ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:食卓の英雄
あの後、世界は怪獣災害の復興を進めていた。
メキシコ、特に最初に飛来したチマルワカンは電子機器が軒並み狂った上に繫がっていたネットが汚染されてしまい、都市の復興以上に生活インフラを取り戻す方が困難な程だと言う。
その生態が明らかになった際には、脅威が認知され、同怪獣が出現しないよう願うしかなかった。
また、通信基地に被さっていた怪獣の行動は産卵だと判明すると世界は震撼したものだ。
幸い、怪獣を真っ二つに斬り裂いたウルトラマンが戻ってきて通信基地の地下ケーブルに産み付けられた卵を念力と思わしき超能力で消し去ったため未遂で済んだものの、仮にそれがなければチマルワカンには第二第三の怪獣が誕生することになっていただろう。
その適切な判断にウルトラマンの対処能力が評価されていた。
次に、特地に現れたマグラーだ。
初代ウルトラマンに登場した怪獣であることが知られているが、その遺体は綺麗にそのまま残されていた。
ウルトラマンの三叉の槍によって斃れたマグラーだったが、どうも体内を灼かれているために、生前の姿を保ったまま放置されている。
一時は爆破解体することも視野に入れられていたのだが、爆破と処理に莫大な費用がかかることと、きれいな状態を保っている怪獣の死体というサンプルは研究・調査的に貴重だったため、その案は却下された。
肉や血液は炭化し、腐敗ガスなどの心配がないことから、自衛隊からも正式に認められ、輸送方法や門に通す方法が見つかるまでは周囲を囲い、現地保存することとなったのだ。
まして、映像作品に出ていた怪獣である。その知名度などから、調査研究が終われば剥製として展示することも考えられているとか。
今では、マグラーの亡骸の前では自衛隊員が記念に写真を撮っていたり、異世界で娯楽の少ない彼らにとっての観光地の様になっていたりする。
そして渋谷区。
怪獣デマーガによる被害は大きかったものの、幸いにして死者・行方不明者は存在しなかった。
これは日本人が元から備える防災意識と特災課による作戦が大きく、人から遠ざけるように立ち回ったことで人的被害を抑えることができた。
また、レイラインエネルギー収束砲という怪獣にも通じる兵器は人々の対怪獣意識を向上させ、若干の懸念点こそあるものの今は平穏に喜ばれている。
その懸念点とは、レイラインエネルギーに干渉する以上、短期間で連射するとその土地のエネルギーを枯渇させてしまう可能性だ。
カミソリデマーガの際は変動時の値を読み取ることは出来なかったが、今回の結果から同規格の砲が毎分10発も放たれれば、10分後には土地の許容量を大きく超えてしまい、回復することのない死の土地と化してしまうだろうと予測された。
現在は実際に使用した村崎隊員の技術者としての判断で、この技術を基に威力を落として連射性と砲身を長持ち、及びに土地にかける負担の軽減等と改良が進められている。
各国からはその技術についてせっつかれはしたが、派遣された各国の技術者達もデメリットは認めているため、今回のはあくまで理論検証用の試験機であり、完成品には程遠く危険性もあることが通達されたことで落ち着いた。
デマーガの骨や体組織は回収され、その質量を支える骨の構造や、溶鉄の体液や、その温度をシャットアウトする外皮などの研究が特災課本部で進められている。
そして今、度重なる怪獣出現に対応した特地分遣隊は近くの焼肉屋に集まっていた。
研究自体は本部で進め、その他の隊員達は怪獣災害の復興作業。当然怪獣出現や類似する現象が発生した場合は直ぐに駆けつけられるようにしているが、それでも彼らの仕事に暇が出たのは事実。
故に、こうしてこれまでの活躍をねぎらっていたのである。
「えー、日々の活躍とこれからの躍進を願うが、流石に怪獣災害の直後なので、乾杯の音頭は取りません」
「あ〜」
「まあそうなりますよねぇ…」
「でも死者はいないんですし…」
「いやいや、それでも都市自体に尋常じゃない被害が出てる。路頭に迷う人もいるだろうし、重傷者も少ないわけじゃないんだ。これが当然だろう」
新星の言葉に納得しながら、当たり障りの無いメニューを注文していけば、後は各々自由にしていく。
「それにしても、村田陸将補……じゃなくて隊長が来れなかったのが残念ですね」
