アーク・ザ・ラッド T   作:魔ギア

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 始まる前に言わせてください。

 安心してください。穿()いてますよ。


第七話 オルクス大迷宮

 翌朝、まだ日が昇って間もない頃、勇仁たちはオルクス大迷宮の正面入り口がある広間に集まっていた。

 誰もが少しばかりの緊張と未知への好奇心を表情に浮かべる中、勇仁だけはその時をただじっと待っていた。

 

(十年ぶりの実戦か……)

 

 元の世界に帰ってから、経験することがなくなった命がけの戦い。久方ぶりに感じ取った戦いの気配に、勇仁の手がかすかに震えていた。

 

「勇仁君、大丈夫?」

「……あぁ、問題ない」

「本当? 手が震えてるよ?」

「ただの武者震いだ。そういう恵理の方はどうなんだ。怖くないのか?」

「もちろん、怖いけど、勇仁君がいるから大丈夫だよ」

「そうか。……恵理、何度も言うが……」

「『やばいと思ったら、必ず逃げろ』でしょ?」

「そうだ。戦いは何が起きるのかわからない。やばいと思ったら、周りの奴に助けを求めたり、逃げるなりして、生き残ることを考えろ」

「わかってる。もしも、ピンチになったら勇仁に助けてもらうから♪」

 

 勇仁に身体を預けて、擦り寄ってくる恵理。これから戦いに出向くというのに変わらない態度で接してくる彼女の姿に震えていた勇仁の手はいつの間にか止まっていた。

 

「ちょっと、何イチャついてるのよ、あなたたち」

 

 恵理を勇仁から引き剥がして、眉間にしわを寄せた雫が彼女を睨みつける。

 

「恵理、あなた……」

「どうしたのかな、雫ちゃん? 僕は勇仁君を癒そうとしていただけなんだけど?」

「わざわざ、密着する必要があったのかしら?」

「わかってないな~。男っていうのはこういうことに喜ぶもんだよ。ね、南雲君?」

「えっ?!」

 

 勇仁の隣にいたハジメが突然、話を振られて戸惑う。すると、

 

「『あぁ、そうだぞ。俺たち男は本能に抗えないサルだからな。そんなふうに擦り寄ってきたら、つい襲ってしまうよ』」

「……南雲君?」

「い、今のは僕が言ったんじゃない!」

 

 雫の冷えた視線にハジメは思いっきり首を横に振って全力で否定する。その様子を見ていた勇仁はハジメの後ろに隠れている銀髪のシスターを見る。

 

「シスター・カレン。あまり、ハジメをいじめないでくれないか」

「おや、気づかれましたか」

 

 カレンは、すました顔でハジメの後ろから出てきた。彼女の服装はいつものシスターの修道服ではなかった。上は修道服に似たデザインの黒服で、首周りには赤い布のようなものが巻かれていた。

 そこは特に問題はないのだが、問題なのは下だ。

 細い足を黒のストッキングで身を隠し、太ももを大胆に見せた短いスカートを履いていた。

 一見見れば、動きやすい服装をしているが、少しでも動いてしまえばスカートの中が見えてしまいそうなほどの丈の短さだ。

 現にクラスメイトの男たちは彼女を何度もチラ見したり、逆にガン見する者もいた。そして、それを見た女子たちは冷たい視線を向けていた。

 

「カ、カレンさん……」

「ごめんなさい。お二人のやり取りがあまりにも面白かったもので」

「お、面白いって……」

「どうぞ、私のことは気にせずに続けてください。男に媚びる発情猫の姿は、いつ見ても愉快なものですからね」

 

 カレンが見せるサディスティックな笑みにハジメは尋常ではない寒気に襲われる。

 一方で発情猫と言われた雫と恵理は、顔を赤らめて下に俯くのだった。

 

「シスター・カレン。訓練の際は……」

「承知しております。私も命が惜しいので、先程の発言は控えますよ」

「できれば、言わないって言ってほしかったんだが……」

「それはあなたたち次第ですかね」

 

