アーク・ザ・ラッド T   作:魔ギア

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第五話 訓練、そして成果

 勇仁たちが異世界に召喚され、訓練と座学が始まってから二週間の時が過ぎた。

 訓練の内容は魔法の使い方や武器の使い方、騎士団の人との模擬戦などが行われた。

 座学ではトータスの歴史や各国の詳細、魔人族や亜人族といった人間族以外の種族のことなどがあった。

 学校生活のように飽きる者が出るのではないかと思ったが、誰一人とサボっている者はいなかった。

 地球での授業やスポーツと違い、魔法という現実では存在しないはずだった代物を使うことができるからか、誰もが訓練と座学に集中していた。

 そして、勇仁は今、自分の部屋で大量の本に囲まれていた。

 

「これもはずれか……」

 

 勇仁はおもむろに本を閉じてため息をつく。ここ二週間、勇仁は訓練と座学がない休憩時間の間は、こうして部屋に引き籠り、本を読んでいた。

 

「こんだけ探しても、精霊に関する記載が一つもないとはな」

 

 勇仁が調べていたのは、精霊に関することだった。

 ステータスプレートにあった「精霊の加護」の影響で勇仁のステータスは偽りのステータスになった。なぜ、偽る必要があるのかわからなかった勇仁は手掛かりを探すべく、早速、リリアーナに頼み込んで図書館にあった本を大量に部屋へと持ち運び、夜遅くまで読み漁る毎日を過ごしていた。

 しかし、二週間経っても精霊に関する本はおろか精霊という言葉すら見つからなかった。本に書いてある内容のほとんどは、この世界の神"エヒト"に関する内容ばかりだった。

 

「っと、そろそろハジメの鍛練をしなきゃな」

 

 時計を確認した勇仁は机にかけてあった杖を手にする。宝物庫に保管されていた杖。先が尖っており、槍にも見える鉄製の杖だった。勇仁は本を置いて部屋から出て行った。

 勇仁は自身の鍛練だけでなく、ハジメの鍛練にも付き合っていた。生徒の中で唯一の非戦系の天職を持ったハジメのステータスはオール10。他のクラスメイトたちよりもステータスが圧倒的に低い。

 地球と比べると命の危険が遥かに多いトータスでステータスが低いのはあまりにも危険だった。最前線に立たされるというのならなおさらだ。そこで勇仁は自分の身を守ることができるように、ハジメに稽古を付けることにした。

 向こうの世界でまだ小さかった勇仁は、仲間たちの後ろに立って、仲間のサポートに徹していた。だが、後ろにいたから敵のモンスターたちと戦わなかったのかと言われれば、それは違う。敵の作戦や突然のアクシデントなどで戦うことは何度もあった。それに危惧してイーガやゴーゲンを筆頭に自分の身を守るための術を教えてもらっていたのだ。

 勇仁はその時の稽古をそのまま、ハジメに教えることにしたのだ。稽古の内容はかなりスパルタで終わったときには、ハジメは地面にぶっ倒れているのが毎日だが、ハジメは確実に力を身に着けていた。

 

(これなら次のステップにいっても問題ないな)

「あ、勇仁」

 

 頭の中でハジメの訓練プランを考えている間に勇仁は訓練施設へとたどり着いた。そこには先に到着していた雫が彼に気づいて近づいてきた。

 

「雫。ハジメを探しているんだがどこにいるか知らないか?」

 

 勇仁は辺りを見渡しハジメを探していたのだがどこにもいなかった。

 

「南雲君? いいえ、見ていないわ。まだ来ていないんじゃない」

「何?」

 

 勇仁は雫からの返答に眉をひそめた。

 ハジメは地球にいた頃、両親の手伝いで学校に遅れ気味ではあるが、根は真面目で遅刻したことはない。この世界に来てからも勇仁のスパルタに対して、文句もつけずに最後までやり通していた。

