ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:食卓の英雄
ついにその日は訪れた。
伊丹の参考人招致の当日である。呼ばれているのは現場の指揮官である伊丹と避難民複数。そしてその裏付けとして、怪獣出現に伴い対処に当たった特災課特地派遣部隊の隊長であった。
午前11時、要員の支度も済ませ、伊丹達は中央ドームの前に集まっていた。
伊丹の服装は冬服で、上着は抱えてはいるものの、暖かい特地側では暑くて仕方がないといった様子で顔をあおいでいた。
それも当然。門の先、つまり日本と特地の気候にはズレがあるからである。今の特地は温暖な気候だが、門の向こうは冬なのだ。
特地側のテュカなどはそれが分からずぼやいていたりするが、とにかくこれで人は揃った。
さあ出発しようと息巻いたところに、伊丹と反りの合わない同僚である柳田が公用車に乗って現れた。
伊丹としては心当たりがなく、何の?と尋ねたくなったが、柳田は後部座席のドアを開いて客人を降ろした。
「ピニャ・コ・ラーダ殿下と、ボーゼス・コ・パレスティー侯爵公女閣下のお二方が、お忍びで同行されることになった。よろしくしてくれ」
「おい、柳田。聞いてない」
「あ?言ってなかったか?まあ、いいだろ?市ヶ谷園の方にはちゃんと追加の連絡はしといたし、伊豆の方も然りだ。2泊3日、しっかり楽しんでこい」
「あのな。このお姫様達に俺がどんな目にあったと思ってる」
「誤解だろ?笑って水に流せよ」
「笑えねえって…」
「いちいち気にするな。なにしろピニャ・コ・ラーダ殿下には、帝国との交渉を仲介してもらわないとならんからな。その為には我が国のことも少しは学んでおきたいという、ご要望も当然と言えば当然だ」
それは伊丹にも十分理解できるが、何故自分たちと一緒なのかと苦言を呈すると、柳田はニヤニヤと笑いながら答えた。
「仕方ねぇだろ。案内しようにも、通訳出来そうな人材がまだ育ってないんだから。…それに、これはお二方の要望でもあるんだぞ?」
何故に?と頭を悩ませると、柳田はある動画を再生し始める。それはレレイが彼女たちに見せた、炎龍討伐のその瞬間であった。
「どうやらこいつを見たらしくてな。こっちでのドラゴン…炎龍だったか?そいつはどこの国や英雄が何百年かかっても倒せなかった脅威とされていて、そいつを倒した張本人がお前だ。戦力的な意味でも特に、
「嘘ぉ…。こんなの残ってるの?」
「あ?事前に説明受けてただろうが」
伊丹としては、なあなあで聞いていた車両説明なだけに曖昧だったが、まさかこんな瞬間が映っているとは夢にも思わなかったのだ。
絶対参考人招致で使われる奴じゃん…。とげんなりしながら呟く伊丹へと、更に柳田は続けた。
「まあそう落ち込むなよ。人が増えたのと、昨今の怪獣騒動とかで、そっちに新たに人員を追加することになったんだよ」
ほれ、と指をさすと、ドーム前のテントから自衛隊とは異なる装備を纏った人がこちらへとやってきて敬礼する。
「お?あんたら…」
「また会いましたね。伊丹二尉」
「今回の訪問にあたって同行することになりました」
現れたのは、特災課の特地派遣部隊のメンバー達だ。副隊長である新星に、元空自のパイロットである真樹、格闘徽章を始めとした様々な徽章持ちの浅永、そして女性が多いということから高瀬の4名だ。
炎龍騒動でも世話になったからか、伊丹も知った顔でよかったとやや安堵するも、特地語にも堪能な彼らがいるのであれば、わざわざ自分たちに同行させる理由はないのでは…?と疑問に思う。
