ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり   作:食卓の英雄

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地球は怪獣無法地帯

 

 それは、伊丹達第3偵察隊の高機動車に搭載された車載カメラの映像である。

 場面は伊丹が振り落とされた後、パンツァーファウストⅢを構えている最中のことだ。

 

「これは、イタミ殿に…」

「炎龍…!」

 

 食い入るように眺める二人にタブレットを持つ自衛官はたじろぎながらも、その記録映像を流し続ける。

 既に左腕と翼を失い、墜落して尚息足掻こうとする生命力は凄まじく、命の危機を理解しているからこそ全力でちっぽけな人間を食い殺さんと吠える炎龍。

 その目の前で座り込み、鉄の筒を折って何事かを始める伊丹には何をしていると、過去の映像でありながら口をつきそうになるが、それは直ぐに訪れた。

 

『伊丹隊長ぉぉっ!!!』

 

 画面の中の倉田が悲痛そうに叫ぶ。すると、視界外からパキュンと聞き慣れない音がするや炎龍が怯む。それを隙と見た伊丹は急いで鉄の筒を構えて、シルエットだけ見れば花の蕾のような先端を飛ばす。

 

 轟音。紅い爆発が周囲を照らし、着弾箇所からもくもくと煙が立ち昇る。

 それを、ピニャ達はじっと見ていたが、煙が晴れればズシンと倒れる巨体。倒れ伏したことで映り込んだ姿では、ピニャ達が目撃したように頸から上が吹き飛んでいた。

 

「よもや、このようなことが…!」

「本当に、イタミ殿が…」

 

 その後、伊丹と合流したり、新たに音がし始めたが、レレイがここで再生を停止させる。

 少し気になっていたピニャ達は少し残念そうにするも、説明の段取りを立てているレレイからすれば、この先の映像は衝撃が強すぎて割り込まれること間違いなしと踏んでのことだ。

 

「あれが、噂の鉄の筒か…」

「確かにあの大きさならば個人での持ち運びも可能と言えましょう…」

「だが、あれだけのものだ。小型にするのにも労力を使う。恐らく歩兵の切り札に違いない」

 

 二人は唸るようにして考察するが、まああながち間違いではないし、レレイ自体も配備数や細かいことなどは知らないので訂正もされない。

 この二人が読み違えているのはその数。まさか一部隊につき最低一つは備えているなどとは想像もしていないだろう。小銃などとは違って見える範囲の戦車やヘリから逆算した結果なので大分少なく見積もられていたりするのである。

 

「そして、今の鉄の筒。あれを食らって死ぬようなカイジューは今のところいないらしい」

「「は…?」」

 

 二人の呆気にとられた声が重なる。

 

 ピニャとボーゼスにとっては、つい先日までの生物として最強の存在は古代龍だったのだ。あらゆる英雄や怪異、魔導師の攻撃が通用しない頑強な鱗を持つそれを、傷付けるだけに留まらず首諸共吹き飛ばす爆風を引き起こす武器ですら、カイジューには無力というのか。

 

 そんな思考が頭の中で沸いては、いやいやと否定する。

 

 彼女たちは実際に怪獣の脅威を目の当たりにしたわけではなかった。故に半信半疑なのだ。脅威であることは認める。古代龍にも勝るという情報も信じられる。

 

 しかし、古代龍を殺せるものを何発と叩き込まれ、無事でいられるなど、それこそ不死の肉体を持つ亜神などしか考えられない。

 

 しかし目の前に亡骸がある以上はそのような線も消える。

 逸る鼓動を何とか抑えつつ、情報操作による疲弊を狙っているものではないかと気丈に確認を取った。

 

「……それは真か?」

「紛れもない事実。私自身、遠目からマグラーへの攻撃を見ていたが、鉄の筒以上の攻撃が百や二百と直撃しても止まることなく進んでいた」

 