 訓練が始まるまで、まだ十分あるが、まだハジメが来ていないのはおかしい。勇仁は再び辺りを見渡してあることに気付いた。

 

「おい、雫。檜山たちはどこだ。あいつらの姿が見えないが」

 

 勇仁は檜山たち小悪党四人組がいないことに気付き、雫に尋ねる。

 

「え、檜山君? もう来ていたけど、そういえば姿が見えないわね」

 

 雫も檜山たちがいないことに気付き、首を傾げていた。

 

「……まさか」

 

 勇仁は手に持った杖を地面に叩きつける。すると、杖を起点に強烈な風が吹き荒れる。突然の突風に雫と周りにいたクラスメイトたちが手で顔を隠すが、目を閉じて集中していた勇仁はゆっくりと目を開けた。

 

「あっちか」

「あ、ちょっと!」

 

 勇仁は雫を無視して走り出した。

 走った先からかすかに聞こえる怒声。それを耳にした勇仁はさらに加速する。

 

 

 ~~~~~

 

 

 時間は少し遡る。

 

「あぁ~、身体がまだ痛い」

 

 図書館から出て行ったハジメは首を回しながら、訓練施設へと向かっていた。

 

「勇仁君の訓練。無茶苦茶ハードなんだよな」

 

 ハジメは二週間の訓練を思い出してしまい、顔を青ざめていた。勇仁からの訓練を提案された時はありがたかったが、今は若干、後悔していた。

 彼の訓練は一見、地味に見えるが、いざ終われば身体中に痛みが走り、陸で跳ね上がる魚のようになっていた。

 

「昔、勇仁君もやっていたっていうけど、どんな人だったんだろう」

 

 彼が言うには、とある修行僧が子供だった彼のために考えた訓練メニューだそうだ。

 

(勇仁君、どこでそんな人と?)

 

 異世界に来てから、ハジメは勇仁に対して違和感を抱いていた。

 光輝を黙らせて、イシュタルと繰り広げた広間での交渉の件。

 誰にも気づかれることなく、檜山から自分のステータスプレートを奪い返した件。

 そして、訓練の時に時々、自分に見せる、真剣な顔つき。

 

(あんな顔の勇仁君、初めて見た)

 

 元の世界で行事や勉学に取り組んでいた時に見たものとは違う。その時のものよりも何倍もの凄みを感じてしまった。

 

「勇仁君って、いったい何者……っ!」

 

 考えにふけこむハジメだったが、すぐさま横に跳びこんだ。すると、ハジメがいた場所に誰かの足が通り過ぎた。

 

「なっ!?」

 

 ハジメを蹴ろうとした男、檜山は躱されたことに大きく目を開いた。

 

「おいおい大介、なに躱されてんだよ」

「手加減しすぎじゃねぇの?」

 

 癇に障ったのか檜山は一緒に来てた近藤たちを睨みつけるが、すぐにハジメの方に振り向き、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「おいおい南雲。なにしてんの? お前が訓練に参加したって意味ないだろうが。マジ無能なんだしよ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

 檜山に続いて、近藤たちもニヤニヤと笑みを浮かべてハジメを見下す。

 

「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

「いや、一人でするから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 

 檜山たちの誘いにやんわりと断ってみるハジメ。正直、この後の勇仁の訓練を考えると、無駄な体力を使いたくないのが本音だ。

 

「はぁ? 俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの? マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

 そう言って、脇腹を殴る檜山。だが、檜山の拳は当たる寸前で空ぶった。

 

「……は?」

 

