ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:食卓の英雄
熱線怪獣グライムにより避難を余儀なくされた伊丹一行。
自衛隊と特災課の決死の対応により被害は抑えられ、ウルトラマンノヴァが姿を現した。
一触即発の戦闘が始まるかと思われた矢先、人に限らず怪獣までもが姿を消してしまった。
行く当てを失った一行は、避難先の経路にある人物宅を訪れた。その人物とは、かつて伊丹の嫁であった梨沙のことだった。
「せ、先輩が女を連れてる…!」
ほんの少し落ち着いた喧騒の夜中、女を連れて「悪いけど朝までかくまってくれ」とやってきた伊丹の姿は、梨沙にとっては驚愕に値するものであった。そんなこと、梨沙の知る伊丹なら絶対にしないであろう行為である。
呆然とする梨沙を尻目に伊丹は「あ〜、入ってくれ」と、ドアの外にいた女性達を部屋の中へと迎え入れる。見れば外人ばかりであるが、どれも梨沙の琴線に触れるタイプばかりであった。
「うわぁぁぁぁぁっ!黒ゴス少女に、金髪エルフ、銀髪少女に紅髪お姫様っぽい美人に、縦巻きロールのお嬢様っぽい美人と、巨乳チビ女はどうでもいいか……。そんな国際的なコスプレの催しってあったっけ?」
梨沙もオタクの端くれ。その手のイベントのスケジュールは把握しているが故の言葉であった。
そんな疑念に、伊丹は窓から外を警戒するように見渡しながら、深夜の訪問を詫びて事情を説明した。
「実は、今夜宿泊する予定だったホテルが怪獣の攻撃で燃えちゃってな…。ちょうど避難中の進路に梨沙の家があったんでね…」
「怪獣の攻撃で?」
梨沙は避難のために抜いていたパソコンをネットに繋ぎ、ニュースを検索する。
大々的なニュースになっているのは、銀座に怪獣が現れたことと、ウルトラマンの出現、そして消えていってしまったこと。
その被害の中に、地下鉄や周辺道路などの他に吐き出された熱線が遠方のホテルを全焼させたという情報まで入っていた。
ちなみに、現場から件のホテルまでの距離は、同じく怪獣から梨沙の家までの距離を超えている。普通に射程圏内であった。
そのことに内心肝が冷えながら、ネットを見れば、同時に国会での参考人招致の記事も見つけた。
「ん…?」
そこには、参考人招致での異世界側での出来事や、発言、情報を纏めた記事や動画が纏められており、様々な角度からの写真も切り抜かれている。
尚、最後にウルトラマンが現れるというサプライズもあったが、あいにくと梨沙自体は特撮オタクではないので、興奮よりも身近な怪獣災害への対策として大真面目に内容を確認することにした。娯楽よりも自身の身の安全である。
そして、動画や写真の人物と一行を見比べて、ようやく同一人物だと納得したらしい。
その上で一連の記事を読み、合点のいった梨沙は怪しげな笑みを浮かべるのであった。
尚、その後に伊丹の元嫁であることにみなが驚くことになるが、割愛する。
そうして、梨沙の部屋には久しぶりに明かりが灯された。
今回は伊丹が迷惑をかけているということで緊急援助を受けて、電気代や最低限の生活費の心配がなくなったが故の事だった。
とはいえ、特地勢にとっては慣れない銀座の風土に、参考人招致の会見、ひいては怪獣災害に巻き込まれるなどということもあって、落ち着き場所を得た一行はすぐに雑魚寝状態で眠ってしまったのだが。
さて、諸々の事情の説明も済み、交代で見張りをしていた自衛官以外はぐっすり眠れたことだろう。
夜の帳が明ければ、テレビでは先日の情報のまとめであったり、怪獣による被害やその行方などを話し合っている。もっとも、今の地球にそれらを専門的に扱える人物がいないため、空想からの連想や、あまり意味をなさない個人的な感想を述べているに過ぎないのだが。
そんな音をBGMに、伊丹は簡単な料理を作っていた。