 信じられないというのなら、と続けると再び自衛官に頼んで映像を見せる。曲がりなりにも作戦行動の記録映像であるため渋っていたが、怪獣の脅威を軽んじている可能性がある。と説明すれば一部分のみを再生してくれた。

 

 耳を劈く轟音。夜天を染め上げる炎の柱。

 

 ピニャ達が目にしたのは、爆発と閃光、黒煙による濁流。これと比べれば、イタリカ攻防戦で垣間見た地獄など、川のせせらぎにも等しいと思ってしまうほどだ。

 これまでに基地内で見た鉄の象(戦車)鉄の天馬(多目的/戦闘ヘリ)斜めに立てられた大きな鉄の筒(大小様々な迫撃砲)、鉄の筒以上の大きさの弾頭を雨霰の様に放ち続ける箱の様なものを載せたセンシャ(多連装ロケット砲)炎龍にも比する速度で天を翔ける鉄の鷹の群(戦闘機を駆る航空団)

 

 どれか一つでも、そのどれか一つでも帝国に向けばと思うと顔を土気色にしかねないそれらが、何の遠慮もなく群れをなし、この世の地獄すら生温いのではないかという程の火力を放つ。

 

 炎龍の炎でも、ここまで土地を傷つけることなど出来やしない。

 

 思わずゴクリと唾を呑めば、隣のボーゼスはというと平静を保とうとしている表情は度重なるショックで壊れてしまったのか、何とも珍妙な顔になってしまっている。しかし、その目は立ち昇る紅蓮の嵐に釘付けになり、そこには人の手では成し得ない攻撃へ対する畏怖と、そんなことが出来るのかという、力を求める軍人ならば一度は抱いたであろう力への憧憬が覗いていた。

 

 ピニャもその気持ちは分からなくもない。これほどの力を人がなし得る。或いは自身たちで動かすことが出来たのならば、それこそ神以外に恐れるものは何もなく、世界全土を一方的に蹂躙することが可能だろうと浮かれるものだ。

 

『やったか!?』

『駄目です!外殻突破できず!敵損傷軽微です!ですが、歩みはわずかに抑えられているとのこと!』

『クソッ、いくら抑えれてると言っても、こっちの物資は潤沢じゃないんだぞ!』

 

 マグラー健在。

 

 立ち昇る火柱は、その巨体と比較しても見劣りしないが、だからこそ、それほどの威力でもこの怪獣を仕留めるには足らないと理解させられる。

 

「……もういい。十分に、十分に理解できた」

「そう」

 

 ピニャは顔を歪めながらレレイを静止する。

 悪い夢ではないのか、自身達の戦意を喪失させるための作り話ではないかと頭の中の理性が逃避先を探すも、これまで見てきた事実が、目の前の亡骸が目を逸らすなと離さない。

 

 コダ村の住人のように日々の暮らしを生きるのに精一杯で、小さな立場で怯えるだけならどれ程楽だったことだろう。

 

 これだけのことを知ってしまったせいであらゆる重責が呪のように押し寄せる。しかし、ここでボーゼスが更に踏み込んだ。

 

「他にもいる、と言っていたでしょう?……本当に、これに比する存在が……?」

 

 掠れそうになりながらも、脅威の把握のために問いかけると、レレイが困った顔で自衛官に何事かを尋ねると、その返答に目を丸くして端正な顔を歪めていた。

 

「……驚かないで聞いて欲しい。どうやら、このマグラーはカイジューの中でも比較的弱い種類として知られているらしい。それこそ、これよりも強力なものは山程確認されている。勿論、こちらでも、あちらでも」

「「―――っ…」」

 

 絶句した。

 これまで指標にしていた古代龍は、その成長度合いや練度にこそ差はあるものの、炎龍や水龍といった種族差によってそれほどの力量差と呼べるものはない。

 だからこそ、比する存在と言ったのだが、どうやら藪をつついて蛇を出してしまったらしい。

 

(あのような武器が一兵卒に至るまで配備され、あのような化け物が何頭も現れておきながら、これだけの技術力を持っているのか…!??一体、我々はどのような魔境に門を繋げてしまったのだ……!!?)