 目を丸くする檜山。それは近藤たちだけでなく、躱したハジメ本人も驚いていた。

 

「~~っ、この!」

「うわぁ!」

 

 再び襲い掛かる檜山の拳をハジメは間一髪で避ける。それに顔を真っ赤にした檜山は何度もハジメを殴りにかかるが、一発も当たることはなかった。

 

「おい大介! なにやってんだ?!」

「ぜんぜん当たってねぇぞ!」

「いくらなんでも手加減しすぎだろっ!」

「っうるせぇ! てめぇらも見ていねぇで手を貸せ!」

 

 苛立つ近藤たちに怒鳴りつける檜山。近藤たちはハジメを取り囲んで、一斉に襲い掛かった。

 だが――、

 

「くそ! 当たれぇ!」

 

 近藤が持つ剣の鞘。

 

「くたばれ!」

 

 中野の横からの蹴り。

 

「この!」

 

 斎藤の正面からの拳。

 

 次々と襲い掛かる檜山たちの攻撃をハジメはギリギリのタイミングで躱していた。

 

(あ、あれ? 当たらない)

 

 避け続けている事実に困惑するハジメ。インドア派で、しかも非戦闘職でもある自分が檜山たちの攻撃を全部躱している。彼らを翻弄していることに驚きを隠せずにいた。

 

(これも……勇仁君の訓練のおかげ?)

 

 

『いいか、ハジメ。戦いにおいて一番重要なことは何だと思う?』

『え? それはやっぱり、敵を倒すことじゃないの?』

『違う。理由によっては相手を生け捕りにしないといけないこともあるから、倒すべきじゃないこともある』

『じゃあ、何が大事なの?』

『生き残ることだ』

『生き残る?』

『どんな強大な敵が現れようと生きていれば何度だって立ち向かえる。今は無理でも、何十と繰り返せば、相手の弱点を突いて勝つことができる。だが、そのためにも生き残る術を身に付けることが何よりも重要なんだ。特にステータスの低いお前にはな』

『そ、そうだね』

『生き残る術として一番の方法は相手の攻撃を受けないこと。どんな攻撃も当たらずに全部、躱すことだ』

『うん』

『だから、ハジメ。今日からお前には回避訓練を執り行う』

『……え?』

『俺は今から全力でお前を叩きのめす。だから、お前は俺の攻撃を避けることだけを考えろ』

『え、えっ! ちょ、ちょっと待って、勇仁君!』

『行くぞっ!』

 

 それから二週間、勇仁との回避訓練を続けたハジメ。最初の方は散々な結果だ。戦闘経験のないハジメは勇仁の猛攻にボコボコにされる一方だった。だが、積み重ねるにつれて、勇仁の攻撃を少しずつ避けられるようになり、今では目を閉じることもなくなった。

 

(……見える!)

 

 檜山たちの攻撃がスローモーションに見える。彼らの攻撃など勇仁のものに比べれば、はるかに遅い。

 

「野郎! 無能のくせに調子こいてんじゃねぇぞ!!」

 

 ハジメの背後から檜山がダガーを抜いて、突き刺そうと突進してきた。

 

「あぶなっ!」

 

 咄嗟に気付いたハジメは、地面に転がり檜山の攻撃をギリギリ躱した。

 

「こいつ! ここに焼撃を望む――"火球"!!」

「くらえ! ここに風撃を望む――"風球"!!」

 

 少し離れた所から中野と斎藤がハジメに向けて魔法を放った。

 

「っ!  まずい!」

 

 避けられないとハジメは目を閉じた。

 だが、魔法はハジメに届くことはなかった。

 

「な、なんだ!」

 

 ハジメはゆっくりと目を開ける。すると、自分の前に光り輝く障壁が張られており、中野たちの魔法を防いでいた。

 

「何やってたんだ……お前ら」

 

 そこに恐ろしく低い声が響き渡る。それにビクッと肩を震わせる檜山たちはゆっくりと声がした方へと顔を向ける。

 

「こ、光月」

 

 そこには杖を前に突き出して近づく勇仁の姿があった。

 

 

 ~~~~~

 

 

(どうやら間に合ったみたいだな)

 

 中野たちが放った魔法がハジメに向かっているのを見た勇仁は即座に魔法を使ってハジメを守った。

 