「ああ…慣れないよな。まさか自衛隊内での階級を使えないってのは…。まあ、それだけウチの権限と怪獣への対処の自由度が認められてるってことなんだろうが…」
特災課は自衛隊内での1部署の様に扱われているものの、その実半ば研究機関を内包する独立した組織に近い。
故に課という字が当てられており、その階級も自衛隊内でのものは使われていない。
通常時の公務は自衛隊と然程変わらず、指揮権限なども同様だ。ただその分、自衛隊では扱えない怪獣などの調査や研究、及びに対処に関しては高い権限と自由度を有しているのだ。
「仕方ないですよ。僕ら特災課は出来たばっかですし、怪獣対応にどこも躍起になってるんです。特に、隊長は元の階級が高いもので、いろいろな判断で頼りにされてるので…」
「そうだぞ?隊長がやってくれなきゃ、俺等だって今頃は特地のマグラー調査の指揮を取ってたかもしれないんだ。感謝して体を休めようぜ……。と、ほれ、焼けたぞ」
高瀬の言葉に、村崎と真樹が肉を焼きながら返していく。
会話の流れも出来てきた所で、会話は自然と怪獣やウルトラマンなどへと移っていく。
「そういえば、あのウルトラマンは何なんでしょうね?」
「あのって、どっちのだ?」
「渋谷区に現れた方です」
浅永の疑問は、今世間で問われていることだ。
「いやだって、見た目からしてニセウルトラマンっぽい感じじゃないですか。体のラインはまだいいとしても、目つきとか足の感じは他のウルトラマンとも一致しませんし……」
「それはそうなんだが……」
「でも、あれがなかったら被害はもっと広がっていたし、死者だって出た筈です」
訝しむような言葉に言葉を詰まらせる真樹だが、待ったをかけるのは高瀬。しかしこの話題は意見が割れるのか、石山、中村らの後方支援組からは村崎に同意するような言葉が出てくる。
「私としては、あまり信用しすぎても危険だとは思いますね。確かに被害が抑えられたのはそうなのですが、我々を信用させて裏切る作戦と考えれば納得はいきますし…」
「私の方はそこまでじゃないですけど、常に警戒を払って入れ込みすぎないのがいいと思いますね。怪獣と戦ってくれるなら、そのまま支援して、裏切るとかなら攻撃。無理に敵を作る意味はないですし、今の自衛隊内でもこの意見でなあなあって所ですし」
疑うとまではいかずとも、警戒くらいはしておくべきだというのが多数派だ。いや、むしろ最初のウルトラマンの時点でそう警戒するべきものなのだが、如何せんウルトラマンというヒーローが知られすぎていることと、その後のケア、そして怪獣に成すすべもない地球を何度も救ったことから自然とそういった対象からは外されかけている。
その討論から、今現在ここで一番階級の高い新星へと視線が向けられる。
「まあまあ、そこは実際に一緒に戦った村崎くんに聞いてみようじゃないか」
一人ネギ塩タンに舌鼓を打っていた村崎は話を振られ、皆の視線が向けられたために驚く。
「……僕は、信じてみてもいいと思いますけどねぇ。真っ先に街から離そうとしていたし、マッチポンプにしては力負けして追い込まれてました。もっと被害が出てからの方が、恩を売るには良かった筈ですし」
「でも賢い宇宙人ならそういう心理も分かってそうじゃない?」
「それは…まあそんなんやけども…。それだけであそこまで追い込まれるかなぁ…?最後には飛び立つ時、こっちに頭だって下げたんですよ。…というか、それならウルトラマンの作品と違って対抗手段のないこの地球くらいそんな回りくどいことしなくても良くないんじゃないですか?」
「うーん、そういうポリシーがあるとか?」
しかし、どう言ってもたらればを考えれば意見は纏まることはなく、なあなあで流されていく。
「……そういえば、今って怪獣対策や技術開発が進められてるじゃないですか」
「そうですね。私達分析員も、怪獣の特性が活かせないかって常々言われてますし…」
高瀬のつぶやいた言葉に同意するのは山村。静かに呟かれた彼女の分かりきった言葉に今更何を、という風な顔を向ける面々。
「それで、工廠の方で対怪獣用の巨大ロボットが造られてるって小耳に挟んだんですけど……。それって本当なんですか?」
その言葉にはどこのファンタジーだと内心思いかけるも、そもそも今の現状が十分にファンタジーだと思い口を紡ぐ。
「それって、あのロボット怪獣のことじゃなくて?」
