アーク・ザ・ラッド T   作:魔ギア

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第六話 月の下での語らい

 【オルクス大迷宮】

 トータスに存在する七大迷宮の一つ。数少ない文献によると、階層が深くなるにつれて強力な魔物が出現し、百階層まで続く大迷宮と言われている。

 冒険者のみならず、傭兵、新兵が自分の実力を測るために訓練としてよく利用されている、非常に人気がある場所だ。

 

(あいつがいた遺跡を思い出すな……)

 

『ちょこと遊ぶの〜〜!!』

 

 勇仁は赤い髪の少女のことを思い出していた。年が近いからか、ほぼ毎日、彼女の遊び相手(いけにえ)にされていた。

 勇仁たちは現在、メルド率いる騎士団員複数名と共に、冒険者達のための宿場町――ホルアドに足を踏み入れていた。オルクス大迷宮へ挑戦するために、彼らは新兵が訓練時によく利用される王国直営の宿屋に泊まり、明日に備えて身体を休ませていた。

 

「ハジメ。明日の迷宮だが、問題ないか?」

「うん。メルド団長も今回は行っても二十階層までって言っていたからね。それくらいなら、十分カバーできるって教えてくれたんだ」

「そうか。連携の方は?」

「大丈夫。ちゃんと覚えているし、いっぱい練習したからね」

「ならいい。忘れたなんて言ったら、徹夜するところだったぜ」

「そ、それは勘弁したいな……」

 

 ハジメは顔を引きずらせて、遠慮がちに断りを入れる。それに勇仁は軽く笑う。

 

「冗談だ。明日は早いし、戦闘に支障をきたしたら、それこそ問題だ。とっとと寝るぞ」

「そ、そうだね」

「心配するな。メルド団長が俺の提案を受け入れてくれたから、お前が一人で戦うことはないよ。そう緊張するな」

「うん、わかった。……勇仁君はすごいね」

「ん? どうしたんだよ、いきなり」

 

 急に褒められて勇仁は目を点にする。

 

「明日は命がけの戦いが始まるのに、いつも通りに落ち着いているからさ」

「あぁ、そういうこと」

 

 小さい頃に命がけの、それこそ世界の命運をかけた戦いに参加していた勇仁。十年ぶりとはいえ、それを経験した彼はハジメのように緊張で眠れないということはなかった。

 そんな時、扉をノックする音が部屋に響いた。

 

「南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 突然の訪問者に警戒する勇仁だったが、すぐに警戒を解いた。扉の向こうから聞こえる声と伝わってくる魔力。自分たちが知っている白崎香織だと知り、勇仁はハジメに向かって頷いた。

 

「で、でも、どうして、白崎さんが?」

 

 ハジメは彼女が訪れたことに戸惑うが、勇仁は何となくだが理由を察した。

 

(ま、そうとわかれば……)

 

 勇仁は部屋の隅にかけてあった黒のローブを身に付けて窓に足をかける。それを見たハジメは慌てて勇仁を止める。

 

「ちょ、ちょっと勇仁君?!」

「しばらく外にいる。馬に蹴られるようなことはしたくないからな」

 

 それを最後に勇仁は外へと出るのであった。

 着地した勇仁は上から聞こえる声を耳にしながら適当に時間を潰そうと、町へと繰り出そうとする。

 

「ちょっと、勇仁」

 

 その時、後ろから彼を止める声が届いた。その声に聞き覚えがあった彼は後ろを振り返った。

 

「雫か。どうしたんだ?」

 

 そこには香織と同室で泊まっていた雫が制服姿で手を腰に付けて立っていた。

 

「どうしたじゃないわよ。こんな遅い時間に外に出て、メルドさんたちに見つかったら説教ものよ?」

「大丈夫だ。バレないように窓から出てきたからな。それに今、部屋に戻るのはちょっとな……」

「どうしたのよ? そんな顔して」

「知らないのか? 白崎が俺たちの部屋に来たんだよ。理由は言わなくてもわかるだろう?」

 

 それを聞いた雫は頭に手を置いて顔を顰める。親友が勇仁たちの部屋を訪れた理由を察してしまったからだ。

 

「ちょっと出てくるって言ってたけど、まさか、南雲君のところに行くなんて。自分の格好を察しなさいっての」

「なんだよ、そんなにやばい格好で行ったのか?」

「ネグリジュとカーディガンだけよ」

「……おい、それって大丈夫なのか?」

 

 まさか、夜這い目的なのでは? 