 

 嘘は言っていない。実際に特地に現れた怪獣や地球に現れた数々の怪獣はマグラー程度軽くあしらえる怪獣も少なくない。

 尤も、幹部自衛官でもない一般隊員が他国に出現した怪獣の詳細までを把握している筈もなく、知識として知る特撮番組内での話になってしまったのだが。

 

(いっそ、立場も責任も投げ出して、親しい者と共にジエイタイに擦り寄ってしまったほうがいいのではないか。どの道あのようなカイジューが現れては、炎龍も倒せぬ国にどうすることも出来まい)

 

 自分の信じる強さの天井を凄まじい勢いで突き抜けていったピニャは、最早神に祈ることすらしなかった。ともすれば、そんなことを本気で思ってしまうほどに。

 

 次々見せられる怪獣の精巧な絵(画像)。バザンガ、デスドラコ、ヘルベロス、グエバッサー、アーストロン、ゲードスと言った存在は、見るからに凶悪そうな姿をしていた。

 

 空に、海に、大地を悠々と闊歩するそれを目して尚、人類が栄華を掴み取っているのだから驚きだ。 

 

(我々の常識も、力も、何一つとして通用しない。正に、カイジュー無法地帯、と言ったところか…!)

 

「あと…」

「まだあるのか!??」

 

 続くレレイに、もう勘弁してくれと言わんばかりに悲鳴をあげる。

 画面を操作した次の瞬間、遥かなる高みから巨影が舞い降りた。

 空を劈く嘶き声と共に、大きな両翼を羽ばたかせて空の彼方から一匹の怪獣が飛来する。

 

「なっ!?」

「あれは…!」

「きゃあっ!?」

「くうっ…!」

 

 マグラーの遺体からそう離れていない場所に降り立ったそれは、シルエットだけを見るならば直立したコウモリにも酷似していた。尤も、その肉体のバランスは太ましく、腕の一体化している翼も体に比べれば大きくはなく、炎龍以上にどうして飛べるのかが不思議な体格をしていた。

 額に大きな角と重なるようにもう一つの角が生え、象のような曲がった牙が突き出している。背部には太い棘のような毛がずらりと並んでいた。

 

 その顔つきはドラゴンやワイバーンを思い起こさせ、しかしながらその巨体では威圧感も段違いだ。

 

 降り立つだけで、ズシンと大きな地響き。

 

 呆気にとられて眺めることしか出来ない二人を咄嗟に下がらせ、最も近い遮蔽物――マグラーの亡骸に身を隠す。

 

 周囲では既に自衛隊が大慌てで現れた怪獣に対してその火砲を向けていく。

 

 その背丈は約50m程度だろうか。平均的な大きさではある。

 しかし、直立する大型怪獣の姿を目にしたことのない二名は言葉を失っていた。

 護衛の自衛官は日本語で無線機にけたたましく呼びかける。ピニャ達には分からないが、その真剣な表情から、この怪獣に対してのことだろう。

 

「怪獣…!」

「危険ですから下がって!」

 

 同様に、マグラーの付近に集まっていた自衛官達もピニャ達来賓の存在を見ては集まってくる。

 

「…っ何ですかあれ、新種!?」

「……あれは、まさかチャンドラー」

「チャンドラー!?でも、俺もマグラーの件で見ましたけど、もっと間抜けな顔だった様な!?」

「ええ、ですがあれはウルトラマンパワードに登場した、いわゆるパワードチャンドラーという個体に類似しています。ただ、飛ぶなどという情報はどこにも載ってなかった筈…。元々飛べたのか、あれが特殊なだけか…。パワードレッドキングとの戦闘中に余裕がないまま倒されたから判明していない…等でしょうか?」