 変わらずに笑みを浮かべるカレン。その姿に戦いとは別の意味で不安を抱かずにはいられない勇仁だった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 訓練場として選ばれたオルクス大迷宮は外の喧騒とは裏腹にとても静かなものだった。縦横5メートルの通路が続いており、壁には緑光石という特殊な鉱石が埋め込まれており、淡く光を放って、中を照らしていた。

 通路の中を進む勇仁たちはメルドが率いる騎士団の人たちに囲まれながら、各々で決めたパーティーで固まりながら奥へと進んでいった。

 大迷宮に入ってから数分。勇仁たちは迷宮内の大広間に辿り着いた。天井まで7,8メートルはあるドーム状の広い部屋に入る勇仁たちに反応したのか、壁の隙間から灰色の毛玉のような魔物が湧き出てきた。壁から飛び出した魔物は二足歩行となって立ち上がり、入ってきた勇仁たちを威嚇し始めた。

 

「ラットマン」

「早速、出てきたか」

 

 図書館の魔物図鑑で得た知識から、魔物の名前を引っ張り出したハジメ。

 アスリート顔負けの八つに分かれた腹筋を見せびらかす人間サイズのネズミ。魔物は赤黒い目を不気味に光らせて、声を張り上げる。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、大した敵じゃない。冷静に行け!」

 

 メルドの指示で一番前にいた光輝が率いる4()()パーティーが前に出た。

 

「行くぞ、龍太郎!」

「おう! 任せろ!」

 

 光輝が前に出ると一緒に龍太郎も飛び出す。光輝はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つである聖剣を振るい、ラットマンを一撃で斬り裂く。

 一方で龍太郎は衝撃波を放つアーティファクトである籠手と脛当を駆使してラットマンを粉砕する。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ、“螺炎”」」

 

 二人が前線で戦っている隙に後ろで魔法の詠唱をしていた香織と、恵理の親友である谷口鈴が螺旋状に渦巻く炎をラットマンに放つ。牢獄のように閉じ込められたラットマンたちは小さな断末魔を上げて灰燼へと化した。

 

「ああ〜、うん、よくやったぞ! 次はお前らにもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。だが、初めての迷宮の魔物討伐に興奮が収まらない生徒たちに、しょうがないと肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルドの言葉に香織と鈴は、やりすぎてしまったのを自覚したのか思わず頬を赤らめてしまう。

 

「メルド団長のことも一理あるが、他にも理由がある」

「それって?」

「無駄に魔力を使っていること。魔力も無限じゃないんだ。敵の数がわからない状態で無計画に放てば、最後はガス欠になって魔物の群れに押しつぶされる」

 

 最後尾で光輝たちの戦いを見ていた勇仁は苦い顔をしながらハジメたちに説明していた。

 脳裏に過るのはミルマーナの列車砲『グラウノルン』の攻略戦。潜入班が中に忍び込むまでの時間稼ぎのために、勇仁はアークと共に防衛に当たっていたミルマーナ軍のモンスターたちの相手をしていた。敵の数がわからない中、魔法を使って仲間の援護していた勇仁は魔力の枯渇で倒れてしまったことを思い出す。

 

「それとこんな洞窟やら施設のような場所で高火力なものを放てば、崩れて下敷きになるリスクもある。だから、恵理。魔法を使うときは気を付けろよ?」

「うん。了解」

 

 その後、他のパーティーたちも順調に魔物を倒していき、ついに勇仁たちのパーティーが前線に立った。

 

「作戦通りに行く。準備はいいな」

「うん」

「問題ないよ」

「いつでもいいわ」

 

 勇仁たちの正面に魔物が現れた。その数は十体。今まで戦ってきた中で最大の数だった。

 

「雫! 恵理! 二人とも下がれ! その数に南雲と光月じゃあ太刀打ちできない!」

 

