ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:食卓の英雄
「ぐえっ」
高機動車から振り落とされた伊丹は咄嗟に受け身の姿勢を取ったが、流石に無事とはいかず、潰れたような音を漏らしながら落下する。
緑の大地に体を投げ出した伊丹は「倉田のやつめ、乱暴な運転をしやがる……」なんて心中で思いながらも、痛む体に鞭打って即座に立ち上がる。
伊丹とて直前の光景は覚えている。
アーストロンとウルトラマンの戦いに巻き込まれないように距離を開けようと炎龍の側を通った瞬間、目を覚ました炎龍によって襲われたのだ。
あれほど鮮烈な光景と、大怪獣と巨人の戦いに目を奪われていたが故に、左の翼と腕をもがれ、墜落したボロボロの炎龍が生きているとは思っていなかったのだ。
つまり、今の伊丹がいる場所は、炎龍の目の前ということになる。
炎龍はその体の大きさもさることながら、口から吐き出す火炎放射も強力だ。アーストロンにこそ通用しなかったが、生身で放り出された人間一人程度殺せないはずが無い。
伊丹が顔を上げると、奇襲に失敗し、血走った炎龍の双眸と目が合う。
肉食生物特有の口臭が届くほどの距離に鎮座する炎龍の頭は、それこそ町中で見かければ素晴らしいクオリティだと絶賛するほどのものだったが、残念ながらそれは動かぬ
あまりの近さに驚くが、あの噛みつきは最大限まで首を伸ばしたもので、それ以上伸びることはなかった。
伸び切っている今ならば、火炎放射も一時的に出来ない状態だろう。一度首を地に着け、伸ばしきった状態で大きく息を吐こうとしてみるといい。きっと苦しい筈だ。
まして死に体でただでさえ息の荒々しい炎龍がその状態でブレスなど放てば、自身の寿命を更に縮めることになる。故に、忌々しそうに伊丹を睨みつけながらも炎で焼き尽くすことはしなかった。
「伊丹隊長ーっ!!」
炎龍が立ち直る前に距離を取ろうと背後へ下がると、高機動車が回収しようと走らせる。が、それは悪手だろう。
確かに高機動車で伊丹を回収すれば、傷ついた炎龍から逃れるには早いだろうが、その後が続かない。炎龍が首を引き戻し、火炎放射を放ってしまえば全員巻き込まれてしまうからだ。
炎龍からしてみれば、今はとにかく栄養が取りたいはずなので、例え焼死体であっても構わずに食らい尽くすだろう。いや、散々抵抗され、捕食を邪魔してきた存在だ。味は二の次にしてまず殺すことを最優先に行動するはずだ。
「馬っっ鹿!逃げろ逃げろ!回収してたら纏めて死ぬぞ!!」
とにかく聞こえるように大声で叫んだつもりだったが、すぐ近くで激突するウルトラマンと怪獣の戦い。何より激しい音を立てて迫る高機動車の中には届かない。
それを理解した伊丹は、せめてこの状況を打開する策はないかと頭を捻る。
ちらりとウルトラマンを見ると、こちらの様子に気づいたのか駆け寄ろうとする姿勢を見せるが、その隙をつかれてアーストロンに押し倒され、のしかかられる。
(ウルトラマンに頼る?――怪獣相手に手一杯だ。――自分も向こうに走って急いで離脱――いや、こっちが最速で回収したとしても、炎龍の火炎放射の射程から離脱は出来ない。――さっきの黒ゴスロリに助けを求める――言葉が通じないし、向こうの考えがわからない。――なら、この場で炎龍を倒す?――手負いで傷もあるけど、それでも小銃でこれを倒し切るには時間が………いや、待てよ?)
