジメに絡んでいた光輝がいつの間にか割り込んできた。勇仁を睨んだ後、光輝は雫の方に視線を向ける。

 

「雫も手芸部なんてやめて剣道部に戻らないか? 雫がいれば間違いなく優勝できるんだ」

 

 光輝は雫に優しい声で諭すように言った。雫の実家は剣道場を開いており、その娘である雫の腕前は、同年代の男子にも負けないほどの実力を持っていた。

 

「光輝、剣道は実家でもやれるの。学校ではやりたいことをやるって言ったでしょ? 何度も言わせないで」

「うっ……、だ、だが、そっちの方が雫のために……」

「私のために? 私のことは私が決めるわ。あなたに決められる筋合いはないわ」

 

 しかし、雫は光輝の勧誘をはっきりと断った。剣道場の娘として生まれた雫だが、実は可愛い物には目がないといった女らしい一面を持っており、高校では自分のやりたいことをやろうと決めて、手芸部に入部したのだ。

 幼馴染である雫に邪険にされた光輝は言葉を詰まらせてしまった。そして、その視線は彼女の隣にいる男へと向かった。

 

「……光月!」

「俺に当たるな。雫は自分で考えて、そう選択したんだ。関係ない俺たちがどうこう言う筋合いはない」

「関係ならある! 俺は雫の幼馴染だ。俺は雫のことを思って言っているんだ!」

「……変わらないな、お前」

「何?」

 

 勇仁の目には強い失望が映っていた。自分を見つめてくる二色の瞳に光輝は思わず息を呑む。

 

「何も変わっていないって言ったんだ。雫のことを思って? そう言っておきながら、小学生の頃、その雫を追い詰めたのはどこのどいつだ?」

「あの件は俺はまだ納得していない! お前が雫に何かを吹き込んで、あんなことをさせたんだろう!」

「加害者側も認めていたのに、何言ってんだお前……」

 

 面倒くさくなったのか勇仁は雫から三角帽子を返してもらい、自分の席へと向かった。

 

「そんなことよりも席につけ。もうすぐ朝礼が始まるぞ」

「おい! まだ話は……」

「やめなさい、光輝! とっとと席につくわよ」

 

 勇仁に突っかかろうとした光輝を雫が止める。光輝は納得がいかずに勇仁を睨みつけるが、しぶしぶと自分の席へと戻っていった。

 数分後、担当教師の畑山愛子が教室に入り、ホームルームが始まる。ハジメは堂々と居眠りをする中、勇仁はボーっと外を眺めていた。

 

(あれからもう十年か……)

 

 勇仁は朝に見た夢を思い出す。

 今から十二年前、五歳だった勇仁は突如、異世界へと迷い込んだ。

 そこは彼がいる世界とは異なり、モンスターや魔法、そして、精霊といったものが存在するファンタジーの世界だった。

 異世界に迷い込んでから二年。彼が七歳になった時、スメリアで勇者アークと出会い、共に旅をすることになった彼は、世界の命運をかけた戦いに身を投じることとなった。

 

(皆、元気にしてるのかな。……それに)

 

 共に戦った仲間たちの姿を思い出しながら、勇仁は三角帽子を見つめる。

 

(先生……)

 

 アークたちと出会う前。自分が異世界でさ迷っていた時に手を差し伸べてくれた恩人にして、師匠になってくれた人。

 そして、勇仁にとっては、運命と言っても過言でもない出会いだった。

 

(いつか必ず……絶対に会いにいきます)

 

 元の世界に戻ってからすでに十年。勇仁は帽子と共に彼女から預かっていた一冊の本を、決して汚さないように丁寧に保管していた。

 もう一度、師匠と出会い、必ず返すと誓って。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 午前の授業を終えた勇仁たちは昼休みに入った。彼はカバンから弁当を取り出して昼食をとろうとする。

 

「勇仁君。今日も一緒に食べよう♪」

「勇仁。隣いいかしら?」

 

 そんな勇仁の下に恵理と雫が同時にやってきた。自分の机を横に付けて勇仁を挟む形で彼の隣に座る。

 

「雫ちゃん。今日は天之河君の方に行ったら? 勇仁君は私と一緒に食べるから」

「たまには私以外と一緒になるのも光輝のためだわ。だから今日は私が勇仁と一緒に食べるから」

「今日も、じゃない? 雫ちゃんが天之河君と一緒に食べているところを見たことないけど」

「気のせいじゃない?」

 

