ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:食卓の英雄
時は少し遡る。
ケムール人達による作戦指揮所への奇襲にあった嘉納防衛大臣が、窮地を助けに来たザラブ星人と共にこの包囲網の脱出劇を繰り広げている頃。
ゴドラ星人達は奇襲の失敗を悟り、新しい包囲網へと潜んでいた。
通信妨害はかけているが、そう大規模なものではない。限られた時間、場所のみを選び、極力悟られないように気をつけていたためである。
動員される特殊作戦群の配備もなく、また護衛も拳銃しか保持していない。故に失敗を想定していないものであったが、だからこそそのフォローは迅速に進んだ。
通信が可能なエリアへと逃げることは容易に想定されたため、そういった関所には予め余人の介入を防ぐために人間に擬態したゴドラ星人が配置されていた。
加えて、今回の襲撃失敗にあたって追跡隊が出されたこととなるが、こちらはザラブ星人ザインと交戦することとなるが……。
さて、彼がいた防衛省作戦指揮所は妨害がなされており、さらには管轄故にゴドラ星人が厳重に見張っている。
あっさりと心臓部に侵入されたことは失態ではあるだろうが、残念ながら現代日本では地球人に化け、テレポートが可能な宇宙人を想定したものなどないのである。
指揮所を出てすぐにゴドラ星人に遭遇したことからも、防衛省ではいつ何時ゴドラ星人に後ろから撃たれるか分かったものではない。
だからこそ、嘉納はその場から離れることを選んだし、ゴドラ星人もそれしかないだろうと読んでいた。
故に頼るのは最も近い箇所に設立された特災課の市ヶ谷支部。防衛省管轄ではあるが、自衛隊ではないという考えでやや離れた位置に根ざしているが、車であればそう遠い距離ではない。
加えて、特災課のレーダーや機器の発展具合から、下手に手を打てば正体の露見に繋がると思ったゴドラ星人達はこの場を避けた電波障害を発生させていたのである。
しかし、その攻防の裏で、またもやゴドラ星人の計画は動いていた。
確かに特災課は脅威となり得る上に、それらを管轄、制御できる札として防衛大臣の身柄は確保したい。
しかし、現日本のトップに近いのは、やはり本位慎三内閣総理大臣だろう。その排除、ないしは成り代わりを狙った遊撃隊がいたのである。
政治が混乱すればするほど、ゴドラ星人達は暗躍しやすくなる。
勿論最も警戒されているのが防衛省で、厳重なのも同じくだ。けれど、その他の政治家の護衛などたかが知れている。
故に少数精鋭のゴドラ星人達が、職員に化けて彼らの寝首をかこうと暗躍を画策していたのである。
ぴっしりとしたスーツを来て笑みの一つも浮かべない、いかにも仕事人間と言ったような風貌の集団。
それがゴドラ星人達である。その姿はどこから見ても不審な人物には見えず、また各省庁で働く人員の姿を真似て擬態しているために、彷徨いていても胡乱な目では見られない。
銀座事変や特地への対応、怪獣災害における新制度や、それについて回る国民の意見に不平不満。それらのこともあって、警備体制は盤石であったが、防衛省と同じく異星人による侵入を未然に防ぐというのは想定されていなかった。
ゴドラ星人達の恐るべき計略は完全に日本の対応力を上回っていたと言えよう。
今は怪獣への対処や、特地での問題などに躍起になっておるために、異星人の侵略は可能性こそ懸念されているものの、依然として本格的な対策などは取られていないのが実情であった。
「総理大臣は執務室にいるとのことだ」
「早速終わらせようではないか」
「静かにしろ。今勘付かれては面倒だ」
「速やかに仕事を終えるぞ」
職員に扮するゴドラ星人は4体。周辺人物をも加味した最低限の人数だったが、ここにまで来てしまえば最早失敗はない。
そう確信したゴドラ星人達は計画をなすべく歩みを進め、総理執務室のある5階への階段へと足をかけた。
いかに誤魔化しているといえど、首相官邸では内部の人間であっても時間をかければ疑われる。
迅速に、丁寧に。
しかし、そんな彼らの行く手を阻むように、階段の先から一つの影が差す。
「おや、皆さんお揃いで何か御用でしょうか?」
「「「!」」」
ゴドラ星人達は身を強張らせる。
「
そこにいたのは、いかにもといった温和な微笑みを携えながらも、油断のできない雰囲気を感じさせる壮年の男性の姿があった。