 光輝は勇仁たちの前に出て、剣を構える。

 元々、光輝は雫たち二人が勇仁のパーティーに入るのは反対だった。それどころか自分たちのパーティーに入るべきだと主張していたのだ。

 しかし、勇仁がチームのバランスとメンバー同士の仲の良さを考慮して組むべきだと、事前にメルドに進言していた。その案を了承したメルドは光輝の意見をすぐに却下。

 後衛職の勇仁と非戦闘職のハジメ。そこに前衛職の雫と攻撃型の魔法も使える恵理をねじこむ形で勇仁たちのパーティーが完成した。

 

「邪魔だ」

「なっ!」

 

 前に立った光輝に勇仁が魔法を放つ。黄色の三つの輪に締め付けられた光輝は芋虫のように地面に寝転がった。

 

「何のつもりだ、光月!」

「こっちのセリフだ。今は俺たちの番だ。邪魔になるからすっこんでいろ」

「何を言っている! お前と南雲じゃ、雫たちを守れるわけがないだろう! いいから、とっととこの拘束を……」

「ハジメ、雫、恵理」

 

 光輝を無視して前に進む勇仁。予想以上の数にハジメたちは驚いていたが、勇仁は冷静だった。

 

「雫。無理に倒さなくていい。お前は陽動して、敵の隙を作れ。囲まれないように周りに注意するんだ」

「わかったわ」

「ハジメは奴らの足を狙え。どれだけ速くても、足をやられれば関係ない。落ち着いて行け」

「う、うん!」

「恵理。お前は雫とハジメのカバー。隙を作った魔物を打ち抜け。一気にやらなくていい。一体ずつ確実に倒せ」

「了解」

「俺は状況を見て立ち回る。危なくなったらフォローに回るから、好きに立ち回ってくれ」

 

 ハジメたちに指示を送った勇仁は杖を回して、強く地面に突き立てる。

 

「トライアングルフォース!」

 

 詠唱なしで発動した魔法は、勇仁たち四人を包みこんだ。

 “魔導士”の天職を持つ勇仁は「全魔法」の技能を持っており、攻撃、回復、補助といった全ての魔法を使いこなすことができる。

 そして、勇仁が最も得意とするのは、強化、属性などを付加する補助魔法。

 向こうの世界では、後方で戦いを観察しながら、状況に応じて仲間たちを援護していた。

 勇仁が先程、使った魔法「トライアングルフォース」は、旅の中で編み出した勇仁オリジナルの魔法。

 攻撃力、魔力、俊敏力を同時に底上げする強化魔法だ。

 

「ハァッ!」

 

 一足で魔物の一体に近づいた雫は刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放った。両断された魔物は消滅し、それに気づいた魔物たちは一斉に雫へと迫る。だが、強化された雫のスピードを捉えることができず、魔物の攻撃は全て空振りする。

 

「がら空きだ」

 

 その隙に勇仁は"火球"を放って、後ろから魔物の一体を燃やす。

 

「そこ!」

 

 動き回っていた魔物一体が勇仁の背後へと迫る。しかし、魔物が突然、地面に倒れて、勇仁の前へと転がった。よく見ると、魔物の足元には一本の矢が深く突き刺されていた。

 

「あ、当たった」

 

 矢を撃ったのはハジメだった。彼の手には錬成によって作られたボウガンが収まっていた。

 本来、宝物庫にあるアーティファクトを提供するはずだったが、非戦闘職であるハジメには適した武器が存在しなかった。そこで勇仁は彼の天職である”錬成師“に着目して、その力で自身の武器を作ることを提案した。

 ハジメが最初に思い浮かんだのは、自分たちの世界の武器である銃だった。だが、銃を作るのに適した素材が見つからなかったということで銃の製作を断念。代わりに銃よりも威力は劣るが、素材次第でハジメのような非戦闘職でも魔物を倒せるボウガンを錬成したのだ。

 

「中村さん!」

「ここに焼撃を望む、“火球”!」

 

 倒れる魔物に向かって恵理が炎を放つ。炎に飲み込まれた魔物は一瞬で燃え尽きた。

 前線で動き回る雫が魔物たちを引き付けて、それを勇仁がカバー。ハジメがボウガンと錬成を駆使して足を止めて、恵理が魔法で止めを刺す。

 それをローテーションに繰り返して魔物を一体ずつ確実に減らしていき、気づけば魔物たちは全滅していた。

 