思考を巡らせた伊丹が、咄嗟に周囲を見回して、お目当ての物を見つけると一目散に走り出した。
「勝元が落としたお陰……いや、落とさなきゃぁ普通に打開できてたな。うん」
それはアーストロンの出現時に構えていたパンツァーファウストⅢ。衝撃で取り落としてしまったそれの付近に炎龍は落ちていたらしい。
方向は車とは真反対。距離はさほど遠くはないが、炎龍が姿勢を戻してしまえば終わりだ。
いつになく、全力で疾駆する。膝がジンジンと痛むが、気にしている暇はない。
すると、背後からエンジンをけたたましく鳴らしながら、ズドドドと射撃音が繰り返される。どうやら伊丹の思惑を察したのか、合流よりも援護と気を引くことにしたようである。
姿こそ見えないが、その対応に「桑原曹長の指示だなこりゃあ」と確信し、どうにかパンツァーファウストまで辿りつく。
「いよっし!」
それを素早く手に取り、自身が巻き込まれないように正しく姿勢を構える。狙いをつけようとした瞬間に、炎龍が片腕で姿勢を正す。
その大きさに若干気圧されながら、「もう遅いぜこんちくしょう…!」と引鉄を引いた。
―――ガチリ。
しかしながら、空音を立てるそれは先端の弾薬を発射することはなかった。
「はい?」
期待を裏切る結果に間の抜けたような声を上げる。
パンツァーファウストⅢには後部グリップ内部に連動した撃鉄が2本あり、引き起こすことで2本の撃鉄が起き上がり発射態勢が最終的に整う。
結果撃鉄は2本同時に作動し、どちらかに不備があっても雷管を叩くことが出来る。……筈なのだが、どうやら先程勢いよく落としたことで、運悪く両方に不備が出来てしまったらしい。
射撃時に不発が起こった場合には、後部グリップをいったん折りたたんで引き起こし、再度撃発する必要がある。
それを思い起こしながら大慌てで折りたたみ始めるのだが、炎龍は目の前で止まっている得物を逃がしはしない。
その光景は第3偵察隊も目にしていた。辿り着いた時点ではよしっと声が上がっていたが、再度折りたたみ始めた瞬間を見て、全員が冷や汗をかく。
咄嗟に炎龍の気を引こうと50口径弾を顔周辺向けて放つが、これまでにバカスカと撃っていたことから、本格的な戦闘を想定していない第3偵察隊の弾薬には限りがあった。
炎龍の目や傷口に入ることなく、最後の弾幕は全て鱗に弾かれた。
伊丹も、普段の言動からは想定できない程に手早く再発射の準備を進めるが、ただ息を吐くだけの炎龍とは、圧倒的な予備動作時間が違った。
「伊丹隊長ぉぉっ!!!」
炎龍が、大きく息を吸い込み、取り入れた空気から勢いよく業火の吐息を吹きかけようとしたその瞬間、伊丹達の耳に聞き慣れない走行音が聞こえてくる。
直後、軽い炸裂音のようなものが数度続けて放たれると、炎龍が一瞬怯んだように顔を背ける。
そのことに疑問を覚えるも、すぐに立ち直った伊丹は再度準備の完了したパンツァーファウストⅢを構える。
「食らえっ!!!」
今度こそ正常に発射された弾頭は、寸分狂いなく炎龍の喉元へと吸い込まれ、強固な鱗をも穿ち抜く。
爆発。直前まで溜めていた火炎放射が穿たれた穴から漏れ出る。急激な圧力の変化により、爆発の威力を高めたそれは、本来の弾頭内部の火薬と合わさって炎龍の喉を内部から破壊した。
轟音、後に鈍い音がなる。
目の前を見れば、ぷすぷすと煙を立てる炎龍の体が力なく倒れ伏す。
今度こそ、死んだふりをしているとは思えなかった。
当たり前だ。何せ、炎龍の体にはあるべき頭部が存在せず、変わりにすぐ近くの野原に、恐ろしい形相の頭が転がっているのだから。
「ふぃー……。何とかなったぁ…」
極度の緊張に晒された伊丹はぺたりと座り込み、気づけば大量にかいていた汗を拭う。
同時に、第3偵察隊の高機動車も伊丹のもとにやってきており、その無事と脅威となる炎龍の排除に喜びの声を上げている。
伊丹は言葉を返しながら、接近してくる一台の車両へと目を向ける。
「隊長、あれは…」
「ブッシュマスター防護機動車…、
見慣れない車両の接近。顔を出している人物の装備は明らかに自衛隊で正式採用されているものではなく、どうするべきかと戸惑っていると、富田二等陸曹の言葉に警戒態勢を取る。
特に、この特地という場所に手を出さないという話は知っているが、一部が掟破りをしたり、或いはその協定に関わっていない国が忍ばせた可能性もある。
流石に車両一台丸々を素通りさせることなど不可能だとは思うのだが、最悪の想定だった場合に備えるのが自衛隊だ。
皆が自然と小銃に手を伸ばす中、伊丹はそれを制止して呼びかけた。
「おーい!さっきはありがとね。アンタら、特災課の人達でしょ?」