(それにしても、檜山たちの攻撃を全て躱すとはな)

 

 走りながらハジメたちの一部始終を見ていた勇仁はハジメの成長に嬉しさを感じていた。

 

「何やってたんだ……お前ら」

 

 だが、その感傷をひとまず置いて、勇仁は檜山たちを睨みつける。

 

「あ? 何って、訓練だよ、訓練」

「そう、そう。役立たずのそいつを強い俺たちが鍛えてやってるんだよ」

「でも、そいつ全然使えねぇな! 俺たちに対して反撃すらできねぇ!!」

「ヒァハハハ~! やっぱ役立たずは役立たずのままだな!!」

 

 檜山たちは勇仁の質問に対して、嘲笑いながら答えた。その内容はどこまでもハジメを見下すような発言だった。だが、勇仁は檜山たちのその姿を見て鼻で笑った。

 

「……その割にはお前らの攻撃は一発も当たっていなかったように見えたが」

「ハァ?」

 

檜山たちは俺の発言に青筋を立てた。

「お前たちは()()()()のハジメに四人がかりでやっていたのに攻撃が一度も当たっていなかった」

 

そして、勇仁は止めを刺した。

 

「役立たず相手に攻撃を当てられないお前たちの方が役立たずじゃないのか?」

「アァ!!」

 

 檜山は大声を上げブチ切れた。

 

「てめぇ! いつまでも調子こいてんじゃねぇぞ!!」

「後衛職の役立たずが! てめぇも鍛えてやるよ!!」

「今さら謝っても遅ぇからな!!」

「吠え面をかかせてやる!!」

 

 檜山たちが武器を構えて一斉に襲ってきた。ハジメの時とは違って、本気で殺しにかかる勢いだ。

 

「ゆ、勇仁君」

 

 それを見たハジメはさすがにまずいと思い、勇仁を止めようとする。だが、勇仁は杖を構え前へ出た。

 

「はっ! 槍術師の俺に棒術で挑むのかよ!」

 

 近藤が先陣をきって勇仁に槍を突く。それに対して勇仁は杖を近藤の槍に当てて弾く。

 

「ふぐっ!」

 

 弾かれたことに呆けていた近藤の頬に、勇仁は杖を叩きつける。歯が一本飛び出し、近藤は地面に倒れてしまった。

 

「ここに焼撃を望む――!」

 

 中野が勇仁に向かって魔法を放とうとしていた。それを見た勇仁は阻止しようと中野に近づこうとする。

 

「おらよ!」

 

 だが、そこに檜山が横からダガーで強襲し、勇仁を止める。

 

「"火球"!!」

 

 中野の手から火球が現れ、勇仁に向かって飛び出していく。

 

 ――ガシッ!

 

「え?」

「手間が省けた」

 

 勇仁は檜山の襟元を掴んで、中野に向けてぶん投げた。そして、中野が放った火球は檜山に直撃した。

 

「ギャァアアアアアアアア!!」

 

 火を被り、地面に暴れ回る檜山。人が焼かれている姿を見た中野は声を上げて怯んでしまう。

 

「ふんっ!」

「ギャァ!」

 

 そこに勇仁がすぐに近づいて、中野を落とす。

 仲間が一気に脱落するのを間近で見た斎藤は、勇仁に向かって魔法を放つ。

 

「こ、ここに風撃を望む――"風球"!!」

 

 倒れる檜山たちを見て勇仁に恐怖心を覚えたのか、手加減なしの全力の風球を放った斎藤。それを見た勇仁は慌てることなく、手を前にかざした。

 瞬間、放たれた風球が何もなかったかのように消え去った。

 

「え? な、なにが……」

「見てわからねぇのか? 打ち消したんだよ。同じ"風球"で」

 

 勇仁は斎藤が放った風球とは逆回転の風球を放って打ち消したのだ。

 