 二人は朝の時と同じように笑顔を見せつけあって牽制しあっていた。

 勇仁はそんな二人のやり取りを見てため息をつく。

 恵里も雫もアークたちの世界に行った後で知りあった仲だ。恵里とは少し特殊な経緯で知り合い、なし崩しで交流を続けている。雫については小学校からの付き合いで、あることをきっかけに交流を持ち、今では月一単位で雫の道場に通っている。

 

(といっても、相手になる奴がいないんだよな)

 

 剣や槍、さらには銃や魔法といった何でもありの戦いを何度も経験し、実践経験をかなり積んだ勇仁にとって、道場に通う門下生たちは、はっきり言って力不足だ。

 

(だからと言って、あの二人とは戦いたくねぇし……)

 

 道場の中で勇仁と渡り合える者がいるとするなら、雫の父と祖父くらいだろう。だが、あの二人はなぜか勇仁に対しては容赦がなく、一歩間違えれば、命を奪われかねない。

 

「ちょっと勇仁、聞いてるの?」

「ん? なんだ?」

 

 雫の呼びかけに勇仁は遅れて反応する。どうやら知らぬ間に、考えに没頭していたようだ。

 

「まったく、ちゃんと話を聞きなさいよ」

「わるかった、わるかった。んで、何の話だ?」

「週末の予定よ。あなた、隣町のボランティアに参加するんでしょう?」

「あぁ。そのつもりだが、それがどうした?」

「私たちも参加するって話だよ。いいよね?」

「いいよねって……、別に俺が決めることじゃないから好きにすればいいじゃねぇか」

「そう。なら、好きにさせてもらうわ」

 

 勇仁を置いて話を進める二人。先程までのいがみ合いはどこにいったのやら。

 

「それにしても勇仁君はすごいね」

「あ? 何がだ」

 

 突然、恵理に褒められて、勇仁は眉を潜める。

 

「ボランティア活動のことよ。あなた、月に一回は行っているわよね」

 

 雫の言葉に恵理も続く。

 

「確か、二ヶ月前は北海道まで行ってたよね」

「えぇ。土砂崩れで被害がひどかったって、テレビにも出ていたし」

「遠いのにそんなものにも積極的に参加するからすごいなぁって」

「そんなにすごいことか?」

 

 勇仁はあまり実感がないのか首を傾げる。その姿に雫は呆れていた。

 

「学校でも表彰されてたじゃない。自慢したって罰は当たらないわよ?」

「誰にでもできることだろう。助けたいと本気で思っているのなら、誰にだってできるものなんだ。自慢できる話でもないだろう」

 

 褒めちぎってくる二人だったが、勇仁は胸を張る様子はなかった。

 勇仁は月一の単位でボランティア活動をしており、特に災害ボランティアには積極的に参加していた。

 

(あっちの世界で、みんな頑張ってるんだ。俺だって頑張らないと)

 

 勇仁の心にある未練。それは最後の戦いの後、勇仁は強制的に元の世界に戻されてしまったのだ。

 最後の戦い。その時に世界は大きな災害に見舞われた。勇仁は知らないが、その災害で大陸の半分は海に沈み、人類はその半数を失ってしまった。そんな終わってしまった世界の復興に勇仁は参加することができなかった。

 テレビで被災地の様子やそこで苦しんでいる人たちを見るたびに、彼は最後に見た絶望の景色を思い出してしまう。

 居ても立っても居られなかった勇仁は積極的にボランティアに参加した。学校をサボったこともあり、先生に怒られることもあったが、彼はそのことを気にしていなかった。幸いにも勉学については上位についており、すぐに補える範囲だった。そんなものよりも彼にとっては被災した人たちを助けることが何よりも大事なことだったのだ。

 

(アークさん……、ククルさん……)

 

 あの戦いで命を落としてしまった二人が最後に残したもの。

 たとえ、滅んでしまっても、生きている限りいくらでもやり直せる。再生という名の希望。

 それをこの世界で伝えるのが、自分にできる唯一のことであり、あの世界と自分を繋ぐものだと信じて。

 

「!?」

 

 そんな時、勇仁は血相を変えて急に立ち上がった。突然のことに驚く雫たちだが、勇仁の顔つきが徐々に険しくなる。

 ほんの一瞬に感じ取った力。それは、この世界に戻ってから今まで感じることがなかった力。

 

(魔力!?)

 

 勇仁は慌てて教室内を見回して、すぐに見つける。光輝の足元に光り輝く円環の幾何学模様を。

 

(魔法陣!?)

 

 気づいた時には時すでに遅し。

 魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。そして、光が収まったとき、教室の中には誰もいなくなってしまった。




 もう一つの方の作品を優先していますので、
 更新の方はかなり遅い方ではありますが、こちらも完結できるように頑張っていきます!
 ご感想、評価の方、お待ちしております。
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