伊丹の言葉に、少し驚いたような顔をして、接近してくる車体の横にマークがあることに気がつくと、警戒態勢を緩めた。
目の前でブッシュマスターが停車し、降りてきたのは数名の隊員。確かに服装は黒く、見慣れない装備こそつけているものの、着けている記章も特災課のもの。
特地に来ていたのかと誰かが呟いた。伊丹は知らされていたが、色々とタイミングが悪く忘れてしまっていたのだ。
すると、そのうちの一人が敬礼をするので、皆が敬礼で返す。
「特別指定災害級生物対策課、特地分遣隊の副隊長をしている。新星 渡だ。よろしく頼む。巨大生物の出現の予兆を感知し、急行してきた」
「これはどうも。第3偵察隊隊長の伊丹耀司2等陸尉です。要件は、アレだよねぇ…」
会話の流れから、自然と推測されるそれへと目を向ける。
炎龍の死体が遮蔽物となってあちらからは見えていないだろうが、押し倒されたウルトラマンが抵抗しながらアーストロンの攻撃をどうにか避けていく。
「…結構ピンチじゃないですか?」
「ええ、こちらで何かできないのでしょうか」
栗林と黒川、2名のWACが劣勢のウルトラマンへ心配するような声を上げる。
「…あのウルトラマンや怪獣について何か分かったことは?」
「はっ、あのウルトラマンの方は不明。先日集落を襲っていた同怪獣と交戦し、一度撤退に追い込み、再び姿を現しました」
「怪獣の方は、既に作品内に登場しているアーストロンに酷似しています」
富田、桑原がそう告げると、特災課は「やはりか…」という顔をして内部の機械をいじり始める。
「…これって、ブッシュマスター装甲車ですよね。どうして持ってるんですか?」
その一言に、機器の調整をしていた村崎が答える。
「あのロボット怪獣解析のチームメンバーに入るために、こっちに色々と寄越してるんですよ。特に、特地で必要な弾薬や燃料の類は各国から格安で買い取れる契約があるからですね。まあ、怪獣に通用せんので在庫処分的な側面もありそうですけどね」
その言葉に成程と納得しながら、怪獣へ向けて何か機器を向けている。
特災課の目的は調査とデータの収集だ。故に、未だ追いついていない火力支援よりも、怪獣のパターンや反応などを調べて、今後の怪獣災害への早期対処へと充てるのだ。
「…私たちはあの怪獣、アーストロンの痕跡と情報収集、及びウルトラマンの援護をする。第3偵察隊は、元の任務へと戻ってほしい」
「分かりました」
その言葉に、最早弾薬も尽きかけていた伊丹達はこれ幸いと乗っかり、しかしながらせめて自分たちが誘導していた避難民たちを纏めようと距離を引き離す。
残された特災課は車両からセンサーや測定機などを取り出すと、次々と配置を変えながらその状況を記録していく。
解析と身体構造の把握を進めながらも、真樹と高瀬がウルトラマンを抑えているアーストロンの顔へとソニッターを向ける。
軽い破裂音が響き、閃光と超音波で威嚇をするが、興奮しているのかアーストロンは少しも反応せず、気を逸らすことすら出来ない。
「おいおい、全然効果がないぞ?」
「さっきのドラゴンには通用してたのに…」
「あれは傷ついてたとは言えLAMで貫通できましたからねぇ…」
当初の設計思想通りに、火力以外での支援を目的として放つも、その圧倒的なスペックには通用しないのかと落胆の声が上がる。
折角の新兵器なのに、それが意味を成していない。無論、銃弾を発射せず、対象を無力化出来ることと、少ないスペースで充電出来るという利点があることから無意味ではないのだろうが、一番対応したい巨大怪獣では分が悪かった。
ならばと真樹は声を張り上げて叫ぶ。
「おーい!聞こえてるかぁっ!!そいつの弱点は角だ!角をへし折れば弱くなるぞ!!」
特災課はその性質上、他の部隊よりもウルトラマンの知識を詰め込むことが多い。仮に作中での怪獣が存在した場合に、その予兆や弱点、対処方法などを見つけられる可能性があるために、徹底的に怪獣の知識は入れていた。
その言葉が届いたのか、何とか抵抗していたウルトラマンが抑えていた顎から、三日月状の角を掴んで逆方向に折り曲げようとする。
自らの武器でもあり、弱点でもある角を攻撃されたアーストロンは雄叫びをあげ、抑える力を緩めた。
すると、ウルトラマンはアーストロンを跳ね上げ、怯むアーストロンの首にしがみつき、そのまま角へと打撃を与えていく。
これにはアーストロンはたまったものではなく、引き剥がそうと体を振り回すが、しっかりと組み付かれている状態ではそうもいかない。
一気に優勢になったウルトラマンに歓声を上げるが、次の瞬間、情報の整理をしていた村崎があっと声を上げる。
「どうしたぁ!村崎ぃ!」
「…いえ、それが、地底センサーにおかしな反応が…。っ、一部イカれました!!」