 香織の性格をある程度、知っている勇仁は思わずそんな考えを過ってしまう。

 

「まぁ、あの二人ならば大丈夫だろう。……少し不安だが」

「えぇ、私も同感」

 

 俯いて深いため息を吐く両者。とりあえず二人の未来を神様に祈ることにした。

 

「それでお前はどうして外に来たんだよ」

「あなたが外にいるのを見かけたから、呼び止めに来たのよ」

「呼び止めて、自分の話を聞いてほしいのか?」

「…………わかっちゃう?」

「顔を見ればな。わざわざ制服を着たのはそれが理由だろう? 迷宮に行くことが決まってから顔が暗くなっている」

 

 勇仁は後ろに広がっている町並みに向かって指を指す。

 

「せっかく外に出たんだ。話すんだったら、明るいところがいいだろう?」

 

 まだ、町は明かりで照らされており、活気が溢れていた。元々、トータスの情報を集めるために出てきたのだが、暗い顔で沈んでいる雫のことを放っておくことはできなかった。

 

「え、そ、それって……」

 

 一方で、雫は勇仁からの誘いに頬をほんわかと赤くする。

 夜の町を二人きりで出歩く。それはまるで……

 

(ま、まるでデートじゃないっ!)

「どうした雫? やっぱり、見知らない町に出るのは怖いか?」

「えっ! ぜ、全っ然! こっちは問題ないわ!」

 

 熱くなる顔を何とか抑えて町の方へと向かう雫。

 

「お、おい、雫?」

「ほら、何してるの! 早く行くわよ!」

 

 そう言って、足音を立てて歩き出す雫。それに唖然としながらも、勇仁はしぶしぶ彼女の後を付いていくのであった。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 冒険者達のための町と言われるだけのことはあり、町は夜にもかかわらず、生き生きとしている様子だった。

 酒場を見ると仕事終わりなのか、冒険者と思われる集団が一つのテーブルで酒を飲みあっていた。歩いているとカップルと思われる男女とすれ違い、彼女が彼氏の腕を組みながら和やかに話していた。

 

「こうして見ると、本当に異世界に来たって実感させられるわね」

 

 先程までの男女を羨ましそうに眺めていた雫は、時々、勇仁の腕を見ながら、町中を見渡していた。

 

「まさに中世のヨーロッパのような雰囲気だからな。日本にいた俺たちには新鮮に感じても仕方がないだろう」

 

 勇仁は町の雰囲気に当てられ、向こうの世界でのことを思い出していた。理由は違うが、この活気はいつしかの闘技場のことを思い出させる。

 

「……勇仁」

「あぁ、そうだったな。そうだなぁ……」

 

 雫の話を聞こうと、落ち着ける場所を探す勇仁。そんな彼の目に入ったのは小さな噴水広場。

 

「あそこに行くぞ」

「わ、わかったわ」

 

 少し緊張じみた顔で勇仁の後ろを付いていく雫。噴水広場を囲うようにベンチがいくつも用意されており、休憩スペースとして利用されているようだ。

 

「さて、話を聞こうか」

「え、えぇ。そうね」

 

 一つのベンチに揃って座る二人。雫は身体を少しもじもじとしていたが、真剣な眼差しで見つめる勇仁を見て、気分が落ち着かせる。

 

「……明日の訓練なんだけど」

「怖いのか?」

「うん」

 

 しおらしく頷く雫に何も言わない勇仁。雫はその後も話を続ける。

 

