奈落の底で魔物に襲われたハジメは突如、現れた青年アークの介入によってその命を救われた。
「しばらくここで休もう。ハジメのおかげでモンスターの襲撃も対策できたしな」
「い、いいえ。どちらかと言うとアークさんが一番、貢献したと思うのですが……」
モンスターの襲撃を防ぐために出入口をハジメの錬成と、アークの魔法で壁を作って安全を確保した。
二人はちょうど座れるくらいの岩に腰を下ろして、アークが用意した焚火を挟んで、身体を温めていた。
「そんなことはないさ。君が言ってくれなければ、モンスターが来るのを常に警戒する必要があったからな」
「そ、そんなことは……」
同年代とは思えないアークの大人びた雰囲気に委縮してしまうハジメ。
火を強くしようと焚火に手を掲げるアークを、ハジメはバレないようにじっくりと観察する。
光輝にも負けていない整った容姿。額には赤い鉢巻が巻かれており、長く使われているのか、色はだいぶ褪せていた。
身に纏っているのは武士が来ているような真紅の鎧。動きにくそうに見えるが、彼の動きにぎこちなさはなく、かなり着慣れている様子だった。
「どうしたんだ?」
「あ、いえ、すみません」
火の調整を終えたアークはハジメの視線に気づいて顔を上げる。それにハジメは慌てて謝罪する。
「えっと、アークさんはどうしてここに?」
ハジメは会った時から抱いていた疑問をアークにぶつける。
自分よりも先に奈落の底にいたアーク。彼がいったいどうやってこの場所に来たのかはわからない。だが、来たというのならば地上に戻れる道を知っているかもしれないとハジメは期待の眼差しを彼に向けるのだった。
「それは……」
しかし、アークはどこか戸惑った様子を見せて、話すことを躊躇っていた。それにハジメは不安そうに見るが、その姿に意を決したのか、アークは口を開いた。
「ハジメ、今から言う話はとても信じられないと思うが、どうか信じてほしい」
「は、はい……」
「俺はこの世界の人間じゃない。こことは違う別の世界から来たんだ」
「え……」
アークの話に目を大きく開くハジメ。そのリアクションに苦笑いをしてアークは話を続ける。
十年前。アークたちの世界は未曾有の大災害に襲われた。
世界全体を揺らした大地震。町一つを飲み込む大津波。森を一瞬で火の海に変えた雷の嵐。
「大崩壊」と呼ばれた天変地異は、大陸の半分を海に沈めて、人類の半分を奪う悲劇を生みだした。
残された人類は滅んでしまった世界を復興しようと手を取り合い、世界は少しずつ再生していった。
「だが、その世界に再び、災いが降り注いだ。外の世界から来た侵略者、『改ざん者』と呼ばれる者に」
手を取り合っていた人類は改ざん者の策略で争いを始めて、世界は再び混沌の渦の中へと呑み込まれた。
だが、アークとその仲間たちがバラバラになっていた人類を一つにして、改ざん者たちに立ち向かった。
改ざん者は援軍として連れてきた仲間と合流して、アークたち人類と全面戦争を引き起こした。
死闘の末、アークたちは改ざん者たちに勝利した。だが――、
「俺たちは最後に残った改ざん者をあと一歩というところまで追い詰めた。だが、奴はある装置を起動させてその場から逃げおおせたんだ。仲間たちがその装置を調べたら、それは異世界へと飛ぶ装置だとわかった」
異世界へと飛ぶ装置。その言葉にハジメの身体が前のめりになる。
「力を蓄えて、再び俺たちの世界に侵攻するだろうと考えた俺たちは改ざん者を追うため、その装置を使ってこの世界に来たんだ」
「あ、あの……!」
居ても立ってもいられなかったハジメはアークに質問する。
「さっき、異世界から来たという話ですが……」
「すまない。いきなり言われても信じられないよな」
「いいえ、僕もそうなんです。僕もこことは違う世界から来ました!」
