ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:食卓の英雄
今回から後編です!もうそろそろこの長い章も終わりに向かっております。
一応、この章までが前提技術やら組織やらの情報が揃い始めるプロローグ的な期間になりますね。
………プロローグ長スギィ!
場面は変わって、伊丹一行。
状況は最悪だ。
不意のアクシデントにより足を失い、その拍子にケムール人の消去エネルギー源によって多くの仲間を失った。
特に、最も守るべきはずのピニャに加えて、巻き込んでしまっただけの一般人、梨沙。負傷兵である富田に、異星人相手であっても互角以上に渡り合う分遣隊の浅永。
残ったのは、事故の際に頭を打ち付けた高瀬隊員に、負傷により自慢の格闘能力が低減している栗林。
そして万全ながらもゴドラ星人に有効といえる攻撃手段の殆どない伊丹、テュカ、レレイ、ボーゼスの4人。
唯一状況を打開する可能性のあったロゥリィは、しかして不意打ちの初見殺しにも近いコンビネーションによって無力化された。いくら亜神とはいえ、自力での飛行能力を備えているかは個人に左右され、ましてや触れた時点で強制的に送還される消去エネルギー源は天敵とも言えた。
テュカやレレイも優れた能力を持っているが、詠唱、そして弓を構え、矢を番えて放つという手間を挟む以上、その行動を見逃してくれる筈もない。
その状況下に置かれて、乾いた笑みを浮かべた伊丹を誰が責められようか。
(……終わったか?いや、奴らも警戒しているのか、直ぐには近づいてこないな。……やっぱり何人かやられたからか?ここで栗林と吶喊して、どれだけ時間が稼げる?……高瀬隊員はどの程度の症状だ?場合によっちゃ打開できなくは……)
手を挙げ、内心で冷や汗をかきながらも高速で思考を回転させていく。ゴドラ星人達の隙はないかと注視し、今現在の味方の状況を把握しようと努めている。
しかし、思考を巡らせれば巡らせる程、今の状況が詰みに近いと結論を出していく。
せめて栗林と高瀬の二人が万全であるなら、賭けに出ることも出来たが、流石に今の状況は分が悪い。それに位置が悪い。半減したとは言え、栗林の近接格闘能力は高い。借りた電磁警棒も合わせれば、ゴドラ星人が複数であっても対抗できるに違いない。しかし、接近できなければ意味はなく、それを援護できる高瀬が負傷している。
まして、護衛対象である特地娘らを放っておくわけにもいかず、崖に追い詰められている今、遮蔽物も逃げ場もないのだ。
通信機も使えないために、この状況を見越した援軍が来る可能性も低いときた。
伊丹の脳裏には、こちらを殺さない可能性に賭けて捕まり、新星らが援軍を連れて救出に来るのを待つか、栗林と二人で突撃して微かな時間を稼ぐかの二択が現れていた。
どちらも希望的観測が大いに混じった不確定な作戦であり、はっきり言って悪足掻き以外の何物でもないことは何となく分かっていた。
ゴドラ星人もそれは理解しているのだろう。手を挙げたまま何をすることもない伊丹へと、警戒しつつ、けれど確かに気配を剣呑にしていく。
しかも、ご丁寧にケムール人は背後に下げている。ケムール人の消去エネルギー源の重要性を理解しているからだ。これでは一か八かでケムール人を倒して、消えた仲間を復活させることも困難だろう。
(いやー、きついでしょ)
妙な巡り合わせで英雄と呼ばれ、何の因果か特地に拘りある部隊の隊長として、こうしているが、それだって数多の偶然の巡り合わせだ。
たまたまその時同人誌即売会があって、たまたま渦中から離れた位置だったために対応が出来て、たまたま同じ時に怪獣が現れた。
そしてたまたま自分の担当する部隊が見つけた人々が怪獣被害に遭っていて、たまたま特災課と関わり合いになった。
どうしてこうなったと遠い目で思わずにはいられない。思考を放棄して楽な方に流されたい。それが故の虚無。
しかし、それが明暗を分けた。
一切の言葉も発さなかった伊丹を脅すために、ゴドラ星人が一歩近づいたその時だった。
まるで山でも爆発したかのような爆音が背後から轟き、瞬きをする間もなく、体制が崩れるほどの大きな揺れが響く。大山鳴動とはよく言ったものだ。
伊丹は突然の出来事に尻もちをつき、音と地揺れという初めての現象に特地の三人は目を見開く。
「んなっ!?」
「な、何だこれは…!?」
ゴドラ星人も想定外のようで、あまりの揺れに姿勢を崩していた。