「剣を握った以上、いつか戦う日が来るっていうのはわかっていた。でも、いざその日が訪れると、怖くて眠れないの。メルドさんたちは大丈夫だっていうけど、それでも……」

「もしかしたら、"そのようなこと"が起きてしまうかもしれない。そう思っちまったんだな」

 

 刺激しないように、あえてぼかした言い回しをする勇仁だったが、察しがいい雫は頷いて俯いてしまった。

 それからも雫の独白に耳を傾けて相槌を打つ勇仁。特に意見を述べるわけでもなく、ただ黙って彼女の話を最後まで聞き続ける。それに安心感を覚えたのか、雫は今まで抱えてきた不安をすべて彼にぶちまけた。

 

「……こんなところかな」

「そうか」

 

 そして、話が終わると同時にスッキリしたのか、雫は身体を上に伸ばした。

 

「ごめんなさいね。最後まで付き合ってもらって」

「気にするな。最後まで聞くって決めたのは俺だ。謝ることじゃない」

「そうね。……こうして悩みをあなたに打ち解けるのはいつぶりかしら」

「少なくとも中学の時はなかったな。……たぶん、小学校のあの時だろう」

「あぁ。あの時か……」

 

 懐かしむように笑みを浮かべて星空を眺める雫。勇仁も彼女に倣って、満天に浮かぶ星空を見上げる。

 

 勇仁と雫は同じ小学校に通っていた。

 二人が初めて会ったのは学校校舎の裏側。当時、雫は剣道一筋の少女であり、髪も今のようなポニーテールではなく短髪に切っていた。

 同時に同門であり、幼馴染である光輝と一緒にいることが多く、それを妬んだ同学年の女子生徒からいじめを受けていたのだ。

 それに偶然、鉢合わせをした勇仁が女子生徒たちを追っ払い、雫を助けたのが始まりだった。

 向こうの世界から戻ってきた勇仁は傷ついている雫を放っておくことができず、親と先生に報告するべきだと促すが、当の本人はそれを拒否した。

 もしも誰かにこのことを報告すれば、彼女たちからもっとひどいことをされるかもしれない。実際、幼馴染の光輝に相談したが、事態は解決せずに逆に悪化してしまった。そのことがあり、雫は彼女たちの報復を恐れて相談することができず、我慢する道を選んだのだ。

 

『本当にそれでいいのか?』

 

 だが、勇仁は雫がとった選択に反論した。

 

『そうやって自分だけ傷ついて、ただ黙って蹲るだけでいいのか?』

『で、でも……』

『変えたいのなら、自分から動かなきゃいけない。じっと我慢したところで何も変えられないぞ』

『じゃ、じゃあ、あなたが助けてよ』

『甘えるな。自分の問題くらい自分で解決しろ』

 

 勇仁は積極的に助けようとはせずに、雫自身で解決するように促すのだった。

 

『本気で何かを成し遂げる時、人はいつだって一人だ。一人じゃないとダメなんだ。自分の人生を他人にまかせるんじゃなく、自分でするものなんだ。……だけど、一人でいてもそれは孤独じゃない。やるのは一人だが、それを応援する人はいる』

『……』

『我慢ばかりする必要はない。気に入らないなら戦えばいい。お前に足りないのは怖がらずに前に踏み出すことだ。……そんな、お前に贈る言葉はこれだけだな』

 

 

「『勇気ある行動は人の心を開く』。あの言葉は今でも忘れないわ」

「あの時言ったことは全部、受け売りだけどな。そして、お前はそれを実行した」

「あなたもすかさずフォローしてくれた。そして、皆が応えてくれた」

 

 あの後、雫は次の日に朝礼前の教室で先生にいじめを受けていると告白した。

 気のせいではないかと、疑う先生だったが、そこに勇仁がいじめを見たと彼女をフォローした。それにいじめをしていた女子生徒や光輝が反論するが、勇仁の告発をきっかけにクラスメイトが一人、また一人といじめを見たと主張しだす。