「言ってる場合ですか石堂さん!…くそっ、マグラーにチャンドラー!次は何だ、レッドキングでも出るってんですか!?」

 

 程なくして、準備の整った自衛隊からの攻撃が始まる。マグラーによって消耗した装備を全て補給することは出来ていないが、それでも対怪獣を想定して優先して仕入れていた弾薬と装備群。マグラー戦において学んだ戦い方でパワードチャンドラーへと波状攻撃を加えていく。

 

「くっ…!」

「熱っ…!」

 

 初めて見る生きた怪獣の姿に、思わず身を乗り出して見入っていた二人は、その砲撃の熱波が届き、映像では感じることの出来なかった心の臓を揺さぶる生の攻撃に鼓動を逸らせる。

 

 しかし、パワードチャンドラーとて負けてはいない。その両翼を大きく羽ばたかせて、1万8000トンもの自重を飛行させるその筋力で暴風を生み出し、実弾の誘導弾などを誘爆させ、さらには付近を飛んでいた飛行団が進路の変更を余儀なくされる。

 

 いくら飛行怪獣とは言え、ここまで接近されてからの戦闘はかなりマズイ。というよりも、相手の気分次第で基地までひとっ飛びだ。

 

 見れば、先ほどピニャ達が演習で見ていたヘリや戦車部隊も攻撃に参加しており、苛烈な防衛線が構築された。

 

 しかし、パワードチャンドラーは止まらない。多少の煩わしさを覚えつつも、一気に翼をはためかせ、攻撃してくる小蝿を殲滅し、小腹の足しにしようと飛び立った。

 

 焦ったのだろう。そちらへ行かせてはならないとAH-1Sが近くを通って注意を引きつけようとした。

 放たれるのはM197機関砲。毎分1500発もの速度で20mm弾を発射。更にダメ押しとばかりにBGM-71 TOW 対戦車ミサイルをありったけ顔面に食らわせる。

 が、しかし急速に狙いを変えたパワードチャンドラーは、絶え間なく顔面に浴びせられる機関砲にも怯むことはなく、運転席へとその凶悪な顔をつぎ込んで中にいた自衛官を捕食した。

 

 操縦者を失ったヘリがふらふらと炎上しながらマグラーの鼻先まで迫ってくる。

 

「っこちらです!」

 

 咄嗟に動いた自衛官によってピニャとボーゼスは引き戻され、先ほどまで体があった場所を回転する主翼が抉り取り、幸いにもマグラーの遺体によって弾かれて進路のそれたヘリが爆発する。

 

「ぐああっ!?」

「っ!?」

「「――ッッ!!?」」

 

 想像以上の大爆発。どうやら搭載したままのミサイルに引火してしまったらしい。

 熱波に肌を焦がされながらも、何とか立ち上がりパワードチャンドラーの様子を伺い続ける。

 

 どの道、小銃しか持っていない彼らではパワードチャンドラーを押し留めるための兵にもなれず、車両は少数残っているとはいえ、あの爆撃の中を進むのは無謀。味方の攻撃に巻き込まれてしまうならば、こうしてマグラーの影に隠れるのが最善手なのである。

 

「…ダメです。やはり救援は今の状況では困難だと…」

 

 案内をしていた自衛官が言葉の通じるレレイへと無念そうに語ると、翻訳されたピニャ達も今の状況では仕方がないことだと分かっているのか声は荒げない。

 

「あれが、カイジュー…か。ボーゼス。お前はあれをどうにか出来ると思うか?」

「……僭越ながら、とても想像できません。あれが一匹や二匹ならば、まだ無干渉を貫けば何とか。しかし、こうも短期間に立て続けに現れては……人間が生きていけるかは天に委ねられることでしょう」

「そう、か…。妾も同じだ。今にして思えば、あのコダ村の噂の後半も、嘘ではなかったのだな」

「炎龍をも下す巨大な怪物…。前までの私でしたら鼻で笑ったものでしょうが……今はとても」

 