特地組ではピニャとボーゼス、それとロゥリィが早起きで、ロゥリィは起きた途端に窓の外に見える太陽に向かって跪き祈りを始めた。
ピニャとボーゼスは、テレビに驚いて見入っていて、番組を弄れば映される怪獣やウルトラマンなどに真剣に見入っている。
言葉は分からないなりに、その姿や攻撃方法などが分かるというのがお気に召したのであろうか。時折料理中の伊丹を呼んでは映される存在を指さし、そのたびに伊丹が解説してやった。
伊丹としても、深く踏み込んでいない、文字通り簡単な説明しかないものだったため、手を止めずとも答えられた。
「で、殿下。カイジューやウルトラマンが記されています」
「……やはりか。こうして市井の民であっても情報が入手出来るからこそ、この様なカイジュー相手であっても国民が適切な判断を下すことが出来るのだろう」
「…我々も、実物を目にするまでは想像も出来ませんでしたから…」
「それも、ジエイタイやニホンの持つ強みかもしれぬ…」
「……ずいぶん奇妙な姿の怪獣もいるのだな。あれなど、ぶよぶよとした肉塊にしか見えぬ」
「……ですが、あれもカイジューというのなら、あの奇怪な見た目にそぐわぬ力を持っているのでしょうか」
「文字は読めぬが、こうして姿が分かるだけでも有り難いか…」
「ですが、やはり文字のある無しでは得られる情報が違うかと」
「語学研修の優先順位を更に上げねばならんか」
「我々が出会ったカイジューも、こうして知ることが出来れば良いですが…」
熱中している二人に、「テレビをそんな近くで見ると目を悪くするぞ…」となんだかアニメ番組の冒頭のテロップの様なことを思いながら、伊丹は皿を並べるのであった。
そうして、朝は早く過ぎていく。
みなが目を覚まし、朝食を終えた頃。このくらいになると、外からは人の活動する音が当然のように聞こえてくる。
「よし、今日の予定だが、いっそのこと皆でパーッと楽しむぞ!」
テレビの内容は変わり、参考人招致の映像に釘付けになっている特地組女性衆へと宣言した。
「楽しむって、それどころじゃないんじゃないですか?」
昨日は怪獣騒動以外にも、自身らを狙う存在として、駒門から警告を受けていたのだ。更に、その直属の存在が任務中に消息不明になったというのだから、余計に脅威度は上がる。
それも含めて栗林は言ったが、伊丹は「喰う、寝る、遊ぶ。その合間にほんのちょっとの人生!だ」と。
富田はそれに呆れを覚えるが、生憎とこの場の最高指揮官である伊丹が宣言して退かないのだから、それよりも下の階級である彼らは従う他ないのである。
「第一、万が一敵が俺たちの居場所を知ってるんなら、ここに閉じこもってたって危険なことに変わりはないじゃないか。駒門さんみたいな人が推す人材が逆に人知れず行方不明になるような手練だよ?こんなとこで少数で引きこもるより、人目の多い所で遊んだ方が牽制になるだろ?」
そう言われてしまえば、確かに一理あるように思えてしまうのが不思議なところだ。流石に少しだけ思うところがなかったわけではないが、富田も栗林も仕事大好き人間というわけではないので、息抜きができるならまあいいかと最終的には受け入れてしまうのであった。
結果、梨沙の一声もあって渋谷にショッピングに繰り出すことになった様だ。
「とりあえず午前中は別れて行動するぞ。余裕を持って午後二時に新宿駅で待ち合わせして遅めの昼食。それからは集団行動で移動して夕方は温泉で、夜に宴会ってことで」
振り分けは単独行動の伊丹、図書館行きの富田・ピニャ・ボーゼス組、栗林と梨沙に連れられたロゥリィ・テュカ・レレイの特地三人娘といった感じだ。
三人娘が着せ替え人形にされ、ピニャらが地球の武器や技術、そして怪獣らに関する本を集めている中で伊丹はやはり己の趣味を優先する……こともなく、ある人物と顔を合わせていた。
「当時、結婚したばかりだってえのに、選挙で落選して浪人してたころだな」
「俺は中学生でした」