 雫の勇気ある行動と勇仁の手助けをきっかけに、見て見ぬふりをしていたクラスメイトたちが声を上げたのだ。

 

「そうだな。っていうか、俺はどっちかって言うと、お前の実家が忍者一家だってことに驚いたな」

「うっ……、それは言わないでよ」

 

 あの後、先生は保身のためか、雫たちの主張をもみ消そうとしたが、そうは問屋がおろさなかった。

 いつから忍び込んでいたかわからないが、掃除ロッカーから雫の父が。教卓の下から雫の母が。そして、隠れ身の術で黒板と同化していた雫の祖父が出てきたのだ。彼ら曰く、家を出る雫の様子が変で、心配になったとのこと。

 その後、雫の父が先生を抑えて、雫の祖父はそのまま校長室へと向かった。雫の母は知り合いの教育委員会に報告して、いじめは大々的に広まってしまった。

 結果、いじめをしていた女子生徒は全員、別の地方へと引っ越すことになり、担当教師は退職。雫のいじめはなくなった。

 

「ま、その結果、俺はお前の道場に通うことになり、あいつが俺によく絡んでくるようになったな」

「……それに関しては申し訳ございません」

「いや、お前が謝ることじゃないだろう」

 

 勇仁の言う"あいつ"とは無論、光輝のことだ。いじめがなくなった後、雫は光輝ではなく、勇仁と一緒にいることが多くなった。それが気に入らないのか、光輝はよくわからないセリフをぶつけては勇仁に絡んできた。

 

「やれ『雫に近づくな』だとか、『お前が雫に何か吹き込んで、いじめをでっち上げたんじゃないのか』とか。まずは雫の意見を聞けっての」

「道場にいた時もそうだったわね」

「『俺が勝ったら、雫にはもう関わるな』って言って毎回、試合を申し込まれたな。……全部、返り討ちにしたけど」

 

 光輝の幼稚さにうんざりしていた勇仁は学校では雫に関わらないようにして、彼がいない時に彼女と会うようにしていた。

 

「高校になってから、お前は学校でも関わってくるようになったから、また、あいつがいろいろと文句を言ってくるようになったがな」

「えっと、それは……」

 

 中学の時までは勇仁の意思を汲み取って、学校で勇仁と関わらないようにしていたが、高校に入ると雫は学校でも勇仁と関わるようになった。

 

(恵理に負けるわけにはいかないからね!)

 

 その理由は簡単だった。自分と同じく、彼に好意を持つ少女が現れたからだ。学校で積極的に関わる恵理の姿を見て、雫は焦りを感じていたのだ。

 

「雫」

「え、な、何?」

 

 考え込む雫に勇仁が声をかける。

 

「お前の不安は間違っていない。戦いは自分の思い通りにならないのが普通だ。想定外のイレギュラーが起きたって何もおかしくない。むしろ、お前みたいに不安がるような奴がいて、こっちとしては安心だ」

「え?」

「不安だから慎重に行動しなきゃいけないと考える。そういうふうに冷静な判断ができる人がいるだけで、こっちの生存率は一気に上がる。何も考えずに無謀に突っ込んで、皆をピンチに陥れるようなヘマもしないからな」

 

 勇仁は雫の前に拳を突き出して、ニヤッと口角を上げる。

 

「だから、頼りにさせてもらうぜ」

「っ……、え、えぇ、任せなさい」

 

 頬を赤らめる雫。だが、すぐに持ち直して、自身の拳を勇仁の拳に合わせる。

 

「青春してるな~~」

 

 その時、隣のベンチから声が聞こえた。二人は顔を向けると、そこには一人の男がベンチに座っていた。

 

「こんな夜遅くにデートとはな。最近の若者は早い」

「デ、デートって……」

「誰だ、あんた?」

 

 雫は顔を赤くするのをよそに勇仁は訝しげに男を見る。

 短く切った金髪と深く被った青のシルクハット。青いコートを身に纏った青年だった。

 

「俺か? この世界を変えようとしている革命家ってところか?」

「か、革命家?」

 