「はぁっ! そんなデタラメ……」

「魔法には無限の可能性があるんだ。"風球"もさっきのような防御に使うこともできれば……」

 

 勇仁は前のめりに体を傾ける。すると彼の足の裏に風が収束する。

 

「疾っ!」

「ガハッ!」

 

 二人の距離が一気に縮まり、勇仁の膝蹴りが斎藤の腹を抉った。

 

「こんなこともできる。って聞いてないな」

 

 膝を引くと同時に斎藤はうつ伏せになって倒れこんだ。

 

「あ、足から"風球"を放った……」

 

 勇仁たちの戦いを離れたところから見ていたハジメは勇仁の実力を見て、唖然としていた。

 

「何やって……えっ!?」

 

 その時、後ろから香織が雫、光輝、龍太郎、そしてメルドを引き連れて勇仁たちに近づいてきた。

 

「勇仁。これっていったい……」

「このバカどもが性懲りもなく、またハジメにちょっかいをかけてきてな。リンチされそうなところを助けた」

「リンチっ! 南雲君、怪我はない?!」

「う、うん。大丈夫だよ、白崎さん」

 

 リンチという言葉に過剰に反応する白崎をよそにメルドは倒れている檜山たちを一瞥して、勇仁を見る。

 

「これはお前がやったのか?」

「はい。あちらから襲い掛かってきたので、身を守るために交戦しました」

「嘘を吐くなっ! 檜山たちがそんなことをするはずがないだろう! リンチと言っているが、南雲は怪我していないじゃないか! 檜山たちは図書館で引きこもっている南雲を鍛えようとしていたところをお前が邪魔したんじゃないのか!」

「何でそんな解釈になるんだよ」

 

 勇仁は光輝の主張に頭を悩ませる。自分が正しいと思っていることを絶対に曲げないこの男をどうしようかと頭の中で模索する。勇仁たちの様子を遠くから見守るクラスメイトたち。彼らに目を向ける勇仁だったが、全員が目を逸らす。どうやら助ける気はないらしい。

 

「さぁ、白状しろ、光月! お前の方から檜山たちを襲ったんだろう!」

「やめなさい、光輝! そんな一方的に……」

「雫は黙っててくれ! さぁ、光月!」

 

 迫る光輝を冷ややかな目で見る勇仁。

 

(こんなのが"勇者"かよ)

 

『俺は人間の……、この世界の未来を信じる!!』

 

 勇仁は光輝を睨みながら一人の男を思い出していた。

 人間を精霊を、そして、世界を信じて、その命を捧げて世界を救った男。

 自分が知る本物の勇者を思い出した勇仁は、光輝の態度に苛立ちを募らせる。

 一度、本気で叩きのめそうかと杖に力を籠めようとする。

 

「いえ、光月様の方が正しいです」

 

 その時、鈴のような綺麗な声が割り込んできた。声がした方に全員が一斉に振り向いた。

 そこに立っていたのは修道服を着た一人のシスター。

 勇仁たちと年は変わらない銀髪金眼の白人の少女。修道服越しでもわかる小柄で細見な体型と、人形のように整った容姿。

 儚げな雰囲気を持った絶世の美少女を見たハジメたちは、息を呑んで少女に釘付けになっていた。

 

「し、シスター・カレン!」

「ごきげんよう。メルド団長」

「あ、あぁ。シスターはどうしてここに?」

「教会から派遣されて参りました。使徒様の様子を確認するように教皇様から頼まれました。ちょうど訓練の時間だと聞いて足を運んだのですが、なかなか面白いものが見れました」

 

 カレンと呼ばれたシスターは今も倒れている檜山たちの姿を見て、うっすらと笑みを浮かべる。その笑みに男性陣は頬を赤らめるが、間近にいたハジメと勇仁は身震いした。

 

「そ、そうだったのか。……それより、先程の発言は?」

「はい。彼らのやり取りを一部始終、見ていました。そこに倒れているブタどもがモヤ……、南雲様を後ろから蹴り倒そうしたのですが、それを躱されてムキになったのか、今度は四人がかりで彼に襲い掛かっていました」

(今、モヤシっていいかけたよね?! しかも檜山君たちをブタ扱いしてるし!?)