彼の名は加藤幸二。この本位内閣における官房長官で、就任以前から目覚ましい活躍と類稀なる智慧から政界、国民からも期待の目を向けられていた傑物である。
内閣官邸の5階には、官房長官室も存在する。
故に遭遇する可能性は元から考慮されていた。ゴドラ星人達は即座に仕事人としての対応へと切り替える。
「はい。それで、何か用向きがあったのではないでしょうか?」
「ええ。本位総理への急な言伝がございまして…」
「おや?そうであれば私や補佐官にも伝わる筈ですが…」
「はっ、いえ、私達は補佐官殿にも用件をお伝えするために参りましたので…」
「そうですか。ご苦労さまです。よろしければ、私がお伝えしましょうか?こうも複数人で伝える必要もないでしょう」
「い、いえ!官房長官殿のお手を煩わせる訳には…!そ、それに今から下へ向かおうとしていたのでは?」
「ああ、大丈夫ですよ。ちょっとネズミが出たと聞いたので掃除に赴くつもりでしたが……」
そこまで言ったタイミングで言葉を区切ると、その柔らかな笑みを絶やして彼らを睥睨する。
「どうやら自分から出向いてくれたようなので」
「見破られている!」ゴドラ星人が戦慄する。
並の工作員であれば動揺し、挽回の方法と任務の達成をどうするかと逡巡する場面であるが、生憎と彼らはゴドラ星人。地球人の常識など知ったことではない。
見破られたと悟ったゴドラ星人達の行動は素早かった。
即座に擬態を解除し、一体が発砲。
銃を取り出すという僅かな隙すらも、腕に備え付けられているゴドラ星人には発生しない。
寸分狂いなく放たれた凶弾は、加藤の眉間へと放たれ、その身体は勢いに負けたように背中から床に落ちる。
「チッ、勘のいい奴だ」
「しかしどうする。今の音で勘付かれるぞ」
「仕方あるまい。予定を早めて官房長官にも成り代わる。私が内閣総理大臣と成り代わり、残りで警備の人間と襲撃犯へと成り済ませ。襲撃者と護衛による銃撃として処理するのだ」
「了解した。では発砲した俺が襲撃犯だ」
「駆けつけた警備を殺して成り代わろう」
そう冷静に、冷徹に。何の感動も焦りもなく、淡々とことを済ませようとするゴドラ星人達。
しかし次の瞬間、ゴドラ星人達がその遺体を確認しようとした段階で、信じられないことが起こる。
額にゴドラガンを受けた筈の加藤が重力を無視したかの様な動きですくっと立ち上がったのである。
「なっ」
「馬鹿な…!? 」
これにはゴドラ星人達も驚愕の声を上げる。
慄くゴドラ星人達の異形の姿にも動揺することなく、加藤は努めて冷静に、どこか不気味なほどに丁寧な口調を崩さなかった。
「ああ、警備や総理に気づかれる心配は無用ですよ。何せ彼らの周辺には音が届かないようにしていますから」
その言葉と、この異様な光景に焦ったゴドラ星人達は、全員でゴドラガンを彼へと向けて撃ち放つ。
人間であれば容易に死に至る弾丸の群れ。それを加藤は腕を軽く振るうだけで弾く。
「困りましたね。もう少し策を弄してくれれば私としてもいい経験になったのですが、これはただの身体機能に任せた杜撰な暴力です。期待外れでしたね」
既に外見は人間のものではなかった。
漆黒のボディに尖った耳、ぶつぶつとしたコブのような質感の腹と足。青い双眸に黄色の口部。
「メ、メフィラス星人…!?」
ゴドラ星人の愕然とした様な声が響く。
その存在は、この地球においても、宇宙人達の間でも非常によく知られたものであった。
メフィラス星人。悪質宇宙人の別名を持ち、初代ウルトラマンでの登場以降も度々同シリーズ内に登場する有名な宇宙人だ。
知略に長け、様々な策を弄する策略家でありながら、初登場時はウルトラマンと互角の実力を誇るという実力者揃いの宇宙人だ。
メフィラス星人はその高い戦闘力と知略を兼ね備えている宇宙人として様々な組織での参謀、リーダー的な立ち位置にいる個体も多く、その手腕は善悪問わず恐れられているのである。
故に、ゴドラ星人もメフィラス星人を攻撃してしまったことに慄いたのである。
加藤幸二として活動していたメフィラス星人は、知られている個体に比べれば腹や腕が細身で、目はよりシャープに、口は小さく小綺麗に纏まっている。
そして何より注目を集めるのが、まるでモデル然とした腰のくびれにプロポーションの良さ。細やかながらも確かに存在する胸部。
紛れもなくそれは女性の体格であった。
既に、その声も男性のものから、落ち着いた女性らしき高音へと変化していた。
「今更下がれるか!全員で殺せ!」
ゴドラ星人も気を取り直して、むしろいきり立った様にゴドラガンを撃ちはなった。