スーツ姿のおっさんが呟いた言葉に、伊丹が返す。
「SPも連れずに独りで来るとは思いませんでしたよ。何かあったらどうするんですか?」
「何言ってるんだ。最強のボディガードがついてるだろ?」
「閣下も冗談を真に受けてるんですか?アテにされても困りますよ」
冗談とは、伊丹が特殊作戦群に推薦される経緯にもある、嫌がらせで超人じみた実績にされていることである。
伊丹の会っている相手とは、何を隠そう嘉納太郎防衛大臣その人である。
「あのころのチューボーが、今じゃ立派になって」
「あの時のおっさんが、今や閣下ですからねぇ」
「閣下ねぇ……今一つ、ピンとこねぇなぁ」
趣味に生きるぐうたら自衛官と現職防衛大臣が一体どうして関係を持っているのかと疑問に思うかも知れないが、何ということもなく、過去に漫画やアニメが原因で関わりを持ち、それが続いた結果、今に至るというわけである。
二人はしばしの間オタク同士の漫画談義で時を過ごしたが、楽しい時間はあっという間だ。すぐに定刻が近づいてきた。
伊丹が嘉納に本屋から手に入れた分厚いカタログを手渡すと、嘉納はこう告げた。
「お客さん方は元気かい?」
「ええ」
彼の言うお客さん、とは特地来賓のことだろう。
「ホテルが燃えた後、指示を待たずに行方を晦ましたのは良い判断だ。……ここだけの話だが、次に予定してたとこにつけてた私服警察が姿を消した。だが、既にこっちもガンガンでな。尻尾を掴むためにも、伸びてきた手をガッシリと掴んでその面拝んでやりたいところでな。手間かけさせて悪いが当初の予定に戻ってくれ」
「態勢は?」
「お前さんの原隊の、SFGpって言ったか?その連中に任せることになったらしい。……心得のある警官がやられてる以上、妥当な判断だわな。それと、ちょっとした保険も用意してる。そういうわけだから、予約しておいた旅館に入れ。防衛大臣兼務特地問題対策大臣として、職権をもって命じる」
嘉納はここで「命じる」と断言した。そこに、伊丹は彼の心意気を篤く感じ取ったのである。はっきりとした命令には、何かあったらその責任を取る姿勢を表しているからである。
下手に曖昧にされるよりも、こうして言われた方が安心出来る。それは現場に立つ者にとっては何よりの支援となるのだ。
伊丹は離れていく嘉納の姿が見えなくなるまで、四十五度……即ち最敬礼をもって応じていた。
……立ち去るその背中を、怪しい影が見つめていることには終ぞ気づけなかった。
●●●
さて、待ち合わせの時刻に、待ち合わせ場所に揃った面々を見渡すと、伊丹は思わずため息をついた。なにしろ、それぞれが大きな荷物を抱えていたからである。
例えば、梨沙は小物類や婦人用雑貨の数々が山盛りになっており、おそらく伊丹の貸した金の殆どを使い切ってしまっているのではないだろうかと思わせる程。
テュカは山岳用品店の手提げ袋をぶら下げ、スポーツ用品店の包装紙に包まれた
レレイは、その知識欲ゆえからか、やっぱり十数冊にわたる書籍の入った袋をぶら下げ「…………本は必要なもの」と呟いていた。
ちなみにその中身は地球や日本、社会構造や世界のことであったり、ミリタリー系や図鑑など雑多である。その中に、ウルトラマンに関する書籍が一定数混ざっているのは何だか場違いな気がするが、それはこの地球でも数か月に渡って起こってきたことなのだから、今更苦言を呈したりはしないのである。
因みに、中には怪獣やウルトラマンの姿がプリントされたシャツなども入っていたが、曰く「強いものや存在を意匠として取り入れるのは自然なこと。これも数が少なかったから、きっと人気があるのだろう」とのこと。
ロゥリィは、元から抱えるハルバードもあってか、比較的荷物は少なめであるが、それでも手提げ袋には黒いフリルや刺繍の塊と思しき衣装の数々が詰まっている。
満足げな彼女たちに対して、死活問題の情報を仕入れていたピニャとボーゼスの顔は暗い。