「やるじゃないか、お前たち! 文句なしの満点だ!」

 

 勇仁たちの戦いに大絶賛するメルド。光輝たちのような派手さはない。だが、自分たちの安全を第一にする堅実な戦いにメルドは深く感心していた。他の者たちも勇仁たちの隙のない連携に言葉を失っていた。特に非戦闘職であるハジメが持つボウガンと、錬成で地面を変形させるといった予想外の戦法に驚きを隠せずにいた。

 

「お疲れ様です、皆さん。お怪我はありませんか?」

 

 戦いを終えた勇仁たちに歩み寄るカレン。

 彼女は戦う力は持ち合わせていないが、回復系の魔法に関して言えば、クラス一の香織以上の才能を持っていた。

 カレンは勇仁たち一人ずつ触診して立ち回り、問題ないとわかった彼女は小さくため息を吐いていた。

 

「残念です。痛みでもがき苦しむ姿を見たかったのですが……」

「あの、一応、聞くけど、シスターなのよね? あなた」

「もちろん。私はどこからどう見ても、清廉潔白のシスターですよ」

 

 両手を前に組んで祈りの構えを取るカレンに疑いの目を強くする雫。勇仁はそれに大きくため息を吐いた後、皆を連れて後ろへと下がった。

 

「おっと、忘れてた」

 

 勇仁は杖を光輝に指して、彼を拘束していた魔法を解く。拘束から解かれた光輝は信じられないと勇仁を見つめて、呆然としていた。

 

「あいにくと俺たちもそこまで弱くないんだ。自惚れるなよ、勇者様」

「くっ……!」

 

 悔しそうに睨みつける光輝だったが、勇仁は気にもせずに後ろへと戻る。

 その後、一行は迫りくる魔物たちを順調に倒していき、ついに目的地点である二十階層へと到着した。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合を入れろ!」

 

 それを聞いた一行の反応はそれぞれだ。今まで上手くいっていたことに有頂天になっている者。次の強敵に高揚感に浸る者。そして、緊張感に身体を震わせる者。

 

「四人とも、集まってくれ」

 

 勇仁はハジメたちを集める。二十階層に出てくる魔物の情報や連携の再確認などを共有し合う五人の姿をメルドは見逃さなかった。

 

(慢心もせず、油断もせず、常に自分たちの状態を確認して、次に当たる。この中で満点を付けるとするなら、間違いなくあいつらだ。特にリーダーである勇仁。あれはとても素人の動きじゃない。本当の戦いを知っている動きだ)

 

 だが、同時にメルドは疑問を浮かべる。勇仁たちの話では彼らの故郷は何十年も戦争をしておらず、彼らは戦うような機会は一度もなかったと。ならば、勇仁はどこで経験を積んでいたのか。

 気になるメルドだったが、訓練中であることを思い出して、すぐに探索へと戻った。

 歩き続けて数分。二十一階層へと続く階段を探していたメルドたちだったが、急に立ち止まった。

 

「魔物が擬態して潜んでいるぞ!よーく注意しておけ!」

 

 メルドが注意を呼び掛ける。直後、壁が急に動き出し、光輝たちの前へと降り立った。壁と同じ色をしていたそれは褐色へと色を変えて姿を現す。強靭な腕を胸に何度も叩きつけてドラミングを始める魔物。カメレオンの擬態のような能力を持ったゴリラの魔獣が三体、出てきた。

 

「ロックマウントだ!二本の剛腕に注意しろ!」

 

 メルドの注意が飛ぶ中、光輝と龍太郎が飛び出す。

 二体の魔物を二人が相手している中、香織と鈴が詠唱を始める。すると、残った一匹が後ろに下がり、大きく息を吸い込む。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 胸を大きく膨らませた魔物は光輝たちに向かって口を開けて、階層全体を響き渡るような大声を解き放った。

 

「ぐ!?」

「うわ!?」

 