「何っ」
生き残っているのは、特地という未知の土地であることと、怪獣という災害を相手にすることから特別に強く作られていた機器以外がおかしな反応を見せ、通常機器が狂っていく。
「特地特有の磁気嵐か…?」
「いや、ちゃいます!直前までのセンサーに、何かが映ってました!これは地底から発せられとります!!」
村崎が悲鳴のように声を上げると、答え合わせをするかのように地面がすり鉢状に沈下する。
その大きさは半径にして100mは広がっていき、驚いたウルトラマンとアーストロン、そしてそれを察知した特災課は何とか回避するも、炎龍の胴体はそのままするすると吸い込まれていく。
「キィアアアアアアァァァァッッ……!!!」
瞬間、土煙を立てて表れたのは二本の大アゴ。吸い込まれる炎龍の肉体をがっしりと掴み、驚異的な挟力によって硬い鱗に覆われている筈の炎龍の亡骸が音を立てて粉砕されていく。
炎龍の肉を食らったそれは、蟻地獄から這い出すように立ち上がると、再度金切り声の様な音を上げた。
全体的なシルエットは人型のクワガタムシのようで、しかしながらその性質からアリジゴクの特徴も併せ持っている。
顎を震わせるたびにギチギチと節ばった音が響き、その無機質さに拍車をかける。
「もう一体だと!?」
「あれは、アントラー!電子機器の不調はあれが原因だったんです!」
全身を硬い甲殻に覆ったアントラーは地上へ上がるや直ぐ側で争う二体の巨大な生物を見かけると、背を向けているウルトラマンへと攻撃を始めた。
「ああっ!ウルトラマンが!」
「分が悪くなってきたぞ……」
アーストロンを抑えれば、背後からアントラーが迫り、アントラーの大顎に対処しようとすれば、がら空きの胴体に尻尾が打ち付けられる。
吹き飛ばされたウルトラマンは、立ち上がろうとするも、ふらふらと足取りが覚束ない様子だ。
「……真樹くん、村崎くん、私は周辺の避難誘導に当たる。君達は引き続き二体の情報収集と、通じる回線を見つけて本部へ情報を伝達してほしい」
ウルトラマンの劣勢を見てか、新星が少しでも被害を減らすために散り散りになった現地の村人達を誘導すると言い出し、本来の目的であるデータ収集も疎かにはしない。
「副隊長、俺も行きますよ。俺なら足もスタミナもありますし、一人で誘導するよりはマシです」
「浅永くん。……分かった。特地の言葉は概ね頭に入っているね。私はあちらへ、君は反対側から始めてくれ」
隊員の一人である浅永 龍久が声を上げ、二手に分かれて避難誘導の網を広げる。
実際、度重なるハプニングの連続で、コダ村の住民達は炎龍出現以上のパニック状態に陥っており、どこに逃げていいのかも分かっていなかった。
二人がある程度以上離れると、流れ弾で土煙が立ち姿が見えなくなる。
無線はアントラーの放つ磁気によって使えないが、その無事を信じて彼らは二体の解析を進めていくのであった。
『ここは危険です。あちらに見える車……馬車?を目指して走ってください。ここから少し円弧を描くように進めば、巻き込まれる心配はありません。出来る限り他の住民にも知らせながら、慌てず進んでください』
新星はアントラーの出現により、呆然とする住民へと流暢な特地の言語で話しかけ、立ち直らせると伊丹達の乗る高機動車を指さす。
彼ら第3偵察隊は指示の通りに住民を連れながら巻き込まれないように住民を手助けしており、あの集団に紛れれば心配はない。
そのまま付近で慌てふためく人々をシャッキリさせながら、周囲の住民がいなくなったことを確認すると、胸の内ポケットの中からノヴァスパークを取り出す。
ノヴァスパークを中ほどから開くと、それは西洋剣のような姿へと変貌し、それを持った手を高く掲げ、そのままトリガーを引くと刀身が眩い光を放ち始めた。
新星の身体はぐんぐんと光の巨人へと姿を変えていき、大きな光を放ち特地へと降り立った。
「―――ディアッ!!」
「地底怪獣 アントラー」ウルトラマン第7話「バラージの青い石」にて初登場。
その甲殻は硬く、ウルトラマンのスペシウム光線ですら受けきってしまう強豪怪獣。
見た目からして、モチーフはクワガタやカブトムシなのだが、蟻地獄というややこしい奴。でもその見た目と強さから人気は高い。
磁力光線を放ち、電子機器を狂わせ、鉄を引き寄せて得物を食らう性質を持つ。
ウルトラギャラクシーファイト大怪獣バトルNEOでは「血中鉄分を磁力で引き寄せる効果」があることが判明したが、この個体はそこまでのことは出来ない。
「ノヴァスパーク」
スティック状の変身アイテムで、真ん中から展開することが出来、剣のような形になる。ガッツスパークレンスとイクサカリバーみたいな感じ。