「はい。私も最初はそう思ったんですけど、どうもそうじゃないみたいでして…。技術部と兼任してる村崎さんなら真偽がわかるんじゃないかなって」
問われた村崎は、「あー…」と後頭部を掻きながら、周囲を確認してから声を潜めた。
ここはお偉いさんからの紹介された中々高級な場所なため、完全個室。ボリュームを落とせば他の席に聞こえることはない。
「まだ言わんといてくださいよ?実は、もう色々と作り始めてるんですよ」
「本当なのか!?」
「ちょっ、真樹さん声が大きい…!」
「あ、すまん…」
「何でそんなものを?というか、昨日のレイラインエネルギー収束砲…でしたっけ?あんな風な兵器を今は揃えるのかと思ってましたけど」
浅永の指摘ももっともだ。そもそも対抗する兵器の目処がやっと経ったというのに、切羽詰まった今発展させるのに注力するのが普通ではないかと疑問に思っているらしい。
「いや、そりゃ武装の方はそりゃ揃えてますけど、一番の理由はウルトラマンに頼らない防衛機構を作ることにあるんです」
「それって、作中じゃロクな目にあってない考えですよね?」
「ああ、ウルトラマンがいつまでも人類の味方である保証がないから、対抗できるようにって…」
ここにいる面子は当然ウルトラマンシリーズをとことん頭に詰めている。それがゆえに、防衛隊や人間の犯した失敗などもよく頭に入っているのだが、その中でも特に目立つ失敗がそれなのだ。
だからこそ問うのだが、村崎や組織の上もウルトラマンは履修済みなので、ちゃんと踏まえているらしい。
「いやいや!そりゃ作中じゃ目立ちますけど、僕らも無視してはいられない問題なんですよ!実際、今の僕達の世界……まあ、ウルトラマンの問題に表すなら地球ですけど、ここって作中以上に怪獣への対抗力を持ってないじゃないですか」
「そうですねぇ。こっちはまだ戦闘機にビームを搭載する技術も空想の中だけでしたし…」
言ってしまえば、作中では引き立て役、あるいはサポート役に甘んじてしまっている防衛隊ですら、現在の世界のどこよりも進んだ軍事技術を持っているのだ。
それですらウルトラマンがいなければ滅んでしまうというのは散々描かれているために、せめてウルトラマンに守ってもらえている内に対抗できる力を身に着けなければいけないというのは全世界の命題なのである。
「でも、それなら戦闘機とか、それこそ宇宙戦艦みたいなのでいいんじゃないのか?」
「いえ、これはウルトラマンに相当する役割が必要になるんです。ええと、これは人で例えたほうが分かりやすいですね。例えばみんながゴム弾を持ってたとして、市街地にライオンや熊が!ゴム弾でも当て続ければ止めたり仕留めることが出来るとして、それまでの被害を止められるかと言われれば、別ですよね。なら、もしそんな動物を足止めできて、それでいて倒す手段があるなら一番いいじゃないですか」
「成程…。確かに怪獣が攻撃されたことに怒って暴れ出すなら、それを抑えられる同等の戦力があれば、攻守共に盤石…というわけか」
確かに、遠距離攻撃しか手段がないことと、直接抑えることが出来るのでは対応能力に差が生まれるだろう。だからこそ、巨大戦力が必要だと早々に判断されたのだという。
「今の技術でそれを作ったところで、ハリボテになるんじゃないですか?」
とは石山。けれど村崎そこはどこか誇らしげに反論する。
「そこが実はそうでもないんです。現れる怪獣の骨格や肉体バランス、機構の解析と、あのロボット怪獣に使われている機構の一部、そして何より残されたデータの解読によって、少しずつ実現可能になってきているって技術部の中では言われとります。特に、昨日の怪獣の骨格と強度は理想とするものに近く、それを完璧に近い状態で確保できたことから、一気に進歩すると思います」
「おお…!いや、だがロクに怪獣に通用する装備もない今は気が早すぎやしないか?」
「そうですね。どっちの技術もやらなきゃいけないことが多すぎて、何とも。まだまだ問題は山積みですし、確認しなきゃいけない理論も多いわけですが、不可能ではなくなった、とだけ」
そう言って、村崎の熱に当てられたのか、個室内に前向きな風が流れ始める。
果たしてこれから先の日本や世界がどうなっていくのか、今は誰にも分かりはしないが、わずかな光明を得たことで、その発展に期待を膨らませていくのであった。