この際、建物の状態や音など一切合切を無視して、目の前の脅威を排除せんとしたのである。
生物を容易く殺害しうる魔弾の嵐を前にして、メフィラス星人メデイアは淡々と言葉を紡いでいく。
「……私は同族の中では非力な上、戦闘を好む質ではありません。宇宙警備隊と事を構えるなどとんでもない」
そのまま何事もないかのように右腕を突き出し左腕を組むように添える。その腕から青い雷撃の様な光線が発生する。
「グリップビーム」。メフィラス星人が持つ代表的な技の中でも高火力で、ウルトラマンにおける必殺光線に匹敵する強力な技だ。
放たれた稲妻は弾丸諸共ゴドラ星人達を貫き、その肉体を消滅させた。
「ですが、貴方がた程度に遅れを取るほど弱くもありませんよ」
メデイアは消滅したゴドラ星人達のいたところをつまらないものでも見るかのように一瞥すると、振り返りながら手拍子を一つ。
その場はまるで何もなかったかのように元通りになると、既に加藤幸二の姿になっていたメデイアは、腕時計を見て独り言ちる。
「おや、もうこんな時間でしたか。明日は主席殿が会談に来られる予定ですが……。まあ、今の襲撃といい、昨今の動きといい、ほぼ間違いなくゴドラ星人が関与していますね。怪しい場面は多くありましたが……組んでいるのか成り代わられているのか。何れにせよ、私の腕試しにはならなそうですね。後は彼ら次第ですね。……どれ、特災課や協力者が動きやすくして差しあげましょうか」
●●●
各地でこんな事が起こり始めている中、ゴドラ星人の宇宙船に乗り込んだ新星達は、救助した拉致被害者達を挟んで駆けていた。
既に人質が奪われたことはバレたのだろう。船内にはアラームが鳴り響き、通路からもゴドラ星人が現れることが増えてきた。
通路内での遭遇は回避が難しいものの、直線上であることから、早撃ちによる突破は有効だった。
何せ、ゴドラ星人にとっては探し回る仲間と鉢合う可能性もあるが、真樹達は自分達以外に突入した人間がいないために飛び出した人影は全て敵と判断することが出来たからだ。
加えて、公安の二人も判断が早く、出合い頭にソニッターを食らわせることでゴドラ星人の判断を鈍らせていたことも要因として挙げられるだろう。
「もう少しの筈だが…!やはり出入り口付近はゴドラ星人も集中してるか…!」
「少数との遭遇戦ならともかく、待ち伏せされていた場合は不味い。私たちはこの船からの脱出先をあそこしか知らないからね。押さえられているとみて間違いないだろう」
見覚えのある通路と、増えゆくゴドラ星人に、真樹は銃の様子を確かめながら毒づく。
侵入口が分かっているのであれば、そこを押さえる。ゴドラ星人もそこまで馬鹿ではないらしい。
「ハッチはあそこだが……」
「やはり居るか。張っているのが5体に、巡回に2体。対して、我々が一度に対処可能なのは上手くいって4体が限度。それ以上は相手に攻撃を許す。そうなれば、人の密集しているこちらは流れ弾であっても被害が出る」
公安の2人も同意見なのだろう。固唾をのんで見守りながら、額に雫を零す。
どうするかと悩むが、この人数で立ち止まっていれば、必ず他の個体が駆けつける。即断即決が求められた。
「私が囮になります」
「副隊長…!」
そして、迷いなく意見を出したのは新星だった。
「何も副隊長じゃなくても…!」
「いや、私が適任だ。一人で引きつけるなら、連射速度に難のあるこれでは全員を引きつけることはできない。だが、私ならば電磁警棒も合わせれば複数体引きつけることは可能だ。それに、最も生存確率が高いのも私だ。……今は時間がない。納得してくれ」
「っ……。分かりました。絶対帰ってきてくださいよ」
「分かっている。まだまだ気になることが山程あるからね。合図と共に出る。残りの対処は任せた。3、2、1―――」
掛け声と共に飛び出した新星は、電磁短機関銃で見張りの一体を撃ち抜き、奇襲に戸惑うゴドラ星人の一体を電磁警棒で打突。
怯んだ隙に銃撃を加え一体を倒す。返す刀で殴りかかってきた個体の腕を絡め取り、その体を盾にしてゴドラガンを防ぐ。
味方で防がれたことに躊躇したゴドラ星人に迷いが生まれる。
その隙を逃さず、解放した個体を蹴り飛ばし、それを受け止めた個体の顔へと警棒を一撃、二撃、三、四撃。
二体目が撃破されるや、息つく暇もなく倒れる一体へと更なる銃撃。三体目。