 ロックマウントの固有魔法"威圧の咆哮"を喰らった光輝と龍太郎は思わぬ衝撃に硬直してしまう。その隙に魔物の一体はサイドステップして壁に近づき、そこにあった岩を持ち上げて、香織たちに目掛けて放り投げた。

 咆哮を受けなかった香織たちはすぐに魔法を撃とうと杖を向けるが、次の瞬間、目の前の光景に硬直してしまう。

 なんと投げられた岩は四体目のロックマウントだった。某怪盗の如く、空中で見事な一回転を決めると、両腕をいっぱいに広げて香織たちに迫る。血走った目と荒くした鼻息に香織と鈴は思わず、悲鳴を上げて、魔法を中断してしまう。

 

「”火球”」

 

 香織たちの後ろから放たれた炎が魔物の顔面に直撃する。炎と接吻をしてしまった魔物はそのまま炎に包まれて、悲鳴も上げずに消滅した。

 

「気持ち悪いのは認めるが、戦闘中は我慢しろ」

 

 勇仁が香織たちの前に立って注意する。助けてくれた彼にお礼を言う香織たちだったが、相当気持ち悪かったのか、顔がまだ青い。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 そんな彼女の姿に怒りをあらわにする光輝。聖剣を上に持ち上げて、純白の魔力を放出する。

 

「万象羽ばたき、天へと至れ、“天翔閃”!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 次の瞬間、詠唱により強烈な光を纏った聖剣から光の斬撃が放たれた。斬撃は魔物を斬り裂き、そのまま壁に直撃して爆発を起こした。

 

「みんな、もう大丈へぶぅ⁉︎」

 

 一仕事したと光輝は香織たちに振り返るが、声をかけようとしたその時、彼の頭上に拳骨が落ちる。

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうするんだ!」

 

 メルドに言われて気づいた光輝は罰悪そうに顔を背ける。それを香織たちは苦笑いして慰めるが、破壊された壁の方を見て、声を上げる。

 

「あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

 香織が指差す方向に全員が視線を向ける。そこには青白く光る鉱物が花のように壁から生えていた。そのあまりの美しさに女子たちは夢見るように、うっとりとした表情を浮かべていた。

 

「ほぉ〜、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 メルドも感嘆の声を上げる。

 特に効能があるわけでもないが、宝石の原石とも言われているグランツ鉱石は、貴族のご婦人に大変人気らしく、求婚の際に選ばれる宝石としても有名なものだった。

 

「素敵……」

 

 メルドの説明を聞いた香織はさらにうっとりとした表情を浮かべて、誰にも気づかれないよう程度にハジメへと視線を向ける。

 それに気づく勇仁だったが、雫と恵理が香織と同様に期待した眼差しを向けられていることに気づかなかった。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。崩れた壁を登っていき、グランツ鉱石へと向かう。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 メルドはそれに慌てて止めようと声を張り上げるが、檜山はそれを無視して鉱石に手を伸ばす。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

 騎士団員の一人の警告に顔を青ざめるメルド。だが、すでに遅かった。

 檜山が鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり、瞬く間に部屋全体へと輝きを増した。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルドが全員に叫ぶが、光は全員を飲み込んでしまった。一瞬の浮遊感に襲われる一同だったが、すぐに床に叩きつけられた。

 転移したのは彼らが最初に見たのは巨大な石造りの橋の中間地点。橋の下を覗くと、そこには川はなく、ただ底が見えない奈落が大きく広がっていた。

 

「お前たち、すぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け! 急げ!」

 

 メルドの号令に、慌てて動き出す生徒たち。すると、橋の両サイドから赤黒い魔力の奔流と共に魔法陣が現れた。

 メルドが指示した階段側の方から大量の魔物が魔方陣から現れた。そして、反対側の方からは一体の巨大な魔物が姿を現した。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 勇仁たちの姿を捉えた魔物は凄まじい咆哮を上げて、階層全体へと轟かせた。




 書き溜めていたストックがなくなってしまいました。
 これから、更新がもっと遅くなってしまいますが、頑張って書き上げてみせます。
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