「ああ、そりゃ簡単な話だ。特災課の所属自体は自衛隊から独立してる上、怪獣出現の際の指揮権限や任務なんかじゃそっちのが優先される。今は暇があるからいいが万が一何か起こったら彼女達をほったらかしにするわけにもいかんだろ。そういうことで、あくまでお前さんに同行させることになってるのさ」
成程…。と理解する伊丹。それに反して、当のピニャ達はというと特災課の装備に気を取られているらしい。それもそうだろう。なにせ彼女たちが顔合わせをしたのは朝の早い時間。それも基地内とあれば、鎧や武器などは置いての挨拶となる。
これまでに自衛官を見てきたピニャ達としては、階級による胸の略章の違いはあれど、概ねは緑や茶色などの混ざった服や
「ジエイタイの者はあのような緑の服が制服ではなかったのか?」
「確かに、イタミ殿やこの基地の装備と比べれば、より重装備に見える」
伊丹達が話している間、気になってレレイに聞いてみると、こう返ってきたのである。
「彼らはカイジューへ対処する専門の特殊部隊。カイジュー対処に限ってはジエイタイより権限が上で、見ての通り装備も違う。……特に、あの隊はカイジューから作られた鎧を身に纏っている精鋭らしい」
「なっ」
衝撃と共に食い入るように見つめれば、形状の違いで分かりにくかったが、確かにその素材は生物…一度だけ見たことのある竜鱗の鎧などに似ており、その稀少価値と強さに思わず目眩がする。
なにしろ、特地では竜の鱗とは文字通りのお宝。竜の種類や状態によって変わるが、やはり最上級は『龍』の鱗。美品であれば1枚でスワニ金貨十枚程の価値になると言われており、仮に炎龍の鱗で出来た鎧などがあれば、その入手難度、加工難度から神話級の宝具として国が買える程の価格で取引されることになる。尤も、これは「あれば」という仮定の話だが。
それに次ぐのが新生龍の鱗であり、しかしこの二種が市場に出回ることなどほぼあり得ない。
そも人の手で災厄の化身たる『龍』が狩られることはなく、仮に人の手に渡ったとすれば、それは古代龍や新生龍の脱皮によって打ち捨てられた鱗を集めたものであることが常である。
実際、いくつかの英雄譚や神話には龍の鱗から作られたという鎧が登場し、現物が戦神の神殿に祀られていたりする。
とはいえ、やはりそれほどに貴重なもので、ピニャが見たものも、龍のそれではなく、無肢竜のそれ。それも脱皮後のものである。
ピニャ達の知るものですらそれなのだ。基本的に神器の類であり、人が身につけることなどあまりにもったいない。しかし、炎龍を遥かに上回るというカイジューの外皮から作られた鎧が、数揃えて装備しているなど、余りに凄まじい。
ピニャ達の常識で考えれば、それだけの装備を許されている精鋭部隊とは如何程のものかという恐々とした気持ちが出るのは仕方のないことである。
そんな差異を抱えつつも、特地側初の正式な日本来訪へとなるのであった。
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「ここが、ニホン…!」
日本側の門は、アルヌスの丘の様な拓けた土地ではなく、首都東京、銀座のど真ん中に存在している。
自衛隊駐屯地も彼女たちにとっては驚きの連続だったが、それとはまた別に、金属やコンクリートの外壁が立ち並び、一面ガラス張りになっているオフィスビルが乱立する光景に、特地からやってきた女性陣は驚嘆に打ちのめされていた。
「こ、これほどの建物が、こんなにも…。やはりニホンとは、武器だけでなく、このような摩天楼までも作り上げる大国であったか……!」
その驚きに一同は内心で苦笑する。銀座程度で摩天楼とは言わないだろう。本場のニューヨークみたいな大都市の方が相応しいだろうと。
そう思うのは、日常的に高層ビルなどに囲まれていたり、テレビなどの映像でニューヨークのような高層ビルの大集団を見るからだ。