直後、頭上で山が崩落した。
「――は」
否、崖の岩肌が内側から弾けるように飛び出たのだ。その衝撃で周囲の岩もが吹き飛び伊丹達の側へと落下していく。
そして、ゴドラ星人にもそれは平等に降り注いだ。いや、むしろ崖を背に追い詰められていた伊丹達よりは、被りやすかったのだろう。
大小さまざまな岩が降り注ぎ、数mはあろうかという岩盤がゴドラ星人の頭上から落ちてきた。
「ぎゃああああっ……!!!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!??」
運悪くそれらに直撃したゴドラ星人の断末魔が響く。
「なっ、何だ!?何が起こった!?」
「っ今のうちだ!走れ!!」
ゴドラ星人達が動揺している中、いち早く冷静さを取り戻した伊丹が指示を飛ばす。まだ土砂は降り注いでいるが、ここに留まる方が危険だったからだ。
幸い、落ちてきた岩によって遮蔽物も出来た。高瀬を肩を組む様に支えて、栗林と共に駆け出した。状況を飲み込めていない3人も、伊丹達を見て咄嗟に追従する。
「走れ走れ走れっ!」
「あっ、危なっ!た、隊長!今真横に2mくらいの岩が!」
「いいから走れっ!足を止めるんじゃないぞ!」
どうにかこうにかといった体で駆ける一行。地面が激しく揺れる中、降り注ぐ岩石の中に置いても淀みなく進めるというのは、伊丹の逃げ足の凄まじさを表していると言えよう。
「な、な、なんなのだこれは!?地面が揺れてっ…」
「きゃあっ!?……もうっ、一体何なのっ!?」
「大きな地揺れに、山が崩れる程の事態…!今は、巻き込まれないように逃げるべきっ」
一方、レレイ達は動揺を隠さぬままに、けれど生存本能と微かな理性から伊丹達と共に駆ける。駆ける。
そして少しばかり進んだその時、背後からの銃撃が伊丹の頬を掠める。
「ひぇっ」
「隊長っ!」
直撃には至らなかったが、伊丹の頬には赤い血液が一筋。
背後を振り返れば、岩の上に上がったゴドラ星人がハサミを向けていた。
「クソッ、あの野郎!」
「っ、私が狙撃を…!」
こんな状況にも関わらず、積極的にこちらを狙う姿勢に舌打ち一つ。支えられている高瀬が、それを止めんと背後へ電磁短機関銃を向けて構える。
「あ」
「あれは……」
岩を盾に、誰もが背後のゴドラ星人からの攻撃に備えたが、その瞳が捉えたのは、岩山の上に立つゴドラ星人―――
「おのれ!逃がしはせんぞ!」
―――ではなく。
更にその奥。立ちのぼる土煙の中に置いても主張する大きな青い発光体。
ゴドラ星人は気づいていないのか、怒りに任せてハサミを振るい続ける。
直後、青い発光体の中央から二つ丸い物体が現れる。
「…っ、おいおい、あれは…!」
そこでようやくゴドラ星人も自身に視線が向いていないことに気づいたのか、背後を振り返った。
自然、巨大な瞳が自分を見据えていることに気づいたものの、ギョロリとしたそれから逃れることは出来ない。
「お、うおおおおおおおっっっ―――!???」
錯乱した様子でその瞳へとゴドラガンを撃ち続けるも、まるで堪えた様子もないままに、土煙の中を突き抜けて、高速で首だけが迫る。
現れたのは、赤い顔。ゴドラ星人の抵抗は何の痛痒も与えられないまま、その肉体を啄む。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」
ゴドラ星人の肉体を容易く噛み砕き、貪るそれは、今度は伊丹達へと焦点を合わせる。
「うっ」
「やばっ」
「ひっ」
「なっ、な…な…」
「……」
誰もが息を呑む中、それは土煙の中へと戻っていき、咆声と共に纏わりつくそれを吹き飛ばした。
「フキィイィオオォォォッッ――――!!!!」
「怪獣が出やがった…!」
「…あれは、中国で確認された…!」
「近すぎる…!取り敢えず距離を取りますよ!」
「ま、またカイジューか…!?」
「亀みたいに首が伸びた…!」
「……山の中から現れ、首を伸ばした。あの発光器官は地底でも視覚を確保するため…?上半身の甲羅は地中での生活に適応したものか、或いはこのカイジューすらも上回る天敵から身を守るため?やはり、カイジューは興味深い」
鎧甲殻獣シャゴン。この地球において、過去に中国で出現した例のある怪獣。亀のように堅牢な甲殻と伸縮する首。発光する青い器官や強力な酸等が確認されている怪獣。
その円な瞳や、ともすれば可愛らしくも見える外見に反して性格は極めて獰猛にして、その食性は肉食。