「何だって?」
今度はアークが目を大きく開いた。ハジメはアークに伝わるように自分たちがこの世界に来た経緯を説明する。
この世界はトータスと呼ばれており、今、人間族と魔人族が戦争をしているということ。
自分たちはこの世界の神であるエヒトによって、人間族を救う"神の使徒"として召喚されたこと。
戦闘訓練の一環として、ここ【オルクス大迷宮】に訪れたこと。
トラップに引っ掛かって、最強の魔物と戦うことになり、自分はその時に奈落の底へと落ちてしまったこと。
そして、地上へと戻ろうと探索していた時に魔物に襲われて、アークに助けられたこと。
「そうか……」
アークはハジメの話に耳を傾ける。時に相槌を打ちながら、彼の話を最後まで黙って聞いていた。
「あの、アークさん。異世界へと向かう装置なのですが、それって今、持っていますか?」
もしかしたら、元の世界に帰れるかもしれないと再び、期待の眼差しをアークに向ける。
だが、アークは首を横に振るのだった。
「いや、あの装置は直通で戻る機能はないらしい。だから、その装置は俺たちの世界に取り残されている。仮に持っていたとしてもおそらく元の世界に戻ることはできないと思う」
「そう……ですか……」
期待を打ち砕かれて落ち込んでしまうハジメ。それをアークは申し訳ないと謝るが、すぐに真剣な顔つきへと変わる。
「ハジメ。落ち込んでいるところで悪いが、これからの事を話し合いたい」
「は、はい」
自分たちの状況を思い出して、ハジメはアークの話に集中する。
「この場所だが、俺は一通り歩き回ったが、上に繋がる道はどこにもなかった」
「え、それじゃあ、地上に戻る道は……」
「ない。そう考えた方がいいかもしれない」
悪い知らせにハジメは顔を顰めてしまう。
「代わりに下へと続く道が一つあった。それ以外の道はどこにもなかった」
「じゃあ、手掛かりはその下に行く道しかないということですか?」
不安そうに見つめてくるハジメにアークは頷いた。
「俺は下に向かおうと思う」
アークの宣言にハジメは息を呑む。
「上に繋がる道がない以上、助けが来る可能性はほぼないと言ってもいい。ならば、俺たち自身でこの迷宮を脱出するしかない」
「で、でも、下に行けば……」
「あぁ。おそらく、さっきのモンスターよりも強い奴らが出るかもしれない。しかも、階層がどれだけあるのかもわからない。もしかしたら、最下層に辿り着くことができずに道半ばで倒れてしまうかもしれない。……だが、俺はこんなところで足踏みをしているわけにはいかない」
アークの目に力が入る。彼の目に映るのは、共に戦ってきた仲間たちの姿。
「この世界で散り散りになってしまった仲間たちを探さなくてはならない。一刻も早く、改ざん者を見つけて、奴を倒さなくてはならない。俺にはやらなくてはならないことがたくさんある。だから、ハジメ。俺に力を貸してほしい。この迷宮を抜けるには君の力が必要だ」
力を合わせれば乗り越えられる。本気でそう信じているとアークの目から伝わってくる。
「ご、ごめんなさい」
そして、その気持ちにハジメは応えることができなかった。
「む、無理です。僕にはできません」
「……どうしてだ?」
一瞬、目を丸くするアーク。だが、彼は慌てる様子を出さずに、静かに理由を尋ねる。
「だって、あの熊みたいな魔物よりも強いのが出るんでしょ? そんなところに行ったら絶対に無事じゃすまない。今度こそ本当に殺されちゃう」
ハジメは頭を下げるように身体を前に倒して、視線を地面に向ける。身体を小さくして、腕はブルブルと激しく震えていた。
腕を斬り落とされた時の激痛。逃げようとする自分を追い詰める破壊音。自分の腹を抉った巨大な爪。そして、死にかけの自分を見下ろす歪んだ笑みを見せる魔物の顔。