何せ、こちらとあちらの技術格差の詳細が分からない故に前提を理解できなかったことを尋ねていったことに、富田は律儀に補足まで加えて懇切丁寧に説明していったからである。
具体的には、各種武器の技術や配備数、実際に使用された戦いにおける戦績や、その破壊力。
そしてそれですらロクに有効打を与えられないまま、逆に人間では敵わない鉄の塊を一瞬で蹂躙したアメリカの艦隊とバザンガとの戦闘。
宇宙という存在を初めて意識し、その果てからやって来るニホン以上の力を持つ知性体。
富田としてはあるかもしれない。という体でウルトラマンにおける情報をピックアップしたものの、特撮と現実の違いを未だ把握できていない二人にとっては、それだけの怪物や超技術を誇る存在を打ち倒して来たかの様に見えるのだ。
ただでさえ技術水準も数も負けている帝国なのに、ジャイアントキリングの腕前までもが上だと誤認してしまったのである。
その恐怖はひとしおだろう。
その様子を不思議がった伊丹が訊ねるも、張本人である富田は理解出来なかったようである。
その後は何事もなく昼食を取り、夕方に差し掛かるかといった時刻、時計を見つめていた伊丹は突然に言った。
「あ、言い忘れてたけど、旅館に泊まるからって酒は飲むなよ?」
「えーっ!?何で何で何で!?もうこんなにお酒もおつまみも買っちゃったのに!」
「そうですよ伊丹隊長。折角の温泉旅館、普段は行く暇なんてないんですから、酒盛りしないと勿体ないですよ」
これに反対したのは酒盛りする気満々だった梨沙と栗林である。
「あのねぇ…。一応来賓の護衛も兼ねてるんだよ俺等。一般人の梨沙は兎も角、クリは今朝「楽しむどころじゃない」って言ってたじゃない」
「う、伊丹隊長にまともなこと言われた……」
「あー。まあ、そっか。そっちはお仕事かぁ…。私だけでもダメ?」
自他ともに認めるぐうたら自衛官である伊丹に真っ当なことを言われて落ち込む栗林に、それを後目に納得しつつも、自分だけはどうかと説得する梨沙。
「うーん……。いや、駄目だ。いざって時に判断が遅れるからな」
手慣れた自衛官であるのなら、まだ即座の行動が身に染み付いているために多少のことならどうともなるが、梨沙は非力な上、身体能力に秀でているわけでもない一般人である。
嘉納の言う万が一を考えると、備えはあって然るべき、というのが伊丹の意見である。
そうして、テンションに激しい差のある一同をまとめて、彼ら一行は予定されている山海楼閣へと向かうのであった。
―――…
「あ、先に楽しませて貰ってます」
「お、ようやく来たか」
「はぐ、昨日ぶりですね。宿泊予定の施設が燃えたって聞きましたけど、どこで夜を過ごしたんですか?」
「浅永くん。箸を人に向けないの」
ようやっと部屋にたどり着いた一行を迎えたのは、特災課の面々であった。
浴衣まで着て料理に舌鼓をうっている彼らの様子に、何故いるのかや言葉の端から伊丹達の来訪を知っていたのか、などと考え、しかしてそのリラックスした様子に警戒していた伊丹は毒気を抜かれることになったのである。
「えぇ…?」
「ん?何だその反応。嘉納防衛大臣から聞いてないのか?」
「……嘉納さん。……あっ!保険って、もしかしてアンタらのコト?」
「そういうわけだ。よろしく頼むぞ、二重橋の英雄さん」
努めて気安く肩を叩いた真樹に、やや物怖じしながら伊丹は「はあ…」と曖昧な返事を返した。
一方で、背後からの説明を求める視線に射抜かれながらも、取り敢えず荷降ろしをして、状況を整えようとするのであった。
次回予告
山海楼閣に宿泊する伊丹達の元へと、怪しい集団が迫る。
それを予期していた政府は特殊作戦群を配備し、万全の態勢を整えた。
だがしかし、襲撃者の動きはこれまでの周到さに反して余りに杜撰なようで…?
次回、ウルトラマンGATE「禁じられた侵略:中編」
何故お前がここにいる