 目線を落として会話する二人の表情は暗い。これを切り抜けたとて、仮に似たような存在が現れては、今の自衛隊の攻撃も出来ない帝国では無抵抗に蹂躙されるであろうとありありと見えていた。

 

 すると、これまでの爆発とは一風変わった音が響き、巨影が落ちる。

 

「なっ…!?」

 

 視線をその先に向ければ、何やら遠方に大きな四角い筒のようなものが見えてきた。

 自衛官は双眼鏡で確認すると驚きに声を上げた。

 

「あれは、レイラインエネルギー砲…!?初期型は土地にかける負担の問題で御蔵入りになったんじゃ…」

特地(こっち)の緊急事態だから、慌てて…?」

「……いえ、確か理論の見直しのため一度特地で厳重な考証の元試験をする予定でした。幸か不幸か、まだ移動させていなかったため使えているようですね」

 

 その進撃を食い止めたのは、試作機のまま問題点が浮き彫りになり、改修のため特地に一時的に置かれていたレイラインエネルギー収束砲。

 

 初めて明確にダメージを与えたそれは、人々に歓声を挙げさせるには十分だった。

 

「い、今のでやったのか!?」

「殿下、お下がりを!」

 

 高速で発射された星のエネルギーの一端とも言えるそれの直撃に、地面に落ちたパワードチャンドラーへと注目が集まる。

 

 漏れなく、それは圧倒的な力量差に頭を悩ませていたピニャも同様。あの恐ろしい怪物が地に落ちたのかとつい身を乗り出してしまった。

 

「っまずい!」

「二人とも、まだ終わって――」

 

 爆炎と巨体が巻き起こした土煙が晴れる。

 

 パワードチャンドラーに目立った外傷はなし。強いて言えば、直撃した右の腕羽がぷすぷすと音を立てていたが、致命傷には至らない。

 

 そして、成果確認のため攻撃が止んでしまったことで、パワードチャンドラーの耳にピニャ達の声が入ってしまった。

 

 ギョロリと恐ろしい双眸がマグラーの死骸に隠れる存在を睨みつけた。

 

「お二方は逃げて下さい!」

 

 内、特災課の一人がピニャ達を自衛官に任せると、バッと自衛隊制式採用の64式小銃から手を離し、腰のホルスターから特地での調査にあたって配備された改良型ソニッターを引き抜いた。

 

 パキュンパキュンと乾いた音とともに閃光が瞬き、生物にとっては嫌な超音波と閃光効果を発揮する。……が、そんなもの先ほどの爆撃で慣れたとばかりに一層怒りを滾らせるパワードチャンドラー。

 

 自衛隊本部もその行動の変化には気づいていたが、巻き込んでしまいかねない以上先ほどのような派手な攻撃は出来ず、精々が気を逸らせるかどうかといった援護しか行えない。

 

 改良型ソニッターはその真価を発揮できず、逃げ回る人々へとパワードチャンドラーの魔の手が迫る。

 

 地上の自衛官からも顔や関節、喉などを狙って牽制をするが、やはり7.62mm程度では豆鉄砲にすら及ばない。

 

 そして既に、ここはパワードチャンドラーの間合いの内側だ。

 

 その巨体を飛ばす両翼から放たれるのは暴風はそれこそ台風をも上回る。一度腕を振るだけで、獲物が吹き飛ばされ無抵抗になるのだから、パワードチャンドラーにはやらない理由がない。

 

 せめてピニャ達やレレイだけでも逃がそうと無理やり高機動車に詰め込み、他の隊員は散り散りに囮を買って出る。

 

 そんな努力を無意味なものだと嘲笑うかのようにパワードチャンドラーは大きく構えた翼で捕らえた空気を押し出そうとして―――

 

 

―――横合いから蹴り飛ばされた己の身が倒れゆくことに気がついた。

 