数分前に体験した死の恐怖を連続で経験したハジメの心は完全に折れてしまっていた。
「嫌です。あんな思いをするくらいなら、ここでゆっくり死を待った方がマシです」
「ハジメ。大丈夫だ。君なら……」
「あなたに僕の何がわかるんですか?!」
ハジメは勢いよく立ち上がった。
「僕ならやれるとでも言うのですか?! 僕なら乗り越えられるって思っているのですか?! 天之河君みたいなことを言わないでください!」
溜まっていた感情が爆発して、ハジメの口が止まらない。
「僕がこの世界に来て、周りから何て呼ばれているか知っていますか? 『無能』ですよ! 『無能』! 皆が戦闘系の天職なのに、僕だけ非戦闘職の錬成師なんですよ! ステータスも一番低いし、すごい魔法や武器なんか持っていない。本当ならこの迷宮の最初出てくる魔物にも負けちゃうくらい弱い奴なんですよ! そんな僕がこの階層を突破できるわけがない!」
「ハジメ、話を――」
「あなたみたいな人にはわからないですよ! あなたみたいに強い力を持った人なんかに、僕みたいな『無能』の気持ちなんてわかるわけがない!」
周りからどんな罵倒を言われても平気な顔をしていたハジメだったが、そんなものは見せかけだ。
本当は文句だって言いたいし、自分だって一生懸命頑張っていると言い返してやりたい。
だが、頑張った結果は著しくない。成長率も皆と比べると一番低い。
だと言うのに、この世界の人はそんな自分に勝手に期待して、光輝にいたってはもっと努力するべきだと無責任なことを言う。
正直、もうやってられなかった。
「そんな期待を僕に押し付けないでください! 行くなら、一人で勝手に行ってください! 僕の事はもう放っておいてください!」
すべてを吐き出したハジメは息を切らす。チラッとアークの顔を覗くと、彼はハジメの怒声に思わず固まり、ただじっと自分のことを見つめていた。
(最低だ……)
彼は悪くないと言うのに当たってしまった。幻滅して見捨てられてもおかしくはない。
生き残るための最後の希望を自分で壊してしまったとわかり、ハジメは自分はここで死ぬんだと悟ってしまった。
「……ハジメ、俺の話を聞いてほしい」
しかし、アークはハジメに笑みを見せて、座るように促す。
予想外の反応にハジメは戸惑いながらも彼の言う通りに腰を下ろした。
「まずはすまない。君の事情を知らずに無責任なことを言ってしまった」
「い、いいえ。僕も言い過ぎました」
「だけど、その上で言わせてもらう。ハジメ、君は弱くない。強い人間だ」
「え……」
何を言っているんだとアークの言葉にハジメは耳を疑ってしまった。
「俺にはたくさんの仲間がいる。ちょっと臆病な兵士もいれば、喧嘩っ早い侍や、何千年前に生きていた老人もいる」
アークは焚いた火に視線を移して、ある一人の仲間のことを思い出していた。
「その中にはまだ七歳の子供もいた」
「な、七歳?」
「あぁ。その子は卓越した魔法の達人で才能がある少年だった。だけど、彼自身は皆の足を引っ張っていると思っていた」
「え、どうしてですか? 才能はあったんでしょ?」
疑わしい視線を向けるハジメにアークは話を続ける。
「彼の魔法は確かにすごかったが、他の仲間のものと比べるとどれも一歩劣るものだった。それは彼がまだ、自分の才能を発揮できていなかったというのもあるが、単純に他の仲間たちが彼以上にすごかったというのもあった」
使える魔法の数ならば、古の大魔法使いの方が多かった。
単純な破壊力ならば、赤毛の少女の方が圧倒的に強かった。
魔力量ならば、魔女と呼ばれた少女の方が多かった。
少年には確かに魔法の才能があった。だが、まだ七歳だった彼はその才能の全てを発揮することができず、一般的な魔法でアークたちをサポートすることしかできなかった。