 予想外の返答に戸惑う雫。対して、勇仁は革命家を名乗る男に問いかける。

 

「で? その自称革命家さんはこんなところで何やってんだ? 活動はしないのか?」

「いや、今、騎士団が来てるだろう? しかも、団長のメルド・ロギンスもいるみたいだからよ。下手に騒ぐと捕まっちまうからな。動きたくても動けないんだよ」

 

 男の発言に勇仁たちは口を噤む。

 自分たちはまさにそのメルド・ロギンスと一緒にここに来たのだから。

 

「なぁ、お前さんらはこの世界のことをどう思ってんだ?」

「え?」

「何、ただの世間話だよ。で、どう思ってんだ?」

「えっと、綺麗な所だと思いますよ。私たちがいた所よりも活気があって、皆に生き生きしていますし」

「そうか。お前さんは?」

 

 男は雫から、今度は勇仁の方を見る。勇仁はしばらく考えると、ゆっくりと口を開く。

 

「……(いびつ)、と感じた」

「……へぇ、どうして、そう思ったんだ?」

 

 シルクハットを少し上げて、火傷の痕がある片目を勇仁に向ける。

 

「この世界は神エヒトを信仰している。それに文句を言うつもりはないが、あまりに一辺倒すぎる」

「一辺倒?」

「エヒトを信仰する宗派が何千年も経っているっていうのに分派していないのが少し違和感がある」

 

 勇仁の世界にも千年を超えている宗派は当然ある。そして、長く存在しているため分派がいくつも存在している。

 だが、トータスにはそれがなく、全員がエヒト一筋に信仰しているのだ。

 

「まるで、誰かがそういうふうに誘導……操っているみたいだ」

「そうか……」

 

 男は再びシルクハットを深く被り、ベンチから立ち上がる。

 

「いい話が聞けた。俺はこれで失礼するぜ」

「一方的に聞いて立ち去るのか? 参考にあんたはどう思ってるんだ?」

 

 勇仁の言葉を聞き、男は夜空を見上げる。

 

「そうだな。強いて言うなら、鳥かごだな」

「鳥かごだと?」

「だいたいはお前さんと同じだ。この世界は大きな力によって支配されている。都合の悪いものを摘まみ取って、面白いっていう理由だけでかき乱す。中にいる奴の意思や想いなんて関係ねぇ。ただ、鳥かごの主は己の娯楽のために中にいる者たちを飼い殺す」

「……あんたはいったい、何を知ってるんだ?」

 

 意味深な物言いに勇仁は雫を庇いながら男を睨みつける。それに男はただ笑みを浮かべるのだった。

 

「その感覚を研ぎ澄ませておけよ。そうすれば、この世界の真実にたどり着けるだろうさ」

 

 じゃあな、と男は手を振ってその場を立ち去る。遠ざかる男の後ろ姿を勇仁たちはただじっと見つめるだけだった。

 

「何だったのかしら、あれ?」

「……さぁな。ただ自分に酔っているだけの妄想野郎かもしれないな。そんなことよりも帰るぞ。そろそろ戻らないといろいろと言われそうだからな」 

「そ、そうね。香織たちも、もう話し終えていると思うし」

 

 二人はベンチから立ち上がって宿へと戻る。ふと顔を上げた雫は目を丸くして、勇仁を呼び止める。

 

「勇仁、上!」

「上?」

 

 怪訝そうな顔で空を見上げると、ポカンと口を開ける。

 

 空を見上げて映る景色は満点の夜空。その夜空を横切る流星群が力強く光っていた。

 

「綺麗……」

「日本じゃ、なかなか見られないものだな」

 

 流れ星に魅了される雫と、感心する勇仁。二人は流れ星をしばらく眺め続けた後、宿へと戻っていった。

 

 この時、二人は気づかなかった。降り注いだ流れ星は消えておらず、そのうちの二つがホルアドに近づいていたことを。そして、その流れ星が明日、二人が訪れるオルクス大迷宮の中に入っていったのを。

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