 歓声が上がる。手を取り合い喜び、今のうちにとこれまでの決死の覚悟から一転、みなで集まり本部の方へと逃走を始めた。

 

「来てくれましたか…!」

 

 運転席にいる特災課の彼が安堵の息を吐き出した。

 

 光と共に現れたのは青い巨人。胸部にプロテクターを身に纏い、青いNの輝きを胸に灯す戦士である。

 

「あ、あれは一体何なのだ!?」

「巨人…。いえ、あれもカイジュー…?」

 

 今も、パワードチャンドラーと青い巨人との戦闘は続く。パワードチャンドラーが巻き起こした暴風を球体状のバリアに封じ込めて霧散させる。

 パワードレッドキングにも匹敵する剛腕が襲いかかるも、歴戦の勇士らしく攻撃を躱し、いなし、大振りの一撃を誘い出してはカウンターを決めて自分のペースに持ち込んだ。

 

 ヤケになったパワードチャンドラーは巨人に掴みかかると、力による押し合いを選択。そして、空いた顔面に向って岩盤をも貫く嘴を勢いよくつき出した。

 

 それを頭だけで数度躱し、逆に首をヘッドロックすると、己ごと飛び上がってパワードチャンドラーが大回転しながら地面に叩きつけられる。

 

 平衡感覚を乱され、グロッキー状態のパワードチャンドラーへ向って、素早く組んだ十字の腕が瞬き、青白い光線が放たれる。

 

 スペシウム光線。

 

 ウルトラ戦士の代表的な必殺技が炸裂し、パワードチャンドラーを灼く。

 

 悲鳴を上げて爆散したパワードチャンドラー。人々の歓声を浴びながら、瞬く間に空の彼方へと飛び去っていった巨人。

 

 ピニャはその全てに圧倒されていた。

 

 ピニャの知る大型怪異をも優に超える巨体。人型でありながら無機質でいて、どこか温かみを伴う顔つき。

 あれだけの強さを誇った怪獣をいとも容易く打ち倒し、空を飛び去るそこに神を見た。

 

「……あれは、あちらの世界の神、なのか?」

 

 純粋な人間種であるピニャには、その光の力を感じ取ることは出来なかったが、それでも目の前の光景だけでそう感じるのも無理はなかった。

 

 震える声のピニャに、レレイは静かに頭を横に振った。

 

「…私もそう思って聞いてみたが、どうやら違うらしい」

 

「あれは、彼らジエイタイ―――門の先の世界に伝わる伝説に記されている存在。カイジューと戦い、人と世界を守っては、謝礼を求めることなく去っていく光の巨人」

 

「―――ウルトラマン」

 

「ウル、トラ…マン?」

 

 どこかしっくり来るような言葉を転がし、ピニャ達は迎えに来た伊丹ら第3偵察隊と合流し自衛隊駐屯地へと戻っていった。

 

 そして、帰還するやいなや、己に与えられた部屋のベッドに倒れ込むと瞳を閉じた。

 本来の予定ならば、今日中に明日の予定やジエイタイへの情報収集をするつもりだったのだが、既にそれをするだけの体力は残されてはいなかった。




……銀座行かなかったね。

そして登場、パワードチャンドラー!
ウルトラマンパワード第3話『怪獣魔境へ飛べ!』に初登場したチャンドラーのパワード個体。原種が蝙蝠のようで、ペギラまんまの眠たそうな顔なのに反して、全体的にワイバーンっぽい。
何気にパワードレッドキングと互角の腕力も持つ。
ただし、パワードレッドキングとの縄張り争いに負けて死亡し、ウルトラマンとは戦っていない。
また本種に飛行能力の記載はないが、原種のチャンドラーもデッカーに再登場した際は飛行が可能だったので、この作品ではレッドキングとの至近距離での縄張り争いでは披露する機会がなかったためだと推測されています。
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