「俺たちは元の世界では『英雄』と呼ばれているけど、あの子だけは違った。『英雄』にべったり付いた『腰巾着』だと言われていたよ」
その話にハジメは顔を顰めてしまった。
その少年も必死に頑張っていたはずなのに、周りから称えられることはなく、逆に「腰巾着」という不名誉なレッテルを張られてしまった。
その少年の境遇が今の自分に少し似ていると、ハジメは嫌な共感を覚えてしまった。
「だけど、俺たちは一度もあの子の事をそんな風に思ったことはない」
アークは不敵な笑みを浮かべた。
「あの子はどれだけ倒されても何度でも立ち上がり戦い続けた。一人になっても最後まで諦めずに敵に立ち向かった。俺たちの中でも一番強い子だった。力じゃない、心がだ。そんなあの子の後ろ姿を見てきたからこそ、俺たちは何度も立ち上がれた。あんな小さな子が諦めていないのに、俺たちも諦めてたまるかってな」
「何がその子をそこまで駆り立たせたんですか?」
どうして立ち上がり続けたのか、ハジメは不思議に思った。
アークの話を聞けば、彼が経験した戦いはどれも命がけの戦いだった。
そんな戦いに七歳の子供が身を投じるなど、普通ならば逃げ出してもおかしくない。
だというのに、どうしてその少年は戦い続けた? 七歳の、まだ小学校に通うくらいの少年が。
「あの子にはどうしても叶えたい願いがあった。その願いを叶えるために彼は戦ったんだ」
「願い?」
「あぁ。再会という願いをな」
再会。別れてしまった人と、もう一度、会う意味を持つ言葉。
少年にはどうしても再会したい人がいた。
「あの子に魔法を、そして、生きる希望を与えてくれた恩師ともいうべき人だ。俺たちと出会う前、あの子はその人と一緒に旅をしていたが、不幸な事故で離れ離れになってしまったんだ。その人がどこで何をしているのか。生きているのか、死んでいるのかもわからない。それでもあの子はその人と再会するために戦ったんだ」
「その子はその恩師という人と再会できたんですか?」
アークは首を横に振った。
「いいや。まだ再会できていない。だけど、生きているということだけはわかった。それを知った時、仲間の一人が、俺たちと別れて師匠を探さないのかと聞いたんだ。その時、あの子は――」
『先生とはもう一度会いたいです。あの人から託されたものがありますから。でも、それは全部……、アークさんたちとの旅を終えた後です。旅を終えた後にあの人に教えたいんです。アークさんたちのことを。そして、僕が歩き続けた旅の話を』
「そう言って、あの子は俺たちとの旅を続けた。最後まであの子は俺たちと一緒に戦い続けたんだ」
少年の話を聞いてハジメは黙ってしまった。
少年の胸に秘めた願いとその覚悟を、話だけで伝わってしまったからだ。
「ハジメ。最初から強い人間なんていない。誰もが弱い部分を持っている存在なんだ。そんな俺たちが立ち向かえるのは、何があっても絶対に叶えたい願いがあるから。そして、叶えようとする強い意志があるからだ」
「願いと、意志……」
「あぁ。あの子には師匠と再会する願いを持っていた。そして、その願いを叶えるために、どんなことにも立ち向かっていこうとする強い意志があった。そして、ハジメ。それは君も同じだ」
「僕も、同じ……?」
「あぁ。君はこの迷宮で一人になってしまったが、それでも君は諦めずに出口を探した。モンスターに襲われても、必死に生きようと足掻いた。それは君が何か強い願いがあったからできたんだ。ボロボロになっても、それでも絶対に叶えたい願いが。……それは何だ?」
アークの問いかけにハジメは沈黙する。
奈落の底に落とされた時、どうして出口を探そうと思った?
魔物に襲われた時、どうして必死に逃げた?
腕を斬り落とされた時、どうして生きようと足掻き続けた?