つまりは、人里に出現し次第、即刻の対処が望まれる危険な怪獣であると周知されている。
道路が抜け、シャゴンが直立すれば、ちょうど顔のあたりが伊丹達のいる道路上に覗く形となっている。
突然の怪獣の出現に慄く一行だったが、何かとトラブルに巻き込まれている伊丹は僅かに早く気を取り直すと、声を張り上げて誘導しながら道をひた走る。
ここは山間部の整地された道路だ。反対側は反り立つ岩壁で、もう反対側は整地がされていない木々の生い茂る下り坂。自然と、続く道を走る形になるのだった。
背後を警戒しながら走れば、新たな変化が起こる。
「な、あれは、先ほどのウチュージン…!」
「お、大きくなってる…!」
「……ウルトラマンが見せたように、その肉体の大小を変化させた…?ウチュージンは、みなあれほどに巨大化することが可能なのか?」
先の崩落に巻き込まれずに済んだ二体のゴドラ星人が、眼前の脅威を排除せんと巨大化したのだ。
人間大だった頃とは異なり、電子音のような、何かが軋むような音が鳴き声のようだ。
ゴドラ星人がシャゴンに攻撃を仕掛けると、シャゴンもより大きな獲物に注意を惹かれたようで向き直る。
二対一。数の上ではゴドラ星人に分がある。
「よしっ!そのまま潰し合ってくれ!」
「今のうちに逃げるよっ!!」
伊丹と栗林は思わぬ介入に喜色の混じった声を上げるが、残念ながら、その拮抗は容易く崩れ去った。
「キアアァァァァッッ……!!!」
シャゴンの堅牢な甲殻の前に、ゴドラ星人の半端な打撃と銃撃は決定打にならず、却って敵愾心を煽る結果にしかならなかった。
どっしりとした体格ということも相まって、ろくに姿勢を崩すことも出来ないのだ。
そうしているうちに、シャゴンは発光体から放つ閃光。「シャゴンフラッシュ」により視界を潰すと続けて泡状の強酸「シャゴンアシッド」を噴き出した。
コンクリートすら一瞬で跡形もなく溶解させるそれは、ゴドラ星人を殺すほどには至らなかったが、激しい痛みを与え、その甲殻を溶かすには足りた様であった。
続けて、青い発光体から放つ電撃「シャゴンスパーク」は防御の要である甲殻を溶かされたゴドラ星人を撃ち抜き、1体を殺害。
悶えるもう片方は辛うじて生きていたものの、その身体にのしかかって、動きを封じると、首を伸ばして捕食を始めたのであった。
そして、ゴドラ星人の首元を噛み千切ると同時。シャゴンは大きく響き渡るような鳴き声を上げた。
それは勝利の雄叫びのような覇気は宿してはいなかった。
「……マジか。一方的に蹂躙しやがった…」
「……ゴドラ星人は、直接の戦闘能力は低いという設定でしたから。……それにしても、シャゴンが日本にも現れるとは…。作戦のため避難指示を出していたのは不幸中の幸い、ですか」
「隊長、あの怪獣が食事に夢中なうちに急ぎましょう」
伊丹はその
怪獣の襲来、ゴドラ星人の巨大化。からのシャゴンによる蹂躙と、目まぐるしく変わる状況に呆気に取られる特地娘たちの気を取り直させながら、とにかく今は逃げるべきだと栗林は指示を続けた。
しかし、言葉を失っていた3人のうち、テュカだけは耳を澄ませては怪訝そうな表情を浮かべて、顔を強張らせた。
「…テュカ?」
「……私、この鳴き声を知ってる」
不思議に思った伊丹が尋ねれば、ぽつりと呟いた言葉は、レレイによって淀みなく翻訳された。
「これは、この鳴き声は、獲物を見つけたことを、群れに知らせる獣の鳴き声…」
「……ってことは、まさか……」
伊丹の背筋に冷たいものが走る。
一行も同じようで、その言葉に目を大きく見開いた。
直後、視界の反対側の山肌が爆ぜる。
「フキアアァァァッ――!!」
「キィァァァッ――!!」
二体。
最初に現れた個体が52m。この二体の身長はそれぞれ40mと28m。
それが、伊丹達の進行方向から、最初のシャゴンに合流すべく近づいてくる。
近づいてくる地響きに、誰もが口を噤む。
声を出せば、この群れに一斉に襲われるかもしれない。
そんな緊張が付き纏い、息を潜めた。
「………!」
「………!!!」
「………」
ジェスチャーで口元に指を立て、進行方向を指し示す。
不幸中の幸いは、新たに現れた二体は顔の高さが道路まではなく、遠方からでないと気づかれないであろうことだった。
しかし、間の悪いことに、その衝撃で新たな岩が伊丹達の背後へと落下しようとしていた。
(まずっ…!)