 

 見るからに清廉さを感じさせるシスターだったが、彼女からくる毒舌にハジメだけでなく、男性陣はショックを隠せなかった。異世界とはいえ、やはり現実の世界。二次元に登場するような清廉潔白なシスターは幻想の中へと消えていった。

 

「その後、ブタどもが魔法を南雲様に放ったのですが、これを光月様が未然に防ぎました。それが気に入らなかったのか、彼らは南雲様から光月様に矛先を変えて襲い掛かったのですが、逆に返り討ちにされたのです」

「そ、そんなわけがない! 檜山たちがそんなことをするはずがない! 光月、彼女に何をしたんだ?!」

「俺が何かしたみたいに言ってんじゃねぇよ。俺とシスターは初対面だ」

「そうですね。打ち合わせをするような時間もありませんでしたので、光月様が私に何かをしたということはありません」

「君、光月から無理矢理、そう言わされているのだろう? 大丈夫。俺が守るから本当のことを……」

「ですから、私は何もされていません。人の話を聞いていますか?」

「くっ、光月! こんな少女を洗脳して、無理やり言わせているのか?!」

「おいおい……」

 

 勇仁はもはや怒りを通り越して、呆れかえってしまった。

 光輝の思考がここまでぶっ飛んでいたことに勇仁は軽く放心してしまうところだった。

 そこにカレンが嘆くように顔を俯かせてしまった。

 

「……ああ、なんというコトでしょう。世界を救ってくださる勇者様がこんな風になってしまっているとは……」

「え?」

「メルド団長。勇者様はどうやらお疲れのようです。突然、故郷を離れて、あまりの寂しさに精神が参ってしまっているのでしょう。訓練はここまでにして休ませた方がいいと思います。今なら、勇者様を慰めてくれる故郷のお母様が夢に出てくるでしょう」

『……ぷっ』

 

 カレンの言葉を想像してしまったのか、その場にいた雫たちは思わず、息を吹いてしまう。

 そして、当の光輝本人は爽やかな笑みを浮かべたまま固まってしまっていた。

 

「シスター。今の証言は間違いないのだな」

「はい。敬愛すべし我が主に誓って」

「……そうか。証言に感謝する。こいつらは俺が連れていく。お前たちはしばらく自主練だ」

「ま、待ってください、メルドさん!」

 

 檜山たちを背負い、どこかへと連れて行くメルドを光輝は慌てて追いかける。龍太郎も彼の後を付いていくのだった。

 

「シスター・カレン、助けてくれて感謝する。正直、あいつをどうしようかと悩んでいたところだ」

「あのような能天気なサルは、適当にスルーすればいいと思います。……まぁ、あなたが彼をボコボコにして無様に倒れる様を見るのもよかったのですが……」

(あ、悪魔だっ! ドSだよ、この人! しかも、最悪の!)

 

 一連のやり取りを見てハジメはそう確信する。だが、それを口にすることはしない。言ったら、この毒舌性悪シスターに目を付けられてしまうからだ。

 

「それはそうと。お初にお目にかかります。神の使徒様。聖堂教会から派遣されてきました、カレン・オルテンシアと言います。この度は教皇様からの要請でしばらく、あなた方と行動を共にすることになりました」

「そうか。光月勇仁だ。好きに呼んでくれて構わない」

 

 その後、勇仁たちはカレンと交流を深めながら、訓練を始めた。そして、訓練が終わった後にメルドが戻ってきた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 メルドから告げられた言葉に勇仁は目を細めて、その様子をカレンはじっと見つめていた。

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