こうなればゴドラ星人も最大限の警戒を見せ、各自一定の距離を保ちながら包囲しようと動き始めるが、この動きを見た新星は体を反転。脱兎の如く逃げ出した。
「まっ、追え!」
「だ、だが……」
「ここには我々が残る!早く奴を追いかけるんだ!」
呆気にとられたゴドラ星人の内、巡回の二体が慌てて新星の去った通路へと駆けていく。
その姿が見えなくなったタイミングで、真樹達が飛び出していく。
「ぐあっ!?」
「なっ、しまった!」
そう。これが狙いだったのだ。見張りの五体は、明らかにハッチを守るように立っていたが、他二体は見回りのために動き出そうとしていた。ならば、囮を追うのはそちらに任せ、見張りは維持するのは目に見えていた。
だからこそ、その二体には触れずに見張りの個体のみを先に始末していたのである。
残りが二体ならば、真樹達ならばどうとでも出来る。
奇襲で狙わなかった方にソニッターによる強烈な閃光が浴びせられ、視界不良に陥った直後に襲い来る衝撃。
真樹の電磁警棒による刺突がゴドラ星人の体をくの字に曲げ、曲がった首元を押さえつけたままもう一体に向けて電磁短機関銃を撃ち放つ。
最初の攻撃でダメージを負っていた個体はそれでトドメとなり、残るは真樹が拘束する一体のみ。
「離せ地球人!」
「断る!」
渾身の力で押さえ込む真樹。ゴドラ星人も振り払おうと真樹を殴りつけるが、姿勢の安定しないまま放たれた攻撃など、ヘルベロスの外殻を用いたプロテクターの敵ではない。
「お二方!」
「はい!」
「おおっ…!」
ゴドラ星人の体の作りから、お辞儀をしているような体勢では周囲を見れないのは必然。
真樹の掛け声に呼応した公安の二名は、残るゴドラ星人の足を二人がかりで持ち上げる。
「がっ」
これには支えを失ったゴドラ星人はそのまま顔から地面に落下。即座に二人が伸し掛かって動きを封じれば、後は身動きのできないゴドラ星人と、自由になった真樹という状況が生まれる。
こうなっては、ゴドラ星人に挽回の目はない。
頭を垂れた姿勢のゴドラ星人に、まるで処刑人の様に真樹が一撃。強烈な電撃と共にゴドラ星人の意識は奪い去られた。
「……よし。後は
付近にある機械を少し弄れば、程なくしてハッチが開き、外の光景が広がる。外にゴドラ星人がいないのを確認して、待機していた人々へ呼びかける。
「皆さんこちらです!急いで、ですが絶対に散り散りにならないように!」
「そ、外だ…」
「助かった…」
「ありがとうございます…!」
「礼を言うのはまだ早いです。まだ何があるか分かりません。それにこの山中では逸れても対処できません。絶対に我々の指示以外では動かないように!」
真樹のハキハキとした声は人々を希望づかせ、それぞれが夜の箱根の地に足をつけていく。
全員が宇宙船から脱出して脱力していく中、真樹は声を絞り出すように宇宙船を見つめていた。
「副隊長…」
新星の安否を案じて絞り出した声は、人々の声に紛れて消えていった。
メフィラス星人メデイア
ザラブ星人ザインが言っていた政府内にいる宇宙人。
メフィラス星人としては女性だが、人間としての擬態は壮年男性。人間態時は加藤幸二と名乗っている。
現本位内閣の官房長官。
メフィラス星人としての姿はモデル体型でスラッとしていて、一目で女性と分かる体つきをしている。
名前の由来は初代メフィラス星人の声優である加藤精三氏とスーツアクターの扇幸二氏。
特段地球を害そうという気はないが、別に地球が好きだから紛れているわけではない。
彼女はメフィラス星人としての知能の高さを活かして多くの星の一般市民として紛れて、そのまま政治家等の立場となり、政に携わって活動することを、一種の腕試し、ゲームの様に熟す。
簡単に言ってしまえば政治や国家運営シミュレーションゲームをしている感覚。メフィラス星人の知能が高いのは理解しているため、一対一で知恵比べをするのは有利すぎるため、他の動きにも左右される政治を選んだ。
尚、本当にあくまでゲーム感覚なので、仮に失敗しても命をかける気も変なリスクを冒す気もない。遊びの範疇でリカバリーできそうならするし、身の危険が迫れば普通に他の星に逃げる。
セレブロと違って、ゲームの完遂に執着したりはせず、それも一つの結果として受け入れて次に向かう。
ただし、あくまで知恵比べや運営による手腕を期待しているので、他所から来た宇宙人が力づくで侵略する気なら相応の対応はする。チーターにキレる様なもの。
とはいえ対処できるならの話だが。
CVは田中敦子。声の感じはまんま呪術廻戦の花御