足音による地響きは不安定な岩を揺らし、今にも落ちそうでヒヤヒヤさせる。
祈りを込めるも虚しく、ポロリと零れた小岩が岩肌を転がり始めた。
このままでは、伊丹達の背後の道路へと落下し、注意を引いてしまうだろう。
一気に嫌な汗が噴き出す伊丹と栗林、ついでにボーゼスであったが、落下の瞬間、予想していた音は耳に届くことはなかった。
「……ふう。危なかった。風の精霊に頼んで、周囲の音を小さくしてもらったの。話し声も、大きく騒いだりしなきゃ、向こうまでは届かない筈よ」
「お、おお…!助かった…!」
「す、すご…!」
それを成したのは、テュカの精霊魔法であった。レレイは気づいていたようで、詠唱の完了まで無言を貫いていたらしい。
その効果を体感した二人が感嘆の声を上げる。
胸をなで下ろすテュカに感謝の言葉を贈り、遮音の魔法のお陰もあり、多少走っても気づかれなくなった伊丹達は、この場から一刻も早く離れようと駆け出した。
しかし、二度あることは三度ある。泣きっ面に蜂。
これらの諺が示すように、不幸とは重なって訪れることがままある。
「キィアアァァァッッ……!!」
伊丹達の走る道路。その崖肌から新たに小型のシャゴンが現れたのである。しかも、現れた場所が微妙に遮音の範囲から外れていたという不運もあった。
「んなっ」
「嘘でしょ」
「……よりにもよって、直線上に…!」
「あ、あはは…。あの位置だと、多分音が聞こえてるかも…」
「ここに来て新たな個体っ…!?」
「……これは、不味い」
ただの岩であれば、まだ興味を持たない可能性も少なからずあったが、出現と同時に咆哮したが故に、仲間の声は他の群れに届いてしまった。
しかも、新たなシャゴンは道路の上に立ち、その両目で伊丹達を見据えている。
背後は最初の個体の出現で道はなく、前方は小型のシャゴンが仁王立ちしている。その体躯は、7mにも及ぶだろうか。
「……どうする?戦うしかないか?」
「……どうですかね。流石にあの体格と大きさじゃ、難しいかもですけど……」
「……不味いですね。シャゴンの体格からして、足元をすり抜けるというのも難しい。加えて、甲殻は堅牢。射撃も通じるかどうか…。いえ、やるしか突破口はありませんが……」
「……雷撃なら、弓よりは効果があるかも…?でも、さっきは攻撃に雷撃を使っていたし……」
「た、戦う!?確かに他の群れよりは小さいが、それでもジャイアントオーガーをも超える体躯をしているのだぞ…!?」
「……少なくとも、背後のカイジューよりは対処可能な確率がある。どちらが得策かは一目瞭然。…………硬い甲殻に覆われていては、爆轟単体では効果が薄い。………この体格ならば、眠気を誘うことも可能…?亀に近しい姿をしている。ならば、動きが鈍る可能性も…」
それぞれが眼前のシャゴンへ対応せんと言葉を紡ぐ。可能性は低いかも知れない。だが、他に突破口もない。
皆が生きるために覚悟を決める。
伊丹が声を張り上げ、シャゴンが首を伸ばし食らいつかんとしたその瞬間。
―――ズドンッッ!!!
重く響き渡るような撃音。
眼前で榴弾砲でも爆発したかのような風圧と轟音に晒され目を塞ぐ。
突然のことに驚きながらも、けれど正体を暴かんと伊丹は目を開いた。
―――柱、いや、拳だ。
シャゴンがいた場所を叩き潰すように、繰り出された銀色の拳が堂々と突き立っていた。
「鎧甲殻獣シャゴン」再登場!
シャゴンは肉食で獰猛。アーク作中でも多くの家畜や人が被害になっていると思われる描写がある。
元々ずっしりとした体型な上、硬い甲殻と頑丈な要素が多い。その上、背中から無数に出すエネルギー刃「甲殻スラッシュ」。青い発光体による目眩まし「シャゴンフラッシュ」。同じ部位から発する電撃攻撃「シャゴンスパーク」に加えて、伸びる頭による攻撃や、強酸攻撃「シャゴンアシッド」等の多彩な攻撃手段を持つ怪獣。
更には群れで活動し、獲物を見つけた際には仲間を呼んで分け合う習性があり、怪獣であっても捕食対象と見れば襲いかかる。加えて、複数体集まれば合体攻撃まであるという、人間から見ればかなり恐ろしい生態を持つ怪獣がエントリー!
突然現れたのはたまたまじゃなくて、ウルトラマンゼット本編で見せたように、ケムール人の消去エネルギー源が対象を転送(電送)する際に発する電磁波が地底にいたシャゴンを刺激してしまった形になります。
しかし、転送された方々が戻らないということは、あの崩落でケムール人は斃れなかった様ですね…