ピニャ達にとっては、巨大な建物といえば帝都の宮殿であったり、元老院議事堂、あとは軍事用の城塞しか知らぬピニャ達にとっては十分に摩天楼なのだ。
巨大な建物はそうでない建物の中でひときわ目立つ。だからこそその存在感をもってして風景の中心軸として鎮座している、というのがピニャ達の常識であった。が、ここでは違う。都市を構成する全ての建物が巨大。
一つの大きなシンボルとしての存在は拠り所となるが、しかしそれが大集団としてあると、人々の心を圧倒して飲み込んでしまう。
ましてや、つい先日同じ50m級の怪獣による暴虐を身を以て知ったからか、及び腰になるのも仕方のないことである。
とは言っても、実のところ銀座は未だに復興途中なのであった。
特地からの侵略行為――銀座事変では基本的な損害は人であったり物であったり…基本的には小規模の破壊程度で済んでいた。
しかし、その直後に現れたカミソリデマーガの光線によって、高層ビル数棟が袈裟斬りに切断されてしまったのだから、被害規模は比較にならない。
ウルトラマンによってそれ以上の被害こそ抑えられたものの、その損失は計り知れない。
まして、度重なる怪獣災害への対応であったり、そのたびに積重なる自衛隊の被害額、各国との連携などを含めれば、手が回らないのも仕方がない。
ビルの上階層のみが切断されることを想定したマニュアルなどないのだから、尚更に。
その街並みは5人の心を打ちのめし、目を丸くして、冬の銀座の真っ只中で寒さも忘れてたたずんでいた。
周囲を見回していたテュカが、不自然に切り取られたようなビルを見つけ、それが怪獣の仕業であると知って慄いた。
そんな彼女たちを後目に、伊丹達は営外へと出る手続きを済ませてしまう。すると、それを見計らっていたかのように声を掛けるものがいた。
それはいかにもといった黒服の集団で、その代表者らしき人物は、一見するだけではどこにでもいそうな中年のおやじ風の男であった。
「伊丹二尉に、新星副隊長ですね」
「はい。そうですが」
「ええ、間違い有りません」
「情報本部から参りました、駒門です。今回皆さんの案内役とエスコートを仰せつかっています」
満面の笑みを浮かべて歓迎するように見えても、その瞳は笑っていない。まるで隠された剃刀の様な鋭い雰囲気を放っていた。
体育会系であったり、任務に忠実な自衛官…というよりは警察官、それも公安などの情報系の職種の出身者ではないか、と推測する。
「おたく、ホントに自衛隊?」
「公安の方でしょう?」
「……やっぱり、わかりますか?」
「そりゃあ、空気が違う感じがするからね。生粋の自衛官でそんな雰囲気纏えるようなとこがあったら、今どき情報漏洩とか起きないだろうし」
即座にその正体を見破れば、やや驚きながらも口元をにやりと歪めた。
「やっぱり、タダ者じゃないねぇ。流石は二重橋で名を馳せたお人に、初の怪獣対策組織で将官殿に次ぐ立場にその若さで食い込む人だわ」
「え、そうなの?」
伊丹としては、特災課の特地派遣部隊が各分野のエキスパートやエリートで構成されていることは耳にしていたが、流石にその元の階級までは知らなかったらしい。
彼らの隊長、村田 明弘の元の階級は陸将補。そんな彼率いる部隊の副隊長に、30代半ば程の若さの人物がいるのだから驚きだろう。
真樹が元二尉であったことから、てっきり同程度か、少し上くらいだと思っていた伊丹は思わず目を剥いた。
「実は、あんたらの経歴を調べさせてもらったよ」
「何もなかったでしょ?」