自問自答を何度も繰り返すハジメ。すると、無意識に彼の目に涙がこぼれた。
「……り……たい」
小さく何かを呟く。アークはそれを黙って見続ける。
「……に、帰……たい」
その声は次第に大きくなる。
「元の世界に……帰りたいっ!」
振り絞った声でハジメは自分の願いを吐露する。
故郷の帰還。
自分を育ててくれた両親とのありふれた日常。争いがない平穏な日常。数少ない友人たちと過ごす日常。
異世界に転移して、その日常を失ったハジメはそれがいかにかけがえのないものだったのかを気づかされた。
故郷に帰りたい。もう一度、あの日常に戻りたい。
それが、南雲ハジメの願いだった。
――それが、君の願いなんだね
頭の中から声が響いた。男のような、女のような不思議な声。
突然の声にハジメは辺りを見渡し、アークはその様子に首を傾げるのだった。
――こっちだよ
ひとりで壁が崩れて、大きな穴が現れる。
ハジメは吸い込まれるように穴の中へと入り、アークはその後を付いて行く。
「ここ……は……」
穴の先にあったのは広い空間。そこには見たことがない多種多様の鉱石が宝石のように輝きを放ちながら壁に埋め込まれていた。
中心地には青白い巨大な石が天井から生えており、そこから流れる液体が下に落ちて、小さな池を作っていた。
――来てくれたね
青白い石から声が聞こえる。
声の主が見えないことに戸惑うハジメは恐る恐る声をかける。
「えっと、あなたは?」
――私は石の精霊。この世界に存在する全ての石に宿る存在だ
「せ、精霊?」
ファンタジーでは定番の存在の登場に混乱するハジメ。
しかし、アークだけは落ち着いた態度で精霊と対話する。
「石の精霊よ」
――初めまして、精霊に選ばれた異世界の勇者よ。君たち二人がここに来るのを待っていた。
「俺たちのことをずっと見ていたのですか?」
――うん。全部見ていたよ。特にハジメ。君の事は一部始終見ていた。僕の力を授けるに値するかどうかを
見られていると感じたハジメの身体がビクッと震える。
「せ、精霊の力を僕に?」
――そうだよ。そして君はその資格を得た。君の生きたいという強い意志。故郷に帰りたいという強い願い。その輝きはどの鉱石よりも美しいものだ。僕は君の事を応援したくなったんだよ
青白い光が強烈な光を放つ。それに呼応して壁に埋め込まれた鉱石も一斉に光り出した。
――ここにある鉱石は好きに使っていいよ。錬成師である君ならば有効的に使えるだろう
「い、いいんですか?」
――もちろん。その代わり、君たちにお願いがあるんだ。
二人は耳を傾けて、精霊の願いを聞く。
――この迷宮の中間地点、五十階層目に大きな扉があるんだ。そこに封印されているものを解放してほしいんだ。
「それはいったい何ですか?」
――少なくとも、君たちに危害を加える存在じゃない。むしろ、君たちの力になってくれるはずだ
ハジメはその頼みを受けるかどうかを考えるが、その前に気になることがあった。
「あの、さっき五十階層目が中間地点って言っていましたけど、この迷宮は百階層まであるということですか?」
――そうだよ。そして、そこにこの迷宮を脱出できる唯一の出口がある。そして、君の求めているものもそこにある
「それって……、元の世界に帰る方法がっ!」
――正確に言うとその手掛かりだね
希望の光が見つかり、ハジメは顔を引き締める。
――ハジメ、そして、アーク。最下層へと向かい、この世界の真実を知りなさい。それが君たちが進むべき道を示してくれるだろう
光は瞬く間に消えていき、石から声が聞こえなくなった。
一瞬、夢でも見ていたのかと呆然とするハジメに、アークは彼の肩を叩く。
「ハジメ、何か感じるか?」
「え、は、はい。よくわかりませんけど、妙に力が溢れてくるような……、そうだ、ステータスプレート」
すっかり存在を忘れていたステータスプレートを探してポケットを探る。ステータスプレートを手に取り、ハジメは自分のステータスを確認する。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8
天職:錬成師
筋力:100[+最大300]
体力:300[+最大500]
耐性:100[+最大300]
敏捷:200[+最大400]
魔力:300[+最大500]
魔耐:300[+最大500]
技能:錬成・精霊の加護[+ステータス上昇]・言語理解
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「ステータスが上がってる……」
しかも最大値だけで見れば、光輝をも超えているとハジメは目を丸くして、何度もステータスを確認する。
「ハジメ」
ステータスに目を奪われていたハジメにアークは声をかける。
「意志は俺たちをどこまでも強くしてくれる。ただ力をもらっただけでは人は強くなることができない。君のように願いを叶えようとする強い意志が必要なんだ」
「アークさん……」
「力があるから人は強い意志を持つんじゃない。強い意志を持ったから人は力を手に入れることができるんだ。だから、君は決して弱くない。弱くないから精霊は君に力を与えたんだ」
アークの言葉にハジメは胸に手を置く。
胸の奥から伝わってくる力。その力がハジメの身体中を駆け回り、力を与えてくれているのがわかる。
「ハジメ、もう一度言う。この迷宮を抜けるには君の力が必要だ。俺に力を貸してくれないか」
「……はい! よろしくお願いします!」
今度は力強く答えるハジメ。そこには先程までの臆病な姿はどこにもなかった。