「そうでもないな。結構楽しませてもらったよ。平凡な大学を平凡な成績で卒業。一般幹部候補生課程を経てビリから二番目の成績で三尉に任官。その後部動隊配備。勤務成績は不可にならない程度に可。業を煮やした上官から、幹部レンジャーに放り込まれて何度か脱落しかけながらも尻尾にぶら下がるようにして修了……あんたその時のバディから蛇蝎のごとく嫌われてるよ。……その後、何でか分からないけど、習志野へ異動。万年三尉のはずが、例の事件のおかげで昇進した……と」
手帳に纏めているのか、黒革のそれをぺらりとめくりながら続けた。
「隊内での評価はこてんぱん。そんで、更に分からないことに『S』へと編入される…」
『S』とは特殊作戦群の意である。精鋭中の精鋭である特殊作戦群に、オタクで怠け者な伊丹が何故いたのかと言われれば、働き蟻の法則を屁理屈に使った結果、色々と伝わった結果、心理学的な理由やらも含めて取り上げられたとのこと。
しかし、その時同行している栗林から切なく悲しい悲鳴が上がる。
何事かと見れば、顔面を蒼白にして絶望した表情で脱兎の如く逃避したのだ。彼女にとって、自らの嫌いなオタクで、怠け者な彼が憧れの特殊作戦群の一員だということは、とてつもないショックなのであった。
富田が追いかけ、まるで性犯罪の被害者を慰めるかのように優しく背中を叩いている様子に、駒門は笑いを堪えきれずに腹を抱えていた。
さんざっぱら笑えば、しかし今度はぴしっと背筋を整え、先ほどまでの笑みが嘘かのように顔が引き締まった。
更に周囲を確認すると、伊丹と新星にだけ聞こえるように顔を近づけて小声で問うた。
「…問題はあんたですよ、新星副隊長。防衛大学を中々の成績で卒業。幹部候補生課程をさしたる障害もなく任官。勤務成績は至って模範的で、全て最短昇任期間で昇進。その後、度重なる怪獣被害における対策の立案と、対応組織の編成にあたって、任命時に特例での昇進……」
「ほー…、俺みたいにトラブルの解決で上がったのね…」
「そうじゃないんですよ伊丹さん。……うちの部下にたまたま覚えてる奴がいましてね。何度調べても、当時の人らを総当たりして聞いて回っても、貴方の任官時の情報の詳細がとんと出てきやしないんですよ。…あったとしても、今言った概要だけ。生きてる情報が少ないんですよ。……上にお伺いたててもみたが、成果は殆どなし。……新星さん。あんた一体、どんな経歴でここに立ってるんだい?」
その追求するような視線を向けられて尚、その表情は愚か、雰囲気もまるで変化がない。情報の真偽、善悪に問わず、こういった話題を振られては、少なからず反応を見せるものだが、ごく自然体の新星に、駒門は思わずたじろいだ。
「……今は、まだその時ではないので。どうしても気になるならば、嘉納防衛大臣にお確かめになられて下さい。その覚悟がおありなら、ですが」
嘉納防衛大臣。いくら佐官に匹敵する立場にいるとはいえ、一介の自衛官から情報の解禁において出てくる名前ではない。
藪をつついて蛇を出す。とはあるが、蛇は蛇でもアナコンダをうっかり引き摺り出してしまったかのような情報に二人はドキリとする。
駒門はその表情を強張らせて、そこまでか、と慄き、伊丹は(思ったよりヤバいのが出てきたな。どうすんだこれ)とでも言いたげに目を虚ろにさせる。面倒事に巻き込まれたくはないのだ。
ともかく、駒門としては無闇に踏み入るつもりもない。もしこれが他国の工作員や、今懸念されている侵略宇宙人の可能性があるならばともかく、嘉納防衛大臣は何か知っていると考えれば、そう悪いものではないはずだと。
他の面々は深刻そうな伊丹の顔を見て、今回の参考人招致がそんなに嫌なのかと思ったものだが、その実、隣にいる頼もしい味方の筈が、得体の知れない何かに見えたせいで、これから2泊3日を共に過ごすのかと思うと、ちょっとげんなりしてしまったのであった。
今回は新星の立場がどのように見られているか、という説明。